アマチチルドレン VS ドーナッツの穴研究会
/3人称視点/
南朋の前には1人の獣人が立ちふさがった。
「随分とイカサマを仕込んどるようやね」
「イカサマ? 作戦の間違いでは?」
お墓研究会『ザ・コフィン』代表にしてTDR最高幹部が1人。
四天王:第2席。
片翼のヴォルフガング。
本来あるべき二枚の羽翼はなく、片翼しかない鷲型の獣人。
猛禽類型の獣人でありながら生まれながら空を飛ぶ事が出来ない彼は一族を迫害された存在でもある。彼は飄々とした態度で目の前の少女に告げた。
「恵まれし者。英雄の1人。
君の旅路もここまでだ。
大人しく路銀を置いて行け。
さすれば、その綺麗な顔に傷はつかんぞ」
「へぇ。奪おうって訳やんね」
「ここは魔導の箱庭。卑怯などと言うなよ」
「誰に言うとんねん」
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仮想空間内にて心技体、この三つを競い合うゲームが開始された。
一般的に。
野球部が吹奏楽部に音楽では勝てないし。
吹奏楽部はクイズ研究会に知力で勝てない。
クイズ研究会は野球部に運動能力では勝てないだろう。
得手不得手がある以上一概に何が強いかを評価するのは非常に難しい。
しかし、魔法などというものは全てをひっくり返す訳だが……
この支援金争奪戦。
公正な判断を下すのは非常に難しい。
故に。
学園にばら撒かれた108のお宝を心技体を用いて争奪するゲームと相成った。
ただ、ここは魔法学園。
敵をぶちのめしてお宝を略奪するのは暗黙の了解でもあったのだ。
そんな中、お宝を回収する為なぞなぞを解く者が1人。
天内であった。
『ドラゴンは夜行性。それはなぜ?』
「う~ん」
天内はなぞなぞの前で首を傾げていた。
さっぱりわからないのだ。
「数式ではない。なんらかの言葉遊びか?」
天内はメモ帳を取り出し。
母音と子音を分解した上でシーザー暗号を試したり。
アルファベットを数字に置換し素数を洗い出したり。
暗号学を駆使し色々試していた。
しかし全て無意味であった。
変に頭が回るせいで、余計な遠回りをしていたのだ。
天内はこの世界の歴史や格言、四字熟語に極めて弱い。
それは彼が元々この世界の人間ではないからだ。
彼は記憶能力や思考能力を極限まで強化している。
しかし、慣習や宗教的マナー、土地柄まで把握している訳ではない。この世界の当たり前が、天内にとっては当たり前ではないのだ。
例えば。
パンはパンでも食べられないパンは?
という誰もが知るなぞなぞが出題された場合。
回答は複数存在するが。
『フライパン』と解答するだろう。
それは誰もが知る当たり前の前提条件として成立しているからだ。しかし、これを異世界人もしくは昔人に出題した場合、答えを導き出すのは容易ではない。
なぞなぞが、異世界の常識を背景に言葉遊びで作られた場合、彼は決して解くことが出来ない。最弱と言ってもいいだろう。
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――― 一方その頃 ―――
TDRは所詮モブの寄せ集めでしかない。
世界に選ばれし者ではない。
運命に選ばれなかった者達。
群衆の中の1人。
背景の中の人影でしかない。
居ても居なくてもいい存在。
たった一言『群衆』で片付けられる存在。
メガシュヴァでは、配役名すら当てられなかったモブのモブすら居る。
その中でも自己研鑽。
反復。
研究。
鍛錬。
それら地道な作業を行い続けた者達。
それがTDR13騎士四天王。
チートはない。
選定された武装を持たない。
特別な魔術を扱えない。
運命力もない。
彼らに一切の特別はない。
だがしかし。
人の可能性とも呼べる鍛錬により選ばれし者に匹敵する者へと昇華した存在。ただ一重に己の努力と自己研鑽によって成り上がろうとする者達でしかなかった。
「作戦を第2フェイズに移行する!」
漆黒の騎士カッコウは快哉を叫んだ。
カッコウは片翼が戦闘を開始したのを確認するとドーナッツの穴研究会が合流しないよう、四天王がそれぞれ同時に戦闘が開始されるように策を弄した。
天内に警戒されるドーナッツの穴研究会。
これはTDRの者達の策略によって意図的に分断されていた。
カッコウもまた最も優勝に近い存在。
それがドーナッツの穴研究会であると判断したのだ。
故に、カッコウは天内の命令を達成すべく最大戦力を早々に退場させる策を取る事にした。最悪時間稼ぎでも構わないという名目の下、強者には強者である四天王を差し向けたのであった。南朋だけでなく主人公御一行はカッコウの策略によりそれぞれ天内チルドレンと呼んで差し支えない強者達とマッチアップしていたのだ。
エルフの国。グリーンウッドの巫女であるフィリス。
彼女の前には武人のオーラを纏う1人のハーフエルフ。
投資サークル『笑顔の和』代表であるTDR最高幹部が1人。
四天王:第3席。
エルフと人間との混血である半エルフのブルー・ロア。
魔盾の使い手である小さな少女であるイノリ。
彼女の前には不気味な笑みを浮かべる道化メイクの男。
自己啓発セミナー運営団体『逆光』代表にしてTDR最高幹部が1人。
四天王:第4席。
道化師:天邪鬼のトモペー。
システリッサは結界を張り身動き取れずに居た。
システリッサを超超遠距離から狙撃する者が1人。
弾丸の雨がシステリッサの張る結界の1点を打ち続けていた。
針の穴ほどのただ一点に集中して何度もヒットさせる。
神業であった。
フードを目深に被る四天王:第1席。
天内が把握していなかった存在。
TDR唯一の女性。
天内の左腕:鷹の眼の翡翠。
そして最後に。
主人公風音の前に立ち塞がった最凶の影が1人。
TDR総帥にして天内の右腕。
現代の名誉騎士の1人として叙勲された男。
漆黒の騎士:カッコウ。
「自惚れるなよ。英雄!」
カッコウの凶靱が風音の首を狙っていた。
「集中しろ風音!」
聖剣が自動で盾に変形するとカッコウの放つ斬撃が防がれる。
「!?」
驚きの表情は風音のモノであった。
「あ、ありがとう」
「気合を入れる。集中しろ風音。この男。摩訶不思議な術を使う。油断したら見えなくなるぞ」
風音は存在が不安定としか言えない漆黒の騎士を注視した。少しでも目を離すと目の前から消えるのだ。
カッコウはユラユラと身体を揺らしながら。
「暗殺は失敗か。厄介だな、その聖剣とやらは」
「気を付けろ。風音。この男只者ではないぞ」
「それは君もわかってるはず。えっと。名前は忘れたけど。以前夢の中で一緒に戦ったじゃないか?」
「そう……だな。いや。そうだった。なぜ私はそれを忘れていたんだ?」
「聖剣とは随分と良く喋る……」
「!?」
カッコウが目の前から消えたのだ。
「集中しろと言ってるんだ!」
聖剣の自動防御によりカッコウの不可視の斬撃が寸でいなされる。
「ご、ごめん」
カッコウは呆ける風音と聖剣相手に一切攻撃の手を緩めない。
彼の放つ斬撃が幾度となく風音を強襲した。
「ッ!? 全然見えないぞ!」
魔力を削り取る不可視の黒剣。
「このまま削り切る。その膨大な魔力を! 押し切らせて貰う!」
「クッソ! 一体なんなんだよ!?」
風音は感覚を研ぎ澄ませ、反射でカバーする。
「これも防ぐか……」
カッコウは苦々しい顔であった。
気配を極限まで殺す妙技。
刃が見えないだけでなく、刃が放たれたという記憶すらも搔き消してしまう絶技。影の薄さを利用したカッコウにのみ許された最強の連撃。
それが悉く効かないのだ。
「流石にやるか」
カッコウは防がれる斬撃の中で。
(やはり侮れない。
ほとほと不可思議な力を使う。
天内くんは彼の方が強いと言っていたが。
そんな訳がない。
最強は天内くんだ。
僕が彼に勝てば相対的に天内くんの方が強い。
それは僕が証明する)




