悪の枢軸同好会 と 恋人設定のアレ
/3人称視点/
天内はカッコウを呼び出すと。
「これ。これに勝つぞ。以上だ。あのアホ共に伝えておけ」
「これは?」
「いいから! 俺は今から裁判に向かうから! じゃあな!」
天内はカッコウの手元にぐしゃぐしゃになった紙を渡すと全速力で駆けて行った。
「はて?」
カッコウは、手元の部費援助の告知用紙に目を落とした。
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久々にパーティーメンバーが集結した訳。
恋人設定を帳消しにする為に話し合いを行う為だ。
「てか、俺らのパーティーって全然揃わないよな」
ヘラヘラしながら小町に会話を振った。
「先輩がすぐ居なくなるからでしょうが!!」
「あ……」
「まるで他人事みたいに」
「すまん。じゃあ頼む」
「先輩の控訴? の件ですね」
「お願いします。穂村弁護人」
「では。一言で片づけましょう。
先輩はマリア先輩の事も。
彩羽先輩の事も好きではありません。
恋人以前の問題です。
そうですよね? 以上です!」
俺はコクコクと頷いた。
「「な!?」」
「勘違いだったんです。先輩がラブコメするタチに見えますか? この男に甘い恋愛が似合いますか!?」
「「……」」
「そうそう! あれ? 馬鹿にされてる?」
「そんな! では! あの時の言葉は何だったんですか!?」
「家族を紹介した仲じゃないか!!」
「え?」
どうしてそんな状況になったのか、俺にもわからないのだ。
だから問い詰められても『え?』しか出てこない。
これはマジ。
「だから。それは成り行きだったんですよ!」
指を鳴らした。
「そう! それ!」
もうよくわからないけど、状況とか環境的要因みたいなのに流されただけなのだ。
「先輩はちょっとだけ空気を読むのが下手なんです。
それでおかしな事になっただけなんです!」
「まるで見てきたみたいだな。この弁護士」
「先輩は一言で言うならばお金のお化けです。
この男は小銭しか愛せません。
見ていてわかりませんか?」
「おい」
いや、そうだけど。
「そうですかぁ? 大英雄の素質があります! そして麗しの姫君である私を……」
マリアは顔を赤らめた。
「ちょっぴり変態なだけでしょ。彼は異常者に見えて優しい人間だ」
千秋の奴も反論した。
「ちょっとだけ評価が高いな。ありがとう」
「どっちの味方なんですか! そんなんだから私が弁護なるものをしなきゃいけないんでしょうが!! 止めてもいいんですよ!」
「す、すまん。続けてくれ」
小町は頷くと。
「知っているでしょうか? 先輩の休日の過ごし方を」
「それは世界の為に戦ってらっしゃる」
「何を言ってるんですかマリア先輩! 違いますよ!
そんな訳ないでしょ! こんなでくの坊が世界を?
寝言は寝て言って下さい」
「穂村さんは知らないでしょうが。天内さんは!」
「おい。何を言おうとしている」
鋭い視線を飛ばしマリアを制止すると。
「えっと……」
と困惑した顔に変化した。
「傑君は努力している。人知れず大義を成そうとしている。それだけはわかるよ」
「……なんだ? どこまで掴んでいるお前ら?」
あの……バレてる?
まさかな……
「違います! 全部勘違いです!」
「そうそう。勘違い勘違い」
「このお金お化けの休日の過ごし方。
パチンコ。スロット。競馬に麻雀。
消費者金融行脚ですよ!
絵に描いたようなダメな男です!」
「おい……なぜ知っている? あと全国の似たような休日を過ごしてる方に謝りなさい」
「この男!
お金がない時は自販機の下に手を伸ばしてる男です。
知ってますか!?
あろうことか小学生にカブトムシを売って小銭を稼いでるんですよ!」
「だからなぜ知っている? どこまで監視されているんだ?」
「賽銭にまで手を伸ばした時は縁を切ろうかとも考えましたが、流石にミジンコ程度の善性で踏みとどまったのでしょう。私はそれを見て胸を撫で下ろしました」
「見られていた……だと!?」
「こんなダメ男がいかにダメなのかわかりましたか! 絶対に手を切った方がいいです!」
「……そうなんですか?」
マリアは複雑な顔をしていた。
「近からず遠からず」
俺は濁した。
全て事実だけどちょっぴり見栄を張った。
「確かに、品位はないな」
千秋も複雑そうな顔であった。
「そうでしょう。そうでしょう。
もうこの男はダメンズを通り越してクズです。
いいえ。クズに失礼かもしれません。
少しだけいいとこもありますが、
こんな男を好きになってはいけません。
何より先輩もお二方の事が好きではありません」
「おいおい。なんだか俺の事下げ過ぎじゃ」
「だまらっしゃい! いいですか?
これは非常にいい提案です!
こんな男とパーティーは解散した方がいいです。
私は弟子なので。
本当に仕方がないので先輩とこれからも同行しますが。
お二方は早く脱退した方がいいです!」
「なんで穂村さんにそんな事を言われなきゃいけなんです!」
「そうだぞ小町ちゃん」
「皆さんの将来の為です!」
弁護士が暴走し始めていた。
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/3人称視点/
――― 一方その頃 ―――
不遜な態度を取る13の騎士。
円卓に座る彼らは招集されていた。
緊急動員命令が発令されたのだ。
TDRの幹部陣は13騎士からなる。
天内によって強くなった変態集団の超精鋭である。
ちなみに天内は殆ど何も知らないのが余計タチが悪いのだ。天内基準では彼らはアホで雑魚であるが、その実状は、やや異なる。
この13騎士。
悪知恵が働き小賢しい上に、戦闘面でも中々の手練れへと昇華しているのだ。
まとめ役はカッコウであり、全ての実権を担う。
天内はというと君臨すれども統治せずを地で行く象徴であった。
彼らは円卓にて、総帥が来るのを今か今かと待ちわびて居た。
その中でも異彩を放つ者が4名。
フードを目深に被る性別不明の者。
飄々とした態度で寝っ転がる者。
武人のような雰囲気を漂わせる者。
薄気味悪い道化メイクの者。
13騎士の中でもさらに異彩。
序列の高い4席。
破格の性能を持ち合わせている者達であった。
上方4席は四天王と呼ばれる強者達。
四天王以外の者はそれぞれ口を開く。
「緊急動員とは物々しいな」
「事態は急を要するのだろう」
「新たなる革命の狼煙を上げる。ただそれだけ」
「ヒャッハー!」
「政策金利を引き上げる件ですかな?」
「馬鹿でも稼げるアレをやるんですね」
「国内の株を買い叩くアレを実行する件かもしれん。しかし時期尚早では?」
「マッチポンプのやりすぎは危険だ」
「いや、水面下で行われている輸入規制かもしれんぞ」
「軍事武装の輸入縮小の方か……」
「一体何の為に?」
「独占事業の開拓だろう。
ヒノモトは軍縮主義だしな。
ここで諸外国の軍拡主義に対抗するのだろう」
「国外からの魔鋼石、鉄鉱石の流通ルートは手を回している。輸入には多額の関税を懸ける予定との事」
「という事は、通商関税局は既に献金済みか。随分と仕事が早いな」
「政界内部のTDR支持基盤も固めつつある。今後は傀儡を出馬させるとの事だ」
「票田をちらつかせればこれか」
「全くだ。腐った豚を炙り出すには絶好の機会だとも言えるがな」
各々勝手に話し合いをしていると。
「随分と騒がしいな」
低く、くぐもった声音が喧噪をかき消した。
「「「 !? 」」」
弛緩した雰囲気が一変する。
全員の緊張感が増した。
漆黒の騎士カッコウがいつの間にか目の前に現れていたのだ。
「カッコウ殿」
「……目で追えなかった。カラクリはなんだ?」
「いずれ手合わせを願いたい」
「やはり強者か」
一部四天王が口を揃え脂汗を搔き始める。
TDR13騎士、第一席を超える漆黒なる影。
カッコウが手を叩いた。
「よく集まってくれた」
「それで、何用ですかなカッコウ氏?」
「天内くん……閣下直々の命令が下った」
騒めく13騎士。
「珍しい」
「一体今回は何をするつもりだ?」
「今回も世界をひっくり返すんだろうよ」
「間違いねぇ。胸が高鳴るじゃねーか」
各々が困惑、称賛、高揚し始める。
そんな光景を無視し、カッコウは続けた。
「天内くんの指示。それは……」
視線がカッコウに集まる。
生唾を飲む音が木霊した。
「マホロに存在する全ての集塊を殲滅せよ……との事だ。概要はこうだ」
カッコウは支援金争奪戦の紙を"いつの間にか"それぞれの手元に配り終える。
「これが……今回の革命?」
「一体どういう意味があるんだ?」
カッコウは物々しい雰囲気で。
「質問は許さぬ。貴殿らは黙して任務を遂行せよ。
自らの頭で考えられぬ愚か者が居ない事を切に願う。
散れ!」




