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序章 『ドーナッツの穴』研究会 と 『TDR』


「風音くん。君の精神力は驚嘆に値する」


「え? どういう意味?」


 四六時中異性に囲まれる生活。

 ハーレムは憧れた夢の一つだったが、実際はキチィのだ。

 男友達が一切出てこないハーレム主人公諸君は凄い胆力である。

 俺なら正気を保てない。

 

「お前って凄いよなって話」


「何を褒められてるのかわからないけど、ありがとう」


「ああ、本当にな」


 俺は謎部活の部室で将棋を打っていた。

 アイツらから身を隠す為であるが。

 それはまぁいい。


 俺は今、主人公御一行が運営している謎部活? 謎サークル?

 まぁなんでもいいんだけど。

 

 『ドナアナ研究会』なる場所に居るのだ。

 

 この部活、謎過ぎるのだ。

 活動内容はドーナッツの穴をどのように残して食べる事が出来るのか? を主題にこの世の謎を研究する事らしい。

 

 やや哲学染みている。


 いや、意味不明だな。

 さっぱり何を言ってるのか理解できなかった。


 部長は南朋らしいですよ。

 メンバーは主人公御一行とフィリスらしい。

 すげぇよな。マジですげぇ。


 だって実態がないペーパーカンパニーならぬペーパーサークルだもん。

 

 それはそうと。

 TDRなるカスグループを創設した俺とは大違いの華やか空間ではある。

 なんだかラベンダーの香りがするのだ。

 美少女と美少女がなんだかんだ和気藹々としているのだ。


「つーかTDRってなんだよ!?」


 俺が突然大声を上げると、皆眼を丸くしていた。


「あ、すまん。なんでもない」


「天内さぁ~。突然奇声上げる癖直しなよぉ~」

 なぜかメイドコスプレの南朋がツッコんできた。


「お、おう」


 ―――回想開始―――


 TDR決起集会であった。

 あるトウキョウ湾ふ頭に厳ついメンツが招集されていたのだ。


「閣下のご来場だ。整列を!」

 カッコウが音頭を取る。


「ちぃーす」


 冷や汗を流しながら頭を掻き、眼下に広がる族共に挨拶した。

 騒めく烏合の衆は、俺に視線を移すと90度に頭を下げた。

 静寂である。

 湾港を照らす馬鹿みたいに改造されたバイクやセダン車の五月蠅いエンジン音。

 俺は隣のカッコウにヒソヒソ声で状況説明を要求した。


「カッコウ。これはなんだ?」


「傘下ですが?」


「傘下とは……なに?」


「社会のゴミをまとめています。得てして情報は闇から仕入れられるかもしれません」


「へ、へぇ~」


 会話が成り立たない。

 説明が不足してるのだ。

 俺が既に承知済みだと思っているのだろうか?


「この傘下共はですね……」

 と、カッコウは喋り出す。


 カッコウの語る内容を簡単にプロファイリングしてみた。

 どうやらTDRはカントウの不良共を根こそぎ潰して、傘下に収めたようなのだ。

 TDRはもはや一大不良グループへと相成っていた。

 元々魔術の才ある者達。

 根は臆病者であったそいつらは、マホロにて不良になり、魔術を碌に使えない下界に赴き井の中の蛙である不良共相手に無双したのだ。

 マホロ出身のTDR構成員は1人1人が下界の族のお頭らしい。

 そのトップ? なのか知らんがTDRのアホの頂点に君臨するのが俺との事。

 つまり大お頭。

 トップのトップである。

 ヒノモトの株式市場を無茶苦茶にしたのもTDRグループとか言う馬鹿みたいな会社だし、こんなギャング共を集めてせせこましい事もしているようなのだ。


 てか、1人1人が勝手に動きすぎィィィ! 

 

 『それに』とカッコウは続けた。

「まず手始めに兵隊を集めました。

 天内くんなら全員秒殺でしょうが。

 人手は多いに越したことはありません。

 いずれ起こる戦争に備えた必要悪の側面もあります」


「必要悪だと……話が読めんが?」

 一ミリも話の概要が読めない。


「戦時下になれば自然と治安は悪くなります」


 ??? 

 話が飛躍したな。

 馬鹿がバレないように話を合わせるか。


「だろうな」


「それをこの段階でコントロールしてしまうという事です」


「コントロール? 治安悪化と共に政権でも打倒するとか?」


「なるほど。それもありかもしれませんね。

 混乱に乗じて根腐りしたヒノモトの上層部を狩り尽くすという事を言いたいのですね」


「待て待て。今の発言は聞かなかった事にしてくれ。

 こんな不良共を集めて何をコントロールするんだっけか? 

 もう一回聞かせてくれ」

 俺はカッコウが勝手になんかする前に釘を刺した。


「真意を図りたい、という事ですね」


「お、おう」


 カッコウは『では』と枕詞に。

「戦時下では、全ての治安を維持する事は残念ながらできません。

 暴徒、もしくは恐慌に陥った者達は少なからず出てくる」


「火事場泥棒だな」


「そうです。

 しかし、社会悪と社会悪をぶつける事である程度、混乱を相殺ができます。

 混乱した動乱を誘導し煽動する事が出来ると考えました。

 一言で言うなら情報操作の一環とでも言うのでしょうか。

 例えば、天内くんと魔人が街中で戦闘を引き起こした場合、それらを彼らの抗争という形で話を纏める事が出来ます。何よりトカゲの尻尾の役目もありますしね」


「へ、へぇ~」


 中々にアレなやり口だな。

 大悪党みたいにな手腕だ。


 カッコウ。

 俺はお前を仲間にして本当に良かったと思う。

 俺は多分お前に勝てないと思う。

 あらゆる面で。

 知略においては完敗だろう。

 最も恐るべきは人海戦術の妙がある事。

 お前は超自然的なカリスマの持ち主なのかもしれない。

 それだけはわかる。

 お前は王の資質があるよ。 


「全く末恐ろしい奴だ」


「天内くんの意図を汲み取ったまでですとも」


「やめてくれ」


 ―――回想終了―――


 なんだこれ?

 マジでキ〇ガイ集団じゃん。

 俺、アレの長なの?

 はぁ~。嫌になってきた。

 

「粗茶です」

 頬袋をリスのように膨らませたシステリッサが波打つ紅茶を出した。

 本来出される茶菓子は俺の下にはない。

 コイツの頬の中なのだろう。


「どうも。あ……王手」


「な!?」


 死んだ眼をしながら俺は今、風音の王将に王手をかけた所であった。

 こいつボードゲーム全般が弱すぎなのだ。

 あのニクブよりも弱い。


「もう一回。もう一回頼むよ」


「へいへい」

 

 フィリスが怪訝な顔をして南朋に話しかけていた。

「なぜコイツを連れて来た?」


 南朋は部長面すると。

「風音が是非にって。体験入部?」


「まさかコイツも入部するんじゃなかろうな」


「入らねぇよ!」


「え? 入らないんですぅ?」


 システリッサはまだ口の中をモグモグ動かしている。

 底なしの食欲である。

 流石はご飯は沢山食べる派である。

 

「当たり前だろ! そもそもここは何をする部活なんだよ!」


「まったりするんですぅ」


 器用に喋りやがる。


 続けて無機質な瞳でイノリは。

「青春の謳歌?」


「ぼっち回避」

 フィリスの奴はボソボソ声であった。


 南朋の奴は俺の呼応に応えるように。

「天内。さっきも説明した通り我々はドーナッツの穴を研究している」


 それが意味不明なんだよ!


 風音の奴は真剣な顔になると身を乗り出して来た。

「天内くん。実はこの部活……」


「なんだよ。顔が近いんだよ」

 気持ちの悪い奴だ。


「何をやってるのか僕もわからないんだ」


「……あっそ」


「ホントに入らないのかい?」


「入る訳ねぇだろ」


「君が入れば、部活対抗戦は百人力なんだよ!」


 部活対抗戦?

 何それ?

 そんなイベントあっただろうか?


「なんかあんのか?」


「あんた知らないの? これを!」


 南朋は壁に貼ってあったポスターを叩いた。


 俺はポスターを掻っ攫うと眼を疑った。

「な……んだと……」


 マホロに存在する全部活・サークル・ラボ・同好会etc...

 それらに学園から送られる援助金を決めるゲームの開催告知。

 部費の規模を超えた支援金を賭けた戦いの旨が記されていた。

 

「流石、お金だけはあるよねぇ~この学校」


 ゲームの成績順に支援金は決定される。

 第一席。

 その部活に配布される支援金は高等学校のイチ同好会や部活に与えられる部費の規模を超えていたのだ。


「ちくしょう……」


 こんなクソみたいなドーナッツの穴を研究するとか抜かすアホ共に金を渡す訳にいかん。

 

 やるか。参加するか。

 参加せざるを得ないだろう。

 

「もろたでぇ~」


 金脈を発掘した気分であった。


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