穂村 小町
俺の資産はそれはもう成功者と言って差し支えない額になっていた。
すばらしきかな投資の世界。
「タワーマンションでも買おうかな?」
オモテ参道で一人呟いた。
「それともあそこかな」
世界唯一の空中都市オノゴロに家でも買おうかな。
うんうん。
それがいい。
さぞ眺めがいいだろう。
街行く若者の笑顔が眩しかった。俺は微笑みながらその光景を眺めていた。
とても。とても気持ちがいい。
なんていうのかな。
こう体中のテロメアが活性化するような、遺伝子の螺旋が超進化するような、そんな心地だ。
マネーイズパワー。
マネーが多いと心にゆとりができる。
前世では一生かかっても手にできなかったであろうマネーが今手元にある。
その一点で俺は満たされた。
ハルメスのクソでかサングラスにチャネルの黒地に金色の刺繍が入ったシルクハット。
上下衣服は真っ赤なクッチのスーツ。
靴はウォーターブルの革を使用した濃紫のファラガモのブーツ。
完全ブランド品武装だ。隙のない構成。
一目で富裕層だとわかる完璧な采配だ。
自分のセンスに驚天動地した。
地獄の番人も脱帽。俺のファッションセンスに地獄の住人も絶望していることだろう。
あまりにも凄すぎると。
腕にはファテックプィリックの腕時計もオマケつきだ。
朝食はしじみのパワーと高級グルコサミンを摂ってきた。完璧だ。最高の気分だ。
心の中で若者にエールを送る。『高みまで来い。待っている』と。
「フ。フハハハハハ!! 凄いぞ俺! かっこいいぞ! 強靭! 無敵! 最強!」
天に向かって両手を掲げ中指を立てた。
運営よ。お前たち見ているか? 攻略の足掛かりは出来てるんだよ! 特異点であるこの俺に一発でも食らわせてみろ!
そうこうしていると周囲がザワザワとしていた。
「なにあれ? くそダサくない?」
「ピエロじゃんwww」
「スマホに撮っとけ」
「やめとけ。こっちみたぞ」
何やら庶民諸君がヒソヒソと俺の事を羨望の眼差しで見ている。
全く困ったものだ。
「やれやれ」
俺、最近庶民辞めましたもんでサーセン。
「ちょっと君。いいかな?」
ポリスメンだった。
何やら訝しげな視線を感じる。
「なんすか?」
いつの間にか複数人の警官に囲まれていた。
なんで?
俺はあの後、職務質問を受けた訳だが、めげずに不動産屋に駆け込んだ。
無論オノゴロに家を建てるためだ。
結論から言おう。桁が違った。俺はオノゴロの不動産を舐めていた。
東京の1000倍だ。地価も箱も1000倍。
ワンルーム賃貸であっても月一億だ。
普通の一軒家がウン百億の世界だった。
む、無理だ。
成功者の俺でも流石に手が出ない。
時代の寵児の勘がここは撤退だと告げている。
俺には小市民的な生き方しか向いてないのかもしれない。
下界に住まうしか……ないのか。くそ! なんでだよ! 主人公は入学後すぐに一軒家もらえるじゃんか!
主人公と天内というキャラの格差に絶望した。
神の仕打ちにクソでか声を出しそうになった。
「俺は高みに行く男……今回は諦めといてやる!」
負け犬の遠吠え……いや、負けてねぇけど一旦頭を冷やした。
俺にはやらねばならんイベがある。
「そんな事も言っていられない……な」
俺は自慢の腕時計の時計の針を確認する。
お、ちょうどいい時間じゃないか。
ハッピーお買い物も終了したし……
「さて。んじゃ。まぁ。もう一つバッドエンド回避の布石を打ちにいきますか」
伸びをして気合を入れなおした。
マリー救出から数か月経った今、俺は少しだけ成長している。使える魔術を増やした。しかもレアなやつ。
レベルも35を超えたはずだ。ステータスバーが確認できないのはこの世界がリアルになったせいでもあるが、非常に面倒だ。
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マリーとは別にもう一人、本編開始前に布石を打つ必要があるヒロインが居る。
メインヒロインの1人、穂村小町だ。
彼女の特徴を挙げると、容姿は髑髏の刺繍が入った黒いスカジャンに制服といった尖った服装の少女である。
ギャルゲ時空では服装は何でもありなので、ツッコみはよしておこう。
てか、この世界の服務規程ってマジでどうなってんの???
いかん。脱線しそうになった。切り替えよう。
彼女、小町は長い黒髪に漆桶色の瞳をした主人公の後輩キャラだ。あどけなさが残りながらもアンニュイな雰囲気を醸し出す色気がある。
常にチューイングガムを噛んでおり目の下にはやや隈のある美少女キャラ。
ビジュアルの良さから人気はあったが、彼女もマリー同様シナリオのバックボーンの暗さから人気投票トップ7以内に入れなかった不遇キャラだ。
「てか、ユーザー処女厨が多すぎなんだよ。気色の悪い。まぁ俺も童貞であるが……そんな話はどうでもいい! 俺の貞操観念は鉄壁だ。サッカーならバロンドールすら取れる守りだ。童貞を守れん男が一体何を守れるというのだ! ふざけるな!」
「はぁ……はぁ」
少し冷静になろう。少々熱が籠ってしまった。くそ忌々しい。この事を考え始めると情緒不安定になってしまう。
息切れしてしまった。
「ここでお水を一杯っと」
喉を潤すとなんだか気分が落ち着いたような気がする。
水素水だからこれ。ペットボトル1本3000円。通販サイト、アメェゾンでダースで買った。だって俺成功者だから。
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小町は人を射貫くような釣り目で常に睨みつける癖があるが、これは単純に眠さをごまかす為に行っている事が後々判明する。
ガムも眠気覚ましで噛んでいるという設定もあった。
彼女の戦闘方法は近接武器術メイン。
主に刀による斬撃をメインに行うキャラ。
気怠げな日本刀使いである。
小町は俺と同じく放出型魔術には全くといって適正がない。
適正魔術属性は"金"であり、しかもエンチャント系の武器強化魔術か身体強化系の魔術しか使えない。
加えて専用装備もない。
ピーキーな部分は天内と似通った性能。
彼女の特異性を挙げると強力なユニークスキルに該当する魔眼保有者であるという点だ。
魔眼保有者は貴重であり非常に少ない。
ゲームメガシュヴァにおいて敵味方含めてプレイアブルキャラ1000人の中でも3名しかいない魔眼保持者。
その一人が小町である。
この一点で彼女の最終ステータスは星5キャラのTier2まで引き上げている。マリーほどの広範囲の殲滅力はないが、こと一対一の戦闘においてはマリーを凌駕した戦闘力を誇る事がある。
ユニークスキル:魔眼"極夜"。
これがまぁまぁ壊れスキルなのだ。
小町ルートはかなり癖がある。
所謂伏線ルート。
因果な事であるが小町きっかけで【COR】が見え隠れするルートだ。
残念ながら小町ルートで直接解決できない。
CORは超巨大犯罪ネットワークを構成する世界三大マフィア連合という設定。
こことドンパチしたくはない。
つーか認知されたくない。現時点で敵が巨大で強すぎる。
CORと全面衝突するルートは他にあるのだが、これは絶対に仲間を集める必要がある。それも強い奴を複数人。そいつらとパーティを組まなければいけない。
じゃないと、確実に"死ぬ"。
COR編はゲームメガシュヴァ屈指の難易度のステージ。今の天内こと俺なんて秒殺である。なのでスルーで。
「少なくとも……今は」
故に、最も大人な解決策を取りたいと思う。
俺にはそれが出来る。
その作戦とは、
「小町を買う」
作戦以上。




