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金の切れ目が縁の始まり


 心臓に突き刺したレイピアから血が滴っていた。 

 崩落する世界の中心。

 

「どの道、世界は崩壊する。人の世は終焉を迎える。良い提案だと思ったのだがな」

 

 俺の影は不適な笑みを浮かべている。

 己の死期を悟り、諦めの笑みでもあった。


「終わらせない為にここに来た」


「異界から湧き出たお前(イレギュラー)がどれほど肩入れしようともその結末は変えられない。人の身では世界が辿るべき歴史(レール)を、あらかじめ決められた結論(ルート)を覆す事など出来ない。方程式の解は既に導かれている。証明する過程を変える事は出来ても、解である結末を変える事は出来ない。それを因果とも、運命とも、宿命とも呼ぶのさ」


「出来るさ。大した事じゃない」 


「不可能だ。天か地か。どちらにせよ。

 瓦礫の山の上で玉座に座る者が異なるだけに過ぎない。

 人はこの星の王に成りえない。この世界は崩落する。

 重みに耐えられない。故に穴が空いたのだから」


「俺の元居た世界には"ラプラスの悪魔"という考え方がある」


「お前の世界にも悪魔が居たか……」


「ああ居た。未来を視る悪魔だ。

 そいつは否定された。そんなものは居ないと。

 俺はね。予め決められた未来など、本来有り得ないモノだと。

 未来は己の手で変える事が出来るのだと。

 そう思っている」


 消えゆく俺の残滓に向かって手向けを送ってやったのだ。


 ・

 ・

 ・


 生徒会役員の大多数不在・失踪という異常事態の下、学園は再開された訳。

 第一に、魔境そのものも有り得ざる舞台なのだ。

 学園上でも本来ゲーム上で起こるはずのイベントが幾つか中止・変更されている。

 新たなルートがこじ開けられている。

 

「香乃ぉくぅ~ん」

 

「随分とニコニコしているな。何かいい事でもあったのか?」


 モリドール家地下に作った俺のアジトの一室。

 モリドール家はモリドールさんが知らないだけで、勝手に隠し通路とか秘密の地下を作ってたりする。セーフティーゾーンと言えるぐらいに改造しているのだ。古強者の兵隊が攻め入って来ても籠城戦が出来るぐらいに堅牢な家になっていたりする。

 そこに居候しに来た香乃。

 最強の防犯装置として居候を許した訳だが。

 そんな彼女が眉根を寄せた。


「いい事はなかった。が、今から良い事が起きる」


「そうか。それは良かったな。

 昨日は随分とバカ騒ぎしていたようだが。

 てっきりその事だと思ってな。で? 何の用だ?

 お前学校に行かなくていいのか?」


「この後行くさ。それでだな。あ~。え~っと。だなぁ~」


「なんだ……モジモジして」


「あのぉ~。ところでさぁ」


「だからなんだ? ニヤニヤして。言いたい事があるならハッキリしろ」


「じゃあ。早速ですが……カネ貸してぇ~」


「あ?」


「あれ? 聞こえなかった? だ~か~ら~。金貸してぇ~」


「あん?」


「香乃くんさぁ~。君に良い提案があるんだ。

 俺に対して金貸させたるっていう提案。どう思う?」


「金を貸させたる? 意味がよくわらんのだが。どういう意味だ? ん? ん? 文法的におかしくないか?」


「おかしくない。俺に金を貸す事をさせてあげよう。どうだ? 魅力的だろ?」


「???」

 香乃は目をグルグルと回し始めた。


「私がお前に金銭を貸して、私に何の利点があるんだ? 

 その言葉は知らない文法と単語だぞ。

 私の理解が追い付いてないのかもしれん。

 もう一回訊いていいか? どういう意味なんだ?」


「香乃くんさぁ。

 君は昔ながらの人だからご存じじゃないかもしれないんだけど。

 この世には赤字決算という言葉がある。 

 法人税を支払わない小賢しい手だ。

 知っているだろうか?

 お金を貸す事で君は税金を支払わなくて済むようになる」


「馬鹿にしているのか? 煙に巻かれている気がするんだが。また詭弁か?」


「詭弁ではない」


「じゃあ空理空論だな。もういいか?」


「空論でもない。

 君は金を俺に貸す事で香乃くんには利益が齎されるんだよ。

 これはビジネスチャンス。

 君は今! いや! 今日から君は億万長者の道が開かれた!

 いやぁ~めでたい!」

 

 手をパチパチと叩き拍手を送った。


「はぁ? アカジケッサンの意味がよくわらんのだが……その話はどう繋がってくる?」


「まぁまぁ。落ち着いて下さいよ。香乃くんは俺にお金を貸させる事で、俺に貸しが一つできますよね?」


「当たり前だろ」


「そこなんですよ。鋭い!」


「馬鹿にしてるな。お前」


「いいか。よく聞け。この世には投資ファンドという言葉があります」


「だから赤字決算の話はどこに行った?」


「その話はもう終わった! 君はまず節税出来るって事!」


「ええぇ……」


「で! どうなんだ! 金を貸してくれるのか!?」


「そんなにないのか? なぜない? いつも金欠じゃないか? 一体何に使っている? いつの時代も金欠じゃないかお前」


 俺は真剣な顔を作り。

「戦いの……為だ」

 と呟いた。


 半分ホントで半分ウソである。

 残り半分はギャンブルと投資とビジネスとブランド品購入である。

 あれ? 半分だったけ?

 もしかしたら、3分の2ぐらいかもしれない。

 まぁいいや。


『なるほどな。確かにお前の立ち回りには報いるべきか……』

 と呟き難しい顔をすると根負けしたのか。


「はぁ~。で? 幾らだ。私もそこまで余裕はないぞ。この時代では正規の身分証がないからな。まともに働く事が出来ないんだぞ。アイテムの換金も出来ないし……」


 世知辛い顔をしてブツブツ唸る。


「貸してくれるのか?」


「まぁ……いいだろう。お前には多くの借りがあるからな」


 香乃は自身の財布を取り出し、中身を覗き渋い顔をしていた。


「フフフ」


「なんだニヤついて」


「いや、なんでもない」

 とりあえず、香乃から借りた金の一部を小町に返済して与信を作った上で、小町から金を借りに行くか。


 ・

 ・

 ・


 学園復帰初日であった。

 

 また寝坊である。

 昨夜、財産を賭けた究極のデスゲームが行われた。

 DクラスのアホとTDRらしきアホ共を巻き込んだ、たった一人が全ての財産を総取りする闇のゲームが開催されたのだ。

 

 だから寝坊した訳。

 初日の挨拶は不可能であった。

 ちなみに、俺は懐かしき古巣Dクラス配属にはなっていない。

 フィリスとかいうヒロインの力に引っ張られて風音のクラスに編入という形になっているのであった。


 全財産を失った俺は久々に学園に登校すると、ニクブとガリノの三人で学食に赴いていた。


「やけに静かだな」

 

 いつもより活気がない。


「授業中だからだろ」


「当たり前の事を呟くな。馬鹿がバレるぞ天内」


「辛辣な事を言ってやるなガリノよ。馬鹿だっていいじゃない。人間だもの」


「うるせぇなお前ら。行くぞ……」


「天内、お前金ないだろ。昨日全部ボッシュートされてたじゃん」


「あるんだよ。とっておきの金主が出来た。そいつに今朝借りてきた」


「また借金かよ。懲りないねぇ」


「またって言うな。与信すげぇーって褒めたたえろ」


 全財産を失ったにも関わらず、なぜ俺が学食を買えるのか。

 その理由。それは借金をしたからなのだが、それはまぁいい。もはや息を吸うように借金をしている。もう消費者金融から借り入れる与信がないので知人から金を借りている。

 

 罪悪感はない。

 金を貸す方が悪いからだ。

 この世は金は使った奴が一番偉いのだ。


「てか、開いてねぇし」


 学食は開いてなかった。 

 いつもならオープンしてる時間にも関わらず、学食のおばさんは不在であった。


「そのうち開くだろ。定位置に行こうぜ」


「だな」


 俺達は螺旋階段下の定位置。

 女生徒のパンチラが拝める絶対領域と呼称する黄金席に腰掛けてトランプを取り出した。

 時間つぶしである。

 

「テキポで行くか」


「負けたら学食奢りな」


「いいぜ。おもしれぇ乗った。10回勝負な」


「確率は収束する」


「言ってろ」


 ガリノが巧みにカードをシャッフルし始めた。

 俺はゲームをしながら、2人に話題を振った。


「そういやさ。税金と利子。これらは悪であると思う訳」


「なんだよ突然。天内。お前は馬鹿だから知らないだろうが、納税は国民の義務らしいぜ」


「知ってるんだよドアホが。俺が言いたいのはそういう事ではない。どうやらこの国は労働と納税は義務らしいが、ちょっとおかしくないだろうか?」


「と、言うと?」


「冷静になって考えて欲しいんだ。まず、労働。これはなんだ? この言葉は一体なんだ?」 


「労働は労働だろう。……哲学の話か?」


「はぁ~。いいか? ニクブ。

 労働。

 働くと書いて(いた)わると書く。

 この言葉。そもそも意味不明だ。

 矛盾している。

 労わるとは、療養するとかそういうニュアンスだ。

 療養して働くと読ませている。

 さっぱり意味が理解できない。

 働くとは苦悩だ。苦悩の連続だと俺は思う。

 悩働と言葉を改名すべきだ。

 誰もが喜んで働いてると洗脳しているんだよ! この言葉は!」


「確かにそういう意見もあるかもな」


 ガリノは興味なさげであった。

 こいつ、一晩で巨万の富を築いたのだ。

 生粋のギャンブラーなのだ。


「意味不明な造語:労働を義務にするとか、この国は悪徳国家でしかないと……俺は思っている」


「天内。お前、反政府主義だったのか。薄々感じてたが、天内ってテロリストの目つきだもんな。その黒く濁った座った目つきにだらしない口元……将来が不安だぜ」


 フンッと鼻を鳴らし続けた。


「次に納税だ。これも意味不明だ。

 これは言葉が、ではない。

 本当に意味不明な制度だと思っている。

 意味がわからん。

 物を買っても税金、働いても税金、住んだら税金。

 生きているだけで税金を支払わねばならん!

 なんだこれは!?

 生きるイコール税金だ。

 人生という言葉を税金に置換しても不自然ではないぐらいにな!

 意味がわからなくないか?」


「税金で社会保障は回ってるけどな」


「黙れよガリノ! もういい! お前達とは一生分かり合えそうにない! お前の事は税務署にチクってやるからな!」


「おい! ふざけんな! 胸ぐらを掴むなよ! 荒ぶってるぞ! コイツ。そんなにカモにされたのが悔しいのか!?」


「うるせぇ! 金を返せゲボ禿げ共! 俺の金を!」


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