決戦④ 嫌な役回り
ヴァニラの持つ魔剣の射程範囲は凡そ10キロ。
視認されれば、近づく事すら困難である。
ユニークアーツは神速斬。
俺が模倣する必殺の高速連続斬り。
インターバルがあるとはいえ、これをノーリスクで行う。
さらに猛毒を付与された魔剣は掠れば致命傷。
解毒出来なければゲームオーバー。
毒判定の意味合いも広く。
実にバリエーションに富む。
毒性ガスから始まり。
自然毒・神経毒・出血毒・筋肉毒。
腐敗・老化の瘴気。
細菌・真菌・ウイルス・寄生虫を駆使する生物兵器。
放射能汚染を含む。
デバフ特性を持ち、同時に即死技を併せ持つ。
特に危険なのが、放射能による被爆だ。
射程範囲も広く、攻撃速度も速い。
加えて一撃で致命傷になる。
改めて羅列するだけでぶっ壊れキャラである。
これがメガシュヴァ最強のプレイアブルキャラの性能。
現実に居るんだからたまったもんじゃない。
歩く核である。
本来の対処法はノーダメによるワンキルもしくは高位な僧侶をパ―ティーに加えた耐久。
もしくはゴーレムやブラックナイトのような生体ではない傀儡による攻撃で削りきる。
これが基本戦術。
搦め手は精神攻撃以外ほぼ無意味。
遠距離で仕留めるかと思いきや、その実近接戦の方が勝機が高い。
射程が広すぎて、遠距離で案山子になりやすい遠距離特化では相性が悪く、確実に首を切断できる速攻が推奨される。
奴は人類特攻を持っている。
根絶者の特性を継承する者だから。
まぁぶっちゃけ。
以前、戦った事はある。
その時ですら事前情報アリありの影パ5人+俺でようやく優勢。
つまりは滅茶苦茶強い。
初見ならば絶対に勝てない。
知っててもタイマンなら勝てるか怪しいラインである。
今回はブラックナイトは居ない。
光剣もない。
つまり生身でやり合えば勝敗の行方がわからなくなる。
数も足りない。
それでも勝てるビジョンしか浮かばない。
「どうした? 作戦に幻滅したか?」
考え事をする俺の背後に千秋の奴が無言で立っていた。
「非道な作戦なのは、そうだろうね」
「否側か」
「まぁ、正道ではない。しかし概ね賛成だ。理屈はわかった。ヴァニラがこの世界で立ちふさがった場合、君の語るヴァニラの力を鑑みれば人質を取らなければ制圧は難しいだろう」
「彼女は民間人に手を出せない。絶対に」
仮に夢魔界の住人であろうと、そうでなかろうと。
あの女は無辜な民を殺せない。
民間人を巻きこみ、毒技を封じ、魔剣の射程範囲を殺した上で真実の鏡をぶっ壊す。
彼女の制圧力を封じるには、この手が最良。
最もローコストだ。
道徳心。倫理観。人として持つべき義侠心とでも言うべき正義感。
そこが弱点。そこを突く。
「綺麗事だけを並べる戦いなど戦場ではありはしない」
千秋は少し悲しそうな顔をしていた。
「ふむ。道理かもな」
「異なる目的が摩擦を起こす時。大なり小なり非道にならなくちゃいけない瞬間は存在する」
「話し合い。これは検討はしている。しかし、その余地は少ないと思っている。既に事態が引き起こっているからな。話し合いで解決できるとは思っていない。半端な覚悟ではこんな大規模な事はしないだろう。仮に見え透いた言葉で揺らぐほどの半端な覚悟ならば」
「ああ。それこそ、とても危険だ」
そう。危険なのだ。
洗脳されているのならば、解除に尽力するが。
説得、説教程度の甘言でコロコロ変わる信念や覚悟で大事件を引き起こす精神の持ち主であれば。
仮にヒロインの1人であろうとも……
最終手段として殺す。
当初の目的からズレたとしても殺す。
全てのヒロインを救うという俺のエゴを捨てて躊躇わず殺す。
危険思想を持ち、今後俺が消えた世界でも大規模な事件を引き起こす可能性がある。
災厄の芽は断つ。
そこは容赦ない。
正義感からではない。
モブの世界には邪魔なのだ。
世界とヒロインを天秤に掛けた時悩む主人公はアホだ。
どっちも救う。これはトゥルーエンド。
これは未来を読んで俺が成そうとしている事。
しかし出来ない可能性もある。
出来ない場合サブプランとして。
さっさとヒロインを切り捨てる。
悩む時間は3秒でいい。
リアリスト俺は寸分違わず首を斬り落とす。
「仮に俺の仲間が同じような事をしたとしても、俺は躊躇なく消すだろうね。幻滅したか?」
「いいや。それでいい。君は非道でありながら現実をちゃんと見ている。仮に誰かが間違いを起こした時、しっかりケジメをつけてくれる人は必要だ。嫌な役目を任せてしまって。すまない」
「俺は卑劣なだけさ」
「いいや。誰よりも優しいよ。清廉潔白な戦いなどこの世にありはしない。その事実を誰よりも知っている。下手な美辞麗句を並べる者よりずっといい。ハッキリと汚い事をすると宣言してくれる人間は信頼に足る」
「随分評価が高いな」
「ああ。キミへの期待値は非常に高い。
戦禍で英雄と持て囃される者は最も敵兵を殺した者でしかない。
その矛盾を知ってもなお、事に当たろうとしている。
君は多くの戦禍を潜り抜けて来たんだね?
常人の肝の据わり方ではない。
全てをわかった上で、なお非道になろうとしている。
本物の気質がある」
「……」
「実のところ、マリアや香乃さんは及び腰だ。君の作戦通り動かないだろう。小町ちゃんも恐らくやらないと思う」
「ふむ。ある程度予想通りか。幾つかの作戦は既に失敗していると見ていいか。
まぁいい。俺一人でもやれる事はやるからな」
「いいや。ボクも君を手伝う。仮に皆が異を唱えてもやろう。汚い事を任せっきりにする気はない」
「……そうか」
「今回、ボクが君と同行しても?」
「ああ。構わない」
編成を考え直す必要があるな。




