決戦② 【急募】 天内を倒せる奴
対人戦に限って言えば。
例えば、変身ヒーローの変身中に攻撃を仕掛けない敵キャラ。
例えば、寝込みや排泄中を襲わない敵キャラ。
例えば、性交中、ラブロマンス中に攻撃を仕掛けない敵キャラ。
例えば、飲食物に毒を盛らない敵キャラ。
例えば、愛する者、家族、仲間を人質に取らない敵キャラ。
例えば、挟み撃ち、だまし討ち、罠に嵌める事をしない敵キャラ。
例えば、必殺の武器を窃盗、破壊しない敵キャラ。
例えば、心を折る精神攻撃をしない敵キャラ。
実に愚かである。
本気の俺は全部する。
ゼロターンキル遂行には、盤外戦術は基本。
力で勝てなければ知恵で勝てばいい。
知恵で勝てなければ力で勝てばいい。
どちらでも勝てなければ心を折ればいい。
心を折っても、なお勝てないならば複数で相手取ればいい。
徒党を組んでも勝てないのであれば、過去、現在、未来を読めばいい。
因果すらも乗り越えてくるのならば。
ようやく本当の意味で俺の前に立つ挑戦権が与えられる。
それら全てを踏破した先に立つのが俺。
対策札と解決札、盤面捲り札を握りしめる俺と直々に相手をする権利が与えられる。
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九藤が退場した事を確認する。
「あの野郎、ギリギリでこの世界から離脱した可能性があるな。卑怯者め」
「……天内くんがそれを言いますか」
「なんだよ」
「いえ、なんでも。それよりも、逃げたという事ですか?」
「恐らくな。トドメを刺す際、心臓を握りしめる感覚がなかった。コンマ数秒、消滅が早かった気がする」
「ですか。追わなくても?」
「いいさ。アイツは既に瀕死だ。現実に戻った所で脅威にならん。
仮に何かしようとも。今度は影パ―ティー5人と俺を相手にするだけ。
RTAになるだけだ。それに良いモノを回収できた」
俺は手の平に収まる壺を弄ぶ。
夢世界でもアイテムとして機能している。
俺もアイツもこの世界に武具を持ち込んでいるという事だ。
つまりはログアウトの方法を知る者。
「それは?」
「蟲毒の壺ってやつだな。エネルギー貯蔵庫であり、主にバッドステータス付与に使われる代物。その実、名称権を改竄するチートアイテムさ。状態異常の名称上書きを自在に行う厄介な代物だ。これはユニーク故、俺では使えないがな」
「は、はぁ。詳しいですね」
「まぁな。俺は全てのユニークを暗記している。だが、中に溜まった魔力という純粋リソースは俺でも引き出せる」
「なる……ほど」
これで、俺の貧弱な魔力量を補填できる。
実にいいアイテムが転がり込んできた。
「さて、トウキョウタワーへ侵入開始の下準備は済んだ。今宵、闇に紛れ中心点を破壊しに行く」
「本当にあそこに?」
「ああ。ある。確証はないが確信はある。そして必ず番人が居るだろう」
「生徒会長ですか?」
「それもあるが」
風音と俺の偽者。
このコンビは恐らく聡い。
必ず立ちはだかるはずだ。
ヴァニラよりもこっちが厄介そうなんだよな。
偽主人公補正と俺の思考回路を持つ者。
「ククク」
それでも俺は一歩先を行く。
「悪い顔してるなぁ」
カッコウはいつものように『やれやれ』と首を振った。
「それにしても楽勝だったな」
「ええ。まぁ。驚くほど簡単に倒せましたね。当たり前ですけど」
「対策不足なんだよ」
「対策というか……卑怯な襲撃ですけどね」
「カッコウ。さっきから卑怯とか非道とか言ってるけど、これは立派な戦術なんだぞ」
「そうですぅ?」
「便所をしている方が悪い」
「ええぇ」
「寝て食べて排泄する。舐めてんのか。やるなら初めから暗躍者になってゆっくりしろって話」
「そんな無茶な」
「脚光を浴びる者の弱点。
それはメタゲーム戦術に弱すぎる点。
面を割ってる時点で勝機の7割を失っている。
情報は命だ」
「情報云々よりも、やってる事は姑息な卑劣戦術ですけどね」
「だまらっしゃい!」
「あ、はい」
「俺とカッコウは暗躍者同士。お前も便所ワンキルを積極的に使っていけ」
「そうですねぇ。一考します」
「それにしても。俺達に敵う敵は少ない。暗躍者ムーヴは強い。マジで」
「そうなんですかぁ?」
「ここにブラックナイトが加われば、対人戦は最強。
実は3対1だけど……仮に俺達の奇襲&暗殺コンボを掻い潜っても最強タイマンロボのブラックナイトが控えている。相手は絶望を味わう事になる」
「ブラックナイトって」
「ああ。最強ロボ。つーか極光」
「ホントなんですか? 極光の騎士の話。香乃さんの件も、にわかに信じてないんですけど」
「大マジだから。それにとっておきはもう一つあるしな」
「うへぇ~。色々用意してるんですね」
「切り札は最近一つ失ったが。まぁそれはいい。香乃が仲間に入った事でお釣りが来るし。あとお前も居る。何より俺の仲間が居るしな」
「……ですか」
「ああ。勝利は約束されている」
「天内くんのユニークは組織力みたいな感じですよね」
「ふむ。かもな」




