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終局の5番目:グリッチ


/ヴァニラ視点/


 九藤が裏で何をしているのかなど、およそ推測は付いていた。


「私を見くびられて貰っては困るな」


 奴の思惑はこの世界のリソースを収斂させ内包する事。

 人の身では辿り着けぬ膨大な魔力を獲得する事だろう。

 

「実に下らん思い上がりだ。お前が私を利用するように、私もお前を利用するだけだ。この世界は渡さんよ」


 真実の鏡の前で仁王立ちした。

 この世界を維持する巨大な魔鏡。

 九藤が用意した舞台装置。

 その所有権を奪い取るまで……


「私が道化を演じているのなど露ほど気付いていないだろう」


 爆発音が街中から木霊している。

 崩落する治安維持局。

 大きな炎と煙が視界の先に立ち昇っていた。


「来るか。修正者よ」


 この世界に闖入者(ちんにゅうしゃ)が来る事も織り込み済み。

 私が誤った理想を体現しようとしている事など承知済み。

 その間違いを正す者が現れるだろうとも。

  

 今回の闖入者は中々の手練れのようだ。

 

 記憶改竄に耐え。

 難攻不落の霧の街を抜け。

 遂には影法師集う治安維持局を崩壊させた。


 今回訪れた者は外界の最高戦力。

 

 何者なのかはわからない。

 魔剣の使い手である私と対を成す聖剣使い?

 で、あれば納得できる。


 選ばれし者が私の前に立ちはだかろうとしている。

 決戦は間近だ。

 早ければ数刻の内にこの夢世界の行く末を決める戦いの火蓋は切って落とされるだろう。

 

「それでも」


 それでも、諦める訳にはいかない。

 私の目的は一貫としてこの世界を維持する事でしかない。

 笑顔溢れる世界を作る事。

 実に幼稚であるとも思う。

 まるでおとぎ話だ。

 だが、その幼稚な発想を実現する事は困難極まる。

 人類で誰も実現した事のない、どうしようもない事実なのだから。


「それが偽りであろうとも現実で不可能ならば、せめて夢の中でだけでも」

 

 幸福にしようと思う事は間違いなのだろうか?


 別離はなく。

 飢えもない。

 争いはなく。

 死者は蘇る。


 心も体も快楽に溺れる。

 誰も涙しない世界。

 誰もが満たされる世界。

 

 それを望んで何が悪い?

 そんな世界を夢見て何が悪い?

 理想郷を実現しようとして何が悪い? 


 九藤だろうと修正者であろうと。


「邪魔立てするのならば、全ての障害に全力で抗うのみだ」

 

 サークレットを解放し、魔剣に形状変化した。

 魔剣を地面に突き刺す。

 決戦に備えて。

 

 ・

 ・

 ・

 

/3人称視点/

 

 カッコウが語った天内達以外の侵入者が1人。

 地図を片手に、いち早くこの世界の深淵に辿り着いた鬼才は天を仰いだ。


「生まれようとしとる」


 彼は目線を鋭くし、天空を見つめる。

 天が微かに動いていた。

 この夢世界が1つのダンジョンとして成立しようとしている事に警戒した。

 

 彼には使命があった。

 世界を埋める作業(バグ直し)

 

 彼は元エージェント。

 

 歴代最高と謳われるエージェント達は異なる目的で独自に動いていた。

 マニアクスの妨害と排除が活動の大半を占める。

 ちなみに、ジュードの任務は聖剣適格者の探索と聖女の保護だったりする。


 対して彼はそれに不干渉である。

 彼の元エージェントとしての目的はマホロを監視し、不足の事態があれば不穏分子を暗殺する事であったが、彼は任務を放棄した。

 

 彼は組織に所属する中でいち早くダンジョンの真相に辿り着いたのだ。

 最優先事項はテクスチャの張替え(ダンジョン化)を防ぐ事なのではないかと。

 彼の持つ異能と彼の持つ叡智がその真相に導いた。

 彼は自由に動く為に組織を抜けた。

 その日、彼はこの世界の異界侵攻(ダンジョン化)を食い止める選ばれし番人となった。


 彼はある結論を出した。


 この世界に住まう亜人、獣人、エルフ、目鼻立ち、肌の色の異なる人種、一部の動植物、スキルやアーツと呼ばれる異能、魔法、科学技術、ユニークと呼ばれる未知の兵器。

 

 それら全てダンジョン由来のモノであると。


 元々、この星になかったモノ。


 彼は個人的に、この世界はあらゆる異世界の特性を輸入し、再構築されたツギハギで構成される不安定なモノであると、そう結論付けた。故に文化的相違を生み、技術的な発展の違いを生み、異能が生まれ、摩訶不思議な地形を生んでいるのだと。


 そもそもこの世界の人間は本来魔法など使えなかったのではないか? と彼は推測していた。

 

 ()()()()()を人類が不思議に思わないよう世界全体に記憶改竄を行った者が居るとも推測していた。知的生命体の心と精神支配を司る最凶の騎士の力が関係しているのではないかとも。

 

 プレイヤーでない彼は、己の叡智のみでこの世界でいち早く深淵に辿り着いた存在の1人でもあった。


「これ以上、この星で異界融合が行われれば、この星の法則が崩壊する」

 

 深淵(ダンジョン)の氾濫。

 例えるならばハードウェアでありデータベースである惑星が処理し切れないデータ量を無理矢理詰め込まれる事で器たる惑星が飽和し、融解する事。


 際限なく深淵(ダンジョン)の中のナニカが溢れ出る事。

 それが終末なのではないかとも。

 

「そうなれば終わりや」


 情報の詰め込み過ぎは世界を壊し、()()()()()を引き起こす。


 最後に自浄作用として惑星そのものの手により星の機能を強制停止する。

 それが第五の終末であると。

 世界のダンジョン化そのものが5番目の終末の騎士であると。

 彼は人知れず、そう結論を出したのだ。


世界法則の欠陥(グリッチ)が揺らいどる。異界(ダンジョン)化が急激に進んどるな。何が起きとるんや? 急がなあかんな」


 街中に張り巡らされた電線。

 それを地図に書き込み目を凝らす。


「電線は魔法陣の曲線やから」


 彼はいち早く都市そのものに巨大な電線を用いて魔法陣を描いていると見抜いたのだ。

 彼はその中心点を探っていた。

 線を引いていく。

 何十にも線を引き、どす黒くなるトウキョウの地図。

 

 唯一の空白が生み出される。


「あっこか」


 巨大な電波塔。

 魔法陣の中心。

 視線の先にはトウキョウタワーが鎮座していた。

    


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