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再会


 ゆっくりと瞼を開ける。

 薄目を作り狸寝入りをした。

 

 知らない太ももだ。

 

 俺は今誰かに膝枕をされている。

 太ももソムリエの俺は寝たふりをしながら採点作業を開始する。


 まず、この太もも……女性で間違いない。


 加点100点!


 ここが基準点になる。

 これが男だった場合減点100点で即失格なのだ。

 太ももソムリエ協会で決められているのだ。

 ちなみに男ならばイケメンだろうとおっさんだろうと、やった場合は牢獄行きである。

 美少年で執行猶予。

 待てよ。男の娘枠もあるか……

 魅力的だな。一概に男を外すのも早計か。

 これは是非、新しい枠として追加すべき重要案件だな。


 話を戻そう。


 俺は寝返りを打つかのように自然な動きで顔を脚に擦りつけた。

 ふむ。まず、肉付きチェック。

 やや骨ばっているのでマイナス30点か。

 もう少しムッチリしていたら減点はなかっただろう。

 この脚は筋肉質で脂肪が足りないのだ。

 柔らかく、かつ包み込むような安産型の脚ならば文句なしであった。

 非常に残念である。


 次に肌触り。

 俺は自然な流れで膝枕に手を伸ばし(さす)ってみる。

 ふむ……マイナス10点。

 生脚じゃないし、よくわからん服の生地の上のようだ。

 生脚もしくはタイツだったら減点はなし。

 これは世界の常識。


 次に匂いだな。

 これも大事。

 スメルケアは相手に不快感を与えない為に必須の項目。

 デオドラント項目は10年前から追加された新しい審査基準なのだ。

 俺は再度自然な流れで顔を(うず)める。

 スーハースーハーと深呼吸をしてみる。

 うむ。減点なし。

 柔軟剤の匂いしかしない。

 ここで性的な匂い(スメル)がしていたら、加点120点だったんだがそれは望み過ぎというものだ。


 え~っと。

 次の審査基準は味だな。


 低いドスの効いた声が頭上から投げかけられた。

「起きてますよね?」


 いいや。寝てるよ。

「ZZZ」

 俺は寝息を立てた。


「……ん? 寝てる?」


 そうそう寝てる寝てる。

「三色チーズ牛丼、特盛り……温玉付きお願いします」

 俺は寝言を言ってみた。

 

「……」

 

 俺の頭がガタンとコンクリートに打ち付けられた。


「変態」


 俺はゆっくり目を開け、見上げると小町の奴が顔を真っ赤にしていた。

「あれ。小町じゃん。どうした? ここはどこだ?」

 素知らぬフリをしてみた。

 ソムリエ業務を真摯に遂行していたからぼんやりしていたが、俺は小町を偶然発見&奇襲を受けたのであった。俺の三下ムーヴ(マジで死ぬとこだったVer)でコイツの特殊な眼の力を何度も誘発させた。

 無効化が何かのタイミングで必ず自身にノックバックしてくると信じて。


 思惑通りコイツは自分自身で洗脳状態を完全解除出来たようだ。


「やはり殺しておくべきだったか……」


「なんだよ物騒な事を言って」


 俺はヒョイッと起き上がった。

 完全回復……はしていないが、ある程度治癒している。

 回復処置をしてくれていたようだ。

 目線を気づかれぬように動かした。

 周囲を確認する。

 千秋は隅の方で寝息を立てていた。

 どうやら先程戦った廃墟の一室のようだ。

 

「変態はいずれ大きな間違いを起こしますからね。息の根を止めようと思いまして」


「まぁそれは置いといて」


「置いとくか! 私の脚を犯そうとしていた癖に!」


「人聞きが悪いぞ」


「彩羽先輩に言いつけてやる!」


「え?」

 それはマズイ。

 

「マリア先輩にもです!」


 怒号が室内に反響した。


「それはマズイ悪かった! 千秋が起きちまう。静かにしろって!」

 俺は頭を下げた。


 土下座である。

 最大級の降伏姿勢。

 しばらく地面に額を擦りつける。

 すると。

 

 小町はフフッと笑った。

「やっぱり。間違いなく先輩ですね。このクズ加減は間違いなく先輩です。

 それで……どうです? お加減は?」


 ゆっくりと顔を上げる。

 なんか。大丈夫っぽい。

 彼女は微笑んでいた。


「まぁ……大丈夫みたいだな」


「そうですか。良かったです」

 彼女は安堵したのか胸を撫で下ろした。


「小町よ。単刀直入に、お前には頼みたい事がある。俺を……助けて欲しい」


 小町は目を見開き、少しだけ驚いた顔をすると。

「……なんだ。言えるじゃないですか」


「お、おう?」


 俺はこいつに俺が今置かれているマリア・千秋問題に仲裁に入って欲しい。

 こいつに弁護人を任せて、マリア恋人設定も千秋婚約者設定も、このどっちも全力で否定せねばならんのだ。こいつに正論ロンパをしてもらって俺は後ろから『そうだそうだ! お前らは頭がおかしいんだよ!』っていう役を徹したいのだ。

 

「……先輩こそ成長しましたね。誰かに頼るって事が」


「何の事だよ?」


「いいです。どうせ気付いてなさそうですし鈍感なんで。

 それに。私が嫌……とでも言うと思いましたか? 

 ええ。勿論です。先輩が困ってたらいつだって駆け付けますよ。

 それに私も先輩に頼みたい事がありますし」


「なん……だよ」


「それはまた後で話します」


「金ならな貸さんぞ。金以外の相談なら乗る」


「お金の話じゃないです」


「そうなの? 金の話じゃなかったらいいぞ」


 小町は少しだけ微笑んだ。

「そうですか。言質は取りました。では、よろしいですね?」


「? いいけど……」


 小町は微笑んだかと思うと、急に眉間に皺を寄せた。

「話を戻しますけど! まず! どの口が言ってるんですか? 以前、私が貸してあげたお金返して貰ってないんですけど!」


「え? あ。そうだっけ?」

 情緒不安定だなコイツ。


「先輩が金欠になって食べるモノがないって言ってたから恵んであげたお金ですよ! 覚えてないとは言わせませんよ!」


 あ。そんな事あったっけ?

 常習的に金を借り過ぎてるから、いつどこで誰に金を借りたのか覚えてないのだ。

 消費者金融も限度額一杯まで借りてるし。

 

「あ~。そんな事言ったかもなぁ~」


 俺は後輩である小町から金を借りパクしてる。

 借りパクした事実は覚えてはいる。

 しかし、小町から幾ら借りたか覚えていない。

 稽古代だ! つってチョロまかしてたから。


「言ってましたよ! いつ返してくれるか訊いたら。『パチンコで勝つから! 今月中には返す!』って豪語してました。だけど! 有耶無耶にして勝手に転校して行きましたし! 私のなけなしのお小遣いなんですよアレ!」


 なけなしのお小遣いを無心してたらしい。

 俺はクズなのか?

 いいや違うに決まっている。

 そもそも金を貸す方が悪いのだから!

 

「へ、へぇ~。バイト紹介しよか? パパ活って稼げるらしいよ。

 パトロンとデート行ったり、夜のお供をするとお金が入って来る脱税方法なんだけど。まずな。適当なSNSを使ってだな」


「ふざけんな!」

 額に青筋を立てて怒鳴られた。


「悪い。悪かった。返す。あんまり金はないが返すアテがある。俺はビジネスを開始したからな!」


「胡散臭いなぁ~」


「任せろ。大船に乗ったと思ってくれていい。で? 1万で良かったけ? あれ。1000円だっけ? 500円でいいか?」


「5万円ですよ! 5万円! 大金ですよ! 積もり積もって5万なんですよ! 何回お金貸したと思ってるんですか!?」


「へ、へぇ~。そーなんだね」


「何なんだよコイツ!

 すっとぼけて金額を下げるなよ!

 嘘の世界(こっち)の先輩の方が幾分かマシまであるんですけど! 

 こっちの方が紳士なんですけど! 

 本物の方がクズじゃん! 

 そういやこの人滅茶苦茶クズだったわ! 

 クズ過ぎたんだわ! 間違いなく本物だわ!」


「酷いなぁ~。まぁまぁ落ち着きなよ。ちょっとホルモンバランス崩れてるぞ」

 俺は小声になり。

「その……大丈夫か? 生理とか?」

 

 キィーっと奇声を上げて、髪の毛を搔きむしった。

「デリカシーも以前のままない! 気持ち悪い! 気持ち悪すぎる! 女の子にそんな事平然と発言する思考回路が終わってるよ! キモ過ぎる!」


「ちょっとマジで落ち着けって千秋が起きるだろ。さっきからビックリマークが多いって!」


「ああ言えばこう言う!

 それに、こんな変人と会話して落ち着いていられますか!? 

 久々に会話したと思ったら。

 セクハラはする。お金の話はする。生理の話はする

 いい所が1つもない! 頭がおかしい! 頭がおかしい人なんだよ!」 


「あの、」


「もう喋らないで下さい! 評価が落ちますよ! 斬りますよマジで!」


「……はい」

 とりあえず、しばらく喋るのはやめた方が良さそうだ。





本物の方がクズ

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