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蟲毒


/3人称視点/


 片手に(ユニーク)を携える男は口を開いた。


「ここまでやっても口を割らぬか。見上げた根性だ。ならば散り行く君に、この世界の真実を告げよう」


 瀕死の少女は虚ろな目。

 彼女の四肢は既に食い千切られていた。

 項垂れ、仰向けになり虫の息。

 徐々に呼吸は浅くなり顔から生気が抜けていく。

 (おびただ)しい流血が大地を染め上げていた。 


 彩羽千秋は絶命しようとしていたのだ。


 目の前に立ちはだかる強敵は最後の手向けに目論見を告げる。

 

「この偽りの世界はね。

 最後の1人を選ぶ事を想定している。

 ここは、私を完成させる装置でしかない。

 私が最後の1人になる事で完成する。

 ここまでたどり着いた事は素直に称賛に値する。

 これから君は私の糧になる。その栄誉を称えよう。

 褒美に甘い夢を、甘い蜜のような世界を。

 死の間際まで堪能する事を約束しよう。

 ……私は神になるのだから」 


 ・

 ・

 ・


 千秋の奴を待ち合わせ場所にて待っていた。


 俺はマリアを盗み見た。

 この世界のキャラは育成してなかったから弱かっただけで、鍛えれば俺よりずっと強い奴が多い。マリアの成長率を傍から見ると、潜在的にそもそもが違う。持っているもの、素養というか、センスというか、運命力というか、そういうモノが決定的に違うんだと思う。

 

 彼女は間もなく俺の潜在値を超える。

 という事は、千秋も小町もいずれ俺をあっさり超える。

 風音も言わずもがな。

 彼らは順調に強くなっている。


 非常に嬉しい話だ。

 拍手したい気分である。

 一時期はこの世界の奴は想像以上に弱すぎて当てにならないと悲観したがそうではないみたい。頼むから早く俺より強くなってくれ。

 

 そうすれば本当の意味で俺の存在意義はなくなる。

 満足してさっさと逝ける。

 だが、育成は完了していない。

 カッコウも翡翠もまだまだ弱い。


 ここで俺が戦線を離脱する訳にはいかない。

 彼ら、彼女達を守らねばならない。

 俺が折れる訳にいかないのだ。


 しかし。

 俺は魔力が殆どない。

 主人公やヒロイン特有の莫大な魔力とか、俺にはない。

 特別な(イビルアイ)聖痕(ルーン)血脈(ゲノス)もない。

 故にこの魔法世界で武具の数々と格闘技で戦ってきた。

 俺は全ての専用装備(ユニーク)に選ばれなかったモブだ。

 だから必死こいて誰でも使えるイベント産のアイテムを発掘しに行った。

 長期戦では勝機がない。故に速攻(アグロ)で決めてきた。

 

 何より主人公補正とかヒロイン補正。

 運命力とでも言えるモノ。

 そういった確固とした強さがない。

 

 だから想像しろ。

 今後、未知のイベントに出くわした時にみんなを守れるように。


「そろそろエグめの新技、練習しとくか。あと言ってみたいセリフあるしな」


 中二病なら言ってみたいセリフがある。

 

『持ってくれよぉぉぉぉ。俺の身体ぁぁぁぁぁ!!!』って言ってみたいのだ。


 事実、手の平に違和感を感じている。

 手の平をグー、パーと開いては閉じてみる。


「……少し脆くなったか?」

 

 痺れが残っているのだ。

 痛みは麻痺しているので無視していいが。


「たった1回の戦闘で……か」

 

 先程の戦闘を終えて、俺の手の平はあっさり焦げた。

 戦えば戦うほど強くなるのではなく、徐々に戦闘のダメージが蓄積しているようなのだ。


「少しずつ……まぁいいか」

 

 頭を振るう。

 一瞬何かを考えようとしてボーっとした。

 少し考えてみたがやめた。

 何を気にしていたか忘れたのだ。

 若年性健忘症である。

 

「とうとう来たか」


 早過ぎワロタである。

 

「どうしました?」


 いつの間にか傍に居たマリアの奴が不思議そうな顔をしていた。


「いや、何でもないです」


「あ! また。そんな怪我をなされているのに!」


「あ」


「ダメじゃないですか。前も注意しましたよね!」


「いや、だから平気ですって」


「強がりは良くありません! 腫れあがってるじゃないですか!」


 多分折れてるか砕けてるんだよね。

 治癒は掛け続けてるのでその内治る。

「ここは精神世界ですし。実際にダメージを負った訳では」


「言い訳は聞きたくありません。関係ありませんので。お怪我はお怪我ですから! 手を出してくださいまし!」


「いやぁ~」


 そんな光景を見る怪訝な顔をした香乃が。

「おい。ネ……傑。こっちに来い」

 香乃の奴が手招きした。


「マリアさん。香乃が呼んでるわ」


「ちょっと!」


「マリアさん。これは重要な家族会議なので、ぜ~ったいに聞き耳を立ててはいけませんよ」


「またそんな嘘を!」


「嘘ではありません。俺を信じてください」

 俺は真剣な顔を作った。


「ウっ」

 引きっつた顔をするマリア。


「いいですね。ちゃんとお話しは後で聞くので。ケイ!」


「は、はい?」


「マリアさんをエスコートして差し上げろ。先にアジトに戻れ!」


「え? あ。あのスイートルームの」


「そう! あのホテルのスイートルーム! ドでかいシャンデリアがある、タダで泊まれるあのホテル!」


「か、かしこまりました」


「それじゃあ。後でね!」


「ちょっと!」

 爽やかフェイスを作り、逃げるようにその場を後にした。


 俺は香乃を連れて物陰に隠れる。

 ヒソヒソ話をするように。

「で? なんだよ?」


「いいか。よく聞くんだ…………君は少しだけ休め。これからは戦闘したらすぐにだ」

 

「なんだよ。そんな事か」


「……そんな事か、じゃないんだよ。私が休まないといけないと判断した。だから休め。いいな?」


「状況によるな。今はピンピンしてるし」


「ダメだ」


「なんだよ藪から棒に……それにしても千秋の奴、遅いな。そろそろ探しに行くか」

 アイツが遅いのだ。

 陽動役に任命したが何かあったのか?


「おい。真剣に聞け」

 

 俺は屈伸し始める。

「聞いてるって。休むんだろ。千秋を回収したら今日は休むよ。大丈夫だって。まだ元気100倍って感じだし。その話はまた後でな」


「おい!」


 俺は閃光の如く香乃を置き去りにした。


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


 ―――時は少し遡る―――

 

 彩羽千秋は天内が認めるほどの逸材である。

 彼に接敵するほどの実力者。

 故に、彼にとって戦闘という面だけを見れば信頼度は非常に高い。

 陽動役に任命したのも天内の信頼の裏返しとも言える。


 そんな彩羽千秋は現在、満身創痍であった。

 

「お前。魔獣使いだったのか……ッフ!」

 千秋は咳込むと吐血し項垂れた。 

  

 空中を旋回する異形。

 

 異形の姿形は人の世では有り得ざるモノであった。


 人間の女性の顔。

 ムカデのような、芋虫のような細長な(おぞ)ましい身体。

 腹部は節足動物のように複数の手足が生えており、よく見ると全て人の手足だ。

 それらが連なり甲殻類のような腹部になっており不快感を覚える。


 地球上では生まれえぬ異形を使役する者は疑問を口にした。


「魔獣?」


「圧」

 重力魔法が発動した。

 異形は千秋の放つ重力魔法により地面に叩きつけられると藻掻き苦しむ。


 担い手はその光景を見ても特段焦る様子はなく。


「それで終わりか?」


「!?」

 いつの間にか背後に近づいていた巨大な蜂に驚愕する。

 

「急がねば木っ端微塵だぞ。その蜂は起爆する」


 彼女の目の前で閃光が瞬いた。

 

 鼓膜が破れた。

 三半規管が麻痺していた。


「目がチカチカする」

 

 攻守と撤退を行うが。

 徐々に退路を封じられていく。

 逃げ道が無くなっていく。

 撤退は不可能。


 荒く呼吸する吐息は白くなる。

 大地は凍りつき、氷弾により目に映る建造物は崩壊し始めている。

 状況は今までの戦闘の激しさ表している。


 彼女は追い詰められていた。

 幻影であった南朋とイノリは千秋により倒され影になり溶け込んだ。

 彼女を追い詰めたのはこの世界の幻影ではない。

 

 この世界を仕組んだ者。

 彼は口を開いた。


「どのように精神支配から逃れたのか。甚だ疑問ではある。拘束し次第吐いて貰おう。他に仲間が居るのか? 雇い主は誰なのか? 拷問は得意なんだ」


「死んでも吐かないけどね……それに随分物騒な事を言うじゃないか。特A級観察対象」


 サンバーストにて危険視されていた男。

 マホロに巣食う怪人。

 証拠は出揃わず、枢機卿である男は闇と繋がりがあると囁かれていた。


「そら。逃げろ。逃げろ」


 毒壺の中からは異形が顕現していく。

 彼女は目の前の男の何でもないような視線に薄気味悪さを感じ取った。


(殺し慣れているな。それに……この偽りの世界。痛みは本物だ)

 

 彼女は自身の左腕に視線を落とす。

 左腕が青黒く変色していた。

 先程関節を無理矢理捻じ曲げられたのだ。

 額からは血が滴ってきた。

 

「ここで勝負を決める! 氷剣(ひけん)


 千秋は氷の剣を空間に生成し、重力魔法で後方の空間に固定した。


(アイツの技の丸パクリだけど)


 それは天内の使う武器弾幕(エクストラバレット)を模倣した新技。

 以前のように単なる氷礫(ひょうれき)を弾丸のように飛ばすのではなく、込める弾丸そのものの精度と殺傷力を向上させたモノ。

 

 秘剣であり氷剣である。


 氷で出来た(つるぎ)の彫像は目の前の倒すべき敵に照準を合わせる。


「ほう。なかなかどうして面白い芸当をする。

 ……どうやら加減も出来そうにないか。

 出来れば半殺しに留めて情報を吐き出させたいが。

 殺してしまったらすまない」

 

 慇懃無礼な会釈をする。


「へぇ……やれるもんならやってみろよ」


 千秋は渇いた唇を舐めると、氷の刃を一斉清掃した。


 


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