流星の命数
何かを成し遂げた者はそれに見合う報酬が必ず与えられる。
生前なのか死後なのか。
この星の『繋ぐ』意志によって決められた摂理。
1度目は彼を召喚する為に消費した。
2度目は終末の騎士に敗れた。
3度目は毒を盛られて倒れた。
4度目は魔人により殺された。
5度目はダンジョンにて命を落とした。
6度目は仲間により焼き殺された。
この時代に辿り着く為に1度刻印を消費した。
星の刻印は残り6つ。
残機6。
死者を弔うかのように。
この世界の命運を分かつ存在。
彼が死ぬ度に流れ星が降り注ぐ。
星の祈りが叶うのは残り6回。
それまでに決着をつけねばならない。
失敗は何度も繰り返した。
この時まで矛盾を生まぬ為。
今までは世界の抑止により直接介入する事は出来なかった。
どこかのタイミングで辻褄が合うと。そう信じ待ち続けた。
そして遂に彼は合流した。
極光の騎士……いいや違う。
世界に散らばる綺羅星を束ねる流星の騎士。
彼は既に死に体だ。
故に私が出張ってきた。
今度は私が……いいや。
それは驕りだな。
私の時代の人の想いが。
彼を手助ける為に私を遣わした。
彼が繋いだ未来。
そこから生まれ出た願いと希望が、彼を全力で手助けしている。
これは私の持つ力などではない。
私は、私を通して彼に奇跡の命数を伝える役割を与えられた存在でしかない。
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この夢の世界。
現実の戦闘力をトレースした強キャラが敵に回っている。
偽者の幻影。影法師達。
さて。ここで一つ戦闘力というバロメーターを概算してみようか。
俺の元居た世界は、核保有率とか軍艦、戦闘機の保有台数である程度の軍事力を示していたが。
メガシュバにも同じような設定がある。
設定では、騎士や魔術師の戦闘力の保有率で示されている。
設定の基準はこうだ。
戦術級が戦闘機1機と同等。
単騎で農村や街を壊滅させられる者。
戦略級が軍艦もしくは複数の戦闘機と同等。
単騎で都市を壊滅可能な者。
災害級が戦略核兵器と同等である。
国を堕としかねない脅威。
これは終末が該当している。
ちなみにプレイアブルキャラとしては戦略級までが限界値だ。
この世界では、これら戦闘力を保有する人物の数イコールその国の軍事力でもある。
戦略級となればこの世界でも多くはない。
俺の経験と予測からではあるが、俺の偽者。
こいつの戦闘力は夏イベのチート抜きにしても戦術級上位から戦略級下位はあると想定される。どういう理屈かわからないが、高速移動を習得しているし、偽神速斬も体得している。基礎能力もそのままトレースされており、多種多様な魔術に武器の切り替えも行える。
さらには武器術の技量においては俺より上ときた。
武器弾幕は使えないようだが、任意で自在に動くミサイルのような戦闘力を誇っていると推測していい。
対処できるのは高速で動ける俺。
もしくは俺に対して相性のいい封じ手を持つ千秋。
パラメーターが恐らく最高クラスの香乃。
この三人に限られる。
俺の偽者だけでも1人は確実に人員を割かねばならない。
残りのメンバーで、偽者勢を相手にしなければならない。
偽マリアや偽千秋。
さらに偽風音や偽南朋。
そしてカッコウっぽい奴や翡翠っぽい奴も居た。
さらにここにヴァニラや小町。
まだ見ぬ脅威を加えれば攻略は容易ではない。
数的有利は一切ないだろう。
何より、この世界の全てが敵に回っているという解釈で間違いない。
悠長にしている暇はないが、考えなしに動くのは命取りになりかねない。
故に、俺達はまず本拠地を作り、そこで休息という名目で時間を作る事にした。
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/3人称視点/
(正攻法1対1だと勝敗の行方がわからない。手札の数は相手の方が多い。ならば……)
「ふ~む。黒幕が眼鏡を輝かせている頃合いか」
天内は夕闇に染まる街を見下ろし黄昏ながら、そんな事を呟いた。
実際に夢魔界の守り手達は現在会議を行っているのだからタチが悪い。
この男、あまりにもメタを行き過ぎるのだ。
「何を言ってるんだ君は?」
香乃は天内の自室にて、質問を投げかける。
「そのままの意味さ。敵さん。奴らはきっと無意味な会議をしているに違いないって事」
「はぁ? なにを根拠に?」
「そういう決まりなのだ。
どこの時代、どのような世界に行こうとな。
俺もカッコウも敵さんに認知されている。
そこそこの戦力を差し向けたにも関わらず排除は成功しなかった。
となれば、円卓会議を始めている。
一体何者なんだ!? ってな。
そしてこうするのだ。まだ本気を出していないムーヴ」
天内はほくそ笑みながら、思考を加速させる。
(どんな世界でもありがちなムーヴを起こすのだ。
実際に本気は出していないのだろう。
で、あれば、それを予期してさらにマウントを取るのが俺。
対策札を用意してくるのであれば。
こちらは妨害札と解決札を用意するだけ。
妨害&解決、盤面捲り札を用意するのがゲーマー。裏の裏を読むのではない。そのような高尚な事は出来ない。相手の持つ手札を先読みし、それにぶっ刺さる捲り札を用意しておけばいい。
結果、相手は死ぬ)
「まず、どこの世界線でも偉そうな奴は会議に時間を割く。
意思疎通、情報共有という名目でな。
そして自分の事は有能であると勘違いをする。
ダメな経営者にありがちな思考回路。
実際は意味のない遅延行為。
いや、少々意味はあるのだろう。
だが、相手が悪い。この俺だからだ。
先行ワンキルを取る事に失敗している時点で、勝機は十分にある」
フフフと、何の解決策も見いだせていないにも関わらず、有能風無能ムーヴを得意とする男。
それが天内。
これまで彼の得意とする戦術は相手が動く前に原因を排除する戦術。
ストーリーを知っているが故に出来るメタ要素を活用した0ターンキル。
さながら試合開始前に、トイレに籠り用を足すプレイヤーを暗殺しているようなものである。
姑息であり卑怯でありながら最も効果的な戦術。
それが彼をこの世界最強格の一角にのし上げている要因の一つだ。
「ミルクはここか。温めるぞ」
香乃は聞いてるのか、聞いてないのかわからない様子で勝手に冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、中身をカップに注いだ。
「奴らは今、腹の探り合いをしている。
そしてこうなる。勝手に動く脳筋が現れるのだ。
こいつは自身の実力を過大評価している」
実際に、そのように展開されているのだからタチが悪い。
天内はストーリーが読み解けないならば、どうすればいいかという思考に方向転換した。
どのような動きを敵サイドがするのか、推測を立てたのだ。
その解決策は脳内にあった。
数多のフィクションでありがちな展開を予測する。
プレイヤーに許されたメタ戦術。
「そろそろ動く頃合いだ。1人で動く馬鹿が。
そんな奴の裏で、ナンバー2的な奴がほくそ笑んでいる。
そしてなぜか脳筋を助けない。ここまでお決まり」
未来視を超えた未来予測。
未来予知ではない。
彼に未来を見通す事は出来ない。
真に迫った未来を推測する事。
それが彼に許された特権の一つ。
「敵は一枚岩でない可能性もある。微妙な仲間割れをしていたりもするし。
協調性のないフードを被った無言の奴とかがなぜか幹部に居たりもする。
これもお約束。
現状後手に回っているのならば、後手特有の戦術に移行する」
香乃は口に付けたカップを離すと。
「何か策があるのか?」
「後手戦術の基本。
まず、前提条件として情報戦では五分もしくは不利と仮定した場合。
虚偽の情報を掴ませ、罠ビートに持ち込む。
これが手っ取り早い」
「は、はぁ……」
「まず初めに動くのは脳筋かな? 近接戦最強とか、そういう立ち位置の奴だろう。まずこいつを罠にかける。なに、罠といっても簡単だ。特別治安維持局……このビルを爆破する」
「え、えぇ。やってる事が不穏分子のそれだなぁ。大丈夫なのか? 適当に喋ってないか?」
「無論だ。既に盤面は半分見通してる。詰みのルートを探している段階だからな」
香乃はこの男が悪漢のような顔をして自信満々に語る姿を何度も見てきた。
冗談に聞こえる適当な事を言っては、大胆に、本当に、行動に移してしまう。
かつて、裏切り者を炙り出す為に、仲間の城を壊し火を放った放火魔もこいつだった。
結果、王の暗殺と反乱は未然に防がれた訳だが……
最善を手繰り寄せる嗅覚はこの世界随一。
「で? なんだっけビルを壊すのか?」
「そう。全ての支柱に爆弾を仕掛ければ倒壊は容易。
これは前菜。崩れゆくビルの中で戦闘に持ち込む。
ここで数名敗北したフリをする。
故にここで必要なのは演技力と撤退する札を用意しておくことになる。
さらに最低限の実力も必要。
カッコウと香乃が戦闘員としては適任だろう。
ここのポイントは勝てても勝たない勝負をする事。
心の隙間に油断とスキ、僅かな死角を生ませる。
心に出来た死角を隠れ蓑に攻勢を反転させ主導権を握り返す。
敵のリソースが枯れるまでな」
(俺は後手に回るゲームが嫌いなのだ。先行ワンキル。なんならゼロターンキルで仕留めるのが最良)
「俺とマリアで爆破処理を行うとしよう。
千秋は後続の捲り札といった配置になるかな?」
「英雄と皆から呼ばれた男の戦術とは思えんがな」
「俺は英雄ではない。あれは極光がそう呼ばれているだけ。
それにだ。勝てるのならば全て正攻法へ転じる。
少ない人員を活用し、罠に嵌めるにはこれしかない。
盤面を整理し情報を炙り出し、虚偽の情報を掴ませた後、
本体のコアを探し出し叩く。本命はこちらだからな。
故にこの作戦が一番重要な山場と言っていいだろう」
「騎士道に反する考え方だな」
「騎士道? よくわからんな。俺はビジネスマン。
クズ株を買わせ利益を収受する為なら一家離散に追い込む事も仕方のない事なのかもしれない。人質を取る事も考えたが、この世界の人間にそれは通用しないだろうしな」
クツクツと悪い顔をする自称ビジネスマン天内は数多の外道ビートを考えていた。
「悪い顔してるなぁ」