祖父の母親の妹の旦那の従妹の父親のはとこの三番目の再婚相手の父親の隣の家に住む又従兄弟が飼ってる犬小屋を作った職人の子
「どうも、天内香乃です」
「傑くんって天涯孤独じゃ」
「そんな訳ないじゃん。なぁケイ」
「ですね。天内くんの親戚で間違いないかと」
カッコウの奴も話を合わせた。
俺はこの世界の家族構成を知らん。
戸籍謄本でも取り寄せればある程度わかるのかもしれんが。
そもそも居たとしてもって感じだ。
俺には借金がありすぎる。
きっと関わり合いになりたくないだろう。
俺としても連帯保証人ぐらいの使い道ぐらいしか思い浮かばん。
手形を寄越せ。今すぐ。ウェルカム借金生活! って口走ると思う。
「親戚ぐらい居る……よ?」
「なんで疑問形なんだよ」
「天内さんの……え? ご親戚?」
「ソダヨ」
「顔全然似てないじゃん!?」
うん。全然似てない。そもそも人種すら違う。
骨格どころか顔の造詣で似てる部分が一ミリもない。
だって赤の他人だもん。
「似てるよ。ほら眼が2つあって、鼻の穴が2つ。口が1つで耳が2つ……なぁ?」
「ホントそっくりですよね。瓜二つってぐらいに」
カッコウも苦し紛れに同調した。
「いや、それは似てるって言わないから!」
「おいおい千秋よ。勘弁してくれよ。難癖つけるの。クレーマー問題は昨今の社会問題なんだぞ。モンペって言葉知ってか?」
「な!? 適当な事言いやがって! 君こそクレーマーの素質があるくせに!」
「私は間違いなくコイツ。愚弟の親戚だ。なぁ我が弟?」
香乃の奴もとりあえず口裏を合わせてくれている。
面倒な事になるからだろう。
しかし、弟設定できたか……
変なとこでマウントを取ろうとしてくるな。
「それで天内さん。香乃さんとは、どういう間柄になるんです。親戚なんですよね? ご両親のご兄弟とかの関係?」
「傑くん家の両親の血縁は殆ど亡くなってるはず! 関係が続いてるなんてそんな情報は」
余計な茶々を入れるんじゃないよ。知らねぇんだよ。
「あー。あれだよ。祖父の母親の妹の旦那の従妹の父親のはとこの三番目の再婚相手の父親の隣の家に住む又従兄弟が飼ってる犬小屋を作った職人の子」
俺はめっちゃ早口で適当な事を言った。
俺も何を口走ってるのかわからない。
とりあえず思い付いた単語を繋げただけだから。
「んんん?」
「全然関係ないとこに行きませんでした? 隣の家の? ん? なんでしたっけ?」
「はぁ~。もう言わないよ。さ。行こ。うん行こ」
言えないからね。
「おい! 香乃。お前ちょっとこっちに来い。家族会議をする! あとケイも!」
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/3人称視点/
マリアと千秋はヒソヒソ話をし始めた3人を訝しんでいた。
「なんか……ぱっと出の人が突然現れたんですけど」
「絶対嘘じゃん。なんだよ親戚って。適当な嘘こきやがって」
「あ、ケイさんがとんでもなく驚いてますね。何を話してるんでしょう」
「談合だよ談合。怪しいんだよあの三人」
「ケイさんがあたふたして、香乃さんがほくそ笑んでます。天内さんはまるでアメリクス人みたいに大袈裟に身振り手振りで何やら話していますね」
「演劇プランの打ち合わせだろどうせ。馬鹿なんだよアイツ。あとアメリクス人をコメディアンみたいに言うの止めて」
「おや。ケイさんが頭を抱え始めました」
「無茶ぶりされて困ってるんだろう。
あの2人。この怪しい世界で平然としてるんだよ。
どう考えてもアイツの手先じゃん。
アイツの知り合いは胡散臭い奴が多いんだよ。
ニクブくんもガリノくんも碌でもない奴だし」
「ケイさんはお話の分かる方ですが……まぁ概ね同感ですね。どうやら戻って来るみたいです」
「やぁ。では作戦を開始しようか!」
天内は額に汗を輝かせながら爽やかな笑みを浮かべていた。
「話が強引に進もうとしているぞ!」
あまりの強引な話の持って行き方にツッコみを入れざるをない千秋。
「千秋よ。お前の改善すべき所は話の腰を折る事だ。事態は切迫してるんだよ」
やれやれと子供が駄々をこねるのを呆れた様子で見るように肩をすくめた。
「ボクがまともじゃないみたいな言い方だ!?」
「全くその通りかと。彩羽さん。事態は緊急を要するんですよ」
カッコウは頷きながら苦しそうな顔をしていた。
「彩羽さん。あまり人の家の家族構成を根掘り葉掘り訊くのもどうかと思うんだ」
香乃も同調した。
カッコウも香乃も天内の話に同調し、話を流そうとし始める。
「ケイは見つけた。次はモリドールさんと小町だな。収穫はどうでしたマリアさん?」
「あ、もう無理矢理進むんだ。もういいや……」
「え!?」
マリアは奇妙な連携を見せる不審人物3人の視線に狼狽した。
「あ、そうでした。えっと……収穫はなしです。面目ないです」
「……そうですか」
(ふむ。難航しているか。
この都市しか領域がないとはいえ、広大なこの地から特定の人物を探し出すのは困難を極める。で、あるならば。探し出すのは後回しにし……)
天内はトウキョウの中心に鎮座する巨大なビルの輪郭を見つめた。
(元凶と思しき場所を先に叩くのが手っ取り早いか……
あまり賢い策とは言えんな。
基本的に未知に挑む前の情報収集は欠かさない。
今回は未知の情報が多すぎる。
不確定な条件下では、不足の事態を踏まえ余力と切り札を残し万事に当たるべきだ。
今の俺は切り札であるブラックナイトは呼び出せない。
しかし、余力という点では、あるにはある。
俺には光剣があるから。
コマンドを叩き、大抵の武器をこの世界に持ち込んでいる。
しかしだ。万全とは言えない。
敵にこちらの手札を早々に見せるのは危険だ。
切り札はここぞというタイミングで切らねば対策されかねん。
ゲーマーなら当然の思考。
光剣は最後まで取っておく必要があるだろう。
相手がプレイヤーと同じ思考を持ったメタ戦略を取れる存在ならば詰まされる可能性がある。
ヴァニラは黒幕筆頭であるが、首魁だと断定できない。
ヴァニラのみではこの状況を作るのは無理がある。という事は加担している者が居る。
マニアクスが有力だが……黒幕が不明。
ここが一番厄介だな)
天内は口を開いた。
「まず、強制的にこの世界に囚われた者をログアウトさせたい。この世界を維持している炉心のようなものがあるはずだ。それを壊せばいいと思われる。所詮、下級マジックアイテム。維持に必要な魔力を供給貯蔵する核。これを叩く」
「同じ結論だな」
香乃は頷いた。
「僕もそうは思っています。在り処の候補は……」
2人の視線の先。
彼らの瞳は現実にはない大きなビルの姿を捉えていた。
「だろうな」
香乃とカッコウは同じ意見のようだ。
トウキョウの中心に鎮座する特別治安維持局。
本来のヒノモトにはない組織。
「それは候補の一つだろうな」
天内は待ったをかけた。
「どういうことだい?」
「俺がこの世界のホストならばわかりやすい場所に核は隠さない。俺が魔王なら魔王城に誘拐した姫を隠さないからだ。勇者が冒険に出たタイミングで始まりの村、近郊の洞窟に隠したりする。どう思う?」
というメタ発言。
あとはぶん投げてみる。
天才の叡智に頼る為だ。
「……そう言われればそうですが」
カッコウは顎に手を置き、思案し始めた。
(しめしめ。さぁ。頼むぞ。天才カッコウ。
お前の叡智を頼りにしているのだ。
時代の寵児、天才ビジネスマンカッコウの事だ。
真に迫った答えを導ていてくれるに違いない。
あとはダメ押しだ。もっと適当な事を言ってみるぞ!)
「この夢の世界は現実とは異なる点がある。わかりやすい点で、貨幣経済が成り立っていなかったりするが、現実に則した面もある」
天内は足元の地面を踏んだ。
「重力がある。次に」
街灯を指差した。
「電気ですか?」
マリアは首を傾げた。
「言わんとしてる事がわかりました。流石ですね」
カッコウは感心していた。
(お前こそ流石だ。我が盟友であり親友カッコウくん。お前の叡智を試していた甲斐があった。さぁ俺にわかりやすく教えてくれ)
天内は思わせぶりな態度を取り、カッコウの叡智を引き出させたのだ。
「では、ケイくん。俺の意見をみんなに共有してくれないか?」
「わかりました。まず天内くんの語るコアというモノ。名称はあくまで仮ではありますが。真実の鏡のオリジナルとしましょう。このオリジナルが動力源になっている仮説。恐らくその可能性は高いと思われます。このオリジナルを破壊もしくは解除する事でこの世界は崩壊すると思われます。それでいいんですよね?」
「ふむ。その通り」
(まぁ。それは俺の推測通り。それで?)
「そう考えるのは普通ですね。それはどこにあるんですの?」
マリアは質問を投げかけた。
「そうですね。場所に関して有力なのは、治安維持局なる未知の組織が統制する本拠地にある可能性もありますが。先程天内くんの指摘があった通り、わかりやすい場所に隠すほど黒幕も愚かでもないでしょう」
「なら、どこにあるのさ?」
千秋は胡散臭そうな顔をしていた。
「この世界は変化した部分も多いが、現実に則した面もある。先程天内くんの指摘。それで納得した事があるんです」
「え? そうなんですか?」
マリアは驚いた顔をして天内を見上げた。
「教えてあげなさい」
涼しい顔を無理矢理作り、そっぽを向く。
「かしこまりました。結論から述べると『唯一変化していない場所』。そこに核が隠されている可能性がある。盲点ではなく、必然とそうなる可能性があるんです」
(そうなのか!?)
千秋は挙手し異議を唱える。
「なんでそうなるのさ? 逆じゃないの?」
(そうだそうだ!)
「いいえ。そこが盲点なんです。莫大なリソースを払ってこの精神世界は構成されています。この世界にある電力、重力、風の騒めきを再現する為に。核足る部分には、それを支払う余力がない可能性があるんです。いいや。もしかしたらそもそも出来ないのかもしれない。人体で例えるならば、心臓や脳に当たる核。ここは恐らく変化できない。この領域で唯一変化が難しい場所になる。どれだけ衣服を華やかに着飾ろうが、心臓部を改造する事はできない。改造すれば崩壊するから。それにこの精神世界は人の心が具現したモノだから。ですよね?」
「あ、ああ。概ねそうだな」
(という事らしいですよ)
「人の心が介在しない場所。最も原風景に近い場所。そこに核がある可能性がある。天内くんはそう言いたいんです。あくまで推測ですが、そこを探してみるのも手という訳ですよね?」
「その通り」
「そういう事だったんですね。そこまで考えられるとは、流石ですね。天内さん!」
「ハハハ」
「あのさぁ。最後に一つ疑問いい?」
千秋は先程の内容に不承不承納得したのか、さらなる質問をした。
「なんだ?」
「あのさ。ずっと気になってるんだけど。どうして君らもこの世界で普通なの? まぁボクらは傑くんの謎技で自我を保ててるけど、君らは先行してここに来てるんだよね?」
千秋はカッコウと香乃を見つめる。
「それは俺も聞きたい。お前らは普通で、他の人は気付いていない。それはなんでだ?」
「天内くん達も同じかわからないんですが」
「うむ」
「僕はこの世界に初めて来た際に霧に包まれた廃墟の街に囚われました。
あくまで仮説ですが。
この世界で自我を保てる者は初めにあそこに召喚されると思われます。
あの廃墟の世界で敗北した場合、完全に精神を支配され、この夢の世界で順応すると推測を立てています」
「それは初耳だな」
「言ってませんでしたね。この夢の世界。僕や香乃さんも含め、もう一人自我を保っている者が居るんですよ。その方の推測でしかないんですが」
「そうなのか!?」
「ええ。皆さんも知っている方です。彼はしばらく見ないですが、いずれ遭えるでしょう。彼が語るには、初めの精神支配に対抗した者は悪夢の世界に誘われる。そこを攻略し踏破した者だけが、この世界で自我を保てる……という推測を立ててました」
「そうか……」
(一体誰だ。もう一人助っ人が居る?)