真実の鏡
マジックアイテム『真実の鏡』。
ゲームメガシュヴァでは、イベント配布アイテム。
特性は真実の鏡内の仮想空間でテストプレイを主としている。
まず、ゲームメガシュヴァは非常に難易度が高い。
初見殺しが多すぎる。
つまりノーコンティニューでクリアする事がほぼ不可能な理不尽ゲーである。
鬼畜難易度の性質を持っているこのゲーム。
ユーザーからの苦情が余りにも多く寄せられた。
そんな難易度のゲームには練習台と言う名の叩き台が、初期に存在してなかったのだ。
仮想敵との模擬戦闘。
ユーザーの要望により、ゲーム中期に実装された。
初見殺しの回避を目的に作られたパッチファイル。
それが『真実の鏡』と言う名のマジックアイテム。
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マホロに向かう車内であった。
翡翠が語るこの世界の近況。
ガリアは偽魔人薬を量産し軍備拡大をしている。
魔人薬を投与予定の奴隷軍隊。
本来グリーンウッドからの人身売買要員がその役目を担っていたが、取引が中断した事により戦争の気配は息を潜めたらしい。
しかし、武器商人としての性質が強いアトランティスはガリアを含めた周辺枢軸国家に兵器を供給しているとの事。
「ふむ。わかった……壬とグリーンウッドとの取引は俺がぶっ潰したので、盤面はマニアクスの思い通りに動いてないはずだ」
予断は許さないが、ある程度盤面のコントロールは上手く行ってるはず。
「なるほど。やはりある程度推測を立てた上で行動されてましたか」
「まぁね」
知ってるだけだけどな。
「流石です。戦争が起きてしまえばその時点で我々の敗北を意味しますものね」
「その通りだ。戦争は回避する。戦争が勃発すれば、その時点でゲームオーバーだ。仮に我々が生き残っても意味はない。起きる前に潰す。その為に我々は人事を尽くす必要がある」
「ですね」
「うむ。で? 次にその傷はどうした?」
「これですか……これはアトランティスで……」
翡翠は眼帯を取ると。
呪痕が付けられていた。
「異常治癒ができませんでした。これを付けられた時点で撤退をしました」
翡翠の片目が大きく腫れ上がり、白眼の部分が真っ黒。
黒眼の部分は真っ赤になっていた。
「解呪方法はある。後でなんとかしよう……で、どうしてそんな事になったんだ?」
「それはですね、」
翡翠が語るには潜入調査を行う過程で民兵と衝突。
その際、負傷し呪い施されたとの事。
負傷した箇所に付いた腫れ物のような状態異常らしい。
それは狂乱者の精神汚染……
人を狂化させる呪い。
翡翠に装備させたケハエールで進行速度を鈍化させているが、完全に解呪出来ていない。
早急に解呪する必要があるな。
「アトランティスで顕現していたのか」
静かに呟くと、目を細め思考した。
狂乱者は現在、大西洋近郊に浮かぶ軍事大国である海洋国家に潜伏している可能性があった。
「……いや、看過できないが、まだダメだな」
アンタッチャブルすぎる案件。
俺は少し考え込む。
超軍事大国:海洋国家アトランティス。
それは1騎のマニアクスの根城。
CORの1人。マニアクス『武装錬金:幻魔リリス』が支配している。
奴は錬金術を得意としている魔人。
装備・武具・マジックアイテムの製作、模倣、鋳造、錬金を行いユニークすらも劣化模倣してみせる。武器メタの戦法を取って来る怪物。
中々に厄介な奴だ。
そしてアトランティスを軍事国家に推し進め、各国に武器商人を派遣する魔人でもある。
厄災の芽。
戦争に供給される武器を断つ為にコイツを落とすのは規定事項。
次に叩き切る相手として予定していた。
しかし、狂乱者が既に居るならばプラン修正が必要になってくる。
アトランティスでの暗殺は困難かもしれない。
「ここはまぁ少しプランを練り直す。それまで勝手に動くなよ」
「承知。最後にトウキョウの様子。これが今現在の様子です」
翡翠は資料を取り出し、俺に手渡してきた。
資料には俺が居ぬ間に起こった事件が簡潔に記されている。
人口1千万人超の巨大都市トウキョウ。
ある日、数多く報告される集団昏睡事件が発生。
突如昏睡した者が運ばれ病床を極めて多く圧迫した。
病床使用率は既に100パーを超え、自宅にて介護されている者も多いらしい。
この事情に対し、政府としては対処が困難との事。
「ただ眠っているだけなんです。身体のどこにも異常は見つかっていない。
目を覚まさなくなる。ただそれだけ。
不思議な怪事件がヒノモトで引き起こっています。
トウキョウから広がったそれは今やヒノモト各地で散見されます。
現時点でも麻痺していますが、このままのペースで行くと救命機関は近い将来機能しなくなります」
翡翠は言い淀んだ。
一体なんのイベントだ?
そんなイベントメガシュヴァにあったか?
思い浮かばない。
知らないのだ。
「さっき侵略されていると言ったが、目星は付いてるんだよな?」
翡翠は頷くと。
「ええ。恐らくこのマジックアイテムが元凶かと」
翡翠は布でグルグル巻きにされた小包を取り出した。
なんだこれは?
「開けても?」
「気を付けて下さい。魅了の暗示が施されています。起動が確認されれば、すぐに割らなくてはいけないようです」
割る?
「なら、大丈夫だ」
俺に精神支配は効かない。
恐る恐る小包を開けると。
俺の顔が目の前に映った。
「……真実の鏡だと」
予想外の品物であった。
「その手鏡を所持している者。それが昏睡事件に巻き込まれた者の共通点。既に販売・流通ルートは押抑え込んでいます。しかし、私達は既に後手に回ってしまっています」
後手に回る。
この世界で俺より先に先手を打ってくる。
先手を打たれてしまっている。
もう事象が引き起こってしまっている。
嫌な気分がした。
神の視座を超える事象。
「誰が流している? いや、どこで作られている?」
「実に巧妙に隠蔽されていましたが……恐らくアトランティス。錬金術を得意とするアトランティスが鋳造しているようです」
「リリス。ここで関与してくるか」
やはりマニアクス。
早々に切り刻まねばならんようだな。
「しかし……」
翡翠は思案顔になると。
ここで今まで沈黙を貫いていた雲雀が話に割って入ってきた。
「製造元はアトランティス。これは多分そう。いや、間違いない。でもなのよ。問題が1つ、いや2つほどあるんだよ」
「その問題とは?」
「まず、一点目。流通するには品物を売り場に置いても消費者が手に取るかわからないよね?」
「そりゃそうだ。それで?」
何が言いたい?
「つまりはね。宣伝した者が居る。広告塔としてそれを頒布させる為に、声高らかに広告塔になった者が居るの。このヒノモトに」
「……」
ビジネスから考えれば妥当だが。
だからなんだ?
「そうなのです。そろそろ見えてきますよ」
翡翠が車外に視線を移した。
俺も同じく翡翠と同じ方角に目をやった。
「あれは……」
俺は言葉を失った。
手鏡を手にウインクをする美少女が看板にでかでかと描かれている。
よく知っている。
ゲームメガシュヴァであまりにも有名人であり強キャラの1人。
「嘘だろ。アイツが」
雲雀は続けた。
「そう……この手鏡の広告塔。それはマホロ生徒会」
「生徒会長ヴァニラ・ユーフォリアなのか?」
俺は今起きている事態に整理が追い付かなかった。