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特別監察対象:広域指定連合団体『天道会』


 俺はヒノモトに戻って来た訳。

 体感時間何年ぶりだよって話。

 まぁ……うん。色々あった。ありすぎた。


「頭がおかしくなりそうだ」


 整理しよう。少し時差ボケしているのだ。


 まず、俺はマホロを退学になった。

 次にヘッジメイズに編入する事になり。

 夏イベを消化しベイバロンを討伐。

 なんやかんやあり、最優秀生であった俺は留学生としてマホロに帰還する事になる。

 航路で戻ってる途中にダクト内で過去に行きボス2騎討伐。

 戻ってきたらヨーチューバーデビューを果たした。

 

 ここまでが俺の記憶する時系列。


 同時並行して風音達はループする夏を消化し、お色気イベも消化している。

 とんでもないスピードでボス戦を消化している。

 冬前にかなりの数の敵を攻略した事になる。


 ここまでの道中で俺は多くの事を失念していた。

 まず、俺はマリアの恋人設定になっている。

 さらに千秋の婚約者という設定にもなっている。

 本案件に関しては俺選弁護人、自称弟子小町に相談する必要がある。



 機内であった。

 ヒノモトからオノゴロに向かってフライトしていた。

 千秋とマリアの奴が左右に座っておられる。

 ギスギスしてるのだ。

 原因は俺なのかもしれない。

 俺が悪いのか? 悪くないよな?


「そろそろ着くみたいですね。あら、天内さんのお口が汚れてますわ」

 マリアがナプキンで俺の口元を拭いてくれた。

 

「イインジャナイ?」

 感情の起伏がない声音で返答した。

 俺は目の焦点を合わせず、感情の無くなった人間の演技をしている。


「トイレだね。早く行こう」

 と淡白に千秋が俺の手を取ると立ち上がった。


「イインジャナイ?」


「天内さんはトイレに行きたくないと仰ってますわ!」


「いいや。このイインジャナイは行きたいって意味だから!」


「もっとマリアと喋りたいと仰ってます!」


 千秋とマリアの問答は客室乗務員(CA)に注意されると二人とも大人しくなった。


 千秋が小声で。

「傑くん。なんか無口になったね」


「天内さん。何度も何度も申し訳ございません。今後の私との逢瀬の話なんですけど」


「逢瀬……また、そんな意味不明な事を。困ってるじゃないか。可哀そうだろ!」


「少し黙っていてください。周りの方に迷惑ですわ」


「まぁ……イインジャナイ?」


 俺の発明した否定でも肯定でもない押し文句。

 疑問形の『いいんじゃない』。

 しかもカタコト版。

 とりあえず、俺はこの一言で2人の言動を受け流しているのだ。

 なんの意味もない言葉の羅列。

 これが俺の切り札だ。

 頭の悪い俺は意味のない言葉を吐く首振り人形になるしかないのだ。

 

「とりあえずマリアの件は置いといて。また近々両親が来るんだ。一緒にご飯行くよね?」


「千秋さんもいい加減にしていただけません? 天内さんが苦渋の顔をしています。貴方の勝手な妄想を押し付けるのを迷惑だとお思いになりませんの?」


「マリアには関係ないだろ! マリアも少し静かにしなよ!」


「まぁ…………イインジャナイ?」

 

「「どっちなんですの」だよ!?」


 2人が俺に詰め寄っていた。

 助けてくれ。

 

「い、い、い、い、イインジャナイ????」


 下手な言葉。一言で詰む可能性がある。

 沈黙と『イインジャナイ?』で乗り切れ俺。

 もうさっきからお腹が痛くて仕方がない。

 胃がキリキリする。冷や汗が止まらない。

 自律神経がご臨終なされた。


 俺は飛び道具、CA呼び出しのコールボタンを連打した。

 

 ・

 ・

 ・


 でくの坊のフリをし続けた俺はようやく帰還したのだ。

 オノゴロの地に。

 マホロ行きのバスターミナルにて。


「天内くん。今度みんなでご飯でも」


 風音の野郎がなんか言っている。

 俺は首振り人形。何も思考しないただのイインジャナイ人形。


「イインジャナイ?」


 相も変わらず後ろでは千秋とマリアがグチグチ言い合っていた。

 俺達はマホロ行きのバスを待っているのだ。

 

 すると、黒塗りのセダン車がターミナルの中央に次々と停車していく。

 1台、2台、3台……合計7台まで停まると中から厳つめの男がドアを開けて出てきた。


「なんでしょう。VIPの護衛の方でしょうか?」

 システリッサは両手一杯にたい焼きを抱え、もぐもぐと頬張っていた。


 イノリは無機質な眼で。

「護衛じゃなくて、どう考えても裏社会の人間だけどね」


「二人ともあんまり見ないで。面倒な事になるから。余計な事も言わないで!」

 南朋は目線を外し口を酸っぱくして注意していた。 

「ほら! 2人が変な事言うから。こっち来たじゃん」

 ごにょごにょ口篭る南朋は下を向いた。 

 

 俺達の方向に向かって1人の恰幅の良い男が近づいてきた。

 ギラギラとしたスーツに、顔に大きな縫い目の付いた大男。 

 強面を通り越した男である。

 完全に任侠の人。 


「お勤めご苦労様です!」


 深々と頭を下げていた。誰に?

 視線が俺の方を向いている。


「は? 俺?」


 は? である。

 もう、なにが何やら意味不明だった。


「は?」、「え?」、「んんん?」

 俺の背後から疑問の声が上がった。


「親父の帰りをお待ちしておりました」


 イインジャナイ人形も驚きすぎて感情を取り戻した。

「えっと。俺? ですか?」


 強面の男は頷くと。

「他に誰がおりますか」


「これは一体!? どうなってんの!? 傑くんって本当に何者なんだよ!?」

 千秋の野郎が驚きすぎて硬直していた。


「え? 天内って……そういう家系の人だったり?」

 南朋の奴も目ん玉飛び出すぐらい驚いていた。


「え? え?」

 マリアの奴もオロオロし出している。


「まぁ……い、い……イインジャナイ?」


 よくねーっつうの!

 俺が訊きたいんだよ!

 俺に質問をぶつけるな。

 ウッ……お腹が痛くなってきた。

 滅茶苦茶今ストレスを感じている。


「さ。親父はこちらへ。お連れの方には別の車を手配しております」


 強面の男。

 どう考えてもカタギではない年上の男が俺の事を親父呼ばわりしながら車に案内する。

 

「乗っていいのこれ?」


「おい! 天内。説明しろ!」


「早く乗りましょー!!」


 不審な眼を向ける者、あたふたと驚く者、能天気な奴。

 色んな奴が三者三様色んな事を喚いていた。


「まぁ……いいんじゃない?」

 知らねーけど。

 多分カッコウの差し金だろう。


 ・

 ・

 ・


 俺だけ他のメンバーと離れた車両に乗ると。


「待ってましたよ」


「やっほー」


 随分とやつれた翡翠と雲雀が後部座席にて俺を出迎えた。

 確かこいつらにはガリアとアトランティスに情報収集の為に派遣していたはず。

 いつの間にか戻ってきたようだ。

 カッコウはマホロにて待機しているはず。

 ハイタカとミミズクは俺の手元に置いておいた。

 今、グリーンウッドにて復興支援中だ。

 

「急ぎ、ご報告が」

 眼帯を巻いた翡翠が神妙な面持ちであった。


「ちょっと待って。まずこれは何?」


 首振り人形を辞めた俺は今の状況を質問する。


「天道会の事ですか? それともこの傷の事ですか?」


「え? どっちも」


「では先にお伝えしたい事の方を先に。まずこのヒノモト……侵略されております」


「どういう意味だ?」


「トウキョウの様子はご存じですか?」


「知らん。ハネダから直行でここに来た。トウキョウには立ち寄っていない。一体何があった?」


「では、順を追ってご説明を」


 翡翠は語り出した。

 俺が居ぬ間に起こったこの地での出来事を。

 そしてガリアとアトランティスの動向を。



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