その物語は交錯する
マウスをクリックしページを上から下にスクロールする。
攻略サイトを読んでいた。
初見殺しのベイバロンの攻略を済ませ、ボルカー戦に辿り着いた俺はあっさりゲームオーバーになったのだ。
「単純な力勝負でしか倒せないボルカー。これどうやって勝てばいいんだ?」
4回目のバッドエンドでボルカールートを投げ出した。
攻略ワンポイントアドバイス。
①アーツとスキルによる攻撃なら有効です。
②魔法と物理攻撃ではHPを削れないので止めましょう。
「あー。とりあえず後回しだな、他のルートに行こ……」
俺は悩んでいた。
このゲーム。ゲームメガシュバが難しすぎるのだ。
敵の攻略が難しすぎる。特にボス連中が強すぎる。
終末の騎士戦まで到達すら出来ていなかった。
マニアクス攻略掲示板をクリックすると青文字のリンクが表示された。
―――攻略Wiki―――
魔術ドレイン『ボルカー』。
武装錬金『幻魔リリス』。
メンバー封じ『Г』。
縦横展開の制圧盤面『山本』。
ミラー対面『貧者』。
自爆蘇生のゲキキモ戦術『メサイア』。
タイムラグの『ベイバロン』。
難易度順であった。
「じゃあ、メサイア行っとくか」
レベル上げとスキル取得をしつつ一番下から攻略する事にした。
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鼓動の音がやけに鮮明に聞こえた。
ハッと目を覚ました。
俺は覚醒した。
帰還途中で昔の記憶を少し思い出していたようだ。
ダクトの中に居た。
脇に置いてあった味噌汁がアチアチのままであった。
時間が経過してなかった。
ぼんやりとした視界がはっきりしていく。
「やはり、ここに戻って来るのか……」
両手をグーパーと開き閉じてみる。
「やはり完全回復している。時空間魔法の特性。流石チート様」
殆ど使い物にならなくなったはずの四肢が完全に治癒されているのを確認した。
麻痺、腐敗、猛毒、呪い、全てのバッドステータスがリセットされている。
「ふむ……」
あの世界に降り立った瞬間に"なぜか確信した"。
これは時空間魔法の力だと。
観測したのだ。飛ばされた瞬間に昏き回廊で。
唯一の神の視座を持つ者として"理解"したのだ。
それは俺の特性にも関係があるのかもしれない。
天内という存在は、決して使えぬが時空間魔法の適正があるから。
故に観測できたのかもしれない。
過酷な旅であった。
飯マズ。
風呂汚い。つーか風呂の概念が浸透してない。
辟易する中世ヨーロッパの世界観。
娯楽が野蛮なものしかなかった。
どいつもこいつも夜中に情事を致してる。
一言で言うと。
金! 暴力! セックス!
みたいな世界観だった。
なんか、すげぇ合わなかった。
現代人俺にとって、中々にキチィ世界であった。
シティボーイであり、ITボーイである俺にとってはコンビニとネットのない社会はキチィのだ。
そんなキチィ世界を旅した俺はまたもや滅茶苦茶強化された。
俺の切り札、ブラックナイトも学習能力が高くて人間っぽくなった。
それにだ。
なぜか過去に居たCORの幹部の1人、マニアクス:Гを落とした。狡猾なГの事だ。親殺しのパラドクスでも企んでいたんだろう。過去からの一打による未来改変。どこかのタイミングで過去に飛ぶと予想される。もしかしたら既に飛んでいる可能性すらあった。
「まぁいいや。だって俺が倒しちゃったし」
さらに根絶者も叩き切ってきた。
ぶっちゃけマジと書いて本気を見せてきた。
本気中の本気。この世界の対人戦で披露しえなかった本気を出した。
それでも足りないと思った。
9割削れても、残り1割で巻き返される可能性があった。
盤面を覆される可能性があったのだ。
だが、この世界の人間は侮れなかった。
勇者カノン。
こいつチートすぎぃぃぃ!
お前は強すぎて禁止カード。
メガシュバに実装されてなくて良かったぁ。
ゲームバランス崩壊しかねないわ。
次に聖女ユラ。
お前はシンプルに強すぎる。
鉄壁の護りと回復量。
後衛のサポーターで実装されてたら多分全ての一軍パーティーに導入されてたわ。
ユラも禁止カードである。
その他にもクロウリーやマルファといった精鋭中の精鋭が確かに居た。
特にマルファは廃課金ユーザーしか入手出来なかった期間限定のイベントでしか現れない魔眼持ちのレアキャラ。
強すぎワロタである。
正直、彼らが居なければ、危なかった。
ギリギリ辛勝した。元々、本編外という事もあり、根絶者もカイゼルマグスと同じく覚醒前に排除出来たのが功を奏した。とはいえ。攻略は攻略だ。
ボスを二匹もあの世に葬れたのはラッキー以外の何物でもないだろう。
さらに、あの戦いを通してわかった事がある。
確信に変わった。
俺には魅了、恐慌、混乱、鬱、狂気といった精神的バッドステータスが付かない。全てレジストもしくは敵対者にカウンターされる。
俺には精神攻撃が全く効かない。
「本当になぜだ?」
もし精神攻撃を受けていたら敗北していた。
俺は根絶者に手も足も出ずに完封されていただろう。
俺の性能ではあり得ぬ事。
疑問を浮かべていると。
ふと、思い出す。
「てか、この日って何があったけ?」
過去に飛ばされて1年以上あっちの世界に居た。
夏イベの時は雪山に半年以上居たし、体感時間が無茶苦茶だ。
時系列が複雑でこんがらがっていた。
「まぁいいや。善は急げだ!」
天蓋を蹴破ると、うろ覚えながら船内を駆け回る。
「そうそう! ここだ俺の部屋!」
ようやく自室を発見した。急いでベッドにダイブし作戦を練る。
動画投稿サイトヨーチューブに動画を投稿する為の作戦をだ。
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俺には今すぐにやるべき事がある。
俺は今日から底辺ヨーチューバ―デビューを果たす。
とんでもない事実が判明したのだ!
世紀の大発見である。
この世界のインチキ英雄。
極光の騎士とか呼ばれる馬鹿みたいな名前の登場人物。
シュヴァルツ・ネイガーは俺の自作自演だったのだ!
つーか俺と夏イベのチートの二人一組であった。
あっちの世界で手帳に記した絵コンテと台本を取り出す。
ネットの繋がったスマホでBGMに用意予定の曲を検索してみる。
俺はネイガー未来人ネタで大物ヨーチューバーとして成り上がり、秒速2万稼ぐインフルエンサーとして勝ち鬨を上げるのだ。
それをあっちの世界で虎視眈々と考え続けた。
戻ったら早く銭稼ぎをせねばと思っていたのだ。
「これで取り返すぞ! 無償労働!」
日夜、絵コンテを作成し台本を作成する作業に頭を悩ませた。
そして遂に完成したのだ。
「これこれ。Z-FileのBGM。これじゃなきゃ締まらないよな!」
俺は恐る恐る動画撮影を開始した。
「ブンブブーン。ハロー、ヨーチューブ!
どうも新人ヨーチューバーAMTです。
早速なんだけど。
本日取り上げる話題は、シュヴァルツ・ネイガーの話ってわけ!
ヤバいよね。あのシュヴァルツ・ネイガーは未来人だったって話!
パンドラの箱は既に開いてるの! いつになったら目を覚ますの!?」
拙いながらもカメラに向かって必至に1人で語り続けた。
「信じるか信じないかは君次第ってわけ!」
俺は都市伝説ヨーチューバーとして動画を撮り終えると適当に編集して。
「新時代の幕開けだぜ!」
快哉を叫び投稿ボタンを押した。
折り返し地点です。
もう少しお付き合い下さい。