鈍感すぎると人生詰むらしいっすよ
/風音視点/
左手にシス。右手に南朋。
お腹の上にイノリがスヤスヤと寝ている。
僕はベッドの中で美少女に囲まれていた。
最近、いつの間にかみんなが布団の中に忍び込んでいる。
美少女に囲まれながら、薄暗い天井を見上げていた。
「やれやれ」
どうしてこんな事になってるのやら。
世界について色々と考えなければならないけど、正直思考が追い付いてないのが実情。
でもやるさ。
「みんなは僕が守って見せる」
僕はみんなの頭を撫でた。
これを世の男性諸君に言ったら怒られるかもしれないんだけど。
僕は昔から男友達が少ない。
てか、居ない。
少ないは正直ちょっと誇張した。
実際はゼロ。
その代わり、女友達ってのが非常に多い。
なぜかわからないけど、女の子に囲まれて生きてきた。
右を見ても、左を見ても、頭上を見上げても女の子ばっかりだ。
母さんは未だに十代みたいな見た目で義妹はモデルだ。
幼馴染の南朋は親が勝手に決めた許嫁だったりする。
街角を歩いていればパンを咥えた女の子にぶつかるし。
空から女の子が落ちて来る状況だって数え上げればキリがない。
いや、いいんだけさ。
全然男友達が出来ないのは悩みの種の一つでもあった。
今もそうだ。僕は女の子達と川の字で寝ている。
それに、オノゴロにて屋敷を手に入れ、女の子達と暮らしている。
僕は男友達が多い人に憧れていた。
天内傑。
彼は滅茶苦茶男友達が多い。
天内くんは間違いなくカリスマである。
職業カリスマってぐらい多い。
世の中にはスクールカーストという言葉があるけど、マホロ男子の中で天内くんは1軍も1軍。
超がつく一軍の男子グループ。
それのリーダーなんだ。
退学になった今でも天内くんを待ち望む男子生徒は多い。
彼が退学になった速報はちょっと厳つい男子生徒の中で話題になったぐらいだ。
天内くんがいつでも戻って来ていいように筆記係が居るぐらいだし。
「羨ましいなぁ」
彼が学園を退学になった後に知ったんだけど、彼は僕が憧れる超強面不良集団であり、懐の深い事で有名な1軍グループTDRの長らしい。
マホロの階級制とか貴族制に反旗を翻した集団。
「カッコイイんだよなぁ」
おいそれと出来る事じゃない。
天内くんは全方位に喧嘩を吹っ掛けて、スクールカーストをぶち壊した集団の創始者らしい。
僕はTDRサークルに入りたいんだけど、『女に好かれる奴の入団は受け入れていない』という謎の理由で結局未だTDRに入れては貰えない。
TDRと筆文字で殴り書きされた缶バッチを握りしめた。
僕は遂に男子の頂点。
カリスマの天内くんと友達になれるかもしれない。
彼はマホロに戻ってくるらしいし。
「絶対に友達になってみせる」
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展望デッキにて、俺は白目を剥いていた。
夏から秋になり始めた生暖かい潮風が頬を撫でる。
暑くもなく、寒くもない。
心地よい季節になり始めようとしている。
人の明かりがない海面からは空の輪郭がよく見渡せた。
都会では決してみられない星々の渦が天上を支配している。
「綺麗ですわね」
「そっすね」
隣に座るマリアは俺に寄りかかろうした。
俺はそれを感じ取り、肩にぶつかる前に立ち上がった。
「あら」
コテンと首を傾げた彼女は再び姿勢を正したようだ。
俺は手すりに寄りかかり項垂れた。
正直滅茶苦茶帰りたかった。
マリアの暇つぶしに付き合うのが面倒だ。
そんな事を考えているとマリアが俺の横に立っていた。
手すりに乗せた俺の手をまじまじと見つめると。
「……天内さん。手を出して下さいまし」
「はい?」
「いいから出してください」
なんだか気圧されて俺は手を差し出した。
「どうぞ。でも、汚いですよ俺の手」
醜く変形してしまった指に、殆どの爪は剝がれ、皮膚はケロイド状に赤黒く変色している。
「そんな事はありませんわ」
彼女はか細く呟くと俺の手の平を握りながら顔を上げた。
「以前からずっとお聞きしたい事がありました。一つはこの手」
「はぁ」
「痛くないんですか?」
そんな事か。
偽りのユニークを使った後は、指が千切れていたりするし骨が剥き出しになっていたりする。
剣の熱で手の平が溶けて、金属が癒着している事もある。
夏イベの時は毎ターン腕や脚が千切りにされるネギみたいに吹っ飛んでいた。
あれはちょっと我ながら笑った。
それに比べれば大した事はない状態だ。
ケハエールを掛けて治しているが、戦えば戦うほど怪我に関して麻痺してるのは否めない。
徐々に回復も適当になっている。治しても戦えばすぐにボロボロになるのだ。
この程度のダメージなら放って置いている。
回復薬が勿体ない。最近は面倒なので、適当にテーピングをしてたりする。
「まぁ。痛いですよ。でも慣れました。要は慣れですよ。こんなものは」
「……そうですか……私はそんな事に慣れて欲しくはありません」
マリアは肩に掛けるポーチから塗り薬を取り出した。
「何をするんです?」
「治療ですよ」
彼女は俺の手に塗り薬をつけた。
「そんな事しても」
「意味はないかもしれませんね。残念ながら私には人を癒す力はありません。知識も技術も勉強はしましたが、どうやらとても難しいようです」
「そう……かもね」
知ってるよ。君は攻撃特化型だしね。
「だからこんな事でしか天内さんを気遣う事ができません」
彼女は赤黒く腫れあがり、骨が変形してしまった指に塗り薬を塗っていく。
爪はうっ血しすぎて黒ずんでいる。
正直、意味はない。
ちょっとした痛み止めぐらいの感覚だ。
「天内さん……私は貴方の事を」
「なんですか?」
少し言い淀み、言葉を飲み込むと。
「……私は、貴方の理念を聞いた事があります。それは嘘ではないのも知っています。貴方が無茶をしないようにするのが私の役目だと勝手ながら思っています」
「は、はぁ。それはどうも」
「でも、目を離すと。いつもこうなっている。いつも無茶をなさっている」
彼女は俺の手を両手で包み込んだ。
「まぁそうっすね。いつもの事ですけど」
まだ、軽傷なんだけどな。
夏イベの戦闘をダイジェストでマリアに見せたら卒倒すると思うわ。
小腸とか飛び出しながら戦ってたし。
「天内さん。もう……我慢できません。もう貴方を放っては置けません。これを言ってしまえば、全て終わってしまうかもしれませんけど」
彼女の意を決した顔があった。
「終わる? なにが?」
プルプル震えるマリア。
え? 何が始まるんですか?
俺は死ぬんですか?
攻略失敗なんすか?
「これが答えです!」
マリアが突然胸に飛び込んできたのだ。
はぁ?
マジで茫然とした。
呆気に取られて案山子になってしまった。
なんだこれ。
「私にしときませんか?」
「え? あ、はい?」
今、俺なんか言った?
「と、いう事は……」
涙目になったマリアが泣き笑いながら喜色満面の笑みを浮かべていた。