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前日譚 夢魔界都市トウキョウ 『それは全て泡沫の夢』


/?視点/


 ―――例えその願いが泡沫(うたかた)の夢であったとしても―――


「この世界はどうしてこんなにも……悲しみに包まれているんだ?」


 物を考えられるようになって最初に浮かんだ疑問がそれだった。


 私は優秀な人間だ。

 天才の中の天才と呼ぶ者も多い。

 私は間違いなく世界に愛された存在だと思う。


 同時に、この世界には世界に愛されなかった存在が多すぎる。

 世界に愛されず、何の価値も見出されず消えていく者が多い。

 

 それは残念ながら事実だ。

 

 この世界は残酷な事に平等ではない。

 不条理な世界だ。

 生まれ持った才能、生まれた家庭、能力、容姿、貧富の差。

 数え上げればキリがない。

 そんなつまらない区別。

 そんな不平等があった。 


 生まれ出た時点で人の価値は殆ど決まってしまっている。

 上級な人間と低級な人間。

 この二極に分けられる。

 

 私は間違いなく上級の人間だ。 

 だが、その事実を驕った事などない。

 私が優秀であり、天才と語られようとも、他の者を見下した事などなかった。

 私はこの事実を何とかしたいと。

 

 ―――そう願ったのだ―――

 

 私が考える不平等、不公平、不条理。

 それを覆せるのは笑顔しかない。

 そう思ったのだ。

 この世で最も偉大な力。

 

 私の悲願。この世全ての者に笑顔になって貰う事。


 それが偽りの世界であろうとも、誰もが幸せになり、笑顔になれる世界ならば……

 例え、夢幻(ゆめまぼろし)であったとしても。


「それは真実なんじゃないのか?」

 

 誰もが笑える世界があってもいいじゃないかと、そう願ったのだ。

 この世界は悲哀に満ちているから。

 どれほどの文明を築こうと、どれほど壮絶な歴史を歩もうと、人は進歩しないのだから。

 学ばない。学習しようとしない。

 完璧な生命ではないから……

 

 どうしようもない。

 どうする事も出来ない。

 愚かな生命。


 だから願ったのだ。

 故に実行したのだ。

 私が考え得る最善を―――。

 

 私が乞い願う結末を手繰り寄せる為に。


 ・

 ・

 ・


 パーカーにスパッツ姿の南朋。

 その隣に座る浴衣姿のマリア。

 お互いやや髪の毛が艶めいていた。

 風呂上がりのようであった。


「お待ちしておりましたわ」


 マリアは俺が出てくるのを確認すると席から立ち上がり深々とお辞儀をした。

 どうやら風呂上がりの俺を待っていたようだ。


「あ。はい」


 なんだか毎回会釈が大仰で困ってしまうし。

 なんか俺、連けれられてる?


「あたた。全く酷いなぁ」


 俺の後ろから男湯の暖簾を潜る変態が頬を擦りながら、のそのそと歩いてきた。


「どうしたの? 風音。それ」


 風音の風呂上がりを南朋も待っていたようだ。

 彼女はコーヒー牛乳を飲みながら、彼の頬に付いた青あざに目をやった。


「さ、さぁ? なんだろうね」


 風音が頭を掻きながら、バツの悪そうな顔をする。

 俺がぶん殴ったとは言わなかった。

 こいつ、裸で俺に抱きついてきたのだ。

 危うくとんでもない間違いが引き起こりそうだった。

 必死の抵抗の痕跡。


「南朋さん。じゃあ」


「うん。そうだね」

 

 マリアと南朋はお互いに目くばせした。

 なんだかこのヒロインキャラ2人。

 いつの間にか距離が縮まっている気がする。


「マリアさんと南朋さんって……前から知り合いでしたっけ?」

 なんだか仲良くなっているように見えるのだ。


「いいえ」


「違うけど」


「けれども先程、無二の親友になりました」


「裸の付き合いってのは、いいよね! こんなに身近に同じ悩みの人が居るなんて。なんか色々話せてスッキリしたぁ~」


「ですわね。私もうかうかしてられない、そう感じましたわ」


「だね!」


「はい!」


 マリアと南朋はお互いの顔を見て笑い合った。

 この2人、いつの間にか一緒に風呂に入り、なんだか仲良くなっているようなのだ。

 

 なんだか……場違いな気がしてきた。

 俺はこんなとこに居ていいのだろうか。

 モブ失格だ。主人公にヒロイン2名。それと雑魚モブ俺。

 場違い過ぎた。

 クラスの一軍の生徒の仲に放り込まれた5軍の生徒の気分だ。

 

「マリア。お互いライバルは多いけど。あんたも頑張りなさいよ」


「南朋さんも頑張って下さい。私に出来る事があれば協力させて頂きます」


「私もよ。マリア。お互い鈍感ボーイを相手にしないといけないしね」


「天内さんはとても聡明ですけど……まぁ少し二ブチンなのは否めません。とはいえ、そういう所も素敵ではありますね」


「あんた……なんていい子なの」


「いえいえ」


「天内!」

 南朋は俺の目の前までズカズカと歩いてくると。


「な、なんだよ」


「マリアを幸せにしなさいよ!」


「は、はぁ……」

 

「気の抜けた返事ね」


「そこも素敵なところなんです」


「全く。なんちゃらは盲目って本当なのね。ウチも人の事言えんけど」


「そうですよ!」

 マリアは頬を膨らませた。


 俺と風音は置いてけぼりで意気投合しているのだ。

 

「おっと。いけない。いけない。じゃあ風音行くよ!」


「え!? ちょっと待ってよ。僕は天内くんとこれから夜通し男同士の語らいを!」


「いいから! 一緒に来いっての! 2人の邪魔をしない! この鈍感!」


「え!? ちょ!? なんの話さ!」

 南朋は風音の首根っこを掴み力づくでひきずった。


「では、天内さん。私達も行きましょう。私もお二人のお邪魔はしたくありませんので」


「は?」


 マジでなんの話してんだ。こいつら。


「またメールするわマリア」


「はい。お電話お待ちしております。それと(わたくし)の方も相談させて頂きますわ」


 南朋は俺を、マリアは風音に視線を向ける。

 彼女達はお互い何かを悟ったように力強く握手した。


「さ! 風音行くよ!」

 

 力ずくで引きずられていく風音は俺に向かって。

「天内くん! 明日! 明日朝! レストランに居るから! 一緒にご飯食べよう! 約束だよ! マイブラザー!」


「……」


 アイツ、よほど俺と飯を食えたのが嬉しかったのか?

 確か今ぐらいの時期だと、既にオノゴロにて寮を出て邸宅に住んでるよな?

 美少女に囲まれてハーレム邸(あるじ)になってるはずだ。

 ループする夏を超えて、夏のお色気イベントも結構消化してるはず。

 男子成分に飢えてるとか?

 勘弁してくれよ。

 

「では、私達も行きましょうか」

 マリアは半歩下がると俺の後ろに佇んだ。


「え? どこに?」


 どこに行くのさ。

 自分の部屋に戻りなよ。


 南朋は俺のマリアに対する返答を地獄耳で聞いたようで、風音を放り投げると俺の方に向かって走ってきた。


「はぁ……天内。あんた鈍感すぎ!」

 彼女は俺の顔に向かって人差し指を立てた。


「あんたはマリアという超絶可愛い彼女の言う事を黙って聞く! それだけ! いい!?」


「はぁ?」


 彼女じゃねーんだよ。

 何言ってんだコイツ。


「いいからさっさとデッキにでも行ってデートして来い!」

 南朋は俺の脛を思いっきり蹴った。



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