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メインキャラ と モブ



 カポーンっと鹿威(ししおど)しのような音が鳴った。


 音の鳴る方角に目をやると、中心に赤文字で『ケロポン』と書かれている黄色い桶があった。

 湯気の立ち込める男湯。

 今、人口密度が3人から2人になったのだ。


 俺は隣の巨根野郎と共に湯に浸かっている。

 男湯で2人の野郎が湯に浸かっているのだ。


 ふと考える。

 これはギャルゲあるあるなんだが。

 なぜ、ギャルゲに出てくる竿役は皆立派なモノを持っているのだろう。

 隣の巨根野郎のナニがどう考えても馬なのだ。

 馬並みという表現が近い。

 信じられん。

 それ平常時だよな?

 本気になったらどんな感じになるんだ?

 俺は不安になってきた。

 隣の優男が末恐ろしいのだ。

 

「こうしてゆっくり喋るのは初めてだよね」

 風音は俺の肩がぶつかるくらい近づいてきた。


「まぁな」

 お前は顔が近いんだよ。

 気持ち悪い。

「おい。近くないか?」


「そんなことはないさ。それよりもさ。天内くんは凄い身体してるねぇ」


 風音の野郎は、至って自然に俺の太ももに手を置いてきた。


「おい。触るなよ」

 気色の悪い奴かもしれない。


「僕らはもう友達だろ。うわ! 凄い。カチカチだ!」

 風音は俺の(もも)(さす)ると驚嘆の声を上げた。


「違うけど。あと、おさわり禁止だから」


「男同士だし気にしない♪ 気にしない♪」

 風音の擦る手が素早くなった。  


 俺は手を振り払い、距離を開ける。


「つれないなぁ~」

 と口を尖らせ、再び風音は俺に近づいてきた。


「ねぇねぇ。天内くん。背中の流し合いしようよ」

 今度は俺の肩を触ってきた。

「ここもこんなにカチカチ。凄い! 一体どうやって鍛えてるんだ!?」


「おい! 触るなって!」


「いいだろ! 気にするなよ!」


「気になるんだよ!」

 ベタベタ俺の身体を触り、俺の身体を見つめる風音を振り払った。


「友達じゃないか!?」


「だからお前とは友達じゃねーんだよ!」


「同じ釜の飯を食った仲じゃないか!」


「うるせぇんだよ!」


「天内くん。頼むよ! 僕と友達になってくれよ!」

 ベタベタと肩を揉んでくる。


「おい! やめろって」


「僕には男友達が居ないんだよぉ~!」

 風音は涙目になりながら抱きついてきた。


「おい! 当たってるぞ!」


 凄く嫌な感触が下半身に触れていた。

 ん!?

 奴の下半身のナニが……

 固いぞ!?


 拝啓。

 父さん。母さん。

 俺は今、最大の強敵と戦う事になります。

 今までありがとうございました。

 不肖の息子。

 戦に赴きます!


「これが俺の答えだ! 鉄拳!」


 俺は腕を振り上げた。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 --数刻遡る--

  

 潮と磯の香りが鼻腔をくすぐった。

 錨が外され、岸から少しずつ離れていく。

 汽笛が鳴るとヒノモト行きの客船はゆっくりと動き出した。


 俺は船の甲板の上から請求書を破り捨てた。

 紙片は白い花びらのようにヒラヒラと風に吹かれると、別れの挨拶を告げる。


「あばよ」


 いつの間にか雪だるま式に膨らんだ借金。

 間もなく俺の借金は9桁に到達する。

 信用取引で失敗し債務整理をこの間したにも関わらずだ。


「まーた、借金増えてんだわ」


 カッコウが以前輸送してくれた武器は無料だった。

 だが、直近の武具の請求が全部俺に来たのだ。

 カッコウに連絡を取っているが、全然連絡がつかないのだ。

 

「なんでだよ!」

 ついに親友であるカッコウに梯子(はしご)を外されたのかもしれない。


「今度は自分で払えって事か……」

 

 そういう事なんだろう。


「そりゃあ。当然か」 

 

 わかったよ。払うよ。

 払うから連絡に応えてくれよ!

 友達だろ!

 

 あと! 何度でも言わせてくれ!

 俺の戦い方は金が掛かる!

 金が掛かりすぎる!

 課金せねば戦いに連いていけない!

 剣一本当たり約100万円。

 武器弾幕一発掃射でおよそ100万消えるのだ。

 わかるか!? 

 100万だぞ!?

 まじで札束投げて戦ってるんだよ!


 4本掃射すれば、ヒノモト平均年収!

 

 もしだ。もし、俺に二つ名があるなら『札束の魔術師』もしくは『課金の騎士』だ。


 俺は剣士ではない。同時に魔術師でもない。

 俺は金融屋。

 それが俺の正体。

 マネーの力を戦力に変える男。

 マネーの騎士である。


「マネーに翻弄されすぎたな。落ち着くんだ俺。

 一旦……切り替えて行こう。最悪踏み倒そう。うん。そうしよう!」


 よーし。踏み倒せれば俺の勝ちだ。

 それにマジックキノコの栽培が上手く行けば俺は秒速で1万稼ぐ億万長者になれる。

 まだマネーゲームに敗北した訳じゃないんだ!

 まだ勝機はある。

 諦めるには早すぎる!


「なんだか生きる活力が湧いてきたぞ!」


 ・

 ・

 ・


 海面には除草しきれなかった花園が浮いていた。

 カップルや家族連れはそんな光景を背に記念撮影をしている。


「チッ。観光地じゃねーんだよ。俺の気も知らないでよ」

 

 なんだか、機嫌が悪くなり舌打ちをすると、その光景を背に船内に舞い戻った。


 俺は船旅によりヒノモトに帰還する。

 2泊3日の船旅。 

 飛行機を使えば半日だ。

 時間を節約するなら空から戻った方がいいに決まっている。

 だが、そういう訳にもいかない。

 グリーンウッドの生態系は無茶苦茶だ。

 俺のせいだ。すまん。

 せめて出来得る限り。


「どれだけ民間に影響を及ぼしたのか。それを確認しつつ帰ろう。それが俺のできる罪滅ぼし……」


 もし、途中で難破する事態になったら全力で解決させて頂く。

 それだけだ。


 船のスクリュー付近に取り付けたまつり開発の森臨魔法中和剤の発動を確認した。 

 今の所問題なく航海は出来ているようだ。


「よしよし。うまく行ってるぞ」


 安心した俺は随分と広い船内を練り歩く事にした。


 ふと売店を立ち寄ると。

「うん?」


 船内の売店に随分珍しい物が売っていた。

 イベント配布アイテムが売店に沢山売っていたのだ。


「へぇ……『真実の鏡』か。なんでこんなとこに売ってんだ?」

 俺は手鏡を手元で弄ぶ。


「おっちゃん。これどうしたの?」


「どうした? ってそりゃ仕入れたのさ」


「どこから?」


「ヒノモトから」


 いや、そういう事が訊きたい訳ではないんだが。

「誰が流してるんすか?」


「そんなもん俺が知るかよ。詳しい事は知らん!」

 おっさんは『ガハハハ』とガサツに笑った。


「そっすか」


 知らないっぽい。

 得体の知れない物を生産者不明でヒノモトから仕入れているらしい。 

 とはいえ、一介のクルーが知る訳もないか。

 

「とりあえず! こいつは巷で流行ってるんだよ! 全く! 田舎者は流行りに疎くて困るねぇ」


「はは。そっすね」

 

 おっさん曰く、どうやら、ヒノモトで爆発的に普及しているとの事。

 なんで?

 俺が不在の約2か月の間になんか……なんか……


「イベント開始されたりする?」


「いべんと?」


「いや、こっちの話。おっちゃん。これ一個貰えるか?」


「買うのかい?」


「一つ貰うよ」


「毎度!」


 俺はおっさんから手鏡を買い取ると、手の平の上で弄んだ。

 適当なソファに座り、鏡を覗き込む。

 

「ちょっと遊んでみるか」

 俺は真実の鏡を見つめて思考の海に飛び込んだ。


 ―

 ――

 ―――

 ――――

 ―――

 ――

 ー

    

「ログアウト完了ッと」


 思考の海から抜けると。

 俺はソファの上で目を覚ました。

 すっかり時刻は夕刻。

 2時間ほど経っていた。

 

 俺は真実の鏡の世界で適当にストレス発散をしてきたのだ。

 金の掛からん夢の世界はなんと素晴らしい事か。

 大暴れできて爽快であり痛快である。

 ホラーゲームのような世界観だったが、多分チャプター10分の6ぐらい進めたはずだ。

 この世界の常人がどれぐらいのスピードでクリアするのか知らんが、プレイヤーである俺は最速ラップを叩き出してるはずだ。

 

 なんせ、あの世界はコマンドを叩かなけれ(裏ワザ)ば魔術もスキルもアーツすらも使用できないんだからな。

 

 あの()()()()()()の世界は裏技アリで大暴れするのがストレス解消になるのだ。


「また後でやろ」

 

 俺はルンルン気分であった。

 かなりストレスが軽減された。

「気~が~狂いそ~う! ララララララ♪ 優しい歌が~♪」

 船内のレストランを鼻歌を歌いながら訪れてみた。


「ゲェ!?」

 鼻歌を歌うのを突然止めた。

 目ん玉ひん剥いた。

 

 びっくりしたのだ。

  

 登場人物が多すぎる!? 

 勝手に邂逅してやがる!

 いつの間にか食卓を囲んでいやがるぞコイツら!

 なんでこいつら居るんだよ!?

 特に千秋! 

 お前は本当になんで居るの!?


 円卓にて俺のパーティ―メンバーと風音パーティーが団欒を囲んでいるのだ。

 

「お、恐ろしい。あそこは死地か……モブが足を踏み入れてはいけない禁足地だぞ」

 

 ガタガタと震えて後ずさる。

 そっと気付かれぬように。


「ゆっくり。ゆっくり」

 落ち着け俺。


「あ、傑くん。こっちこっち」

 千秋が俺の顔を見つけると手を振ってきた。

 

「あ」

 見つかった。


「ここで待機していれば、必ず会えると信じていました」

 と、お嬢様風なマリアが会釈してきた。


「やぁ天内くん。奇遇だね」

 と、柔和な笑みを浮かべる主人公風音。


 南朋もシステリッサもイノリも居る。

 メインキャラ揃い踏みだ。


「こっちで一緒に食事でもしようよ。実は女の子ばっかりで肩身が狭かったんだよ」


 風音が嬉しそうに近づいてくると俺の背中を押してきた。 

 

「おい! やめろって」

 あと、気安く触るなよ!


「いいからいいから!」


 

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