間奏① 読めないけど英字新聞買って電車で読むフリするよね。俺はする。かっこいいから
---マリアイベント一週間前---
マリアの鬱イベを回避するため、俺は飛行機に乗って【トランスヴァルキア公国】に向かっていた。
所持金は限界を迎えた。
"禁術実践投資編”により俺の預金はバンクオーバーした。
しかし、俺はメタルペリッパを狩る道中で死ぬほどモンスターを処した。
処して、
処して、
処しまくった。
俺の事を"処し王"と呼んでもらってかまわない。
それぐらい処したのだ。
俺は処したモンスターのドロップアイテムを回収し、それらを限界まで売りさばきそれなりに懐は温かくなっていた。
今の俺は小金持ちといって差し支えないだろう。
『もう、冒険者で食ってけるじゃん』と思わず呟いてしまったほどだ。
「さらばリーマン生活。フォーエヴァー」
くそジメジメした牢獄社畜生活とはおさらばだ。
ニヤニヤとしてしまう。
最高の気分だぜ。
生まれ変わったっていうか。
産湯に初めて浸かった赤ん坊のような、そんなさっぱりとした解放感すらある。
そんな事を考えながら、俺は読めもしない意味不明の外国語で書かれた物理の本を片手に読んでるフリをした。
どうだろう?
デキる男に見えるのではないだろうか。
デキる男は訳の分からん本をこれでもかと周囲にアピールして読むのだ。
それが必須条件。
前世でもそうだった。
電車の中でプログラムを組んでる奴を見かけたし、パワポの資料だって作ったりする奴も居た。
内心。『情報漏洩って………こいつらから発生するんだな』とほくそ笑んだりしていた。
デキる男はリスクを背負わない。
電車の中で仕事なんてしない。
紙ベースの英字新聞だから映えるんだ。
まぁそれはさておき。
俺は英字新聞をとりあえず買って満員電車に乗り読むフリなんかもしていた。
とりあえず『デフォルト崩壊間近なのか……まずいな……』とか呟いてみたり、『なに!? 株が暴落した!?』とかも、駅構内で独り喋ったりしたものだ。
だってかっこいいだろ。
でも実際はまとめサイトを遊泳してただけだし、メガシュヴァについて考え事をしてたりしただけだ。
そして今回も例に漏れず、しばしの空の旅の間、俺は訳の分からん難しそうな本を読んでるフリをしてマリアイベについて考えていた。
・
・
・
・
・
レベルの上がった俺の成果。
それをまず再確認する必要がある。
最初に行ったのは前世の知識を活かしたインチキによるスキル取得。
次に基本五属性火・水・風・地・金の中級魔術。
各属性の有用な派生魔法、雷や重力といった魔術を取得。
天内の魔力メモリ。
つまり潜在性の限界の関係もあり一部有用なもののみで打ち止めにしてある。
加えて、約半年間に及ぶダンジョンモンスター狩りで培った武器・肉弾戦闘技術だ。
あとはプレイヤー時代の知識による複合技、この時点で行える決め手。
ある大陸のプレイヤーが開発考案した通称“エクストラバレット”と呼ばれるインチキ技。
これは複数の武器種に適正があり、特殊行動【暗器】を持つキャラしか使えない武器種切り替えによる高速武器射出。
武器投擲弾幕である。
これがインチキと言われたのは、近距離適正しかないキャラが中距離から遠距離に近い攻撃を行えるようになる事だ。
そして最大の特徴はレベルやキャラのレア度関係なく一定以上の火力が担保されている点だ。
そして俺には本当の奥の手。
"エクストラバレット"を超える、最凶の"禁術"がある。
これはできれば使用する場面になる事を避けたい。
そんなピンチが来ればだが。
現時点の戦闘能力で中級ダンジョン1級のフロアボスなら余裕で単独討伐できるだろう。
戦い方によっては中級初段……いやもっと深い階層も行けそうだ。
ダンジョンの概要は確かこうだった。
ダンジョンには難易度がある。
初級ダンジョンは3級から始まり初級ダンジョン3段まである。難易度は簡単なものは3級から始まり3段が最も難しい。
そして初級より中級の方が難しく、中級より上級が難しい。
最も難しいダンジョンは超級である。
中級も低い順から3級から3段まで。無論上級ダンジョンも同じである。
次に超級ダンジョンは3級から10段。ここは唯一段位が10まである。
そして最後に最高難易度のエクストラステージ。
つまり最終ボス戦である。
これは各種ルートのラスボスのステージなんかに該当する。
それ以外にも色々特殊ステージがあるが、それは現時点で考慮する必要はないだろう。どうせ解放されてないし、解放されててもクリアできないしね。
そしてメインで考えねばならん事、メインヒロインの一人。
鬱ヒロイン。
北方の大貴族。
大魔道師の家系。
災厄の魔女の血を最も色濃く受け継いだ、マリア・ヨーゼフォン・レオノーラ・ギーゼラ・アラゴン。
通称マリー。
彼女のバッドエンドの回避についてだ。
このマリー、
セミロングの美しいブロンドの髪に赤紫の美しい瞳。
透き通るような白い肌。
抜群のプロポーション。
ビジュアルだけならメガシュヴァトップ3に入る美少女キャラ。
しかし、そのシナリオのバックボーンから人気キャラ投票でどうしても7位以上獲得できなかった不遇キャラだった。
しかし製品パッケージでは常にメインの一人として背景に居るキャラでもあった。
強キャラランキングでもTier1を獲得し続けた。
運営お気に入りのキャラだ。
その特異な魔法と体質から生まれたという設定のスキルはエンドコンテンツでもあった。
武器術やアーツは一切鍛えられないが、その代わりに魔術とスキル、専用装備は非常に強力だ。
デバフ特化と遠距離超火力特化の砲台兼サポート要因である。
俺もこのマリーをパーティに入れるために死ぬほど課金した。
キャラゲー要素もあったこのゲーム、シナリオとは無関係にガチャさえ引けばパーティにキャラクターを編成する事ができたからだ。
俺のボーナスは余裕で吹っ飛んだがな。
俺はマリーを引いたのさ。
俺はマリーを1軍の攻略組に常に配置してたぐらいだし、専用装備も取得にクソほど時間がかかったが何とか課金パワーで手に入れた思い入れのあるキャラだ。
そんな彼女を救いに行くのさ。
フッ。かっこよすぎないか俺。
俺は本を片手にニチャァァァと嗤った。