梁山泊アマチ
/3人称視点/
「な、なにをなさってるんですか?」
マリアは天内に尋ねかけた。
「帰るんですよ。我が家に。その為の身支度です」
「我が家ですか?」
「モリドール家ですよ。あそこが俺の第二の故郷なんです。
そろそろ戻らないとモリドールさんが可哀そうだからね。
あの人の事だ。『想像妊娠したんですけど!?』とかで大騒ぎしてそうだしね」
「それはまぁ……」
「じゃあ。マリアさん。さようなら。なんだか入れ違いみたいになっちゃいましたね。
久しぶりに会えたってほどでもないけど。なんだか嬉しかったです。
という事で俺は早速ヒノモトに帰還します。
マリアさんもなんだか友達? も増えたみたいですし、安心しました」
「えっ? も、もう行かれるんですか? そんな……まだマホロで授業は受けれませんよ」
「知ってますよ。秋からしか留学生は受け入れてませんしね」
マリアは知っていた事とはいえ、天内のあまりのフットワークの軽さに啞然とした。
留学生がマホロの授業に加わるのは秋口からだ。
もう少しヘッジメイズにて活動すると踏んでいた。
全ての計画が破綻したのだ。
「もう行きます。マリアさんも早く戻ってきて下さいね。フィリスにもよろしく言っておいて下さい。それじゃあ」
あまりにも簡素な挨拶であった。
「私も行きます! 戻ります」
「でも、留学してきたばっかじゃ」
「戻りますよ!」
「まだ3週間も経ってないじゃ、」
「戻るったら戻るの!」
彼女は頬を膨らませて地団駄を踏んだ。
・
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朝靄が立ち込めていた。
陽は未だ昇らず。
しかして、空は薄闇から濃紺に変貌し始めている。
――根性――
その一言が書かれたハチマキ。
額に異様なハチマキを巻いた女生徒の集団。
彼女達は腕を組み道着姿で整列していた。
全員が田舎娘達。
だが、屈強な戦士の風格を思わせる雰囲気。
彼女達は皆歴戦の勇士のオーラを醸し出していた。
エルフと獣人は半々であり、握り拳には拳ダコが見え隠れする。
道場、梁山泊天内。
栄誉師範代にして終身名誉顧問である天内傑。
副顧問マリア・ヨーゼフォン・レオノーラ・ギーゼラ・アラゴン。
この道場はマリアが創始者である。
諸悪の根源である彼女は、天内の意図せず増えた弟子を影からコントロールする為に、天内に知らせず勝手に道場を開設したのだ。
その後、虚偽と詐術を用い副顧問としてヘッジメイズにて一大勢力の長として君臨した。
腐っても、メガシュバヒロイン。
神と運命に寵愛されている彼女がこの学園の実権を握るなど造作もなかったのだ。
そもそものきっかけは、天内の『モブ学園なら本気を出してもいい』という浅はかな考えが生み出した悲劇。披露し続けた頂点の技巧は多くの者を魅了した。
そこに目をつけたのが天内の片翼であるマリアである。
邪悪な笑みを浮かべ、天内に近づく女生徒を巧みに排除しつつ、天内を神輿に担ぐよう画策したのだ。
この女は恐ろしい思考の持ち主であった。
その結果、生み出されたのが梁山泊天内。
天内がマホロへ留学するまでの間、鍛え抜かれた恐るべき殺戮……
否、戦慄の武闘派集団は、ヘッジメイズの地にて会員数120名を超える野心家の集まりと相成った。
天内の知略、戦略、技術、武術、魔術を叩きこまれた異世界基準では規格外の集団である。
天内の過酷な訓練を耐え抜き、外界に出れば危険視される精鋭。
それが梁山泊天内の弟子達なのである。
その練度と実力は既に国家の精鋭騎士団に匹敵する。
年単位で鍛え抜かれた才ある精鋭を凌駕する猛者が集まる集団。
それを短期間で数多く育成、排出したのだ。
数週の訓練で作戦級、戦術級の魔術師を多数生み出した恐るべき道場。
天内の知る汎用技を効果的に叩きこまれた凡人集団でありながら特撰級レンジャー部隊が仕上がった。
ちなみに、天内の思い付きの訓練をより過酷で理不尽極まりないモノにブラッシュアップしたマリアが9割悪かったりする。
彼女達は厳かな雰囲気で師範の姿を確認した。
「お師匠様のお通りだ!」
道場にて、まとめ役と思われる女生徒が叫ぶとモーセが海を割ったかのように、道着姿の女生徒が1人の男に道を譲った。
「どっこいしょっと」
天内は荷物をその場に置き。
「すごい気合入ってるな……(どうしてこうなった?)」
皆天内の言葉を固唾を飲んで見守っている。
「俺はこれからマホロにカチコミを掛けに行く!」
「「「「おおぉーー!!」」」」
集団は拳を振り上げ、各々快哉を叫ぶ。
「お師匠様の威光と権威を知らしめるのですね!」
「マホロ学園か。お師匠様を吐いて捨てた外道集団。粉微塵にしてくれるわ」
「遂に戦争か……腕が鳴るな」
「みんな。聞いてくれ。君達は連れていきません! 戦争もしません! 粉微塵にもしないし、威光も知らせません!」
「「「そ、そんな!?」」」
集団に動揺が走る。
マホロで大暴れする為、マリアの無理難題という名の修羅場を潜って来た集団は困惑すると天内の次の言葉を待った。
(みんな期待の眼を向けるんじゃないよ。物欲しそうな顔しやがって。はぁ……適当な事を言ってみるか……)
(そういや、弟子3号は錬金魔法の使い手。その能力のおかげで料理が上手かったはず。こいつにはコックになって貰おう。独自のスパイスで旨い料理が出来るはずだ)
「えっと。まず弟子3号」
「は、はい!」
天内に名指しされ狐耳がピョこりと動いた。
「君には、商人の才能がある……と思う」
「あ、ありがとうございます! お師匠様! 恐悦至極です!」
「う、うむ」
(凄い反応だな。俺をからかってる訳じゃないよな。
TDRのフラッシュバックが頭を過って仕方ないんだけど……)
「君には俺の売店卸売りの権利を進呈しよう」
「ケーキとスフレが食べ放題なんですか!?」
「違います。君にはこの地にて、食という文化開拓のミッションを与えます。この地にて地産地消の独自の料理を作るのだ!」
「は、はい!」
「う、うむ。しばし戻らんが、いずれ戻ってくる。グリーンウッドに戻って来た際、料理が旨くなっていると信じているぞ」
「承知いたしました!」
「……(まだなんか言わにゃならんのか? そうだ! 弟子5号は薬草術が得意だったはず。マジックキノコ農園の運営をこいつに任せよう)弟子5号!」
「は、はい!」
橙色の髪の毛をしたエルフの少女が背筋を伸ばした。
「君には多彩な動植物の知識がある。この地にて畜産、養殖、農業の研究に取り組め。
俺の仲間の作った会社があるんだけど、そこと相談しながら、グリーンウッドの食を支配しろ。
この国で飢えを出す事はこの俺が許さん!」
「大変栄誉な事です! かしこまりました!」
「弟子2号!」
「ヒャ。ヒャイ!?」
「まず、君に問いたい。この道場……? は何の為にある!?」
(君がまとめ役っぽいのだ。俺に教えてくれ! わかりやすく!)
「この世に遍く光を齎す。それが我々の使命であります。
魑魅魍魎跋扈する世の不条理を打ち砕く鉄拳。
それが我らの意義。この根性の拳に誓ったのです。
そして……打ち砕かれた不条理の先にあるのはお師匠様のご威光を知らしめる事。
それが梁山泊天内の真に目指すべき先であると解釈しています」
静寂。もうそれは蚊の鳴く音が聴こえるぐらい静謐に包まれた。
天内はビックリしすぎて目をギョッとさせて硬直した。
(そうなのか!? それは違うぞ!?)
天内は静寂を切り裂くように、声を裏返らせながら。
「違う!」
真っ向から否定した。
「な、なんですって!?」
「勘違いするな! 弟子2号! 弟子3号もうんうん頷くんじゃないよ!」
「そんな!? そんな違うんですか? え? ホントに?」
「違う! 君達の使命は……」
(何が正解なんだ? 正解はどこにある? 余計な事を言うな俺。
これ以上余計な尾ひれが付き過ぎると、俺の自律神経は遂に失調してしまう。
まぁもう壊れてるけどね……
お茶を濁すしかない。意味があるようで、意味のない事を言わなくてはいけない。
時間を稼げ。
専門家を交えて意見を聞いた上で検討する。
みたいな、意味のない時間稼ぎをする政治家並みの意味のない事を言え!)
天内は自分の胸を握り拳で叩いた。
「君達のここにある。そう! 胸の中に!
みんな答えは違うはずだ。誰の為にとか、集団の為にとかではない!
何かに縋るな! 自分の心の中にある物。それを見失うな!
それを大切にしろ! それがこの道場? の伝えたい事」
(……なんだと思う。知らんけど。てか、なんでこんな事になってんの? いや、マジで誰か解説してくれ)
沈黙であった。
天内を見つめる少女たちは口を閉ざして天を仰いだ。
(意味ねぇ。意味なさ過ぎて、俺も何を言ってるのかわけわからん。
意味不明すぎて笑いそうなんだけど。
あーあ。この沈黙早く終わんねぇかな。またストレスでハゲるだろうが!)
作者は迷走してます。
誰か助言を下さい。
参考にします。