天元の一手
例えば、平々凡々な野球少年が居たとしよう。
彼には野球の才はなかった。
しかし、彼は生まれながら、世界最高峰のピアノの才能があったとしようじゃないか。
そんな音楽の才ある野球少年はピアノに一切触れる事なく生涯を終えるかもしれない。
例えば。見た目も好みで、心も通い合え、話も価値観も合う世界に2人と居ない運命の人がこの世に居たとしよう。
そんな人が実は同じマンションの隣の部屋に住んでいるのかもしれない。
だが、学業や仕事に忙しく、隣人と挨拶する事もなく。
そんな運命の相手に気づかず一生独身で過ごすかもしれない。
人生とはそんなものだ。
実はあったかもしれない機会や数奇な運命に出逢わず、気付くことなく生涯を終えるものなのかもしれない。
だが、そんな事象を改変するモノがある。
主人公補正。
それは主人公にとって都合の良い展開が行使される事。
ご都合主義とも揶揄される代物。
例を挙げればキリがない。
ヒロインとの運命的な出会い。
絶体絶命のピンチで覚醒する。
特別な血筋だった。
隠し持つ技術や能力を身に宿す。
などなど。
そんなご都合主義が仕組まれているモノだとすればどうだろう?
例えば、俺が主人公を影から育成して、都合の良いタイミングで、都合の良い力を手に入れる機会を手助けする。
主人公視点では気づかない。
きっと、たまたま運が良かったと思うだろう。
そんな神の見えざる手たる俺が手助け出来るには理由がある。
メタ視点を持つからだ。
だが。
仮に。
万が一。
もしもの話。
神の見えざる手がもう一つあったのなら。
その神の手はどんな采配を執るのか。
/千秋目線/
夜空には星々が輝いている。
快晴の夜空には月光が海面を反射していた。
さざ波が一条の月の明かりを乱反射し、万華鏡の中に居るかのように辺りを照らし出す。
明朝には王国に辿り着くはずだった。
だが、航路を先へ進めなくなった。
突如発生した嵐が行く手を阻んだ。
この嵐、航海士曰く、ただの嵐ではないようなのだ。
航路の先には、今までなかった生い茂る密林や流木が邪魔をしているようなのだ。
正直。
「流木はわかるんだけど、密林ってなんだよ」
と唸ってしまった。
甲板の上とは対照的に遥か彼方に見えるグリーンウッド。
その頭上には巨大な雷雲が支配していた。
途方もないほど大きな雷雲が水平線の向こう側に漂っていた。
嵐が目に視えて見えるのだ。
稲光が天を駆け巡る天空。
ただ一つ異様な光景。
まるで、昼夜逆転したかのように、その雷雲の底部は赤くなっている。
赤外線でも浴びせられているかのように、赤黒い光にグリーンウッド王国が包まれている。
この世のモノとは思えない自然現象。
「……まるであそこだけ異界じゃないか」
天変地異の脅威に晒される王国。
その光景はまるで……
・
・
・
雨が徐々に勢いを殺し、遂には完全に止むと、ほとんど見えなかった視界がゆっくりと晴れていく。
明かりが灯る場所がチラホラと点在していた。
「居た」
フィリスを目視する事に成功する。
遠方にて、何やら儀式の準備をするフィリスの姿があった。
「急がねば」
俺は本来の目的とは違う意味でフィリスを奪取せねばならないと。
王都全体を見渡せる高台から飛び降りた。
先程から有り得ざるイベントに打ちひしがれていた。
俺はただ、その光景を眺めていた。
彼方に見える海面から巨影が見え隠れしている。
こちらにゆっくりと進む影。
「単なる雨じゃないのはわかっていたが、この雨そのものが迷宮化だった……」
ならば、それを打ち払うフィリスの力は必須だと考えるだろう。
天候魔法により、メイズ化を防げばアレは顕現できなくなる。
事実だ。
「だが、ここには俺が居る。可能だ。打開策はある」
アレを打ち滅ぼせばいい。
この嵐がアレを呼び出す為に用意された領域なのだとすれば。
駆けながら、横目で彼方の機影を気にした。
のっそりと動く巨大な影は徐々に大きくなっているような気がする。
「単なる設定じゃなかった。
しかし、なぜこんな事がこんな場面で起こっている?
偶然にしては出来過ぎている」
俺がこの場に来る事を予期していたかのような采配だ。
「いや…………俺だけじゃない。風音達も居るじゃないか。俺は本当に偶然居合わせて、風音達が動く事を予期していた?」
なぜかここに居た風音パーティー。
主人公サイドが夏にグリーンウッドを訪れるイベントなどないはず。
なぜ居た?
「都合が良すぎないか?」
主人公補正と片付けるには不可解であった。
それにだ。
なぜ今、王都は厳戒態勢が執られている?
こんな夜更けだというのに、どうして活発にマニアクスの傀儡が動いている?
なぜフィリスはこのタイミングで王都に滞在しているのだ?
メガシュヴァのストーリー通りに物事が運んでいない。
俺が知らない事が起きすぎている。
「仕組まれている? 誰に?」
俺は自問自答しながら苦虫を嚙み潰した.。
手の平の上で踊らされているような気がしてならなかった。
夜の闇は黒から徐々に赤くなっていた。
先程までの大豪雨ではなく、しとしとと血のように赤い雨が降り始めていた。
巨大な影に向かって悪態を吐く。
「勝てるのか? 俺一人で」
展開広域型迷宮化現象。
それを軸に顕現した超級ダンジョンの魔物は王都に侵攻していた。
ここからは愚痴です。
自分で書いたモノを回収する為、読み直す作業が多すぎて。
展開の言語化に四苦八苦しております。
王国編、キャラ出し過ぎて収集つかなくなった。
自業自得だけど。
早くモリドールとか小町とかニクブとガリノとか再登場させたい。