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結局は見方の話さ


 大豪雨の中。

 俺の目の前には主人公の顔があった。


 俺と風音は鍔迫り合う。

 

 風音はチャージした陽魔法を発散させると。

「不浄衝撃破!」


「上級魔法か!?」


 咄嗟に声を上げたのは、俺。

 俺が風音に向けて打ち込んだ攻撃。

 それがリフレクトされると、俺の手元の細剣が砕け散った。

 

 不浄衝撃破。

 

 パリィ成功時に武器もしくは使用者に与えたダメージを倍にして反射する陽魔法の上級魔法。

 今回は俺の武器を破壊する方を選んだようであった。

 

「無力化する気か!? だが、この一撃で」


 俺はアーツで槍を取り出し、風音を引き剥がそうと小手に刺突を放った。


 が。


「何!?」

 

 攻撃判定がなかった。


 防がれたのではない。

 ダメージ判定をゼロにさせられた。


 風音の影、よく見ると、影に溶けるように潜む小さい影がそこにあった。

 隠密スキル。影隠。

 間坂イノリの魔盾(まとん)でダメージ判定を"なかった"事にさせられた。


 ほんのレイコンマ1秒。

 それにも満たない隙を作ってしまった事を次の言葉を聞き後悔した。

 

「大地裂斬!」

 

 風音が放つ無空の一閃。


 剣技最高峰の技巧(アーツ)

 俺が使えない技。

 ダメージ判定2倍の範囲攻撃。

 

 陽魔法の身体強化、攻撃速度、攻撃力、攻撃量増加。

 加えて大地裂斬:アーツ特有の2倍のダメージ判定に範囲攻撃。

 さらにシステリッサの攻撃力1.5倍強化のバフ。

 武器補正である聖剣の攻撃力上昇1.2倍。

 

 マジで主人公やっていた。

 仲間と力を合わせたコンビネーションであった。

 俺が最も不得意な事。

 協力(マルチ)プレイ。

 こいつらは、力を合わせ俺を追い詰め始めていた。

 しかも、ほんの少しの間で急激に成長していた。

 

「殺す気か!?」


「何を今さら!」

 

 完全に目の前の主人公が俺を殺しに来ていた。

 

 ―――剣閃が俺の首元に迫っていた。

 ―――息を呑む。

 ―――思考を研ぎ澄ます。 

 ―――眼球が渇くのを感じた。


 知覚速度、思考速度を極限まで向上させる。

 

 超高速移動(タキオン)

 

 が、範囲攻撃。

 完全に逃げる事ができない。


 高速で自身の身を守るように盾を7枚重ねるように展開した。

 間に合うか!?

 1枚目は、紙のように切断された。

 2枚目は、バターのように切り刻まれる。

 3枚目は、ガラス細工のように砕け散った。

 4枚目は、アルミ缶のように歪曲しながらひしゃげた。

 5枚目は、掘削機に飲み込まれたかのような大きな削り後を残し。

 6枚目で、ようやく、威力を殺す事ができた。


「今の防ぐだと!?」

 驚愕した表情の風音。

 

「ぶっね~な!」

 一息吐こうと、バックステップしながら距離を取っていると。


「!?」

 

「おっさん! よそ見はあかんで!」

 南朋が如意棒により突きを放ったのだ。


「待て待て! やりすぎだろ!?」

 

 俺の退路を塞ぐように真横から壁が迫っていた。

 伸縮自在な如意棒の先端。

 延びる如意棒は巨大に変化し、長く伸びる、

 ただそれだけじゃない。

 南朋の魔法が付与されたそれは螺旋回転する暴風を纏っていた。

 風を纏う遮るモノを切り刻む暴風の渦。

  

 再度。盾をアーツで取り出し、相打ちさせようと展開した瞬間。


「その技はもう見ました」


 システリッサの冷徹な声が響いた。


「え?」


 間抜けな声を上げたのは俺だ。  

 伝達させた魔力のパスを切断された。

 境界魔法により、俺の魔力が断線させられた。


「オイオイ! だから待てって!」

 

 俺は激流の渦に飲み込めれた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 成長速度が異常であった。

 流石主人公御一行様。

「流石だな。それでいい……結局は立場の、立ち位置の、モノの見方の、観点の……違いなんだよな」

 

 瓦礫を吹き飛ばし、俺は血反吐を吐きながら。

 立ち上がった。

 

「今ので倒せていない?」

 システリッサは俺の事を化け物でも見るかのような目線を向けてきた。

 

 変装術が解けかかっていた。

 霧魔法を常時展開し、身体的特徴を誤魔化している余裕はなかった。

 

 血の混じった唾を吐き。

「はぁ……」

 と、大きく息を吐いた。



 なぜこんな事になったのか。


 

 聖騎士№2。時の加速を司る聖騎士の見た目は年端もいかない可憐な少女だ。

 俺はその少女の首を撥ねた。

 殺したのだ。

 そこにたまたま居合わせたのが、なぜかこの場に居た風音パーティー諸君。

 その光景を目撃した彼らは俺を敵と認識したのか、突然交戦が始まったのだ。


「人間の悪い癖だ」

 俺は霧魔法で影を作り出し顔を覆った。


「なんだと?」

 俺を睨みつける風音の顔があった。


 俺はあまりの愚かさに辟易した。

 

「いや、いい。お前のデッドエンドフラグは今ここで掻き消えた。それで良しとしておこう」


「何をわけのわからない事を!」

 親の敵でも見るかのような鋭い眼。

 

 風音パーティー4人からは怒りにも似た感情を感じ取った。


「いや。うむ。それでいい。お前たちは」

 俺は嬉しくなり、気づかれぬようにわずかに微笑んだ


 女子供、老人。見目麗しい女性。

 そういった率先して庇護すべき存在だと思われるモノ。

 それを守ろうという意気込みは買う。

 美しい心意気だ。

 それでこそ正義の主人公だ。

 その生き方は正しい。

 お前たちは正しい。


 だが、綺麗ごとだけでは本当に大事なモノは見えなくなる。

 騙されてはいけない。

 正しさを選択するだけじゃ正解には辿り着けない。

 人生は愚かで汚い選択をしなきゃいけない瞬間が必ず来る。

 それを避けては通れない。

 だが、若人諸君に酷な事はさせないさ。


「聖剣使い。お前に一つ忠告しておいてやる」


 俺は武具の羽を展開した。

 七色の魔術を付与した羽翼は天使の羽のように俺の背後に待機した。


「お前は、いつぞやの」


「死の天使か」

 南朋がボソリと呟いた。


「見た目に騙されてはいけない。

 美しいモノがいつも正しいとは限らない。

 肩書きに騙されてはいけない。

 本質を見失えばいずれ後悔する事になる」


 俺は少しメタ的な発言をすると。

 武器弾幕(エクストラバレット)を雪崩のように風音パーティーの足元に打ち込んだ。


 ・

 ・

 ・


 戦線を離脱した俺は、疲弊していた。身体中ボロボロであった。

 無論、俺は本気を出していない。

 が、彼らは油断できないレベルに到達し始めていた。

 風音パーティーに対してお遊びプレイは今後できないと考えていい。


 この聖騎士共。

 戦乙女。その見た目は麗しい女の姿をしている。

 白皙のような肌をした美しい少女と美女の姿。

 だがその実情はマニアクスの外部端末でしかない。

 

 詰まるところ……人形だ。

 

 クローンでも、ホムンクルスでも、アンドロイドでもない。

 

 文字通り人形。

 

 人の心を植え付けられた傀儡。

 その実は、ただの殺戮マシーン。

 本物とすり替わった、人の姿をした人形(ドール)

 心はある。感情もある。記憶だってある。

 だが、決して救済できない。

 だって、既に死んでいるんだから。


 楽園と言う名のあの世に導く役目を全うする悲しき戦乙女。

 死を振りまく戦乙女(ワルキューレ)達。


「問答になるな。え~っとなんだっけか? スワンプマンの思考実験だったか?」

  

 たとえ、意識があろうとも。

 人の形をしていようとも。

 どれほど可憐な見た目だろうが。


「仮にスワンプマンだろうと……斬らねばならない」


 この世界の風音にはできないと思っていた。

 

 少女を殺す選択を取る事が。

 

 だから聖騎士のマニアクスは俺が落とす予定だった。


 心を揺さぶる戦術。

 女子供を殺せるのか迫る選択肢。

 それを風音達は下せない。

 

 甘ちゃんは少女や美女を仲間にしようとするが、そんな事は実際に出来ない。

 その心の油断、寛容さに付け込むのが、聖騎士のマニアクスの策略。 

 その優しさは大きなスキを生むことになる。

 フィリスルート()は、風音に多くの選択を迫る。

 自身の優しさによって自滅するルート。


「優しいだけじゃ、ダメなんだ。結局はモノの見方の話なんだよなぁ」

 

 悪鬼羅刹だと蔑まれようとも、俺が成すべき事は変わらない。

 

 

 

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