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俳人天内、用事のついでに時間系能力者を蹂躙する



 音魔法……

(なぎ)

 空間から音を奪った。


 周囲を破壊する嵐の轟音が掻き消えた。

 数秒後。

 再び、音が世界に戻って来たかのような錯覚に陥った。


「なぜ時が巻き戻らない!?」

 聖騎士№3の実力者たるカイロスは動揺していた。


「フフフ」

 俺は鷹揚に拍手した。

「時を支配するなぞ、随分と大仰で傲慢な力だ。故に、我が貴様に裁きを与えよう」

 ほくそ笑みながら、霧魔法で幽遠な雰囲気を作り出した。

 

「貴様!? 何者だ」


 問答を開始したにもかかわらず、間髪入れずに光の刺突が飛んで来た。


「あまりにも遅い」


 俺はそれをタキオンで避けると背後を取り、後頭部、脊椎と延髄、その中間地点に回し蹴りを打ち込んだ。骨が砕けるような異音が鳴り、聖騎士の顔面が地面に突き刺さるように頭を踏みつけた。


「名を訊きながらも、名乗らせないとは。アンタ。きっと職場で会話できない奴って思われてたぜ」

 

 俺は踵を返し、本来の目的に戻ろうと。

 勝負が決したかと思われたが。


 声にならない声を出し、血反吐と涎を垂らしながら。

「待てェ! 殺す。お前を。神に選ばれた私が! お前を殺す! 貴様の名を聞こう!」


「へぇ。完全に脳を破壊したつもりだったが。

 そこそこ耐久値はあるか。

 それも指輪の力だろ? 死ぬ前に巻き戻したか? 

 まぁなんでもいいや。お前らの底はある程度熟知している。

 だから精々楽しませてくれよ。かませの時間系能力者くん」


 距離を取り、俺は強者の風格を漂わせる。

 アーツで武器を取り出し、12枚の武具の羽翼を展開させた。

 『お前は誰だ?』と問われれば、いつものようにこう答えるのだ。

 

「我の名は、ファントム。幽谷より馳せ参じたDEATH・エンジェル!」

 

「ふざけた事を!? 時よ! 我が前に!」


「凪!」

 音魔法で音を奪った。

 

 時間逆行。

 ―――不発―――


「お前何をした!?」

 

「斬!」


 刹那。

 動揺するカイロスの首を撥ねる。

 が。まだ、終わってないようだ。


 自身の命の時間を巻き戻すカイロス。

 彼女の首がみるみる接合していく。


「そういや受動(パッシブ)だったか? それ」


 過呼吸になるカイロスは、畏怖の眼で俺を睨んでいた。


「ふむ………面倒だな。指輪か身体、どっちに魂魄が宿っている?」


 俺は時間系能力者と相対していた。

 正直雑魚である。

 時間系能力という一見チート臭い力にかまけ過ぎた戦乙女。

 時の巻き戻しを行う王国聖騎士。

 ゲイブレットの専用装備ノルンの指輪(現在)。

 それの姉妹互換に位置する同名たるノルンの指輪(過去)の所持者。

 聖騎士№2たるノルンの指輪(未来)の所持者も居る訳だが。

 

 どいつもこいつも初見殺しであるが、プレイヤーたる俺が相手の時点で相性最悪であった。


 既に対策を講じている。と言うよりも、知ってるのだ。

 

 そもそも、音魔法"凪"という詠唱破棄系の魔術の前では容易に無効化できてしまう。

 上級以上の範囲重力魔法を展開しておけば、同様に無力化できるし、そもそも攻撃は通らなくなる。加えてデバフ特化の闇魔法や、殺傷力の高い毒魔法や呪術のカウンターに滅法弱い。

 というよりも、発動前に倒してしまえば脅威でもなんでもない。

 

「カイロス。あんた弱いだろ」

 俺はとりあえず煽っておいた。


「なんだと!?」


 咆哮するカイロスに向かって俺は手のひらを見せた。

 3本の剣を右手の手の平、その手前に展開させる。

 3本の大小異なる刃は切っ先をカイロスに向けながら、ドリルのように高速螺旋回転を始めた。

 ギュルギュルと風を飲み込み、水滴を弾きながら嫌な音を立てる。

 

「さぁ。蹂躙の時間だ。一騎削らせて貰うぞ。マニアクス!」


 聖騎士の息を呑む音が響いたような気がした。


 ・

 ・

 ・


 俺はとりあえずちょっぴり攻略を推し進めた。

 たまたま遭遇し、戦闘に巻き込まれた俺は外部端末たるカイロスを破壊しておいた。

 戦闘を終えた俺は夜闇に包まれながら早着替えした。


「一応ファントムスタイルになっておくか」

  

 国際指名手配犯の時の衣装と今回はスタイルが違った。

 俺はファントム衣装を持ってきていなかったのだ。

 

 なので適当に民家に置いてあった服を拝借しておいた。

 その代わりお礼としてケハエールを置いてきた。

 

 そんな俺は工作員モード。

 黒いキャップに黒いブルゾン、黒いパンツという質素なスタイル。

 霧魔法と変装術を使い、顔と体格に偽装処理を行う。

 前世の記憶から引っ張り出したクソ上司の顔を思い浮かべブクブクの太ったおっさんボディに変装する。

 さらに俺は声も音魔法を使いダンディーな声に変声しておく。


 声が変わっているかテストする。

「あー。テス。テス……富、名声、力、この世の全てを手に入れた男……」

 

 おっけだー。

 ダンディーな声になってるわ。

 

 そうこう偽装工作をしながらコソコソしていると。

 人が流されていた。

「おい! アンタ大丈夫か!?」

 俺は地に伏せ項垂れた少女を抱きかかえた。

 

 ・

 ・

 ・


「よっこいしょっ、と。これで何人だ?」

 両手で担いでいた男女をその場に横たわらせた。

 結構な人が瀕死であった。


 横目では用水路から濁流が流れていた。

 地の魔法を駆使し、雨宿りの出来るスペースを無理矢理創造した俺は連絡を再度試みる。


「ハイタカとミミズク応答せよ!」


 雑音が流れるだけであった。

 気象の影響からか、あの2人と連絡がつかないのだ。


「もう、深夜だよ。どうすんだよ。ふざけんなよ」

 と、悪態を吐く。


 はぁ~とため息を吐きながら、横たわる人々に目をやった。

 回収できたアンプルの栓を抜いていく。

 俺はそれを、濁流に飲み込まれ瀕死になっていた人に、花壇に水やりをするようにふりかけていく。

 

「誰も助けないとか、この国の社会保障やばいな。うんこじゃん」

 

 国民が瀕死になっているのに、誰一人目もくれない騎士団(笑)(かっこわら)であった。

 正直ちょっと軽蔑した。

 

「ウ」

 濁流に流されていた総勢37名は混濁した瞳をしている。

 呻き声を上げてはいるが、胸を上下させていた。

 生きているようだ。


「ふむ。じゃあ、この一本は」


 一本だけ俺の頭皮にもかけておいた。

 頭皮が寒いのだ。

 

「さて。市内では何のイベントが起こっているんだ?」 


 一息吐いた俺は状況を整理する事にした。

  

 まず、俺はフィリスの奴を探す為に王国に向かった。

 近海にて文字通り樹海と格闘していた俺は入国するのに予想より大幅に遅れてしまったのだ。

 流出事故を起こしたケハエール。

 辛うじて幾つか回収できた。

 これらを回収するのにやや時間が掛かったのもあるし、荒れた海面な上、視界が全く見えないという状況に、難破船の復興処理も手伝っていた。

 そうこうしているうちに辿り着くのに相当時間が掛かったのだ。


 なんとか辿り着いた俺は衛星からの光弾の射出を停止し、王国に忍び込んだ。

 そして、何やら厳戒態勢が敷かれる市内を避けてスラム街に身を潜めた。

 なぜかと言うと、各地で戦闘が起こっているようなのだ。

 大雨で全く視認出来なかったが、何者かと何者かが激戦を交わしていた。

 強チンピラ集団と衛兵が衝突しているようなのだ。

 そのせいで、チンピラに間違われた俺はカイロスと交戦する事になった。

 全く迷惑な話である。


 スラムでは、濁流に流され瀕死の人々が沢山居た。

 その人達を拾い上げていたら既に深夜になっていた。

 それが現在。

 

「何やら戦闘が行われているが、参戦は……しない方がいいよな」


 今、参戦しない事が決定した。


 俺はフィリスを探しに来ただけなのだから。

 とりあえず、先にフィリスの口を封じなければならない。

 攻略はその後だ。


 俺はアイツに『俺は犯人でない!』と言いに来ただけ。


「まぁ犯人だけど……それはどうでもいい!」


 とりあえず、菓子折りはないが、俺のお気に入りのブランド品のオシャレアイテムを献上する事で何とか口を封じといて貰えないか直談判しに行くのだ。

 アイツの趣味だと思われるBL本も間もなく購買に大量に入荷する予定だ。

 なんなら年間書籍購入フリーパス券もおまけで付けておく。

 それでもダメなら土下座もするし、靴だって舐める覚悟だ。


「プライドを、便所に流して、幾星霜」

 

 フッと自嘲しながら俳句を詠んでみた。


「一体どこに居るんだ? もう遅いかもしれんが……」

 脳裏に過るのは既に被害届が受理されてしまっている可能性。

 

「その場合は取り下げさせるしかないな」


 冷や汗が流れた。

 

「裁判はごめんだ。司法判断。その技は俺に効く」


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