信頼できない語り手
/3人称視点/
終末の4騎士。
そのどれもが戦略級を超える災害級の化け物。
どれもが曲者揃い。
物理的に。
精神的に。
この世界に審判を下す代行者。
災害を以って人類に裁きを与える強大な権能を与えられた怪物達。
根絶者は千年前、この世界に顕現した。
それ以外の4騎士は確認されていない。
「狂気に侵された狂人の戯言を信じてはいけない。
狂人ほど自身の事を正常であると認識している」
自分は正常だと宣う狂人。
その視点から語られる物語は得てして信頼できない語り手となる。
「場を引っ掻き回す事を楽しんでいるイカレた怪物。
お前は本当に顕現しているのか? 狂乱者」
王国聖騎士筆頭のマニアクス:ベイバロンは来るべき災害を迎え撃つ為に13の武具の封印を解除していく。
(傀儡たる失地王ピクセルは未来を見通す力を有している。
あの愚王の力は本物だ。信憑性は大いにある)
大豪雨が起こり始めていた。
「この嵐すらもお前の為に用意された舞台なのだろうな」
マニアクスは警戒していた。
狂乱者というイレギュラーを。
本当に顕現しているならば、という条件付きであるが。
魔人にとって終末の騎士は劇薬なのだ。
危険な兵器に近い。
取り扱いを間違えば、己が食い殺される。
(狂乱者がマニアクスを潰し、人類側に付くという狂った行動を取っているのならば、あれは紛れもなく我々にとっても巨大な障害となる)
狂乱者と呼ばれる、天の申し子が魔人の策略を掻き回し続けているのではないかと。
この星を壊す病巣たる人類。
何も還元せず消費し、破壊し尽くす悪たる人という種を滅亡させ、惑星を延命させる装置。
この星を存続させる役目を持った死の天使。
その狂人が人類側に付いているのではないかと。
本来ならあり得ない事だ。
『だが、狂人の思考回路など理解できない』のだと理知的な魔人は考えを巡らす。
「邪魔立てするなら消えて貰う必要があるな」
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プライベートジェットの中であった。
ジュード・イライザはゲイブレット討伐後の風音パーティーと共に、間を置かずにグリーンウッドに来訪しようとしていた。
ジュードは聖剣所持者である風音と聖女システリッサになぜこの国に同行を頼んだのかを語り始めた。
「まず初めに、争いを引き起こそうと画策する者が魔人以外にも存在するんじゃないのか、と僕は考えている」
「国……とかですか?」
システリッサは不安そうな顔を作り尋ねる。
「ああ。それもあるね。でも僕が言いたいのは、国家を裏から糸を引く者が居ると考えている。しかも個人で」
「それが……マニアクスじゃないんですか?」
「……だと、思っていた」
ジュードは人差し指でこめかみを突き、思いつめた顔を作る。
「どういう事です?」
「おかしいと思わないか?
確かにテロリストたるマニアクスは国家の中枢に入り込んでいる。
人類に対して殲滅戦を仕掛ける為に言葉巧みに国の要人を騙している。
もしかしたら、洗脳を行っているのかもしれない。
だが……本当にそれだけで、国家を動かせると思うかい?」
「話が見えてこないんですが?」
「風音くん。これはね。人類側にもマニアクスに加担している者が居ないと成り立たないんだよ」
「マニアクス、魔人と知りながら、しかも多くの人が死ぬと分かりながら手助けしている人間が居るって事ですか?」
ジュードは『そうだ』と頷くと続けた。
「国のトップ、しかもトップダウン式で皇帝が絶大な権勢を振るうガリア帝国ならいざ知らず。
成熟した国家体系を持つ現代では個で動く魔人の画策だけでは確実に限界が来る。
国の内外で僕や君達のように反逆する者が必ず出てくるからね。
魔人に簡単に騙されるほど人間も馬鹿じゃない。
なぜなら僕ら人類は一度魔人と戦っている。
初めてならいざ知らず、僕らは千年の時を経て学んでいる」
「人の側に裏切り者が居る。確かにそう考えれば自然ですね。
しかし一体何の為に? まるで自傷行為ではありませんか?」
「目的は不明だ。マニアクスと共に人類を殺し尽くした先に何を成そうとしているのか。さっぱりだ」
ジュードは肩をすくめた。
「そうですか……それで。その人物の検討はついているんですか?」
システリッサは神妙な面持ちであった。
「おおよそね。マホロの地で時を止めたゲイブレッド。
奴の仕組んだループした夏を過ごした君達と僕ならその想像がつくんじゃないか? あの宝具。ノルンの指輪。あれの出自」
「なるほど。それで、グリーンウッド。ですか」
「王国の聖騎士には特別な力が宿る武具が与えられる。ゲイブレットの所持していたのは、その中の一つなんじゃないかと。白金の装飾はグリーンウッドの聖騎士のそれと類似していた」
(それだけじゃないけどね)
ジュードは、以前戦闘を行った左右異なる特徴的な色彩の眼を持つ者が脳裏に過った。
恐るべき魔術と武術の使い手。
命からがら逃げる事ができた相手の事を思い浮かべていた。
(あの片目、あれは失地王ピクセルの持つ眼に非常に似ていた)
「この世界の裏側で暗躍する者達は強大な力を保有している。
戦略級を超える災害級の存在。
それは魔人だけではないって事さ。
そいつがグリーンウッドに潜んでいる可能性がある。
だから君達に同行を頼んだんだ。
最悪、彼の地で決戦になるかもしれない。
裏切り者の蛮行を食い止める為に。
だから力を貸してくれないか?」
「は、はぁ」
風音は不承不承と言った顔をして納得していた。
「終末の騎士かもな」
聖剣プルガシオンは剣の形態のまま話に割って入る。
「終末の騎士? 随分と飛躍したね。なぜそんな話になるんだい?」
ジュードは不思議そうな顔をした。
「察しが悪いな色男。以前にも話した通り、終末の騎士は4騎居るんだぜ。
まぁ最後に現れる黒き太陽も含めれば5騎になるが。
そいつらの仕業かもしれないじゃないか」
ジュードは一度、眉間に皺を寄せて目を瞑り呼吸を整えた。
「……聖剣プルガシオン。君は、どれほどの情報を掴んでいる?」
「根絶者の事なら語れるな。それ以外は観測機で演算された、あくまで予測しか話せないが」
「そうか。掴んでいる情報だけでいい。その4騎士の特徴、どのような存在なのか、能力。そして……この中で最も危険なのはなんだ?」
「なんだよ。随分乗り気だな。今は人でありながら、人を裏切った奴を探して叩くんじゃなかったのか?」
「それもそうだが。知っておくに越したことはないって話さ」
「あっそ」
プルガシオンは人の姿に擬態すると、行儀悪く膝を立てながら座席に腰掛けた。