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戦略級魔術師  花の魔術


/フィリス視点/


 夕暮れ時であった。

 私は学園の裏にある荒地を見て声を失った。

 

 つい数日前、ここを訪れた時は一面荒廃していた。

 それが今や花畑になっていたのだ。

 まるで幻でも見ているかのような光景に言葉を失ったのだ。


 瑞々しく咲き誇る花々。

 赤、青、黄、白、紫……数え上げればキリがないほどの花々が咲き誇っていた。

 小さいスペースだとか言っていたが、目に映る光景全てが緑に満ちていた。

 一面、薄黄土色(アイボリー)だったその場所は、今や草花が芽吹いていた。

 土壌は茶色く水分を適度に含んでいる。 

 花が咲き誇り、様々な虫が飛び交う。

 

 死の大地であった場所は、生命の息吹に満ち満ちていたのだ。 


 花を伝う水滴が夕陽を乱反射すると。


「綺麗だ」

 ポツリと声が出た。


 写真で見た事のあるアメリクスの美しい自然の風景かと思うほどにあまりにも美しかった。

 

「なんだよ。これ。アイツ……何をしたんだ。実験は成功した、みたいな事を言ってたが」


 天内の奴が勝手に園芸部に入って来た。

 アイツ目当てで、入部者は殺到しその対応で忙殺されていた。

 それがひと段落し、アイツの言っていた虚言の真意を知りたくここを訪れた。


 そして目に入ってきたのは。

 

 嘘が誠になっていた。

 

「本当だったのか?」

 

 ・

 ・

 ・

 

 --時は少し遡る--


「散財ィッ!」


 キメ台詞が出てしまった。

 この学園の生徒から毟り取った……

 否。

 貿易摩擦により稼いだ外貨を元手に俺は資本ゲームに参入を果たすべく一旗揚げようとしていた。


「グリーン汁王子の誕生は近いぜ」


 TDR・エクスプレスから非合法ルートでコンテナが届いた。

 学園の監視に見つからぬように、辺りに無音の魔法と霧魔法を散布し偽装工作を施した上で、夜の湾港で密輸作業が行われていた。

 俺宛の荷物……貨物の荷揚げ作業を秘密裏に行う。

 全身黒服の作業着の男共が、夜の闇に潜みながら荷物を下していく。


 貨物は5つに及ぶ。

 中には武器一式が入っている貨物もあるし、植物の種子が入っているモノなど様々だ。

 もはや違法な業者であった。


 俺は、その中の一つの貨物を開けると一言呟いた。


「マジックキノコ栽培をする前に、まずは土壌を肥やさねばな」 


 俺は大量の一年草、多年草、宿根草、様々な種を密輸したのであった。

 それだけでなく、肥料や土、なんなら大量の土壌動物である分解者や養蜂セットも密輸した。


 合法なのかは知らん。多分ヤバい部分もある。

 外来種を輸入しているのだから。

 なので、非合法で密輸しているのだ。

 もはや俺はグリーンウッドの生態系を破壊する侵略者(インベーダー)である。

 

「グリーン汁王子になるには、仕方がない事なのだ。破壊と再生は紙一重なのだから」


 この種子は特別製。

 俺には森守まつりという超級魔術師とのパイプがある。

 コネをフル活用したのだ。


「たまたま手に入れたコネだけど……まぁそこはいい」


 使えるモノは使っておくのだ。

 世界最高峰の植物魔術の使い手に魔術を付与してもらった万国様々な種と栄養たっぷりな土。

 この種子。塩害被害に遭っている死んだ土地でも急成長するし、なんなら種を海水に浸しても草花を咲かす。

 そんな代物である。


 荷揚げされた貨物を運搬し、岸壁の空洞に隠すと既に朝日が昇り始めていた。


 俺はその足で、学園裏手の荒れ地に赴くと。


武器弾幕(エクストラバレット)小並み」


 学園の荒れた地面を武器弾幕で吹き飛ばし、雑に耕す。

 足元の土を手に取ると、白っぽく、パサつき、固い。


 素人目でも水分もなければ、栄養素すらないように見えた。 

 そもそも分解者すらも居ないのだ。

 

 雑に吹き飛ばした、土壌に種を蒔いていく。

 俺は水魔法を展開し人間噴水ショーを披露し、種を蒔いた土を濡らしていく。

 すると驚くべき事に、蒔いた直後から発芽したのだ。


 辺りに緑が散見し始める。

 高速再生映像のように、発芽すると緑が生まれていく。


「す、すげぇ」 


 感動した。


「というか……まつりに直で来てもらう方が早そうだな。呼ぶか……」


 森守まつりを呼ぼうと思う。

 戦略級魔術師である森臨魔法の使い手。

 彼女が本気を出せば、ジャングルを一晩で作り出せてしまうのだから。 


「嘘で釣るか」


 携帯でまつりの連絡先を探し出すと通話を始めた。


「あ。先輩? 届きましたよ。これ、凄いっすね……流石っスわ。

 天才すぎた。マジで尊敬した。神だわ……

 美人でおしゃれで天才の先輩。よ! ヒノモトイチ!」


 とりあえずおだてておく。

 そして気分を良くするのだ。

 タイミングを見誤るなよ。

 ここぞというタイミングでお願いするのだ。


 ケラケラと笑うまつりの声が通話越しに聞こえる。

 

 ここだ!


「あの~毎回頼んで申し訳ないんすが、もう一回いいっすか? 

 まだマホロって夏休みですよね? そこで相談なんすけど。

 お世話になった尊敬すべき先輩を南国のバカンスにご招待したいな、と思いましてね」


 俺はギャルがオタクに優しいのか、という今世紀最大の命題を解こうとしていた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 俺は花畑プロトタイプの出来が気になっていた。

 朝早く寮から抜け出した。

 人間噴水ショーで水やりに出向く為に。


 俺は声が出なくなった。

 変な汗がじんわりと浮かんできた。


 昨日、俺が知る光景と全く様相が異なっていた為だ……


「ジャングルになっているだと!? ど、どうしよう」

 

 完全に生態系が崩壊していた。


 俺が最後に見た光景は、まだ花も咲いていなかった。

 緑色一色の芝生みたいな光景だった。

 テニスコートぐらいのスペースに種を蒔いただけだったのだ。


 それがたった一晩で何年も経過したみたいに、鬱蒼とした森林と花畑が出来ていた。

 それが海岸線まで広がっていた。

 ほんの少しのスペースだったはずが、この孤島の敷地の3分の1がジャングルになっていたのだ。

 

「す、すまん」


 誰に対してかわからないが謝っておいた。

 気分が悪くなってきた。

 

「お、落ち着け俺。挿し木なんて輸入してないはずだが……」


 考えられるのは、まつりの魔法以外考えられない。

 一瞬で木を創出してしまうぶっ飛んだ魔法だ。

 アレを付与した種子と土が原因としか考えられない。

 

「ま、まずいぞ。学園の裏手をジャングルにした犯人が俺だとわかれば」


 た、退学???


「また退学になるのか? そんな訳ないよな?」


 俺は退学処分に敏感になっていた。

 一度ある事は、二度目もありそうな予感が頭を過る。

 

「クソ!? フィリスに口を滑らしちまった」


 昨日、実験は成功したと言ってしまった。

 アイツにチクられれば、大丈夫かもしれないし、ヤバいかもしれない。

 わからない。

 俺はこの学園で超優等生にならねばならない。

 泥を一つでも被ったらダメなのだ。

 

「ここまでの規模で学園の敷地を無断改変したとバレれば……ヤバいぞ。1日で3割以上緑化出来てしまうとすれば……三日でこの孤島は……」


 ジャングルになってしまう。


 俺は頭を抱えた。

  

「アイツの口を封じねば」


 

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