舞台裏は大忙し
古今東西、夏はイベントに満ち溢れている。
大抵のハーレム主人公諸君は、なぜかわからないが、水着イベントやお祭りイベント、デートイベントを経るのだ。
そういうお決まりなのだ。
たとえ危機的状況が迫っていようとも、箸休め回として製作者がねじ込んでくる。
運命、宿命と言っても過言ではないご都合があるのだ。
そっちの方が数字が取れるからという、プロデューサー的な黒幕の意図もあるのかもしれないし、ネットやアンケート的な声があるのかもしれない。
何が言いたいかと言うと。
主人公が夏のお色気イベントを満喫している間に、舞台裏は大忙しなのだ。
主人公御一行以外は舞台裏を忙しなく動き回っている。
例えばだ。
敵の幹部達が円卓で会議をしていたり。
インテリ風の黒幕が眼鏡を輝かせていたり。
幽谷の谷で謎の鼓動が胎動していたり。
敵さんは、大抵ほのぼのイベントの舞台裏で仕事をしている。
そして、そんな舞台裏の舞台裏でさらに暗躍するのが俺だ。
敵が謎の会議をしていれば、監視し情報収集をするし。
インテリ風の黒幕が眼鏡を輝かせた直後に暗殺もする。
幽谷の谷で謎の鼓動が胎動するよりも前に、渓谷に発破処理をする。
さながら。
敵がカードを山札から引く前に、山札を燃やしてしまうかのように。
盤上に駒を出す前に、駒を摘まむ指を叩き折ってしまうかのように。
それが舞台裏の舞台裏を駆け抜けるファントム暗躍計画の真骨頂。
俺は卑劣な戦い方を好むのだ。
合理的に物語を破壊する卑劣戦法。
先手の先手を打ち過ぎて、試合会場前日に試合会場を爆破しているようなものなのだ。
涙目ザマァである。
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幾つかの報告を受けると。
「引き続きオペレーションを続行しろ」
『御意』
「では、頼んだ」
締め括ると、通信を切った。
俺の創設したファントムパーティーは物語本編の舞台裏を駆け回る黒子達。
決して日の当たらぬ日陰者達。
彼らには決戦前の情報収集を主に任せている。
情報は力だから。
俺の知るメガシュヴァの知識では補完出来ない現時点での各国の情勢を調べさせているのだ。
俺がマホロを旅立つ時に、影の会合を行った。
そこで、それぞれにタスクを与えたのだ。
カッコウは何でも屋であり、基本的にマホロに残り、主人公達の監視と影から手助けをしている。
俺がするはずの役目を遂行してくれている。
雲雀は神聖ガリアに、翡翠には海洋国家アトランティスへ、それぞれの潜入調査を任せている。
最後にハイタカとミミズクは俺のサポートととして連れてきている。
彼ら2人には王国にて旅の者を装わせ、宮廷へ隠密として派遣させているのだ。
最後に。
天空に魔法陣を描く作業中ではあるが、もはやこのファンタジー世界ではインチキになってしまう俺専用のチートがある。
インチキを付与した黒騎士衛星による超高度からの監視の目。
ブラックナイト・サテライトは彗星機構を付与してある。
戦闘能力を持つ機械生命体。
コラボキャラ彗星機構:ケテル。
こいつは俺がたまたま手に入れた衛星と合体しているのだ。
一度のターンで召喚回数に制限がある代物であるが、世界のどこからでも召喚可能のシステムになっている。
「ファンタジー世界の強者共……お前らは既に包囲されいている。ククク。アッハッハッハ」
俺個人の実力は既にカンスト済かもしれない。
俺自身の個人の実力の底は、既に見えているのだ。
しかし!
夏イベと組織の力を総合すると、もはや俺のレアリティは上限を突破してるんじゃないだろうか、とすら思えてくる。
「もう一押しだな。わかりきって事だが。
組織だって、未来予知に近い先手を打ったり。
剣と魔法で戦う世界観に、宇宙からのSF攻撃を画策したり。
何と言っても。
敵の手札を見ながらゲームをしているようなものだ。
なんなら次の一手、いや山札の中身、次に来るカードの順番すらわかっているようなもの。
俺の手札は既に揃いつつある。
それでも油断しない。
全ルートのボスが出るというイレギュラー、そして懸念すべき魔眼使いが居るならばこそ。
盤面を整地し、切るべきカードのタイミングを見誤らなければ、この難易度の高いメガシュヴァの世界をノーコンティニューでクリアという快挙を果たす事が出来る」
未知が存在している以上慢心はしない。
「そろそろ。王国に潜入し、マニアクス狩りに赴きたい。ケテルによる天空からの攻撃とハイタカとミミズクと組めば、勝てると思うが」
決して100パーセントではない。
「天候操作によるバフがある以上、フィリスの蒼穹があれば、より確実に勝てるんだがなぁ」
頭を掻きながら唸った。
「アイツを仲間に引き入れるのは不可能そうだし……」
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園芸部に顔を出すと、そこには見た事のない顔が多数あった。
小さな部室には納まり切らず、人でごった返していた。
「こんちわー」
俺は頭を下げながら人混みを掻き分けると。
フィリスと眼が合った。
「おい。天内。ちょっとこっちに来い!」
「お、おう」
フィリスが額に青筋を立てながら俺を手招きし廊下に連れ出すと、人目の付かない場所まで連行された。
「こんなに部員が居たのか。大盛況だな。ちっこい部室なのに」
「皮肉で言ってるんだよな?」
「皮肉?」
「園芸部など、不人気もいい部活だ」
「そうなのか? 滅茶苦茶部員居るじゃん」
「さっき入部した」
「へぇ。珍しい事があるもんだ」
「お前、わざと言ってるんだよな?」
「どゆこと?」
話が全く見えてこないんだけど。
「そもそも園芸部は、私しか居なかった。私の趣味の延長でしかなかった部活だからだ」
「ふ~ん。部員増えて良かったじゃん」
「それは、まぁ……違う! 今はそこじゃない!」
「なんだよ。忙しい奴だな」
「原因はお前だよ! お前なんだよ! お前が入ったからだよ! お前がこの学校に来てから無茶苦茶だよ! あの静かで荘厳なヘッジメイズを返してくれ!」
フィリスは頭を掻きむしりながらヒステリーを起こしそうになっていた。
「俺ぇ? ま、まぁ落ち着きなよ」
「うるさい! お前が来てから、この学校はおかしくなり始めてるんだよ!
食堂はスイーツ祭りで大騒ぎ。
勝手に布教した外国の娯楽物が横行し堕落する者の続出。
なんだBLってふざけるな!
いや、まぁあれは文学だから許すが……
違う!
それ以外にも、小テストの予想解答集ってなんだ!?
販売元がお前じゃないか!?
なぜこんな物が購買で売られている!?
年間書籍ランキング1位になっていたぞ!
静かな学校が俗っぽくなってるんだよ!」
「お、おう。すまん。金に困っていてな」
「すまんで済んだら衛兵は要らんのだ! 挙句の果てに、私の癒しの部活動にまで土足で踏み込んできて、私への嫌がらせだろ!」
「まぁまぁ」
凄い剣幕だ。
どうしよう。
「フィリスさんよ、俺はちゃんと園芸部をやりたいからここに入ったんだ」
「ふざけるな!」
「俺は花畑を作りたいんだ」
「そんな事が出来る訳ないだろう! そんな夢物語を語るお前は何より腹が立つ!」
「じ、実験は成功しているんだ」
「うるさい!」
ダメだ。もう話を出来る状態じゃない。
今日は帰るしかない。一日時間を置けば怒りも納まるだろう。
何に怒ってるのか知らんけど。
「学園の裏手に小さいスペースだが、俺の研究成果が」
「うるさい! うるさい!」
地団駄を踏み、髪の毛を逆立たせていた。
「わかった。わかった。今日はもう帰るわ」
「帰れ! 二度と来るなよ!」
「へいへい」
まぁ行くけど。