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奇人体験! アマチアンビリバボー


/3人称視点/


 それは天内が決闘を申し込まれた後の話であった。


 フィリスはあの変人の奇行に開いた口が塞がらなかった。

 多くの者は天内の脅威の実力で目が曇っていた。

 が! フィリスのみがあの男の奇行に眉を顰め続けていた。


「アイツは単なる変態だ」


 それがフィリスが出した総評だ。

 傲慢なのでなく、単なるアホなのであった。

 そう評価した。


「頭が悪すぎるんだ。というか変人だ」


 彼女は奇人の奇行を目の当たりにする機会が多かった。

 それは偶然か必然か。

 単なる星の巡り合わせだったのか、それは誰にもわからない……。


 ・

 ・

 ・


「天内さん! わ、私と、お付き合いをお願いします!」

 

 フィリスは、天内が見知らぬ生徒から告白されている現場にたまたま遭遇してしまったのだ。


(私は見てはいけないものを見ているのか? まずい。隠れなければ……このままゆっくりと去らねば)

 息を潜めて、後ずさる。

  

「脳の電気信号の話を知っているだろうか?」

 天内はイエスでもノーでも、はたまた沈黙でもなく、謎の返答をしたのだ。


「は?」

 息を潜めながら咄嗟に声を出したのはフィリスであった。


「え?」

 困惑した言葉を発する女生徒。


「まず、俺は人が人を好きになるという感情について、ロマンチックな要素は一個もないと考えている。ネット情報によると、人が好意を抱くのは、科学的にドーパミンとか電気信号が関係してるらしいよ」


(何を言ってるんだアイツは?)


「ど、どういう事でしょうか?」


「うむ。まず、人の感情というのは電気信号と化学物質の分泌でしかない。それはわかるよね?」


「えっと、よくわかりません」


「まぁ落ち着きなよ」

 天内は女生徒を窘めるように手の平を見せて制止を促すポーズを取った。


(落ち着くのはお前の頭の方だろ。全然脈絡ないぞ。会話すら成り立っていない。しかも誰も動揺なんてしてない。アイツは誰に諭してるんだ。馬鹿なのか? 1人で喋ってるだけじゃないか)


「え。ええ」

 両目にハテナマークを浮かべた少女が天内を凝視していた。


 おほん、と天内は咳払いすると。

「まず、何らかの感情が発生したとしよう。

 この時、俺達の脳内では、電気信号が脳みそを駆け巡って、脳内麻薬を出しているんだ。

 それが感情と呼ばれるモノの発露だが。

 俺達は情緒的に、または文学的に、その分泌物質を喜びや悲しみといった言葉に変換しているよね? 感情については自然科学で証明されているよね?」

 

「は、はぁ」


(頭が痛くなってきた……気持ちの悪い講釈を)


「電気信号が腹側被蓋野(ふくそくひがいや)に作用し、活性化するとドーパミンが分泌されるんだって。そうすると人は好意を抱くらしいよ」


「は、博識ですね。天内さん」


「そんな事はないさ。ネットの海を航海していると、変な雑学を見聞(みき)きするだけ。それはおいといて。感情なんてものは君は幻想だと思わないかい? 人が人に好意や嫌悪を抱くのも電気信号と脳内麻薬でしかないんだ。つまり脳の錯覚なんだ」


「えっと」


(さっぱりわからない理屈なんだが。適当に理屈をこねくり回してるだけじゃないか)


「君のその感情は、脳の錯覚という事だね。脳の錯覚だから一度落ち着きなよって事。じゃあね」

 

(じゃあね? だと!? 話が突然終わったぞ! なんだアイツ。気持ち悪ッ!)

 

 天内は颯爽と手を上げて去って行った。


「あの~」

 天内の後ろ姿を見ながら呆然と立ち尽くす少女はあんぐりしたままであった。



 ―――またある時はこうだった。



「なんだブツブツと」

 フィリスは天内の事など全く興味はなかったが、聞き耳を立ててみると、奇妙な事を呟いていた。


 アイツは孤独であるにも関わらず常にニヤケ面で携帯片手にどこかしらに連絡を取っているようなのだ。1人ブツブツと電波の届かないはずのこの島にも関わらずだ。

 それにパソコン片手に何やらプログラムを組んでいるのだ。


「チ! しけてんな! このオンラインカジノもイカサマの温床じゃねーか。

 これじゃあ大損だ! サイバー攻撃で報復だ! ……なんだこれ? 

 王国のプロバイダー……こいつがクソでしかないのはわかっていたが。

 なんだこの不自然なアクセス制限は? 

 これがトラフィックをおかしくさせてる原因か! 死ね死ね死ね! 

 ふざけやがって! 俺の前では無駄ぁ!」

 

 エンターキーを思い切り叩いていた。


「なにをわけのわからん事を」


 俗っぽい発言をたまに1人でパソコンの画面に向かって呻いているのだ。


 ―――


 それだけではなかった。

 フィリスの前に、天内は突然現れたのだ。

 フィリスが属する園芸部の部員として。

 

「なんであんたがここに居る?」


「なんで? 入部するからに決まってるじゃん。というか……フィリス……さんって園芸部だったのか」


「そうだが? 初めに私の質問に答えろ。お前はなぜここに居る? 何しに来た?」

 

「幸せの花を……咲かせに来たのさ。フッ」


(ここにある珍しい植物を拝借……いや、共同研究してマジックキノコを大量生産してやる。

 そうすれば俺は億万長者だ。時代はアグリカルチャー! 

 成金は植物に金を使うし、レア植物は高値で取引される。

 ここで更なるビジネスプランを練る。 

 攻略の合間に金を稼ぐ努力を惜しない。

 ここは金脈。まだ見ぬ金塊が眠る地。

 俺の持つ流通ルートを駆使してこの国もWin、俺もWin。

 勝ったぜ。俺はグリーン汁王子としてメディアに取り上げられる事になるだろう)


「薄気味の悪い笑みだ。とっとと出て行け」


「嫌だね」


「何を企んでいる」


「俺はグリーン汁王子になる事にしたんだ」


「答えになってないが。そもそもお前、こんな所で油を売っていていいのか? 明日は先輩方と決闘だろう?」


「それが?」 


「は?」

 フィリスはまるで何とも思ってないかのような顔に呆気に取られた。


「土と日光か……この国の土の栄養素はどうなっているのか調べる必要があるな。特に土。なぜこんなに発育が悪いんだ?」


「おい! 勝手に備品に触るなよ」


「決闘だっけ? まぁどっちでもいいんだよね。負けても勝っても、俺は調査したいだけだし」


 天内は使えないはずのパソコンを開き、この国の日照記録や雨量のデータを眺めながら。

「この国。やはり特殊な雨が降っているのか? 単純に雨量にも問題があるし、日照不足も何とかせねば。攻略を推し進める必要がある。グリーン汁王子への道のりの踏み台になって貰うぞ。ククク」


「おい! 人の話を聞け!」


「ん? ああ。聞いてる聞いてる。あそこに。入部届け。あっこに志望理由は書いてある。んじゃよろしくね! 俺は忙しいので。少し土を調べに行ってくるわ」

 

 天内はそんな言葉を残し、部室を飛び出していった。


「話が噛み合わない……」

 

 フィリスは頭を掻きながら、天内の入部届を手に取った。


 ~~~~

 志望動機:

 この国を花畑に変える。

 ~~~


 天内の文字は読めるか読めないかわからないぐらい汚い字で殴り書きしてあった。


 フィリスは大きくため息を吐き悲しそうな顔をすると。

「そんな事が出来る訳がないだろう。この国の土地は死に向かっているのだから」

 

 恵みの雨でなく、死の雨が降る。

 津波のように降り続ける大豪雨が再びやって来る。

 それは人も植物も洗い流す激流の渦となる。

 この国の土地は既にやせ細っていた。

 南国であり、気候も気温も申し分ないにも関わらずこの国は緩やかに死に向かっている。


「奇人の考える事はさっぱりわからない」




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