福音を鳴らせ 『ブラックナイト・サテライト』
「人工衛星をポイントにして魔法陣を作ればいいんじゃね?」
天才科学者俺は、適当な事を思いついてしまったのだ。
「衛星を使って、星座みたいに線を天空に描けば巨大な魔法陣作れるくね?」
魔法陣の大きさは魔術範囲、威力のデカさを意味している。
それを人工的に作ってしまうのだ。
テクノロジーと魔術の融合である。
これで"歩く核兵器マン俺"が爆誕するのだ。
「あ、もう勝ったわ。攻略の道筋見えますた。
インフレパネェ。全てを置き去りにしたわ。
その手があったか、だわ。脱帽した。自分自身に脱帽したわ」
どれほどの強者であろうと惑星外からの攻撃、天の攻撃を防ぐ事など不可能。
「やっぱ俺、天才だったか~。こう何て言うのかな、
高度500キロメートルから術式展開! みたいな。
当たり判定がデカすぎて特大威力に変化する決戦術式。
神様超えちゃいましたわ。人類の叡智を以ってそろそろ打ち滅ぼすか。
問題はエネルギーだな。どこからかき集めるか……太陽とかか?」
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夜風に当たりながら、俺はこの世界の迎えるべきエンディングの道筋を夢想していた。
終末の回避プラン。
「全ての能力を天に還す事。これしかないな」
プログラムを頭の中で思い描く。
天に精密な魔法陣を描くには緻密な計算が必要だ。
縦横無尽に動き、ある魔法陣を天空に描くには2つの彗星機構を付与する必要があった。
マイ人工衛星、名付けて黒騎士衛星は今も高度500キロメートル以上で浮遊しながら太陽エネルギーを魔力に変換している。
俺の手元に、夏イベ産のアイテムは光剣しかない。
この星に仕組むカラクリ。
"オルバースの背理"。
終末の騎士を除く、魔法陣内の任意の対象すべての能力の完全封印。
理外からの幻想破棄。
一度きりしか使えない使い捨ての夏イベ能力。
本来は一回の戦闘にしか使えない切り札。
これを惑星規模で使い切る。
この力によりこの惑星の法則を塗り替える。
全世界規模での超常の異能との決別の刻の実現。
異次元の幻想との決別によって、この惑星を一段階進化させる。
最後に俺が地獄の門の内側から鍵を掛け、主人公が外側から地獄の門を壊せば、この世界は救済される……はずだ。
魔法もダンジョンもない世界になるが、それでもこの世界の人間なら何とか出来ると信じている。
「終焉の幕開けだな。おまけで、低位であるが精神魔法を全世界規模に付与すれば、魔法の存在しなかった歴史に改竄できる。それで、全ての仕事は終わりだ」
俺が考えるこの世界を何とか存続させる方法。
ボス共の討伐。
幻想との決別。
ダンジョンを閉じる事。
何より星のシステムそのものに変革の鐘を鳴らす事。
メガシュヴァになかった有り得ざる最後のルート。
魔力を宿す生きとし生けるモノの全能力、全権能の剥奪。
全ての幻想との決別。
魔法のない世界への回帰。
「夢のない世界にはなるが、それでいいのかもしれないな」
この世界は、俺の元居た世界のようになるだろう。
魔法もスキルもダンジョンもない世界に。
それでいいのだ。
それしか終末を回避できない。
多くの幻想と別れを告げる。
天使も悪魔も魔法もない世界になる。
正確には、この世界に存在が顕現できない、干渉できない世界になる。
1次元世界の形を引き上げる。
人は人として生きていく。
「俺が福音を鳴らそうじゃないか。
これは異能との決別。
人は魔法やスキルなどといった幻想と決別しなくてはいけない。
己の脚で立ち、己が拳と叡智によって苦難や逆境を乗り越え、人の時代を歩まなくてはいけない。
そこに幻想からの邪魔立ては俺が許さない。幻想からの横やりは薙ぎ払う。
それに……黄泉からの異邦人は、この世界には不要。フフフ。俺の勝ちだ」
海原の向こう側にあるだろうグリーンウッド王国を眺めて微笑んでみた。
早めに勝利宣言もしておく。
かっこいいので。