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暗黒微笑


/3人称視点/


 グリーンウッド王国は海洋資源も乏しく、同時に技術大国でもない。

 この国は貧しく、同時に一定周期で大災害の暴風雨が絶え間なく襲う。

 歴史は長いが衰退し続けるエルフや獣人の闊歩する国家だ。

 

 主要大国に見劣りするグリーンウッドには裏の顔があった。

 

 主な外貨獲得手段が"奴隷"の輸出であり、この国の貴人はそれを良しとしている点だろう。

 エルフは見た目が若く、歳をとるのが遅い為、性奴隷として商品価値が高い。

 獣人は身体が丈夫であり、乱暴に扱っても問題がない。彼らは戦争・労働奴隷としての商品価値が高い。 


 貧しい家庭の者から税の徴収という名目で身売りされていくが、積極的に自身の子を身売りする親が多いというのが実情だ。


 貧困層の収入源、それは売春。情事を避妊をせず、誰の子かわからない子供を無秩序に産み落とす。

 彼らは生まれた子供を国家に売り生計を立てる。

 

 それがこの国の抱える病巣であり、病理だ。

 

 奴隷……言葉を変えるならば、人の形をした道具。

 道具の主な輸出先は、帝国、海洋国家。


 古くから行われ続けた国民に対する欺瞞と搾取。

 王国上層部が秘密裏に開発したゲノム編集を引き起こす予防接種。

 これがこの国の国民には義務付けられている。

 作為的に行われるゲノム編集による影響からグリーンウッドは"女性の出生率"が非常に高い。

 女の方が繁殖の道具として優秀であり、同時に市場価値が高いから。

 

 この国を支配するマニアクスが築き上げたシステム。

 時に性のはけ口として。

 時に戦争の道具として。

 時に人体実験の材料として。

 

 消費され続ける人的資源を生産する事。

 グリーンウッド王国とは、道具としての人間を生産する工場。

 赤ちゃん工場(ベイビーファクトリー)の役割を担っていた。


 ・

 ・

 ・

 

 ヘッジメイズの制服は濃緑に黒が主体である。

 マホロ同様、着崩している奴が多いが、ちょっと軍服を連想させてカッコいいのだ。

 制服のセンスだけは評価できる。


「イカしてるぜ」

 

 マホロの制服は白に青の二色が基調で洗練されすぎていた。

 三郎ラーメンを食うと毎回飛び散って、至る所に黄色いシミが出来ていた。

 袖なんか黄ばんでたし。

 脚に(こぼ)したスープがお漏らししたみたいになった事もあった。

 汚れた部分を洗剤で(こす)りすぎて股間付近が毛羽立っていたのだ。

 考えすぎかもしれないが、特殊な自慰行為をした奴みたいな気がして、ちょっと嫌だった。


 それだけじゃない。

 ニクブの野郎が、俺のネクタイをナプキン代わりにして汚れた口元を拭ってた事もあったし。

 ガリノの野郎が、三郎ラーメンの食いすぎで俺の制服のポケットをエチケット袋代わりにゲロを吐いた事もあった。

 Dクラスのアホの1人が、演習後、洗濯機の中に豚骨ラーメンの素、しかも液体タイプのやつを入れていたせいで、男子半数のシャツがラーメン店みたいな臭いを醸し出した事もあった。


 マホロの制服は数か月でボロボロになったのだ。

 白色というよりも、ちょっと黄色かった。

 俺の制服……というか、Dクラスのアホ共の制服は、ちょっと黄ばんでるのだ。

 それに少し変な臭いがしてたと思うわけ。

 

「てか、あんまりいい思い出ないな。そんな奴らも今は昔。エフエフエフッ! 白は汚れが目立つしセンスがないんだよ。聞いてるか? デザイナーよ」

 

 天に向かって語り掛けながら襟を立ててみる。


「か、カッコいいなやはり。それに臭くもない」

 

 ちょっと、ワイルドな奴に思えてきた。


「これなら汚れも目立たないし……」

 

 

 襟を立てた俺は校舎裏にて、者共と相対していた。

 

 

 ワイルドな俺と数十人の生徒。

 頭を掻きながら、彼らの宣戦布告を受け取ったところだ。


「ここに総勢42名居る。君に対して良く思わない者達だ。私達4人と本当にその条件でやるのか? 君の実力は……悔しいが折り紙付きだ。しかし……」


「お任せしまーす」


 俺は手元でバトン競技のように華麗に木剣を振り回す。


「いいだろう。自惚れも過ぎればここまで来るか。強者ほど驕る、その愚かさに罰を与える事にしよう」

 

「どうぞー」


 スイーツを賭けた決闘。

 俺に勝ったら俺の卸す高額スイーツ代を適正価格に戻す……らしい。

 そういう約束だ。

 ちょっと面白そうなので受けてみた。


 俺はいつの間にか、聖騎士様4名と勝負を行う事になったのだ。

 後ろの方で、この学園に数名しか居ない男子生徒が団結しているのが見えた。

 眼孔は一様に鋭い。


「そんな目で見るなよ」


 男子生徒の1人が叫ぶ。

「天内……くん。調子に乗るのもここまでだ!」


「乗ってないが。俺は主席になりたいだけだが」


「それが調子に乗ってるって言ってるんだ!」


 聖騎士様は武人面しながら同調する。


「ホントにな。傲慢な考えを持っておられるようだ。

 確かに1対1ならば、君はかなりの手練れだ。私も苦戦を強いられるだろう。

 だが、数的有利を覆せるほど、現実は甘くないぞ」


(あね)様の言う通り。その伸びきった鼻をへし折るにはいい機会」


「そうだな。これを機に少しおとなしくして貰おうか」

 

「あっそ」

 マジでどうでもいいわ。


 戦乙女(ヴァルキリー)の魂魄を付与された手駒。

 君らの底は知れているよ。残念ながらね。


「天内くん、君にも準備があるだろう。勝負は三日後。ヘッジメイズの第4訓練場でどうだ?」


「どこでもいいですよ。なんなら今からでも」


「焦るなよ。舞台を用意せねばならんからな」


「は、はぁ」


 一体どんな搦め手で来るんだろう。

 正攻法でくるのかもしれない。

 

「まぁ。なんでもいいですよ。もういいっすか? んじゃ三日後よろしくですー」

 俺はさっさとこの場を離れる為、背中を向けると。


「ッ」

 と、背後から舌打ちを掛けられた気がした。


 ・

 ・

 ・

 

 彼らの宣戦布告を受けた後であった。

 廊下にて、フィリスの奴が俺に声を掛けてきたのだ。


「結局受けたのか。馬鹿な奴だ」


「まぁね。少し面白そうだ。それに地ならしには丁度いい」


「随分と大きな口を叩く。忠告を無視するからそういう事になる。その舐めた態度が気に食わん」


「精鋭たる王国の13騎士様、4人が相手になってくれるんだろ? 舐めてないさ」


 単純計算、13分の4の力だ。

 13の能力の内、4つを貸し与えられている戦乙女の外部端末。

 近似値1に近づけば指数関数的にマニアクスの力は増大するが。

 ここで力量を確かめるのも悪くない。

 前回、制圧した時は相手も油断していた。

 不意打ちにより秒殺で片付けたが、今回はそういう訳にはいかないだろう。

 という期待は込めて置く。


「天内、お前はいずれ破滅するぞ。

 その時は笑ってやろう。今回お前は負ける。

 その鼻っ柱を叩き折られる事になる。

 聖騎士に選ばれる者の実力をとくと見る事になるだろう」


「それは楽しみだ」


「なんだと?」


「まぁ見てなよ。ワイルドな俺はワイルドな感じで戦うぜ」


「はぁ???」

 

「じゃあね」

 手をヒラヒラとし、フィリスの横を通り過ぎた。


 夏イベのチートを得た今の俺は……最強主人公、覚醒風音に接敵しうる。

 だが、それでも足りない。

 それでも一手か二手足りない。

 終末に対抗するには。

 故にたまたま手に入れた俺専用の人工衛星に夏イベの力を付与し、天にある仕掛けを施し始めた。

 天空の彼方に、この星全土に渡る巨大な大魔法陣を描く準備を。

 数か月に及ぶ壮大な仕掛けの幕を上げた。

 惑星規模でのカラクリ。


「本当の絶望。この星は間もなく俺の手の平の上に転がる事になる。終焉の刻は近い。フフフ」


 暗黒微笑を浮かべた。


 

 

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