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エセ悪徳商人アマチくん



 マホロの夏季休暇は折り返し地点そんな時期であった。


 しめしめ。見ている見ている。

 近くに座る学園生が俺の方を見て目を丸めているのを傍目に俺はテーブル一杯にジャンクフードを並べた。


 この学園の食事、塩味しかしない味付けの芋、固いパン、粥、メインディッシュは塩味の魚か鳥肉しか出てこないのだ。

 正直マズイのだ。雑なのだ。

 食文化に異を唱える気はないが少なくとも口に合わなかった。

 良く言えば素朴な味。悪く言えばパサついてて生臭い味。

 

 俺は右手にハンバーガー、左手にピザ。

 目の前に三郎ラーメン。

 汁物に牛丼つゆだくだくを用意していた。

 ハンバーガーをカッコイイ持ち方にして、旨そうな演技をしながらゆっくりと頬張った。


「旨いなぁ。うん。旨いなぁ」


 そんな優雅な食事をしている時だった。


「ちょっと。天内……」

 唐突にフィリスの奴が唇を震わせながら俺に話し掛けてきたのだ。


「おや、どうしたんですかな? フィリスさん」

 

 珍しい事があるもんだ。

 こいつから話しかけてくるなんて。


「あんたが持ち込んだコレ!」

 

 写真付きのメニューが目の前で叩きつけられた。


「これ?」

 俺はメニューに写るケーキの写真を訝し気に眺めた。


 ・

 ・

 ・


---時は少し遡る---


 カッコウから俺に仕送られた物資は到底1人で消費できる量ではなかった。

 コンテナ5つも食糧を送って来たのだ。

 そこに関しては馬鹿なんだろう。

 算数が出来ないとしか思えなかった。

 中には三郎ラーメンや牛丼、ピザだけでなく、あらゆる食糧の数々。

 俺が教えた魔術を使用し冷凍保存されて積み込まれていたのだ。

 もはや一人で問屋ができる量。

 金の匂いがプンプンした。ビジネスチャンスの匂いがした。

 俺は嗅覚を活かし、学園の購買や食堂に食糧を卸す事にしたのだ。


 バイヤーでありプロモーターとなった俺は、ビジネス助走段階で全ての食糧を無料で配布したのだ。


「タダより怖いモノはないんだぜ」と、嘯きながら。


 素朴な田舎料理しか知らない学園生は添加物モリモリのジャンクフードを初めて食べた瞬間、電流が走るような衝撃に襲われただろう。

 俺は最初の数日間は無料という戦略を打ったのだ。

 それが功を奏したのか、あっという間に俺の用意した品物は飛ぶように売れ始めた。

 徐々に値段を釣り上げても、購入者はそこまで減る事はなかった。

 彼女、彼らを虜にしたのだ。

 特に人気なのはスイーツであった。

 女の多いこの学園。

 フルーツの甘味がメインだった彼らは都会の洗練された甘味の前で成す術はなかった。薬物のように、一度知ってしまった味を忘れる事は難しい。


 俺は実質仕入れ量タダの物資を横領し、学園生から合法的に金を巻き上げ始めていた。

 

 例えば、ここで取引される俺の卸した品物。

 ヒノモトの為替価格換算で現在の取引価格はこうだ。

 ハンバーガー1個、3000円。

 ピザ一切れ、5000円。

 牛丼並盛、10000円。

 ケーキ一切れ、30000円。

 三郎ラーメン一杯、10万円。

 品物の種類は200種類を超えるが、ヒノモトの相場の10倍以上の値段設定にしてある。

 三郎ラーメンに関しては本来の100倍以上の設定だ。


 貿易摩擦について考えたんだ。

 冷凍保存技術料、輸送コスト、関税、人件費、原価など色々考慮してこの値段にしといた。

 まぁ、俺の仕入れ値はゼロなんだけどね。

 悪徳商人ではないはず。

 ちなみに俺は大元の業者である以上。

 全ての食事が無料なのだ。


 ・

 ・

 ・

 

/フィリス視点/


 両手に紙袋を抱えた友人が寮の自室に持ってきたのは外国の甘味であった。

 彼女は中から一つ取り出すと。

「マカロンとショートケーキっていうらしいよ。フィリスにおすそ分け」


「ふ~ん。どうしたの、こんな物」

 王国では滅多に見かけない外国産の食品であった。


「購買で売ってたの! しかもタダで! 美味しいよぉ~」


「そう。一体どうしたのかしら」


 何かの祝い事でもあったのだろうか?

 興味はあったが、随分色鮮やかなクッキー? だ。

 ショートケーキなるものは、ケーキにふんだんにクリームが塗りたくってある。

 どう考えても身体に悪そうだ。気になるけど。


「あれ、フィリスは食べないの?」


「遠慮しておくわ。甘味ならあるしね」


 自室の中央にあるテーブルを指差す。

 そこにはリンゴが置いてあった。

 

「まぁまぁ。遠慮なさんなって。じゃあ、一個ずつ置いておくねぇ~」


「だからいいって!」

 

 そんな言葉を無視して彼女は部屋を出て行くと、隣の部屋を開ける音が聴こえた。

 どうやら、他の部屋にも配って回っているようだ。、

 

「こんな物……」


 マカロンなる、お菓子を手に取ってみる。

 

「好意でくれたもの。捨てる訳にもいかないか」

 

 そんな言葉とは裏腹に、どんな味がするのか気になっていた。

 匂いを嗅ぐと、とても甘い匂いがした。

 意を決して口の中に放り込んでみる。


 身体中に甘みが広がっていく、身体の隅々まで甘みが浸透していく不思議な感覚


「……」

 言葉を発する事が出来ないほどの衝撃に襲われる。


 うまぁ~。美味しすぎて頬が溶けるかと思った。

 

「こ、これは経験。これも捨てる訳にはいかないからな」


 さっきから気になっていたショートケーキなるもの。

 

「全く仕方のない」

 

 私はフォークを持ってくると、ケーキの端を刺し口の前まで持ってくる。

 胸の動悸を押えながら、一体どんな味なのか期待しながら口の中に運んでみる。


「あ」

 

 あ、しか出なかった。感動した。

 うめぇ~。美味(びみ)すぎた。

 

「美味なんですけど! こんなハイカラなモノ一体どうしてこの学園にあるんだ!」


 今までは王国名産の料理ぐらいしか出なかったはず。

 外国の珍品などこんな辺鄙な地に輸入する生徒なんてごく一部しか居なかったはずだ。

 個人で少量なら輸入してただろうが。

 こんな輸送に向いていない菓子は輸送途中で破損するか腐ってしまう。

 冷凍できてもどうしても味が落ちるはずだ。

 

 それなのに。


「まるで今さっき作ったかのような鮮度」

 

 私はなぜこんな品物がこの学園にあるのか不思議に思いながらも、無料で配られている甘味を毎日のように食すようになった。

 学園が粋な計らいで用意した料理だろうと推測していたのだ。


 全ての品物は今まで食べた事のない料理の数々だった。

 知識で知っている料理もあったが、購買や食堂には多くの珍品が並んでいた。 

 そのどれもが美味しいのだ。今まで食べた事のある料理より繊細で優雅なのだ。

 頬が溶けそうだった。

 私はあまりの美味しさに、すっかり虜になってしまった。

 

 そしてある日を境にそれらに値段が付くようになった。


 特別な技術がなく、資源の乏しいグリーンウッドは裕福な国ではない。

 私に仕送りで送られてくる小遣いも多くはない。 

 今まで無料で食べていたモノ全てが高価なモノであったと再認識させられたのだ。


「にしても高すぎるわ!」

 

 あんまりな値段設定にツッコみを入れざるを得なかった。 


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