寸話 アイツの右腕、チートにつき
クレーンが前後左右に動くと、巨大な鉄の塊がゆっくりと漁港に降ろされた。
「積み荷を寄越せ!」
野太いおっさんの声が響くと野郎共がゾロゾロと荷物を引き上げ始めた。
俺の物資は、荷物ではなく貨物であった。
コンテナで俺の物資が届いたのだ。しかもコンテナ5つ。
「何トンあるんだ?」
「書類にサインを、あと、これが添付しておりました。なんでしょうな」
複数の英数字で幾何学模様が描かれた絵であった。
バイナリコードで書かれた暗号文だ。
「ありがとうございます。絵を描くのが好きな友人が居ましてね。抽象画を好むんですよ」
俺の殆どの荷物は漁港に取り残されたままだ。
その中身は飯の数々。俺の大事な食料品が積まれていた。
持ち出せるもので有用なモノは手元にあった。
パソコンに携帯。
そのどれもが試作品なのか外装は粗末なアクリルか強化ガラスのようなものだ。
だが、素人目でわかる。
これがとんでもないデバイスだと。
「本当にやりやがったぜ」
一週間も経たずに仕事を終わらせやがった。
どこまで無理難題を吹っかけて実現するのか、試したくなってきた。
組織? のツテを使えば青いネコ型ロボ並みになんでもやってくれるのだ。
俺はおっさんから渡された暗号文を読み込んだ。
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親愛なる天内くんへ。
治療薬の次は、世界の食糧問題の解決に着手するとは流石の一言です。
このカッコウ全力でサポートさせて頂くとしましょう。
まず、バイオオーツの研究は関連会社にて既に着手しておりました。
どうやら開発に難航していたようですが、君の書いた論文により研究は劇的に躍進したとの事です。
さらに食料の冷凍保存技術。この保存技術は特許モノですよ。
これで廃棄食糧も減る事になるでしょう。
タンパク質や栄養素が豊富で培養も簡単な昆虫。
これも現在研究中です。
イナゴを主食に出来るよう、イナゴを中心に培養、品種改良している所です。
グリーンウッド王国近海に、通信用の基地局を配備完了しました。
人工衛星、それと特殊な通信端末。これに関しては、通信事業者が傘下に居ましたので、その技術を流用しています。既に打ちあがっているモノになりますが、天内くん専用の人工衛星を割り当てました。
これで世界のどこからでも……
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最後に、奇跡の特効薬。ケハエール。
先日お渡ししたモノのジェネリック版の量産体制が整い、現在主要各国に生産拠点を築き運営しています。販売、流通は近日です。間もなく世間に行き渡る事になるでしょう。奇跡の特効薬が。
これで多くの難病患者を救う事が出来るでしょう。
全く君の頭脳には感服する日々を送っています。
それでは。連絡待ってます。
追伸。天内くんの影を探っている者が居ます。
少々工作活動が必要なので、翡翠さんに対処をお願いしてあります。
我々は既に通信業界、IT事業にも強いと教えてあげますよ。
敬具
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滅茶苦茶長かった。カッコウの文章の解読。
なんか世界中に色々会社を登記したらしいし、嘘みたいな事をやってるぽい。
あとは知らん。こいつの頭脳の飛躍が半端ない。
ぶっちゃけ天才なのだ。経営手腕が優れ過ぎているのだ。
俺の教えた思考系のスキルで滅茶苦茶頭が良くなっている。
そもそも頭がいいのかもしれないが……
それにだ。仕事の実行速度がおかしいのだ。
他者競合企業の中枢に入り込み幹部共に洗脳工作をやってるんじゃないかとすら思える。
いや、やってるわ。
精神魔法の使い手が組織の幹部に居てもおかしくない。
どこまで資本を牛耳っているのか……
貧者の銀行に揺さぶりをかけているのだろうか?
「不穏な事を最後に書きやがって。末恐ろしい奴だ。まぁアイツらに任せとけばいいだろう。さて、このヘッジメイズでジャンクフード出張所を作るとするか」