展開広域型迷宮化現象
「あれ? もう戻ってきたのかにゃ? 凄いボロボロだけど……」
「忘れ物でもしたのですかな?」
補給に戻った際に不思議な反応をするハイタカとミミズク。
彼ら二人はお茶をすすりながら談笑していたとこであった。
「ん?」
俺は既に7日以上戦いに明け暮れていた。
一度治療と武器の補充の為に帰還したところであった。
死地を潜り抜けてきたにも関わらず、2人の反応が薄いのだ。
「どゆこと?」
ミミズクは『は?』といった呆けた顔をした。
どうやらハイタカによると、俺はダンジョンに潜った後すぐに戻って来たらしいのだ。
体感時間と実経過時間が異なっているのだ。
「この感覚は前にもあったような」
「ファントム氏が複雑な顔をし始めましたな」
「静かにするんにゃ。いつもの事だよ。とんでもない作戦を練ってるとこ」
「1000手先を読んでるんですな」
なんか2人が俺についてよくわからない所感を述べていた。
話を戻そう。
俺の感じる時間の経過と現実での時間の進みが違うのだ。
そう、あの時にも似た感覚があった。
俺が親睦会に遅刻した時と同じ感覚。
あの時はいつの間にか時間がとんでもないスピードで過ぎるというウラシマ効果が起きた。
しかし、今回は全く時間が進んでいないという逆ウラシマ効果が起きてるのだ。
「超高難度ダンジョンは時間の進みが違う。
どういう事だ? いや……まさか。
そんな事があり得るのか? 俺は知らないぞ!
亜空間型のダンジョンの中とこの世界では時間の進み方が違う……」
仮説に過ぎない。だが変な確証があった。
秘密の部屋のケダモノが現れていた時。
局地的にあの場所、あの領域がダンジョン化していたとでも言うのか?
変な汗が滲んできた。
それは展開広域型迷宮化現象が起こったのかもしれないという事を意味するからだ。
メガシュヴァの終局に【展開広域型迷宮化現象】が世界各地で起こる。
展開広域型迷宮化現象。
本来イベントや物語のバッドエンドで引き起こる現象。
山本の召喚術の広範囲バージョン。
外界に出て来れないはずのダンジョンモンスターがこの世界に顕現する現象の名。
それが局所的に起こっていたのかもしれないという懸念。
何より、あの時は不自然な事が多かった。
魔女メサイアの暗殺。貧者の影。
あの場所の裏では一体何が起こっていたのか?
まつりと隠ぺい工作をしていたので、結局わからずじまいだった。
なんならお宝を手に入れた事で視野が狭まっていた。
メガシュヴァのバッドエンドは終末の騎士により世界の位階が下げられ、ダンジョンモンスターがこの世界に氾濫する訳だが。
ならば、あの場に居た可能性があるのは……
・
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端的に言うとだ。
亜空間の中。つまりダンジョンの中に居る間、現実世界の時間がほとんど経過していなかった。
精神とアノ部屋状態だった訳だ。
それがわかった段階で俺は超高難度ダンジョンを駆けずり回る事が出来た。
負けては撤退し、負けては撤退し……
そんなループを繰り返し、俺はボスを攻略する事に成功した。
攻撃を与えHPを削ると、回復アイテムと撤退を繰り返すゾンビ戦法を行った。
もうぶっちゃけ一回の戦闘で勝てないので、削ったら逃げるを繰り返したのだ。
姑息なゲーマー戦法により、俺はボスを打ち倒した。
全ての夏イベの力を獲得した。
俺の体感時間は280日以上死地を潜り抜けてきたのだが。
現実時間では7日で夏イベを攻略してしまった。
時間を味方に付けた俺は超強化を果たした訳だ。
「さて帰るか。みんな」
「もう終わったのですかな? 予想よりかなり早いですな」
ハイタカは悪人面で『もう用事は済んだのか?』と言いたげであった。
「まぁね。俺も驚いてるんだよ。それに実際は予定していた20日どころじゃないんだがな。だが儲けものと考えておこう。少し気掛かりも出来たが」
「?」
ハイタカは意味がわからず疑問符を顔に浮かべた。
俺達は帰路についていた。
ヘッジメイズに戻る船舶の中で頬杖をつき考えていた。
「ダンジョンか……」
ダンジョンの謎。こいつについての推測。
メガシュヴァの設定と、そして今回の出来事。
俺はダンジョンがイベントの回収場所、もしくはレベル上げの道具ぐらいにしか思っていなかった。
だが、違う。
地獄の悪魔が潜む異界というだけではない。
亜空間という比喩されたチンケなモノではない。
ある思考が俺の脳裏に過って来るのだ。
あれは亜空間と呼ぶには。
ダンジョンと呼ぶにはあまりにも本物すぎる。
「そんな事があるのか?」
俺はある仮設を立てたのであった。
メガシュヴァで語られる事のなかった深淵の謎に足を踏み入れようとしていた。
ゲームではあまり語られる事のないダンジョンという舞台装置。
ダンジョンは単なるレベル上げや、ゲームのキャラを育成する為だけの舞台装置ではない。
金を稼ぐ場所でもなく、その正体は。
少なくとも超高難度ダンジョンの中身。
それは……1個の。
「異世界なんじゃないのか?」