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最後のヒロイン


/3人称視点/


「なんなんだアイツは!」


 フィリス・グレイは憤慨していた。

 礼拝を終え、気持ちが鎮まるかと思ったが、雑念が頭を支配していたのだ。

 結局頭に血が上っただけであった。

 突如現れた"よそ者"がこの学園の秩序を引っ掻き回したのだ。


 グレイ家特有の白髪に蒼い瞳をした最後のメガシュヴァヒロイン:フィリス・グレイ。

 グレイ家はグリーンウッドで一定の地位を持つ家系。

 それは特別な血筋のみが使える特殊な魔力を宿した血族だからだ。


 グレイ家は天候を司る特別な魔力を宿している。


 彼女には使命があった。それはこの国に蒼穹を(もたら)す事。

 グレイ家で最も血の濃い者は、代々この国の礎になる。

 それがしきたりだ。およそ千年続く儀式。


 フィリスは蝶よ花よと育てられてきたが、グレイ家が特別裕福であるからとは関係なかった。

 

 彼女は二十歳までに死ななくてはいけない。

 それは彼女が選ばれた者であったから。


 故に彼女の両親は彼女がその時になるまで彼女のしたいようにさせてきた。

 

 彼女はヒノモトにある天空都市に行きたいと思っていた。

 あわよくば、死ぬ間際までそこで過ごしてみたいと。

 しかし、唯一マホロの受験を受ける事は叶わず、結局このヘッジメイズに残る事を懇願された。

 それは彼女の特異な血を外部に流出する事を防ぐ目的があったから。

 それでも彼女は世界で唯一の天空の都で一時でもいいから過ごしてみたかったのだ。

 

 つい最近。

 特別に短期間であるが、ヘッジメイズからマホロに留学を認められたのだ。

 今秋からであるが、半年間ヒノモトにあるマホロの地にて留学を許された。

 条件はある。

 決して異性と交遊しない事。処女であり続ける事。

 この二つは絶対の約束。

 それでもいいのだ。

 彼女にとって世界の景色を、多くの見聞を広げる事が夢の一つであったのだから。


 そんな憧れの地から来たよそ者が破天荒なのだ。

 

「もう無茶苦茶!」

 

 フィリスは、あんな奴がマホロに居ると思うと不安にさせられた。

 どうやら名は通っているようだが、世界屈指と名高い生徒会の人間ですらないようなのだ。

 一般生であのレベルなら、どれほどレベルが高いのかと。

 彼女を悩ませた。


 だが、彼女の憤慨は別にあった。

「まるでこの学園に興味のないような眼をしていた。

 ここに来たのは不本意であるみたいな表情。

 誰とも打ち解けず、話掛けられても足早に去っていく態度。

 この学園の生徒を歯牙にもかけないような素振り。

 ムカつく奴!」


 天内傑(よそ者)は初日だけで、淡々と授業や演習を受けその全ての歴代レコードを打ち破った。

 毎日行われる小テストの筆記は全ての科目で満点。

 実技は歴代初の3属性の魔法を展開し、精密かつ膨大な魔力で演習を最短で終わらせた。

 さらには剣の腕は超が付く一流であり、その腕は全てを置き去りにした。

 

 早々にこの学園のレコードを塗り替えたそいつは、ヘッジメイズ随一であり王国の13騎士に選ばれている尊敬すべき先輩、その2人に模擬試合を挑み、2人を相手取り無傷で制圧した。

 その際もまるで興味のない目をしていた。

 まるで自分の力をひけらかすようであったのだ。

 赤子の手をひねるように、数秒で勝負がついたのだ。


 フィリスはヘッジメイズの威信を傷つけられたような屈辱を感じていた。

 

 さらには、無条件卒業レベルの課題である上級ダンジョン攻略も1人で一晩で済ませると、早々に休学したのだ。

 

「舐めているわ! アイツ!」


 むしゃくしゃしていた。

 フィリスはこの学校に思い入れがある。

 そんな母校で傍若無人に振舞うアイツがムカついて仕方がないのだ。

 よりによって同じクラスメイトかと思うとより激情が募っていった。


 ・

 ・

 ・


 聖剣や魔剣なみのチート武器の入手は必須。

 ユニークスキルとユニークアーツを持たない俺には特別な能力による強化が必須だ。 

 正直な話、俺は俺自身の実力の底が見えていた。

 チートの武器弾幕も、タキオンも、偽りのユニークも、混沌魔法も、これらを()ってしても本物の強者に立ち向かえない。


 少なくとも、今のままではマニアクス龍人ボルカーには絶対に勝てないと思っていた。

 俺でも3分程度凌げるだろうが、その後は死ぬだろうと推測するぐらいに。

 風音やヴァニラが徒党を組んでも、正直勝てるか微妙ラインだと思っている。

 相打ちがいいとこだろうと。  

 

「俺は偽者でしかない」


 紛い物の三流品でしかない。

 潜在能力は所詮、雑魚モブだから。

 限界は近かった。

 いや、とっくに限界だったのかもしれない。

 そもそも俺の潜在能力は既にカンストしている可能性があった。

 

 壊れ始めている自覚があった。

 命の息吹が徐々に減っている事に。

 魂という名の形而上の何かが零れ落ちていってる気がしていた。


 もしかしたら、エンディングまで生き残れるほど寿命がないんじゃないかと。

 これ以上限界を超え続ければ、取り返しがつかないかもしれないと。

 

 そんな予感がしていた。


「だが、俺は羽化する事ができる」


 そう。俺は手札を増やしに行く。

 たとえ壊れても、やるべき事をするだけだ。


「勝つために」



 ――世界と切り離された亜空間の中――



 剣閃が空を舞うと、無数の雨のように武具の数々が大地に降り注いだ。

 肉を断ち、骨を砕き、実体の持たぬ魂は切り刻まれる。


 猛獣、亡者、怪物の屍の山が築かれていく。

 

「そこそこやるが……終幕と行こうか」

 

 俺は神速の一刀を以って邪悪なる群れの長に必殺のイチを放った。


 超高難度ダンジョン攻略は佳境を迎えていた。

 小国を一体のみで壊滅させられるアンデッド系モンスター。

 それを4体相手取り何とか倒した所であった。

 

 業火のデーモンロードは断末魔を上げながらのたうち回るとその輪郭は消えていく。


 俺の左腕は千切れていた。右手も感覚が麻痺し黒焦げであった。

 右目は潰れ、右足はおかしな方向に曲がっているかと思うと骨が剥き出しになっていた。

 内臓は破裂しており、小腸が腹から飛び出している。 

 ケハエールを無造作に掛けると、欠損した部位が再生されていく。

 

「あとは回収とダンジョンボス戦だけだ……」


 夏イベの力を回収しに行く。

 一度ハイタカとミミズクの居るベースに戻り、武器の補充と完全な治癒を行い準備を整える。

 

「戻るか……」

 よろつく足でその場を後にした。


 前座のモンスターを狩った後に待つのは天を突くほどの巨大な峰の登頂。


「一体何キロあるのか?」


 横目で見る峰の頂上。

 輪郭すら全く見えない。

 前世のエベレストを遥かに超える大きさだろうという事しかわからない。

 絶壁に近いその峰を見て絶望しそうになった。

 ゲームでは難度の高い迷宮構造。

 ホワイトアウトする白い闇を手探りで登らなくてはいけない。

 HPは頂上に近づけば近づくほど減少していく死の大地となる。

 

 最後に待ち受けるのは……


「理外に存在するこの世の全ての生命に酷似しないエイリアン型のダンジョンボス」


 硬い外骨格、酸の血、理外故に全ての魔法をリジェクトする特性を持つ。

 肉弾、白兵戦でしか倒せない強敵。最高難度の敵。


「奴を倒せば、特殊な能力『オルバースのパラドックス』が手に入る。

 頂上にはチェレンコフの光剣(ビームサーベル)が突き刺さっているはずだ。それに居るんだろう?」

  

 俺は確信を持って天に向かい語りかけた。

 一度のターンで召喚回数に制限のあるキャラ。

 

 星を砕く者。

 惑星を飛び回る自由人。

 別のゲーム(スターギャラクシー)から参戦する領域外の来訪者。

 

 コラボキャラ彗星機構(アンゴルモア)

 ……別名。


「ケテル」


 これら全てを奪取し、俺は終末(ヨハネ)の騎士戦に備える事ができる。

 

 

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