モブ学園なら本気出しても問題ないよね!?
/千秋視点/
「ああ。何度も言ってるだろ? もう戻る気はない……
それよりも久々に連絡を取ったのは理由があってね。
少し調べて欲しい奴が居るんだ。名前は天内傑……
なに、個人的に調べて欲しいだけさ。特に他意はないよ」
ボクは気づかれぬように通話を切ると彼を見つめた。
ボクは小町ちゃんとマリアの別荘に乗り込み、マリアを不機嫌にした。
結局ボクらは4人で過ごす事になった。
マリアと傑くんと間違いがあってはいけないから。
遠目から小町ちゃんからポーカーで小銭を巻き上げる傑くんを見るといつものあくどい横顔があった。
夜風に当たりながら心配事があった。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、誰に対しても『世界を救う』とか戯言を言っている男が居るのだ。
恐ろしい。彼はたまに怖い部分を見せてくる。
傑くんは、ある種"狂気"を内包している。
いいや違う。
「正常に狂っている」
そんな表現が近い。
自分の命を勘定に入れていない考え方を持っていたり、世界を救うとか戯言を本気で叫んでいる。
夢から醒めない子供のような夢物語を本気で語っているんだ。
異常な眼で異常な事を本気で言っている。
ふざけているならいい。噓っぱちならいいが。
しかし彼は恐らく本気だ。
それに彼は言ったのだ。
『マニアクス』という単語を。
なぜそれを知っている? 彼は何者なんだ?
今までも不可思議な発言が多かったが、それは単なる映画の影響を受け過ぎた戯言だと思っていた。
でも……確信に変わった。
彼はこの世界が孕んでいる闇を知っている。
その言葉を聞いた時、ボクはきっと鋭い目をしていただろう。
「やれやれ。せっかくの夏季休暇でゆっくりできると思ったのに」
マリアの奴も裏でコソコソ短期留学の手続きをしに行っていたし。
少々根回しが厄介そうだけど……『蝕』のツテが今も生きてるなら。
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なんやかんやあり、俺のお別れ会が行われた。
マリアイベントは千秋や小町が乱入してきたし。
お別れ会ではニクブとかガリノとか、Dクラスの奴とも挨拶もできた。
千秋は俺とデートのようなものを行ったが、特になんにもなくさっさと解散した。
小町の奴とは俺の服装を一式買い揃えるお買い物をした。散々ダサいだの小言を言われたが適当に飯を奢ったら少しだけ優しくなった。
今後の活動と目標を話し合う影の会合を済ませ、さっさと編入試験を受けた訳だ。
前世ではオカルトで有名なバミューダトライアングルってのがあったんだが、それを思い出していた。
「広大な海。そして島……」
透き通る海は青々としている。
眼前に広がるのは水平線。
遠くの方で点々と無数の島々が見える。
「さて……と」
大きく伸びをした。
俺は今編入試験を受けている訳だ。
迷宮庭園は南国の学園であり、所在の掴めない学園……という設定だ。
この学園の入学に求められる能力は特殊だ。
筆記試験そのものは基礎学力を見るモノであり、通常の学校の入試とそこまで変わりがない。
正直ほぼ満点を取った自負がある。
俺のスキルによる能力の向上と影達を駆使したカンニング、あと普通に過去問を読み込んで事前に勉強という策を弄す事で筆記試験は余裕で通った。
筆記試験はどうでもいい。
この学園の特異性は実地試験にあるからだ。
それは『学園を自力で見つける』事。
筆記試験はあくまで足切りであり、実地試験をクリアできなければ、どれほど優秀なペーパーテストの点数を取っても入学はできない。筆記で振るいにかけ、実地をクリアすれば晴れて入学となる。無論、通常の新入生からの入学試験よりも編入試験の方が難度が高い。
新入生組はグループを組みクリアする所、編入組は単独でクリアせねばならないからだ。
グリーンウッド王国には離島が連なっている。
その数は小さいモノを入れれば万を超える。
万を超える島の中から迷宮庭園を発見しなくてはいけない。
与えられた時間は10日である。
「俺には時間がないので24時間以内に発見する」
そう。あまり時間を浪費できないので、俺は1日という最速ラップで発見する。
モブ学園に時間を消費する気はない。
「出し惜しみはせんぞ」
この学園で加減をする気はない。
モブ学園でどれほど頭角を現わそうとメガシュヴァ本編とは一切関係がないからだ。
俺は漁港を散策しながら考えてみていた。
「作戦を練るか。推理しろ。俺」
まずグリーンウッドの国土面積は広くはない。
その代わり海洋面積が広大だ。
この国は多くの離島や諸島からなる国。
「通常の入試で10日がリミット想定。編入試験も10日想定だが単独。スタート地点はこのグリーンウッド王国の王都にある港から始まるか……」
俺はイカ焼きを噛みちぎると虚空に向かいカッコよく独り言を呟いた。
モブ魔術師が仮に魔法を使用し広大な面積を移動するとしても限界がある。
仮に浮遊を使用し高速移動したとしても1日の飛行距離はたかが知れている。
それに移動系の魔法を使えない生徒も入学していると思われる。
どんな魔法でも能力の応用で航海は可能だが、それでも限界があるだろう。
「距離はある程度絞れるんじゃないか?」
王都を中心に精々半径100キロ程度と目算してみる。
これ以上の距離になれば時間的に発見は不可能だし移動も困難だ。
10日で索敵するのは至難。
多めに目算しても確実に半径250キロ以上にはないだろう。
難度が高すぎれば誰も入学は出来なくなってしまう。
そもそもマホロよりも簡単なはずだ。
俺は港から航海に出る船に注目する事にした。
推理するならばここだからだ。
「推測を立てるならば。人が生きていくには物資は必要。自給自足が出来ていたとしても日用品や娯楽の物資まで錬金できるとは思えない。積み荷量を調べるか……」
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変装術を使い、気配を殺し船舶の航路予定を確認してみる。
ついでに各船の船員名簿も暗記しておく。
「四方に散らばっているな。その内王国からの出航回数が10日以内。王国に往復で帰航する船舶。複数回あるのは……12隻ってとこか」
王国とヘッジメイズは密に物資のやり取りをしてるはずだ。
情報の秘匿は出来ても人間を隠す事はできない。
積み荷の内容書類に目を通す。
生活用品や食料品や燃料など積まれている。
荷物の種類は様々だが量は微妙に異なる。
「ヘッジメイズは学園生。教職員やその他の労働者を合わせても1000人にも満たないと事前に調査済みだし……」
マホロのような広大な学園ではない。
1000人。村落の規模だ。
この程度の物資量になれば、さらに船舶を絞れる。
そして12隻から絞れたのは4隻。
「それでもやや多いな。学園の所在が地図に載ってないならば、次に燃油だな。この線で振るいにかける」
ヘッジメイズは迷宮の名を冠している通り、場所が特定できないように配慮されている。
これは事前情報で既に仕入れている。
次に燃料の消費量を着眼点に置く。
おおよその燃料の消費量を計算し、予想される燃料の消費量よりも消費量が多い船舶はヘッジメイズに停泊している可能性がある。途中で燃料をチャージしている可能性もあるが、それこそ近郊でそんな事をするのは、より不自然だ。
近郊を拠点に寄港している船舶も要チェックだ。
俺は航路を書き込み線で結んでいく。
「証明終了……」
俺は1隻の船に目星を付けた。
時間は有限だ。ダメ押しでこの船の船員に接触し情報を引き出す。
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「確定だな」
俺はサンマリーナ号なる船がヘッジメイズ行きであると確信した。
変装術を使い船員から情報を引き出し、この船がヘッジメイズ行きであると確定させたのだ。
「サンマリーナ号が出航する予定は明日朝方からか……」
それでは24時間で攻略を出来ない。
航路の偽装は難しい。
航路は既に決められたモノを歩まなくては船の接触が起きてしまう。
海には見えないがしっかりと道が存在している。
そればこの世界でも同じだ。
「航路通り進めば見つかるよな。じゃあ。歩いて行くか」
狙うのは最速ラップでのヘッジメイズの攻略。
「サクッと筆頭を取ってマホロに戻らねばな」
屈伸をして両足のストレッチを済ませると。
海面を音速で走り抜けた。
1部 マホロ編 終了です。
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