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どうしようもないアイツ、本気出すってよ


 ガタガタと震えていた。

 まるで、真夏のバカンスをしていたら極寒の地にテレポーテーションさせられてきたような様相。

 寒くて仕方ないのだ。

 

 心が。

 

 尋問であった。

 自白強要をさせられた被疑者のような気分を2時間以上味わった。

 尋問官は年下の砂利ガキの小娘。

 言い返せないので、余計始末が悪い。

 尋問官3名は歴戦の刑事のような形相。


「おい! 嘘つきのダサ男。なに涙目になってんだよ!」


「泣いてないが」


「敬語を使わんかい!」

 俺の目の前で、小町の振るった木刀の乾いた音が木霊した。

 

「ァ……マリ、ちょうしに、ノルナヨ……です」


「ああ!? なんだって!? 調子に乗るなよだと!? ダサ男! ダサ男の癖に随分デカい口を叩くようになったな!」

 反対側から千秋が唾を飛ばしながら激高すると俺の顔を覗き込んだ。

 

「まぁ。まぁ。落ち着いて下さいお二人とも。天内さん。私達を見捨てるのに、まだ減らず口が出せるなんて見上げた心意気ですね。どう思います? 天内さん? 非があるのに大きな口を収められない人の事を? 随分と生意気だと思いませんか? 私は思いますが」


「……ソッスネ」


 また俺への集中砲火が開始された。

 恫喝して、たまに甘い言葉をかけてくるのだ。

 心を折る作業。

 もはや洗脳の手法であった。

 マインドコントロール。

 余談だが、俺はブラック企業に勤めていた時にマインドコントロールの手法を学習したのだ。

 クソみそゴミカス上司を観察する為に。

 なので俺には精神攻撃の耐性があるのだ。

 

 つーか。そのせいもあって俺には"精神魔法"の類が一切()()()()っぽいんだよな。

 まぁそれはいいや。


 それからしばらく俺は四方八方から皮肉と罵倒を受け続けた。

 センス皆無の勘違いダサ男から始まり、ドブ川から生まれたドブ太郎とか、奇行を隠せない奇人変人薄情者だとか、バリエーションは様々だった。


 俺はパーティーメンバーに平謝りした。

 俺はこの学園を去る事になったと。

 最初は困惑した顔をしていた。

 そして訊かれたのだ。

 なぜ、そんなおかしな事になったのか? と。

 なので白状したのだ。

 俺がなぜ退学になったのかを。ゴドウィンに刺された部分は有耶無耶にしたが。

 その理由を説明するにつれてコイツらの機嫌は怪訝なモノに変わった。

 困惑から怒りに感情を変化させたのだ。


「はぁ……」

 誰かが大きなため息を吐くと。


「もういいや。それで、傑くんはこれからどうするのさ」

 千秋はやつれた顔をしていた。


 終わったっぽい。

 散々言いたい事を言って疲れたようであった。

 俺も疲れた。


「あ~。転校するよなそりゃあ」


「また勝手な事を言い始めたよこの人」

 呆れ顔の小町は『やれやれ』と大袈裟にジェスチャーした。


「では、私達はどうなるんですか? 天内さんは私達のパーティーを脱退するんですか?」


 全員が俺の事を見つめると固唾を飲んでいた。

 沈黙が場を支配する。


 だが、きっぱりと俺は宣言する。

「脱退はしない」

 もう正直パーティーを解散したい気分が、かなり大きなウェイトを占めているが、彼女達を仲間であると思っている。罵詈雑言を浴び過ぎて、もはや、ほんのちょっぴり解散したいけれども。


「は? どうやってです? もう解散かと思ったんですが?」

 小町は『こいつ何言ってんだ?』みたいな顔をしていた。


「俺はこの地に戻って来るよ。

 所属は変わるが俺は迷宮庭園(ヘッジメイズ)の留学生としてこの学園に戻って来る。

 絶対にだ。俺はこの地でやるべき事がある。

 この世界を救うために。マニアクスを、この世に蔓延る敵を、世界に空いた地獄の穴を塞ぐまで。

 俺にはこの地でやるべき事がある!」


 天に向かい啖呵を切った。

 そう。ここで終わる訳ねぇだろう、と。


 全員が奇妙な者を見る目であった。

「……天内さんは迷宮庭園に行くんですか?」

 俺の宣言を無視し、マリアは尋ねる。


「そうだよ。もう間もなく入試がある。俺は最速でヘッジメイズの頂点を取ります。正々堂々と現存するランカーを蹴落とし俺は特待権(プラチナチケット)を獲得するんだ」


 そして王国に巣食うマニアクスをぶちのめしに行く。

 病理たる聖騎士:戦乙女(ワルキューレ)の連中を奈落(あの世)に叩き返す。

 魔性たる麗しき戦乙女の大群を死の淵に叩き落とす。

 夏イベの力を駆使し、かつ最後のメガシュヴァヒロイン、【蒼穹(そうきゅう)のグレイ】を仲間に加えられれば十分に攻略可能。

 夏イベのインチキパワーを得た俺なら単独でも魔性のマニアクスを撃破可能な気もするが。

 

「留学ですか……なるほど。その手がありましたわね。これはある種チャンス?」

 顎に手を置いたマリアは小声で何かしら呟くと、考え事を始めていた。


「先輩なら余裕で入試は通ると思いますが、なぜ迷宮庭園へ?」


「ちょっとツテがあってな」

 西園寺氏のコネをフル活用したのだ。


 千秋は俺に鋭い目線を向けてくると。

「迷宮庭園は多くのエルフや獣人が居る学校だよね。高温多雨の南国の学園だ。女性比率が多い事で有名だけど……まさかそれが選んだ理由じゃないよね?」


「は? え? そうなの?」


 初耳だ。え? マジで? 最悪じゃん。

 男子少ないの? 女の園なの?

 ヤバいじゃん。友達出来るのかこれ?

 男子諸君と南国の海で、はしゃぎたいと思ってたのに。

 バーベキューしたり、素潜りしたり、潮干狩りしたり、男子共と怪しげな海鮮の輸出業をしたいんだが。

 ギャルゲ時空のとんでも設定を聞かされた気がした。

 もっと、陰惨な感じのとこかなと思っていたが……

 いや、ある種ドロドロ学園なのかもしれない。


「グリーンウッド近辺の諸国は()()()()()()()()()事で有名ですしね。こういっちゃなんですが、迷宮庭園は魔法学園の中でも衰退し続けてますし。先輩は編入しやすそうな所を選んだという線もありますよ」


「その可能性もあるか。小細工と悪知恵だけは得意だもんね傑くん」


 小町と千秋はお互い会話を始めていた。

 俺の皮肉を交えながら。


 ・

 ・

 ・


 予定は2,3日で済まなかった。

 結局5日過ごす事になった。

 まぁ、ギリ想定内だ。

 

 初日はマリアの別荘に行く事で話はまとまり、彼女も機嫌を直してくれた。

 二日目は、俺のお別れ会が開かれる。

 三日目は、千秋と一日中過ごす事になった。

 四日目は、小町と買い物に行くらしい。

 最終日は、影の会合がある。これはマストだ。

 

 なので、俺は明日の支度をしていた訳だ。

 俺はマリアと一泊二日の旅行に行くらしいのだ。

 マリアの別荘はどうやら下界にあるらしいのだが……。

 

 モリドールさんに謝るとすんなりと許してくれた。

 

「すまないね。モリドールさん」


「いいよ。そういう事もあるさ。それにしても寂しくなっちゃうね」


 モリドールさんは大人であった。

 彼女は随分と落ち込んでいたけど、パーティーメンバーと異なり色々と察してくれていたようだ。

 皆まで言わずあっさり納得していた。


「心配しないでよ。すぐ帰って来るさ。その時はモリドールさん。またよろしくね」


「戻って来る? どうやって?」


「ヘッジメイズ筆頭の地位を築けば可能なんだなコレが」

 

 筆頭。それは文字通りヘッジメイズ主席を意味する。

 正直、マホロ以外はモブ学園みたいなもんなので、モブ学園のモブ主席になるだけだ。

 マホロでは頭角を現さないように気を遣ってきたが、モブ学園では気を遣う必要がない。

 心置きなく"本気(ガチ)"を披露しようと思っている。

 無論、度を越し過ぎないようにであるが。


「俺のパートナーはモリドールさんしかいないからね。あと、正式に俺の仲間の事をよろしくね」


 マリアと、小町、千秋はモリドールさん所属になった。

 そうなるように3人に頼んでおいた。

 考査戦で優秀な成績を残した者達だ。

 彼女達の顧問になればモリドールさんはクビにならない。

 いいや。クビに出来ない。

 そのように俺は手を打っておいたのだ。


「随分と大きな置き土産だけどね」


「じゃあ、少しの間行くよ。世界に」


「ええ。戻って来るのを楽しみにしてるわ」


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