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雨の止まない国


/3人称視点/


 昔。

 ある国は雨が降り続けた。

 決して止まぬ雨は国を枯らした。

 人々を飢えさせた。

 多くの屍が積み上がり、国は死に向かっていた。

 民は死に、草木は枯れ、大地は瘦せ細る。

 日の光は大地に届かず。

 作物は芽を出さず、人々は飢え、大地は洗い流されていく。

 それはまるで死と荒廃が広がる光景であった。

 

 突如として現れた稀代の魔術師が王に進言する。

「生贄を選別し、神の供物にすれば、この災害は収まるのではないでしょうか?」と。

 

 魔術師は英雄と持て囃される功績を遺した者。

 王は悩んだ。

 この者は信頼に足る人物であるが、人身御供を捧げる事で天災を治められるのか、と。


 天候、天災は人知を超えた災害だ。

 歴史において、人知を超えた災害を治めるには生贄を神に捧げてきた。

 祈り。

 信仰にも似た何かに(すが)るしかない。

 


 魔術師の進言は選ばれた血統の人柱を選別し、神への供物とする事で、大地の怒りを治めて貰うというモノ。特別な血を持つ血族。その中でも神の眼に叶う優秀な魔術師を人柱にする事で、雨は止むだろうと魔術師は語った。


 実際に実行されると、今までの雨が嘘のように晴れ渡り、大地に日の光が戻って来た。

 そんな因習が、雨の降るこの国には脈々と受け継がれてきた。

 

 ・

 ・

 ・


 天内は退院を控え、まず初めに右腕たるカッコウと落ち合う約束をしていたのだ。

 リハビリのフリをして、イーゼルに乗せたキャンバスに絵を描きながら背後の影に語り掛ける。


「メッセージで送った通りだ。カッコウ。俺は少しこの地を離れる事になった」


「退学の件。やはり事実であり、取り消せませんでしたか」

 

「ああ。無理なモノは無理のようだ。なに、近々この地に戻って来る。俺は再びこの学園に復帰するさ。そこは問題ない」


「どうやってです? 組織(TDR)の力を駆使しても不可能だったんですよ」


(組織? 組織ってなんだ? TDRの事か? 俺の手を離れて久しいTDRの事だろうか? まぁ……いいか。話の腰を折るのも良くないな)

「あるのさ。それがな。ねじれ構造が生まれてしまうが、正攻法で戻って来る。それまで留守を頼む」


「は、はぁ。ねじれ構造ですか……」


「心配そうな顔をするな。それよりもだ。俺に許された時間は精々3か月程度。8月、9月、10月の3か月間は不在になるが、それまでに何か予兆を感じ取ったら遠慮せず連絡が欲しい」


「承知しました」


「この3か月の間、敵は動くとは思えないし、俺の方でも下界の方でマニアクスを何騎か落とす予定だ。算段はある程度頭の中に描いている。落とせる場所も限られてるしな。強敵には挑まん」


「決戦に行くんですね……1つ質問が」


「なんだ?」


「3か月動く事はないというのは、なぜそう思うんです?」


(知ってるからとは言えんな。適当な事を言って有耶無耶にするしかない)

「布石を打ってあるからだ」


 カッコウは思考を巡らせた。

(布石……いつもの、神算鬼謀なる一手を既に打ってあるとでも? 

 彼は頭が良すぎて思考が全く読めない。

 一体どんな一手を打っているんだ……そもそも、退学という茶番。

 これすらも計画の内なのではないか? そうとしか考えられない。

 この地を離れるべきだと判断した、それに足りうる事件があった。

 いやあるに違いない。彼ほどの実力者が入院するほどの大きな戦いがあった。

 故にこの学園を去るという、一見蛮行とも思える行動を取った。

 得られるはずだったキャリアをかなぐり捨ててでも。

 その意志と献身には頭が下がる思いだ)


「まぁそういう事にしておきましょう。天内くんの計画は基本外れた事がありませんし、何かあるのは推察する事しか出来ないですが」

 

「まぁ。そういう事だ」


(あっぶね~。カッコウは頭が良いのだ。こいつ中々に切れ者なのだ。こいつには基本、布石を打ってあるとか適当な事を言っておけば勝手に納得してくれるのだ。そもそもTDRを財閥並みの資本力を持ったコングロマリットに急成長させた手腕を持つ男。恐ろしいぜ。あんまり下手な事は言わず、俺の言いたい事だけを言っておこう)


「それで、天内くん。これから一体どこに行くのかだけ、訊いておいてもいいですか? 場所すらも不明だと、連絡や支援に難儀するので」


「そうだったな。それはな。雨の止まない国に行くとだけ言っておこうか。詳しい住所は確定したら知らせる。まだ色々と決まって無くてな」


「雨の止まない国? ですか」


「そうだ。それでだ。何人か影を連れて行こうと思う。ハイタカとミミズクを俺のサポーターとして連れて行きたいと思う。今回の戦いで必要になる」


 天内は近頃仲間になった3名の影の内2人を選出した。

 錬金術師であるハイタカは武器弾幕をより洗練させる為に必要だと。

 回復魔法を得意とするミミズクは今回のような致命傷を受けた際の治癒要員として欲しいとも考えたのだ。


「お二人を供にするのですね。知らせておきましょう」


「頼んだ。それとだ、カッコウ。お前にはもう一つ頼みがある」


「なんでしょう」


「9月にマホロでも秋入学があるよな? 翡翠と雲雀。こいつらをマホロに入学できるよう画策しておけ。実年齢は……まぁ誤魔化せるだろ。その、組織? の力を使えば」

(翡翠も雲雀も、既に高校生をやれる年齢ではないが、まぁお得意の組織とやらの力を使えばなんとかなるだろう)


「かしこまりました。そうそう天内くん。いつ頃出立されるんです?」


「そうだな」


 天内はしばし頭の中で考えてみる。

(現在7月の終わり。そもそも暦が前世と違う。

 ヒノモトにある全国の学校はつい先日から夏季休暇に入っているはずだ。

 世界規模で考えれば夏卒業の学園もあるし、秋から新年度の始まる学園もある。

 北半球と南半球といった季節や歴史、それぞれの国家の経済の要因と観点から、4つの学園の計画年表は大きく異なる。

 俺は8月編入を狙っている訳だ。

 夏イベの消化は精々20日もあれば十分可能だと目算している。

 入試は、筆記と実地試験で2日かかるので……

 8,9日はフリーだ。

 その内2,3日はパーティーメンバーと過ごす予定。不足の事態も考慮に入れ、5日間程度はフリーの時間を取っている。

 転校先の入学試験事態の概要は、書類を読んだ感じだとマホロよりも簡単だ。

 特別対策も不要。そもそもマホロへの入試試験も、モリドールさん探しに手間取っただけで試験そのものは鼻くそをほじりながら出来たレベル。

 それよりも難しかったら困ってしまう)


「おおよそ1週間後ぐらいだな」


「急ですね」


「まぁな。そんなもんさ。最後にアイツらに別れの挨拶を告げたいしな。多くの約束を反故にしてきた以上、この一週間は思い出作りに勤しむさ」


「それがいいかと。方法はわかりませんが、戻って来るんですよね?」


「そうだが?」


「じゃあ、別にいいんじゃないです? また会えるんですし」


「馬鹿野郎! そういう訳にいかんだろ。正直怖いんだ。アイツらに会うのが怖いんだ。だって勝手に学校辞めるんだぜ俺。滅茶苦茶怒ってるだろ。それに今まで連絡を取っていなかったんだ。最初に連絡を入れて会ったのがお前なんだよ! 昨日の夜初めてメッセージを送ったぐらいだ」


「え? マジですか? 連絡してなかったんですか? そもそもまだ会ってないですか? なんで?」

 呆れた顔をし始めるカッコウ。


「怖いんだよ! お前は女を理解していない! 裏で陰口を言い合って標的を槍玉に挙げて結束力を高める生物が女なんだよ! 愛想尽かされてパーティー解散を宣言された方が幾分かマシだ。戻って来た際の人間関係も考慮に入れてるんだよ。俺はな!」


「そ。そうですか。大変ですね。ちょっと色々と勝手に動きすぎですもんね。天内くんは」

 カッコウは天内を一瞥すると困惑した目を向けた。 


 頭を掻きむしると何本か髪の毛が膝に落ちた。

「そんな目で見るんじゃないよ! 俺だって人間関係に悩んでるんだよ! あとケハエール出来たんだろうな!?」


「え? ああ。あの奇跡の薬ですね。もう間もなく完成しますよ。奇跡の治療薬がね」

 カッコウはニヤリと笑った。



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