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魔法学園4座


「……という事があったんですよ」


 俺を治療をしてくれた西園寺なる医者に愚痴っていた。

 これまでの顛末を説明していたのだ。

 まさしく『かくかくしかじか』である。

 考査戦で辛勝するフリをして少年Gをボコボコにして。

 恨みを買い街中で刺されて絶命しかけ。

 目覚めたら混乱してトイレに猛ダッシュして。

 学園の権力者を蹴り飛ばした。


 その結果、非行少年として退学処分になった。

 非常にシンプルな説明であった。

 

「なるほど。それは残念だね。刺された件に関して被害届を出さなくてもいいのかい?」


「それはどうでもいいんです! それよりも! どうすればいいんですか? 先生! 弁護団を雇えばいいんですか!? 俺の退学処分を撤回させるには法廷闘争に持ち込むしかないんですか!? 負けます。俺は法廷で必ず負けます! 俺にご教示下さい!」


「天内くん。最初に言っておくが、弁護団を雇う前に、君には人工呼吸器の弁償が待っているがね」


「ウッ!? まぁ……まぁ。落ち着いて下さいよ。一旦それは置いておきましょう」

 話を逸らさなければ。


「置いておく訳にはいかんが」


「その前に、俺の退学処分は取り消せないんですか! 先生もマホロ出身なんですよね! 顔広いんですよね! 俺の……いや、僕の力になって下さいよ! このままじゃモリドールさんに顔を合わせられない!」


「モリドール???」

 西園寺医師は怪訝な顔をした。


「パーティーメンバーにシバかれちゃいます! もう僕は終わりだ!」

 俺は診察室でジタバタと地団駄を踏んだ。

 踏んだり蹴ったりだ。


「落ち着きたまえよ。そうだなぁ」


 西園寺医師は顎に手を置き、目をグルグルと回転させ考え事を開始した。


「な! なんかあるんですね!?」


「ないね」


「え?」


「退学処分の撤回は不可能だ。そもそも君はもう学園生ではないだろう?」


「えっと。それを撤回したいんですけど」


「それは無理なんだ。どれほどの実力を持っていようとも、どれほど優秀であろうとも一度退学処分になった以上復帰は不可能だ。

 そういう決まりなんだ。大人の世界のルールなんだよ。

 それはどこの学校に行っても同じさ。

 仮にだ。どれほど優秀であったとしても、罪を犯せば必ず取り締まられるよね? 

 罪に問う問わないは優秀か否かが問題ではない。

 社会が決めた秩序、調和を乱した者には相応のペナルティーが科せられる。

 ただそれだけなんだ。

 もしそれが嫌なら、否定を口にするならば、裁判で争うしかない。

 第三者に公正な決議を委ねる場が法廷だからね。

 君もわかるよね?」


「……」

 正論だ。

 正論すぎた。


「まぁ。マホロだけが全てではない。学校はマホロだけではない。新しい道が開かれたとポジティブに考えてみてはどうだね?」


「ソッスネ」


 どうやら無理っぽい。

 俺の退学を取り消すのは不可能っぽい。


「魔法学園にこだわるのならば、あと3つあるじゃないか」


「3つ……」


 マホロ学園を除く、世界的に有名な3つの魔法学園。

 

 自由主義を掲げるアメリクス所属であり、元々千秋の居た軍事機関の側面を持つ撃鉄と硝煙、砂塵舞う絶海の孤島に浮かぶ規律の厳しい軍人の学校。ジュードの所属する『蝕』と繋がりが深い学園。

 サンバースト士官学校。


 封建主義が根強いガリア帝国所属であり、2人のマニアクスが支配する虐殺と侵略の歴史を持ち版図を広げてきた。ガリア帝国中心に位置する学園。

 カリアティード聖教会。


 グリーンウッド王国所属であり、聖騎士として名を馳せる傾国と魔性の麗人であるマニアクスが絶大な権力を持つ王国に位置する学園。

 迷宮庭園(ヘッジメイズ)


 この三校のどれかに行けとでも……未知の領域だ。

 情報が少なすぎる。知ってる事も多くあるが、知らない事の方が多いと思われる。


 一校だけ秋に転校生として風音の前に最後に登場するメガシュヴァヒロインがいるが……


 それに俺はこの地を離れていいのだろうか? 

 マホロ(ここ)は本編舞台。

 戦力としては申し分ない圧倒的な場所。

 ヴァニラも居るし、ジュードも居る。右腕たるカッコウも居る。

 何より主人公が居る。

 この箱舟たる地を落とすのは容易ではない。

 ここが世界で最も安全と言えるぐらいに。

 だから、俺が不在でも問題ないだろう。

 これから夏季休暇。メガシュヴァ本編の物語は全く進行しない。

 主人公風音のお色気イベなる箸休め回しか続かない。

 敵も空気を読んで出てこない。

 

「私のツテを使う事も可能だ。一校だけ推薦状を書けるからね。受けてみては?」


「マジっすか!?」


「それにだ。マホロにこだわるのならば、一つだけであるが、抜け道がない訳ではない。至極真っ当な正攻法がある」


 俺はゴクリと生唾を飲んだ。

「抜け道ですか……詳しく聞いてもいいですか」


「いいだろう。その前に人工呼吸器の弁償の誓約書を書いて貰う事になるがね」


「ウッ……い、いいでしょう。書きましょう。現ナマで耳を揃えて持って来ますよ」


「ほう。いい心掛けだ。……ちなみになんだが、モリドールというのは、性は森林ではなかったか?」


「?」

 俺は疑問符を顔に浮かべた。


 ・

 ・

 ・


 (いま)だ解毒が完全に出来ていない俺は退院は出来ていなかった。

 身体も以前よりも重く感じる。傷口は綺麗に治っているが生死を彷徨っていた事もあり、身体の節々が今も痛いのだ。病棟の屋上で夜空を見上げ息を吐いた。


 俺はゴドウィンを恨んでなんかいない。

 アイツに報復する気なんてそもそもない。

 そんなみみっちい事はしない。

 だが、一発ぶん殴ってもいいとも思っている。

 些細なプライドから衝動的にやった事なら、それは間違いだから。


 その過ち、誤った考えをここで断つ必要がある。

 その生き方は危ういと。

 それに心置きなく九藤をぶっ飛ばせる機会でもある。

 学園を辞めたのなら、最後にあの思想家の鼻っ柱を叩き折る絶好のチャンスだと。

 俺には捨てるモノがないから。

 だが、それは後に取って置いてもいいだろう。

 


 やるべき事が見えたからだ。

 時間は有限だ。

 思えば、既にメガシュヴァを超えた物語を進行し続けてきた。

 予想を上回って来た。 


 西園寺氏からの提案を聞き、俺は決心したのだ。

 

 マホロを去る決意を。

 

 てか、もう戻れないなら仕方がない。

 この世界に蔓延る敵は全員一掃する。

 

「俺がこの世界に居る敵を全て倒す。仮に学園を去ろうとも。全員鏖殺(おうさつ)だ」

 鋭い眼差しで天を睨みつけると微笑んだ。

 皆殺しにできると思うと心が高鳴ったのだ。


 頭を振り払う。

「危ない危ない。いつの間にか()()()が発動していた」


 さて。風音の成長を見守るのもリモートになってしまうが……

 カッコウの奴とも常時連絡を取れるようにしておけばいいだろう。


「影パーティーは1人か2人連れていこう」


 俺は転校する。その決意が出来たのだ。

 

「その前に、最後の挨拶は必要だな」


 この学園で強化したパーティーメンバーと最後の夏を過ごすのも悪くないだろう。

 アイツらは攻略に連れて行くほど強くはないが、この世界基準で考えれば滅茶苦茶強くなった。


「だから大丈夫だ」


 西園寺氏の話を聞くに、あまり時間を割くべきではない。

 夏イベの攻略も同時に遂行しなくてはいけない。

 あの力を手に入れなくてはいけない。

 新しい学校に入らなきゃいけない。

 予定満載だ。

 しかしだ。

 俺にも情がある。

 だから少しだけ仲間達と共に過ごすのも悪くないだろう。


「2、3日ぐらいだけど」

 最大限譲歩して2,3日しか捻出できない事実に笑った。

「仕方ないか」

 

 何よりパーティーを解散する訳ではない。

 一旦休止するだけだ。

 俺を仲間と思ってくれる変わり者しかいないが、俺もアイツらを仲間だと思っているからな。


「第一声は謝るしかない。モリドールさんにも謝らんとな」

 

 顔を合わせ辛い。それを考えても仕方がない。

 それにだ。マリアと過ごすみたいな用事があった気がする。

 翡翠の奴が勝手に画策した謎イベント。

 

「行くか。うん。行こう。思い出作りと接待は大事だ。あまり悠長な事は出来ないが、最大限の謝辞としてワガママを聞こう」


 俺は携帯を取り出し、それぞれにメッセージを送った。

 別れの挨拶を告げる為に。

 

 

第二部に向けて、もう間もなく本編が一気に動き出します。

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