グッバイ! じゃあね!
俺は病室にて対策を講じていたのだ。
「退学処分、取り消す、方法っと」
俺は検索ボタンを押した。
インターネットのパワーを使い調べてみる事にしたのだ。
「ふむふむ」
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退学処分は原則取り消せません。
もし、不服があるのならば、不当事由を裁判所に提訴する他ありません。
退学処分の違法性が認められれば、退学処分は取り消されます。
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「なるほど、なるほど。ギャルゲ時空に似つかわしくなく、リアリティーを出してきたな」
違法性か。無理だな。俺がシリウスとかいう、この学園の権力者をぶっ飛ばした事実は取り消せない。裁判所に不服申し立てを提出したら、俺が負ける。
素人目で見ても敗訴する。
お情けで前科が付かなったのに、豚箱行きが確定する。
俺は便所に駆け込む為にシリウスを公衆の面前でぶっ飛ばした。
意識が朦朧としていたんだ。仕方ないだろという言い訳は通用しなかった。
狭量であった。
シリウスの心は狭量すぎたのだ。
そのせいで、退学処分になった。
余談だが、高額医療器材もぶっ壊してる。
「まぁ。まだ慌てるような時間じゃない。落ち着くんだ俺。えーっと。マホロ、学校、退学処分、取り消し方。検索っと」
学園のホームページをくまなく調べる為、ホームページ内検索を掛けてみたのだ。
所詮、実力を証明すればいいのだと。
モブで居続けるのは難しくなるが、退学処分よりマシだ。
「なんかあるだろ。生徒会役員一人倒したら復帰みたいなトンチキ校則が」
この世界はトンデモ時空。
意味不明な校則や約款があってもおかしくない。
もう武器弾幕全属性バージョンをお披露目しようかなと考えていた。
「やれやれ。仕方ねぇな……」
この時、呑気に『なんとかなるだろ』、と思っていた。
だって、魔法学園だよ? ベスト32に入って来てたんだよ?
モブとしては不服ではあるが、俺は実力者のはずだ。
そう認識されているはずだ。
そんな俺を学園が手放す訳がないと。
そんな風に呑気に高を括っていた。
斜に構えていたのだ。
だって、学園モノで、学園退学になったら、それもう破綻してるんだもの。
「なんとかなるさ。大丈夫。大丈夫っと」
なんとかなんなかった。
世間は甘くなかった。
法律が生きているのだ。
妙な所で厳格なのだ。
「あれ? どうしてこうなった?」
結論から言うと、マジで退学になった。
放校である。
情状酌量の余地もなく、淡々と事務処理は終わると退学になったのだ。
フリーターでなく、無職である。無職のモブAが誕生した瞬間であった。
教務課にて、俺は学生証が失効になった旨を言い渡されると。
魔力のパスが通った俺の学生証は真っ白になった。
「除籍されると、単なるカードになるんですよ。知りませんでした?」
教務課のお姉さんは、にこやかに俺に語り掛けてきた。
「へ、へぇ」
「大丈夫ですよ。この学園は退学者は多いですし、気にする人も居ません。他の学校では優秀な成績を残せます。あるべき鞘に納まるとも言いますが……」
微妙な毒を吐かれた。
複雑な気分であった。
「事務手続きは済みました。お疲れ様でした。天内さん。貴方ならきっとよい高校に行けますよ。退学処分になった後のガイダンス渡しときますね。そうそう。天内さん。貴方、学費払ってませんよね。それも後で請求しときますね」
「エ、ア、ハイ」
追い打ちを掛けられて俺は心がぶっ壊れた。
ガイダンスを渡されると学園の門戸は固く閉ざされた。
「えー。マジか……」
俺は学園の隅で項垂れる。
「うそ……だろ。モリドールさんに合わせる顔がないぞ。パーティーメンバーにも合わせる顔がない」
愕然とした。
「俺、学校辞めるってよ」
フッと笑った。
自嘲してしまった。
不安を和らげる為に、嗤ってしまったのだ。
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/千秋視点/
学園は夏季休暇に入ると、学園生は各々自由行動を取る。
実家に帰省する者、ラボに籠る者、ダンジョンにて腕を磨く者、部活に精を出す者、はたまた遊興に興じる者。
学園生が意気揚々と休みを謳歌しようとはしゃいでる姿が至る所にあった。
地上に比べ、この地は年中安定した気温であるが蒸し暑かった。
よくパーティーメンバーで会合をする庭園を見渡せるデッキにてボクら3人は集まっていた。
ボクは額の汗をハンカチで拭うと。
「小町ちゃん。落ち着いて聞いてね」
「なんですか? 三人だけで集まるなんて珍しいですね。アイツ見つかったんですか?」
彼女の機嫌はすこぶる良くないようであった。
「あー。アイツってアイツの事だよね?」
アイツ……傑くんしかいない。
棘があるなぁ。まぁわかるけど。
約束をすっぽかして今の今まで連絡を寄越して来ない。
怒るのも無理はない。
ボクも会ったら一言言ってやりたいぐらいだ。
「そうです。激ダサ男です」
マリアは空をボーっと眺めていた。
ずっとこの調子なのだ。
傑くんが失踪して、いつの間にか退学になっていたと事後報告を受けてから、ずーっと空を眺めて口をパクパクとさせているのだ。
だからこそボクが伝える必要があるだろう。
「そのダサ男はどっか行っちゃったんだけど、そのダサ男の話なんだよね」
「どういう事です? そこら辺で拾い食いしてお腹でも壊してるんですか?」
「いやぁ。違うよ。多分」
拾い食いして、お腹壊して今の今まで出てこない。
在り得るんだよなぁ。
ボクは話題を修正する。
「その……ね。例のダサ男はもう戻ってこないかも」
ボクも頭を抱えた。なんでこんな事になっているのか、さっぱり意味不明だ。
でも言わなくてはいけない。
小町ちゃんはボクらの仲間なのだから。
「マリア先輩もさっきから蝶々を追いかけてるし、一体何があったんです?」
「あー。うん。その……何があって、どうしてこんな事になったのかこっちが訊きたいくらいなんだけど。今、共有できる事実を伝えなきゃいけないんだ」
「事実? ですか」
衝撃的事実を伝えなくてはいけないと思うと、自分の口がその言葉を発する事を躊躇われた。
言いたくないのだ。
ボクも事実を受け入れたくない。
意を決して恐る恐る口を開く。
「傑くんは……もうこの学校に来れないんだ。いや、そもそも、もうここに居ないかも」
マホロは入試も編入も非常に難しい。
世界中で選抜された者が集う地だから。
その門戸は誰に彼にも開かれているモノではない。
一度退学処分になった者は再度編入なんて事は出来ない。
この地に不適格と認定された者は、再びこの学園の門を潜る事を許されない。
「はい? 説明になってないんですけど」
「だからその……」
ボクは、その言葉を発したくなかった。
もし、勝手に居なくなったなら薄情者すぎて…でも最後に挨拶ぐらい欲しかった。
「天内さんは学校をお辞めになりました」
マリアは空を眺めながら虚空に呟いた。
「マリア……」
彼女はきっぱりと、ボクが伝え辛い事を告げた。
「遂にですか……マリア先輩にしては面白い冗談ですね。あんな奇行を繰り広げていたら、いずれそうなるだろうとは思っていました。それで本当の所はどうなんです? どうせ謹慎とかなんでしょう? どこに居るんです?」
「居ませんよ」
「マリア先輩。もういいですって」
小町ちゃんは信じてないようであった。
ボクも信じられないのだ。
「小町ちゃん。よく聞いて欲しいんだけど。それが、その本当なんだよ」
「はぁ?」
「天内傑は退学したんだ」