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学園イケメンランキング



 小町との作戦会議を終えたところであった。

 

 会話中ずっと気になっていた。

 俺は何と声を掛ければいいのか思案していたのだ。


 昨今、取りだたされるセクハラ問題。

 言葉を慎重に選ばなくてはいけないのかもしれない。

 ただでさえデリカシーがない、と揶揄されているのだ。

 小町の髪の毛が短くなっていた。

 心境の変化で髪型を変えると聞いた事がある。

 スルー。ここはスルーである。

 どこに地雷があるのかわからない。なので触れない方がいいかもしれない。

  

「どうしたんです? 先輩」


「少しな。色々あって」


 小町の髪型の事もあるが。

 昨夜モリドールさんに『突然だけど明日、明後日ぐらいでパーティーメンバー紹介するわ』と伝えた所、小言をグチグチ言われたのだ。

 (こじ)らせ発言のオンパレード。

 千秋の敗北もあり、『約束は約束だから、まぁ認めないけどね』という手厳しい事を言われてしまった。何を認めないのかはもはや意味不明だけど、そんな面倒な会話を深夜まで行っていたのだ。

 

「あー、なんか、先輩って人気者になってますもんね? それでですか?」


「人気者? 何の話?」

 モブの俺が? なんで?

 

 はぁー、と大きくため息を吐く小町。

「発見されちゃいましたね」


「だから何の話なのさ」


「先輩、最近変わった事ありませんでした?」


「ないけど」


「そうですか。鈍感すぎませんか?」


「なにが?」


「もういいです」


 すると、観光客と思われる女性グループが俺に声を掛けてきた。

「あの~。天内さんですよね。一緒に写真でも」


 小町の奴が冷めた三白眼で、俺の事を見ていた。


「事務所NGなんで」


 即答した。

 嘘である。俺は事務所などというものに入っていない。

 最近、写真撮影の依頼を受けるようになった。

 少々目立ち過ぎた為だろう。

 この考査戦、勝ち続けると目立つ事は理解していたが。

 鬱陶しいので、適当な事を言って断っている。


「さぁ行った、行った」


 俺は無愛想な奴を演じ、手払いした。

 断りを入れた女性陣が頬を膨らませながら、ブーイングして去っていく。

 そんな光景を眺めながら。


「先輩、最近変わった事ありませんか?」


「同じ質問だな……」

 変わった事。お前の髪型がショートヘアになったぐらいしか思いつかない。

「あー、あるかも」


「それです! ありますよね!」


「しかしなぁ」


 それをツッコんでいいのか?

 そういやコイツ振られたみたいな事を言っていた気がする。

 もしかしたら傷心中なのかもしれない。

 好きだった男に振られ、気持ちを切り替える為に髪型を変えた。

 

「そうか。小町の言わんとしてる事がわかったわ。なるほど。名探偵すぎるな俺。……なんと涙ぐましい乙女心だろう。俺は乙女心を読むのが上手(うま)すぎるなぁ」


 自画自賛した。

 流石、恋愛ゲームの申し子。

 恋愛シュミュレーションゲームをやりすぎた成果がこんなとこで役立つなんて。

 

「は? 先輩が? 先輩が乙女心を理解する? 寝ぼけてるんですか? は?」


「あんまり驚かないでくれよ。脱帽するよな。そりゃあ。

 そういう事か……なるほどなぁ。小町よ。まぁ気にするな。

 そうやって人は成長していくんだ。なんか奢ってやるから気にするなよ。うんうん」

 

 俺は弟子の肩を叩いた。

「いやぁ~。青春だねぇ。いいんじゃない? まぁ星の数ほど居るんだし」


「何言ってんだこいつ」

 

 俺は優しい顔を作り語り掛けた。

「やさぐれるなよ。俺にはお見通しだからな」


「違う! 違いますよ! 多分先輩の考えてる事、全然違いますよ! 馬鹿の癖になに勝手に納得してるんですか!? これを見てください!」


「おい。酷くないか?」


「いいから!」

 

 小町はバックから冊子を取り出した。

 この学園の非公式の広報誌のようだ。

 ページを捲り、指差す方へ俺は視線を向けた。


「ん?」

 つい、二度見してしまった。


「なんじゃぁぁぁこりゃぁぁぁぁ!?」


 目ん玉飛び出した。

 俺の写真がデカデカと載っていた。

 

 学園イケメンランキング。

 次代を担う注目の男子生徒特集。


 カッコウの奴が第七位。

 そんな事はどうでもいい!!


 第三位に俺がランキングされていたのだ。

 『剣術の貴公子』そんな見出し。


「知りませんでしたか……先輩。つまり、これがですね、」


 小町は何やら話しているが、耳に入ってこなかった。  

 泡拭いてぶっ倒れる寸前。

 チアノーゼが出始める。


「モブ詰んだァァァァァァァァァ!!!!」

 モブ生活が終焉を迎えそうな気がして『エンダァァァァァー!』のテンションで雄叫びを上げた。

 

 ・

 ・

 ・


/マリア視点/

 

 穂村さんの試合日だというのに、激励には行かなかった。

 正確には行けなかった。

 私は最近千秋さんと共に不快な冊子を回収し燃やしているのだ。

 これが中々の手間。

  

「想定通り大変な事になってしまっている。天内さんが遂に馬鹿共に見つかってしまった」


 時間の問題であるとは思っていた。

 しかし、ここまで早いとは。

 手の回せる範囲で牽制を掛けてきたけども、外部に圧力を掛けるのは至難。

 

「どうして!」


 髪の毛を掻きむしり、天内さんが写った写真だけを切り取りそれ以外を燃やした。

 それ以外はゴミだ。

 そっと切り抜いた写真をファイリングしていく。

 これだけは燃やせないのだ。

 燃やしたらバチが当たってしまう。

 後で部屋に飾らないといけない。


「火の粉を振り払うのが私……未来の妻の役目」

 天内さんに淫情な眼を向ける者共を業火滅却せねばならない。


 手は打ってある。

 天内さんは事務所に入っているという事にした。

 アラゴン家の有り余る財力と政治的圧力、財界の癒着を利用し芸能事務所を諸審査を飛ばして創設したのだ。ヒノモトで多大な影響力を持つTDRなる政界・財界と強いパイプを持つ複合企業も非常に協力的で助かった。

 

「無論、私以外の女に(なび)くなど、ありはしないけども」

 嫌な予感がする。


 あらゆるケースを想定しなければいけない。

 天内さんに声を掛ける輩を排除する案件が日夜報告されている。

 8割ほど阻止は出来ているが、残り2割を防げていない。


 ファンクラブが作られるのも時間の問題だと計算していた。

 ファンクラブなどという下劣極まりないモノを第三者の手によって作られれば、暴走を止められなくなる。しかし、それを未然に防ぐのは困難だ。

 

「ならば先に作ってしまう。公式で作ってしまえばいいのよ」

 

 それが私の出した結論。


 既に公式で天内さんのファンクラブは作成済み。

 抜かりはない。

 それ以外は反徒となる。

 非公式を排斥する事で秩序をコントロールする。

 会員は日夜増えている。

 天内さんの勇姿を見る度にその数は増えるのだ。

 昨日だけで200人増えた……


「それは仕方のない事よ。冷静になりなさい私」

 

 ファンクラブなどという俗物めいたモノ。

 この者達は既に事務所の威光の前で門前払いを受ける負け犬達。


「フフフ。何人(なんぴと)も私との絆を邪魔する事など出来はしないと思い知るがいいわ」

 

 ただでさえ、身近にライバルが居る。

 モリドールなる顧問も居る。

 これ以上見知らぬ女狐が増えたら対処が出来なくなってしまうのだから。


「私達は相思相愛……のはず。多分……」


 ちょっと自信ない。

 けど、そう思っておこう。

 原動力は大事だ。


「邪魔立ては許されない。絶対に!」

 クフフフと、1人笑みを作った。



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