プロローグ(終) 最強の存在とは。答えは”C”である
最強の存在。
十人十色、様々な答えが返って来るだろう。
最強はこの世に沢山ある。
その中でも凶悪なモノとは何か?
神あるいは魔王。現実見ようぜ。そんなもんは雑魚なの。
見ていて悲しくなってくるんだよ。
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世の中金。金だよ金。くだらねぇよな。
前世も金。そして今世も金。
金、つまりマネー? キャッシュ? クレジット? コイン? コンフィデンス? キャピタル?
富です。
つまり。資本力(Capital)です。
経済力が求められるのです。
余談だが、金融用語はCから始まる単語が多いらしい。
俺は個人的に金にまつわる話題・単語、その他諸々を"C"と密かに呼んでいる。
俺が勝手に使ってるスラングだ。
俺はCに苦しめられた人生だったと言っても過言ではない。
前世で金に苦しめられ、今世も金に苦しめられるのだ。
やってらんねぇよな。
金というのは異世界に転生しても最大の敵として現れるんだからすげぇよ。
「お前がナンバーワンだ」
金という概念、人類が発明した恐るべき悪魔のシステム。
金という金属あるいは紙切れ、あるいは電子データ、鉱石、アンティーク…………
数え上げればキリがない。
信用取引に使用されるソレはあらゆるモノに姿を変える。
悪魔の存在。
邪悪なるモノだ。
単なる紙切れの為に人は争い、騙しあい、悲劇を起こす。
真面目な者であっても金の為に人生を捧げる。
戦争を起こし、飢饉を生み、悲しみを生み出す。
人を狂わし世界に末永く影響を残す禍根。
呪い。
人生の大半を金の為に四苦八苦し、人間という種を蝕む永劫なる呪いのシステム。
それが金だ。
もし魔王という存在が居るのだとしたら………
金(Cash)。
お前だよ。
古今東西の物語に魔王は出てくるが、そのどれよりも強敵だろう。
人類が唾棄すべき最強最悪の敵。
あらゆる怨嗟と欲の権化。
知生体が抗えぬ凶悪な価値観。
それが金(Credit)。
お前が間違いなく最強の一角なのは間違いない。
なぜなら俺はお前ほど邪悪な存在を知らないから。
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銀色に輝くペリカンを火属性の纏った剣で叩き切りその場で倒れこんだ。
【メタルペリッパ】と呼ばれる間抜けな顔をした全身銀色のペリカンのようなモンスター。
こいつはレアモンスターでありながら雑魚モンスターである。つーかHP3しかない。
こいつは取得経験値、取得魔素が多い。
非常に低確率でしか遭遇しない上に、とてつもなく逃げ足が速いモンスターだ。
なんと遭遇確率0.0002%の上に逃走成功確率50%。
そのモンスターを一度でも倒すだけであのアカウントを持つ者だとトロフィーが一個貰える代物である。
だがこいつに効率的に遭遇し、退路を防ぎトドメを刺すハメ技が存在する。
それを発見した大陸のプレイヤーによって付けられた名称。
通称『実践投資編!! ねずみ講戦法(戒)一匹発見したらあとは芋ずる式』である。
Wikiに公開された当初、SNSのトレンドに載ったほどだ。
多額のマネーを消費するが引き換えに恐るべきスピードでレベルを上げる“禁術”の一つである。
そしてようやく一息付けそうだと安堵した。
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メタルペリッパが出現するまで地獄の周回だった。
何日も何日もダンジョンに潜り続けた。雑魚モンスターを狩り待ち続けた。
気が遠くなりそうだった。
実践投資編を行うにはメタルペリッパに遭遇しなければならない。
その一匹が長かった。効率的に遭遇するにはグンマ―県にある使われなくなった廃坑ダンジョンしかなかった。
しかもダンジョンに潜るには隠しギミックを解かなければならない。
プレイヤーでなければ、誰も知らないであろうダンジョン。
このダンジョンでのメタルペリッパ遭遇率は0.02%。
通常より100倍遭遇しやすい。効率的ではないだろうか? ゲーマなら頷くだろう。
メガシュヴァをやってない友人は『低!? 変わんねぇじゃん』と言ってたがあいつは何もわかってない。
まぁそんなこんなで、ぶっちゃけ一匹出てしまえば芋ずる式である。
実践投資編を使えばいい。
【メタルペリッパ】は特殊アーツ行動を行うとボーナスで同一個体のメタルペリッパの仲間を呼ぶ。
退路を塞ぐ【空間陣刻石】。
本来移動アイテムであるこいつでメタルペリッパを拘束する事ができる。
モンスターの特殊行動誘発に使用される【誘因草】。
これらを湯水のように消費する。
空間陣刻石で拘束した一匹が仲間を呼んだら、呼ばれた二匹目を空間陣刻石を使い拘束。拘束されたどちらかを狩る。
誘因草を使い特殊アーツ発動まで待ち仲間を呼ばせる。
これの繰り返しである。
二匹目、三匹目……と呼ばせメタルペリッパを狩り続ける。
そんな事を行っていたのである。
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メタルペリッパを倒したあとに放出された光の粒子は俺の体に纏わりつき、魔素となり体中に溶けるように吸収していく。
俺の体は明らかに今までと違う。表現するのは難しいが身体が軽くなったような、心臓から熱い何かが生まれるような。まるで薬でもキメたかのようにとても心地の良い感覚である。
「レベルが上がったか……」
この世界に来てわかった事がある。
そして、やはりか。と思ったのが、
「この世界にはレベルを確認する方法がない」
現実世界となったこの世界ではゲームのように数値としてキャラのステータスを俯瞰することができない。
数値として確認できなくなった今、なぜ確信を持てるのかというと俺にはあるのだ。
前世の記憶。プレイヤーとしての視座が成しえる知識が。確信はある。レベルが上がったという確信が。
図書館で印刷コピーした火属性の中級魔導書の資料をスキル高速思考と並列思考を使い速読で読み込む。
そして俺は本を閉じると掌に魔力を伝導させゲーム時代の知識をフル活用させその技のイメージを行う。
その瞬間。
俺はレベル30以上にならないと使用できない中級魔法を起動した。
これは先ほどまで使用できなかった技。
つまりレベルが20台から30台に上がったという事だ。
一桁台の正確な数値はわからないが、俺は最低でもレベル30になったという事。
ある程度のレベルにならないと使用できない魔法やアーツが存在する。
それがレベルの確認方法の一つである。
ガタガタとふらつく足に力を入れ俺は邪悪な笑みで高らかに嗤った。
「勝つる! 勝つるぞ! 俺しか勝たんわ! 大丈夫だ。切り札も抜け道もまだまだある。何より俺にはゲームの知識がある」
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俺はとぼとぼと帰路についていた。
メガシュヴァがリアルになった世界。
レベル上げが死ぬほどシビアだ。いや、元々ゲームメガシュヴァもレベル上げが滅茶苦茶きつかったが、画面上を指先一つで周回が行えたからゲームは楽に思える。
しかしこの現実世界ではそうはいかない。
現実にダンジョンに赴き、全身を使いモンスターを狩る。
たとえ雑魚でも一匹倒すだけで体中に疲労が蓄積されいく。
もちろん腹は減るし、眠くもなる。痛みも生まれる。
ゲームでは数秒で狩れる雑魚が、現実ではその10倍、100倍と時間がかかる。
メタルペリッパに出会うまでに倒した雑魚モンスター約3200体。
これだけ倒しても恐らくレベルは10にも満たなかったと思う。
戦闘開始前で使用できるアーツが反射(小)のみだったから。あながち間違ってないと思う。
しかしメタルペリッパを6体倒しただけでレベルが30を超えた。
こいつ一体の経験値はやはりとんでもない。
ただアイテムの消費が激しすぎるので延々と行うのは不可能である。
世知辛いかな。この戦法は資本主義源流なのだ。
だって実践投資だしね。
長かった。非常に長かった。そして資産という名の遺産もほぼ底をついた。
俺は会ったことのない天内の家族に合掌した。
フラフラの体を引きずりながら誰も使わなくなった雑魚ダンジョンの入り口まで戻った。
バタリとその場に倒れ、青空を眺めた。
そして哄笑した。
「俺は強くなれる」