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考査戦⑦ func ∏ (m){ int m, ex; ex=1; for(t=1; t<=m; t++){ ex=ex*t; } return ex; }



 本日の最終戦。

 時刻は既に21時を回り始めていた。

 ナイター戦であり、観客は昼よりも(まば)らであった。

 というよりもカッコウ戦に殆どの人が向かっているためだ。

 隣のコロシアムでは大歓声が上がっているのが聞こえた。


 

「ほう。なかなかやりおるわい」

 俺はガラガラの観客席の上方から腕を組みながら、ライバル校の対戦を見に来た奴風に独り言を呟く。


 ちょっとやってみたかったのだ。

 解説役っていう役回りを。 

 

 混沌魔法は3つ以上の魔法の掛け合わせ。

 相乗魔法は2つの魔術の掛け合わせ。


 魔法というエネルギーのかけ合わせが混沌魔法(チート)

 魔術という式のかけ合わせが相乗魔法。


「マズイなぁ~」

 俺は冷や汗を掻く演技をした。

 

 千秋は苦戦していたのだ。


 相乗魔法。

 それは単一の魔法というよりも技術(アーツ)に近い。

 厳密には使用者の限られたアーツのような魔術だ。


 過剰なまでな魔術量の増加。


 魔力量ではなく、魔術量の増加。

 ここがキモだ。 

 純粋なエネルギーである魔力()が増えるのではなく、

 術式(t)が増えるのだ。二つの魔術を複合させる事で発現させる。

 魔力が増加するのではなく、魔術式そのものを増加させ、陰陽五行から外れた魔術を生み出し出力(exit)させる。


 それが相乗魔法。

 

「てか、まぁ応用みたいなもんだがな」

 俺は手元にある焼きそばを食いながら、聞き耳を立て続ける。

「あ、お姉さん。銀色のやつある?」

 俺は売り子のお姉さんに銀色の缶の飲み物を所望した。




 音魔法で二人の間で交わされる音を集音した。



  

 激戦であった。

 飄々とした男は衣服が所々破れていたが致命傷を食らってはいない。


 飛来する氷の(つぶて)

「ああ。それ。めっちゃすっきやなぁ自分。もうええってそれ」

 

 コロシアムには氷河が(そび)え立つ。

 大地は氷漬けになり、青白い氷が埋め尽くされている。

 だが、一か所だけ異質な空間がある。

 その中心に立つ糸目の青年。青年の周りには花が咲き乱れていた。

 冬の雪解けから生命の命が芽吹いたような空間が開けている異空。


「おっそろしいわぁ~」

 ニヤニヤしながら千秋の放つ氷の弾丸はその領域に侵入した瞬間、水滴になり蒸発した。

 

「な!?」

 千秋から驚きの顔が浮かぶ。


「ほなら次はこっちから行こか。氷は、まぁ盗んどるからな」

 青年は糸のように細い片目を開くと、鋭い流し目を送った。

「めっさ強いやんボクぅ? やからね、まぁほんの少しだけガチでやったるよ」

 糸目の青年は千秋に感想を述べた。


「そりゃどうも」

 千秋は両手でファイティングポーズを作り拳を構えた。


 再度2人は激戦を開始し始める。

 隆起する氷柱(つらら)が地面から剣山のように生えると青年に迫った。


「おもろいなぁ。めっちゃ強いやんボクッ娘!」



 戦闘風景を注視しながら、俺はバクバクと飯を食う手を早めた。

「す、すげぇ。どっちが勝つんだ」


 IG……学園の監察官たる裏キャラ。

 非公式の生徒会役員。その存在はメガシュバでも終盤にしか明かされなかった強キャラであり、この学園で特別な行動が許されている自由人。


 ユーグリット・リヒハイム・伊勢。


 洋名と和名の混ざった糸目の関西人。

 パーティーメンバーに加えたかったが、事実上仲間に加えるのが不可能なキャラの1人。


 スキル:越権行為。


 他者の魔力属性を利用するスキルの所持者。

 あくまで魔力の属性のみなので、越権行為で盗んだ魔法を使用できるわけではない。


 だがこれはデメリットにはならない。

 相乗魔法は内的魔力(オド)の属性を混ぜるだけで完成するからだ。

 これが相乗魔法を凶悪なモノにする。


 これに伊勢自身が持つ、火の魔法〔陽魔法〕と精霊魔法。

 そして越権行為で利用する相手の持つ魔法特性。 

 これらを組み合わせて相乗魔法を即興で作り上げる。


 元々、伊勢が持つ(ハル)・精霊の二系統の魔術。

 そして千秋の持つ氷・重力の属性の4つの中から2つ組み合わせて変幻自在な魔術を放出してくるのだ。勿論、相乗効果は同一系統を混ぜる事もできる。


 氷を解かす異空間を展開した魔法。

 タイプ相性の事を鑑みれば。

 〔陽魔法 × 氷魔法〕

 相反する属性を掛け合わせているのだろう。

 

 ちなみに仮に同属性をかけ合わせ相乗させた場合、威力、範囲など一段階上がる。

 メガシュバで言うとOCである。

 オーバークロック(OC)もしくはオーバーチャージ(OC)だ。


「名付けるなら。『春の息吹』やな」


 伊勢は人差し指を立てると、そこにはクリスタルが浮かんでいた。

 透明なクリスタルの中心には赤い焔が揺らめいていた。


「なん……ですか? それ?」


 千秋は次弾への防御態勢を取りつつ、氷瀑式の展開を準備し始めた。

 目の前の相手が恐るべき強敵であると認識しているのだ。


「気を付けろよ。アイツは精霊魔法も使うんだぞ」

 飯を食い終えた俺は銀色のやつを飲みながら千秋にエールを送った。


 ・

 ・

 ・


/千秋目線/


 舐めてかかっていたら開幕負けてたかもしれない。

 『本気を出さねば負けるぞ』

 脳裏に(よぎ)るのはその言葉であった。


 氷を解かす春の息吹。

 それが吹くと宙空に待機させていた氷の(つぶて)が水しぶきになり地に落ちた。


「ッ!?」

 舌打ちが思わず出てしまう。


 炎熱による熱波や豪炎によって蒸発、融解させるようなものでない。

 まるで気温によって自然解凍するかのような変わった魔法。

 見た事のない魔術だ


「言っていた相乗魔法ってやつか」


 赤いクリスタルが弾けると、生暖かい暴風が吹き(すさ)んだ。

 台風のような風速を誇る『春一番』が吹くと、目を瞑るほどの突風に身を任せながら、伊勢の鋭い蹴りが飛んできた。


「見えてんだよ!」


 傑くんのような、眼で追えぬ速さではない。

 瞬間移動のような、未知の曲芸を放つ彼との戦闘は常に全力を出さねばいけなかったが、この敵はそこまでの技量はない。

 しかし、強敵であるのは間違いない。

 

 重力の魔法を展開させ、迎え撃つ拳を重く、それでいて加速させ強化する。

 剛力の一打を()って対象を完全に排除する。


「もいっこあんのは知ってんねん」


 伊勢はヘラヘラと笑いながら何らかの魔法を掛け合わせようなのだ。

 すると、拳に伝達していた重魔法が乱される。

 魔力のパスがチグハグに繋ぎ合わされたかのような錯覚に陥ると。


()く、それでいて過分すぎんねん。そんな大層なもんは要らんのよ」

 

 重力魔法により強化した拳は単なる蹴りの威力の前で弾かれると、鳩尾に強烈なつま先蹴りが刺さった。


「!?」


 息が出来ない。

 一瞬の(ひる)んだスキに。

 (じん)王朝特有の拳法【極拳】が無数に飛んで来る。


 軽く、しなやかであり柔らかく、繊細に人体を破壊する最小のイチ。 

 最小の打撃が、急所を的確に狙ってくる。

 こめかみ、眉間、人中、喉、肺、鳩尾、心臓、脊椎。

  

「イライラするなぁ」

 

 同じ近接戦使い。

 鋭い蹴りや拳を決して読み切れない訳ではないが、肉弾戦の技量ではコイツの方が一歩先を行く。

 

 いなした蹴りが肋骨に入り、つま先が嫌らしく二段突きし骨にヒビを入れた。

「テェッ!」

 激痛が走った。

 肺を動かす動作だけで痛みが走る。


「降参してもええんやで」


「誰がするか!」

 ボクは咆哮する。


「おーこわ」


 何度も使用した重力魔法は発動が阻害される。

 使えない訳ではないが、操作を見誤る。

 

 集中しなければ。

 

 ボクしか持たないスキルはコイツには意味がない。

 距離を取らせ、氷の質量でねじ伏せるのが最適解。

 

「氷瀑式!」

 

 氷河の激流に飲み込む。

 それしかない。

 散々飲み込むのを失敗したが、ここまでの近距離なら。


「見誤ったな! 先輩!」


 ここで大技を出せば、流石に避けようがない。

 あの忌々しい空間も融解が間に合わないはずだ。

 冷気を身体中に纏わせ、雪の結晶が目の前で散り始める。

 

「それをまっとたんやで」


「は?」


 ニイィと頬を綻ばせると。

「ほな借りるでそれ(オド)

 

 ―――刹那―――


 ボクは傑くんが忠告した言葉を思い返していた。

『魔法に頼りすぎれば、千秋。君は負ける。千秋は強いが、スキル構成と強力な魔法に頼る戦術は、上位層には通用しない。いい機会かもな』

 そんな言葉を無視したのが、仇となったと脳裏に浮かんだ。

 

 ・

 ・

 ・


「あっちゃー。負けちゃったか。流石に勝てんか」

 俺はモリドールさんとのマニュフェストを達成できず、頭を掻いた。

「慰めに行くか」

 とは言え善戦したと言えるだろう。

 

 最後の最期に自滅覚悟で伊勢の顔面を殴っていたからな。

 伊勢は鼻っ柱を叩き折られて鼻血出していたしな。


 飯はもう食ってしまったが。

「飯でも奢ってやるか」


 俺は千秋が居るであろう控室に向かった。



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