考査戦⑤ M「男主人公の周りには、なぜか美少女ヒロインしか出てこない。美少女しか仲間に加えない。それはなぜか? なぜ普通の目立たない娘は居ないのか? 顔選抜をしてるからでしょう? 違うかなぁ?」
顎に掌底を打ち込んだ。
「天内……」
俺の名を呟くと、泡を吹いてぶっ倒れるファルコン。
「出直してこい」
俺はそれだけを告げると白目を剥くファルコンに背を向けた。
「さて、モリドールさんと夕飯でも食べるか。出来るだけ明るい話題をしよう」
俺は人気のない訓練場を後にしたのであった。
先程、訓練場で秘密裡にファルコンに決闘を申し込まれた。
残忍なガキであるファルコンは鬼気迫る顔をしていた。
てか、殺人鬼じゃんってツッコミたくなる目つきだった。
なぜかわからんが、決心したような顔だったので、仕方ないので受けてやった訳だ。
正直面倒だった。
なので、徒手空拳で半殺しにしといた。
実力の差を見せつけといた。
開幕、顎にスパーンっと掌底を打ち込んで脳を揺らしてワンパンKOしておいた。
戦闘時間1秒。
雑魚を通り越して、多細胞生物であった。
そんな事をした後に携帯を確認すると。
マリアや千秋から夕飯の誘いのメールが入っていた。
どっちも、意味合いは『初戦の祝勝会をしないか?』との件名だった。
「すまん無理だ……っと。送信! 送信! 送信! ふぅ~。ひと仕事終えたぜ。あっぶねぇ~。生産性のないプライベートまでは付き合いきれん」
パーティーメンバーであり仲間ではあるが、あんまりプライベートに入り込まれるのはごめんだ。
「できるだけ公私混同したくないしな。そこの境界はちゃんとしとおかないと」
俺は休日や就業後に会社の同僚と過ごしたくないタチだ。
仲間ではあるが、あくまで攻略までのビジネスライクな関係。
そもそもイロハネアとかいうクイズショーに強制参加させられたのも嫌だったし、マリアと過ごすのも嫌だ。
自惚れになってしまうが、もしかして俺に好意があるのか? と思っているが。
まぁ、実際はないのかもしれんが。
仮に万が一あったとして、そんなしょうもない事に時間を浪費したくはない。
クソどうでもいいのだ。俺は、あの2人に恋愛的な意味で全く興味はない。
俺が唯一目指すのはメガシュバの完全攻略。そして世界の敵の排除。
それに今日はモリドールさんとのんびり飯を食いたい。
モリドールさんとバックギャモンでもしながら、ゆっくりしたいのだ。
俺は食品を買い、帰路に着いていた。
本日、俺はニクブとの初戦の後、一度お叱りを受けた。
まつりのお情けで大乱闘は何とかうやむやにして貰った。
TDRのアホ共は1人も被害届を出さなかった。
むしろ以前より忠誠心? が強くなったと思う。
小町はファルコンに勝ったらしい。
千秋の奴から、俺が初戦を観戦に来なかったのを、小町が無茶苦茶怒っていたと聞いた。先程ばったり会った際に『薄情者……』と一言掛けられた。
なんだか知らんがご機嫌を損ねた可能性があるのだ。
「めんどくさ。女ってチョーめんどくさ。だから嫌なんだよね。そもそもメタルペリッパ狩りでレベル上げした小町が勝つに決まってるじゃん」
ぶっちゃけ小町が勝つのは予定調和だった。
ファルコンは1年生でのMVPだが、訓練の足りていない所詮1年の中でのMVP。
半年前は中坊の連中をシバいた所で、その実力はたかが知れている。
ファルコンの実力は四菱どころか、ニクブの実力にすら到達できてない可能性があった。
なので心配は微塵もしてなかった訳だ。
「というよりも」
魔眼が開眼されているのか。
それが今回確認しておきたかった最大の命題だったのだが。
「観測は未だ出来ずか」
ゲームでは魔眼解放には制限はなかった。
レベル1でも使用できたはずだ。
しかし、未だにその素ぶりすら見せない。
彼女との乱取りでも一度も開眼した雰囲気はなかった。
俺の魔術もスキルもキャンセルした事がなかった。
なので、俺以外との闘いで、その片鱗を知りたかったわけだが。
「今後に期待だな」
そういう事にしておこう。
考査戦はまだ続く。
どこかで見れるかもしれないし、見れないかもしれない。
「そもそも開眼には何らかの条件が必要なのかもしれないな。そもそも、使い方を知らないのかも」
可能性大だ。
所持していてもどのように発動するのか知らなければ使いようがないのかもしれない。
「だが、」
俺が知ってる、となると。
「それもそれで可笑しい話だ。そもそも現実の世界でどう開眼してるのか、使用するのか俺には伝えようないじゃん! どうすればいいんだ?」
・
・
・
モリドールさんはご機嫌だった。
彼女には俺が戦闘してる風景をあまり見せた事がない。
「天内くんはやはり才人ね! お姉さん鼻が高いわ」
「たまたまですよ」
「謙遜しちゃってぇ~。このこの!」
肘で俺を小突いてくる。
「勘弁してください」
そんな日常の一コマを送っていると。
「ところで」
モリドールさんの顔が険しいモノになった。
「ん? どうしたんです? 突然真顔になって」
「私、調べたんだ」
両手を組むと机の上に肘をついた。
「なにをです?」
「天内くんのお仲間の事を」
「は、はぁ~。またその話ですか」
「随分と楽しんでるようじゃない?」
声音が冷たいモノになっている。
「そうですかね?」
実際は胃が痛い日々を送っているがな。
リーダーと言う名の、事実上中間管理職をやらせて貰っている。
上からの圧と、下からの圧、横からの圧に挟まれているのだ。
まるで精神を万力に挟まれているかのような状況。
和菓子で例えると落雁を作るかのように上下左右から押しつぶされているのだ。
正直、たま~に開かれるパーティー会議に行くのは足が石になったかのように重くなるし、あの三人に囲まれると動悸が激しくなることがある。
1人ずつなら問題はないんだが。
最近、ストレスで頭髪が寂しくなり始めたのもアイツらの存在が非常に大きいと思っている。
「天内くんは、すけこましなんだ」
「うん?」
「両手に花じゃない。美少女ばかり侍らせて」
俺は自分の眉間を小突き、眉根を寄せた。
「モリドールさん。見た目はあんまり関係ないんじゃないですか?」
「そうかなぁ? さぞ楽しいんだろうなぁ~。可愛い女の子の中に1人だけ男の子が居るなんて。
まるで深夜アニメの主人公のようね。
それともラノベかなぁ?
美少女ゲームかも……
何食わぬ顔で美少女を選抜してるところが」
トゲトゲしい言いようであった。
それは俺も思ったことがある。
なぜか男主人公の美少女アニメには綺麗どころしか集まってこない。
目立たない子ですらヒロイン勢は美少女なのだ。
しかし結論は出ている。
それは製作者の意志が介在しているからだ。
もう一言で言うとマーケット需要……
市場ニーズの問題だ。
美少女の方が映えるから。
そっちの方が売れるからである!
「深夜アニメに関しては視聴者層の問題じゃないですか? おっさんの視聴者が昨今は多いですしね。シンクタンク調べだと、日曜朝の女児アニメの視聴者もおっさんばかりだと聞きます。それに美少女の方が、人気出ますし。派生グッズも美少女を採用した方が購買意欲を掻き立てますから」
「天内くん。私は論点をずらしていいとは言ってないわ」
「うぇ?」
「天内くん。なぜか中か下ぐらいの微妙な女の子を仲間に入れていない所が不思議なのよね。一人ぐらい普通の、目立たない子が居てもいい。そう思わない? なんで? なんで狙ったように可愛い娘しか居ないのかなぁ?」
「いやたまたまですよ」
マジで偶然だ。
顔選抜などしていない。
そんな愚かな事を俺は考えた事はない。
俺は幾千の有象無象なんちゃって男子諸君とは違う!
なんでか知らんが周りは美少女みたいな状況を望んだ事などない。
砂利ガキの妄想などとっくに卒業している。
「ふ~ん。美少女なんてそこら中に居るとは思えないけどなぁ?」
モリドールさんのめんどくさい部分が出始めている。
話を早急に変えねば、チクチク言われかねない。
ここで弁明を繰り返した所で逆効果になりそうだ。
「モリドールさん!」
俺は机をバンッと叩いた。
「な、なによ」
「俺は決して顔選抜など下品極まりない事はしていない。彼女達は実力者だ」
「ふ~ん」
信じてない顔であった。
「モリドールさんに紹介は、まだ出来てないです。そこは申し訳ない。
なので見ててください。俺達、いや。モリドールさんの率いるパーティーがどれほどの実力を持っているのか。俺達は全員ベスト32に行く!! 行かせてみせる!」
「ベスト32……」
それはこの学園でも上位層。
その言葉を聞きモリドールさんは目を丸くした。
「そうです! 俺は彼女達が優秀だから仲間に加えた。モリドールさんがこの学園で返り咲く為に!」
「……ホントかなぁ……」
声音がくぐもったモノに変化した。
しめしめ。モリドールさんは揺らぎ始めてるぞ。
「実力をとくとご覧ください。俺が単なる深夜アニメのすけこまし野郎ではないという証左を!」
「面白い事を言うねぇ。それが本当だったら……まぁ認めてあげてもいいわ」
「ええ。いいでしょう! 約束します! この剣に誓って」
俺は携帯を取り出し、パーティーメンバー全員にメールを送った。
決起集会を行う。
必ず勝たせるぞ!