考査戦③ 残忍なガキ と 詭弁男
/3人称視点/
ファルコンこと鷹山隼はナイフを舐めた。
その癖を止めろと先日忠告を受けたが、こればっかりは止められない。
切り刻む者が女であれば尚更だ。
自分の唾液に含まれる雑菌を付け、それで切り刻むと犯しているような錯覚に陥るのだ。
これから対戦する女。
穂村小町なるを品定めするように見据えると興奮し勃起した。
涼しい目元の流れるような綺麗な黒髪の少女だ。
この女を犯せるのだと思うと。
「たまんねぇ」
これから切り刻む女をどう解体してやろうかと腹の内は楽しみで楽しみで仕方なかった。
仮想空間である学園のコロシアムでは、どれほど致死に至る攻撃を加えても問題ない。
死なないからだ。
野菜をみじん切りにするように人間を足先からゆっくり木っ端みじんに切り刻んでも実際に死ぬ事はない。
「楽しみだなぁ。与える快楽を想像するだけで」
涎が滴った。
より残虐に、残酷に、悲惨に、壮絶に、心を殺す為に相手を痛めつける事だけを考えた。
鷹山はシミュレーションする。
まず、両目を潰し、喉を潰す。
ここは王道だと。
その次は膝を串刺しにし、両手両足の指をゆっくり切り刻む。
これで下準備は完了だ。
行動不能にしてから、ゆっくりと解剖を開始する。
男なら局部の尿道から針金を差し込み、側面を串刺しにした後、痛みを味わせた後に切り落とす。
女なら拷問器具のクスコのように、局部に刃物を刺し込み、中から抉る。
局部を壊された所で人間は死なない。
鷹山は知ってるのだ。
簡単にはギブアップさせない。
だから最初に動きを封じる。
声を上げる事を封じる。
痛みを与える。
最後の詰めは引きずり出した腸を使った余興を披露してもらう。
呻きを上げる標的の衣服を脱がし、臍にダガーを突き刺す。
腹の中を縦横無尽に走る腸を傷つけぬように、繊細に臍から腸を引きずり出すのだ。
小腸の長さは約7メートル。大腸の長さは約1メートル半。
臍から引っ張り出した腸を身体中の四肢の関節に打ち付け芸術を完成させる。
喝采と共に、切れ味の悪い錆びた刃物でゆっくり首を落とす。
絶望と苦悶に満ちた顔を浮かべた所でフィナーレだ。
鷹山は暗器を用い、彼の限界貯蔵量である32本の刃物を隠し持つ。
隠し持つ武器には毒が塗られており、麻酔や麻痺、性的感度を上げるモノが塗りたくってある。
簡単に気絶させないようにする為の毒。
「より痛みを与えて殺す」
ファルコンは殺人鬼のような顔をしてニヤリと口角を上げた。
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大乱闘俺であった。
128人目のアホの腹部に正拳を打ち込み、目の前の男は泡を吹いて仰向けに倒れた。
「こいつら、本気で抵抗しやがって。手間を掛けさせるんじゃあないよ……ん? あれ?」
風紀の腕章を付けた数名の生徒が俺を取り囲もうと包囲していた所だった。
「なんで?」
俺は項垂れながら尋問室の椅子に座って居た。
腕時計を盗み見て、俺は貧乏ゆすりを始めたのだ。
小町の試合まで時間がなかった。
早く観戦に行かねばファルコン戦がどうなったのかわからなくなってしまうのだ。
俺は先程、TDRのアホ共を呼び出してボコボコにした訳だ。
屍の山をコロシアム近くの緑地に築き上げた。
実際は俺が一方的にTDRの連中にお灸を据えていた訳だが。
これまでの暴走の憂さ晴らしに、木刀で殴打しまくった。
ぶっちゃけ雑魚ばっかりだった。
アイツらアホ共は必死に抵抗してきたが、とりあえず呼び出した128名を完膚なきまでに半殺しにしたのだ。
そして俺は捕まったのだ。
この学園の補導員に。
目の前に風紀委員とかいう、鼻で笑っちゃう連中に取り囲まれていた。
中には美化風紀を担当する生徒会の越智の姿もあった。
学園の自治でなぜか教職員よりも地位と権力のある連中。
へそで茶が沸くとはまさにこの事。
そんな連中の1人が、身振り手振りで俺に説明を開始した。
「校則13条、学内での許可なき決闘は何人も許されず。これは校則違反だ。君……いや、君達はこれから反省文を書いて貰う。
最悪、考査戦の出場そのものが取り消しになるだろう。なんなら謹慎もありうる。校則違反の処罰が書いてある項目……13条以下を違反した者の処分は、」
風紀委員の眼鏡くんが校則の書かれた書面を読み上げていた。
何言ってんだこいつ?
基本的に訓練場やコロシアム以外での乱闘はご法度らしい。
いかにもって感じだ。
普通に殴り合いなんてそこら中で起こってるのに取り締まってねぇじゃねーかって話なのに。
なぜ俺を補導するんだよ。
そもそもDクラスの連中は教室内で殴り合いをしてるし、クソみそのお貴族様は陰でいじめ暴行をしてたのにそれは取り締まってないではないか。
こいつらは無能である。
「よく聞いて欲しいんですけど。やれ校則だ、やれ社則だ。それに縛られるのはいかがなものか……俺はそう思ってるわけですよ」
「君は何を言ってるんだね」
「例えばですよ。ブラック企業という、ゲボカス吐しゃ物うんこ企業が、世の中にのさばっているじゃないですか。しかもごまんと」
「う……だと!?」
越智の奴は俺の暴言を聞き顔を顰めた。
「理不尽極まりない就業規則に遵守してる社員達。俺はそれを間違いだと声を大にして言いたい!」
「はぁ?」
「まず、奴隷のように働く。違法なパワハラやモラハラ、セクハラ。サービス残業の強制、退職したいのに辞めさせない。労働法の反故がまかり通っている。これがおかしい。社則如きが法律に勝ってる点など一ミリもありはしない! そもそも人権はどこに行った? という話なんですよ。人権は最高法規によって定められている。そう思いませんか?」
「人権は尊重されるべきだろう。それと、これが何の関係があるのだ」
越智は困惑した顔をしている。
「まぁ落ち着いて下さい」
「私は至って冷静だが」
俺はそんな言葉を無視し。
「最高法規が頂点にあり、上から順に優先順位は条約、法律、政令、省令、条例の順だ。俺はそう習いました。ユウ・ヒカクに書いてありました」
「???」
越智は疑問符を顔に浮かべる。
「まず、イチ学校やイチ企業ごときの校則、社則。
もはや個人的な意見。
無能な経営者が述べた文言。
ネットの……いやチラシの裏に書くべき妄想全開のゴミ文書に、法律以上の力はない。なんなら地方自治体の定める条例よりも下だと思う訳です」
「うん?」
「校則では許可なき決闘は禁止と明記されている。確かにそうかもしれない。
ただ、俺は、人権に……いや、法律に則りこいつらを処した訳です。悪の所業を成す者を成敗した。そう……これは正当防衛だ!」
俺は机をバンッと叩いて立ち上がった。
「では君は暴行の罪で罰せられる事になるな」
越智は冷静にそんな事を言ってきた。
「え?」
「その理屈で言うなら、校則で罰せられず法律で君は然るべき処置が成される事になるな」
「はい? これは正当防衛では?」
「あまり私を舐めるなよ!」
越智が俺に向かって咆哮した。
「なんで???」
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/小町視点/
「いやいやいやいや。あの人ヤバいでしょ」
師匠でもある先輩はやはり只者ではないと再認識した。
異常だ。異常者である。
木刀一本……恐らく強化の魔術を施されたそれのみで、対戦相手に何もさせず倒したのだ。
戦いになると、目つきが変わった。
いつもは何も考えていない目が、見上げているかのような目線になるのだ。
物事の最深部、最も昏い場所から生者を羨むように見つめるような鋭い目線。
深淵を覗き込んだ時、深淵に居るナニカと目が合ったような眼。
その時、いつもは感じない背後にある深淵をより強く感じる。
心の闇ではない、悪意でもない、殺気でもない、どす黒い憎悪や情念ですらない。
感情ではないのだ。
心の在り方ではない。
どちらかと言うと存在の在り方に近い。
そう、穴だ。
深い穴。
まるで底なしの井戸。
奈落を覗き込んだような錯覚をあの人は、たまに醸し出すのだ。
私の眼がそう見えていた。
単なる目の錯覚なのかもしれない。フィーリングに近い感じ。
そんな先輩は応援に来てなかった。
マリア先輩も彩羽先輩も、そんなに仲良くないけど私を叱咤激励してくれた。
素直に嬉しかったし、これが仲間かと思った。
でもダサいアイツは来てないのだ。
「薄情者……」
頬を膨らまるとコロシアムのゲートを潜った。
進まなくて申し訳ありません