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考査戦② 閣下降臨

すみません。間違って消してました 2024/10/22 挿入し直しました


「ホントあのおばさん。早くやめりゃあいいのに。先輩風吹かせてきて鬱陶しいんだけど」


「ね! 課長もどう追い出そうか悩んでたよ。要らない子だってさ」


「田舎に戻ればいいんじゃない?」


「ホントそれ。給料泥棒だしね。あの人足引っ張ってばっかりだし、7年後輩の私よりも仕事できないのに、なんで辞めないのかな? 私だったら辞めるよね。申し訳ないと思って」


「図太いんだよ。悪い意味で」


「鈍感そうだもんね」


「そうそう! それな。頭も悪くないとあそこまで鈍感になれないでしょ」


「「「キャハハ」」」


「しかもね、あの歳で彼氏、1人も出来た事ないらしいよ!」


「ウケるんですけど」


「なんかわかるわぁ~」


「あのおばさんは一生独身でしょ。老後は孤独死かな」


 俺はキャピキャピした社会人のお姉さん方三名とすれ違った。

 先程モリドールさんと会話していた方々だ。

 モリドールさんの陰口で盛り上がっている彼女達。

 

 俺はそんな陰口を聞いてあまり気分が良くなかった。


 遠目ではあるが、モリドールさんの悲惨な職場環境を垣間見たのだ。

 梅干しを食べたような、辛酸を舐めたような顔をして肩を落とす彼女の後姿を見て、俺は居た堪れなくなった。


 悲しい後姿だった。


 職場では窓際族だと笑いながら言っていた気がする。

 万年クビ候補に上がり、遂にはクビ宣告を受けたが、俺がほんのちょっぴり成果を上げた事により、契約社員で落ち着いた。

 そんなモリドールさんの背中は煤けていた。


「声を掛けるのは止めておこう」

 下手な甘言より行動で示した方がいい。


「クッソ! モリドールさんはどうしようもない人だが……」

 

 モリドールさんはこの世界で唯一の家族みたいな人だ。

 姉さんみたいな人だと思っている。

 彼女と過ごした時間は、この世界の人間の中できっと一番多いだろう。

 殆ど泣き叫ぶモリドールさんを(なだ)める時間だった気もするが。

 俺にとっては大事な人だ……と思う?

 いや、断言はできないな。


「モブ道は果てしない。

 ここで目立ちすぎるのは良くない。

 クラス戦でもギリギリだった。

 もう少しで頭角を現してしまう所だった」

 

 失敗したかもな、と思ったが、結果としてMVPは取らず、今回だけ成績がよかった一般生を演じれて、完璧な采配だと自画自賛した。


 だが、まつりの野郎が俺を推薦したせいで、俺は嫌でも目立ち始めるだろう。

 まつりに釘を刺しているが、俺はまだ公式にまつりの補佐には就いていない。

 基本的人権の尊重を行使しているからだ。

 

「結局、遅いか早いか……その違いか……」


 俺はモリドールさんの為に良い成果を。


 ・

 ・

 ・


 午後イチの俺の試合が始まろうとしていた。

 俺は舐めた装備品しか持っていない。

 木刀一本だ。

 なんの変哲もない木刀。


 俺は木刀に金の魔術を付与し、鋼鉄の強度に、それでいて真剣の切れ味にまで引き上げる。

 

 それ以上の魔術は行使しない。

 する訳にはいかない。

 縛りプレイで、ベスト32まで駆け上がる。

 

 魔術は上手く使えないが、体術と剣術に秀でた奴。

 

 モブを演じ続ける為の俺が出した折衷案であった。


 モリドールさんが舐められないようにするには俺が良い成績を出す必要がある。

 しかし、俺はモブである必要もある。

 その為に、己の武術で成り上がった魔術の才能はない奴を演じる。


「これしかないんだ」


 超高速移動(タキオン)武器弾幕(エクストラバレット)偽神速斬(偽りのユニーク)も使わない。無論、多彩な魔術も行使しない。


 木剣一本で戦い抜く。

 仮に使っても風魔法の浮遊のみ。



 そんな決意を胸に俺はコロシアムのゲートを抜けると……


 生暖かい旋風が身体中を包み込んだ。


 熱狂。


 歓声が上がった。

 予選の名もなき生徒でも観客は盛り上がっている。

 さながら甲子園を思い出した。


「大将が入場されたぞ! 弾幕を打ち上げろ!」


「我らの総裁のおいでだ。気合を入れろ!」


「勝利は我がTDRの手の内に」


「閣下は御心を見せてくれるだろう」


 俺は音魔法を使い、不審な発言をする阿呆共がたむろする一角を見て顔を歪めた。

 観客席の一角。

 真っ黒だった。

 

 真っ黒の学ランに、真っ黒のスーツ、黒い和服。

 そんな厳めしい集団。

 カタギの者ではない者達が大股を開いて周りの観戦客に迷惑を掛けていた。



 幹部と思しき連中はさらに異彩を放っている。 


 

 身体中包帯でグルグル巻きの奴は腕を組み、気だるそうに刀を抱いて壁に寄りかかっている。

 派手な紫のスーツを着たピエロメイクの奴はニヤニヤしながら踊り場で踊り狂ってるし。

 フードを目深に被っているハッカーっぽいアホはわざとらしくノートパソコンのキーボードをカタカタしている。

 無口そうなラフな格好をした眼鏡の青年はシャドーボクシングをしてるし。

 黒いコートに黒いマスクを付けた目つきの悪いロン毛は黙して座って居るが、頭上には大群のカラスが旋回している。

 スキンヘッドで顔中に切り傷のある大男は、なぜか大食いしている。 

 腹黒そうな糸目のイケメンは複数の席を占領して寝そべっていた。


 強キャラオーラを漂わせているアイツら。

 どう考えても悪役としか思えない連中。

 TDRのアホ共であった。

 

 TDRのアホ共の居座る一角から、俺に向かってとんでもない歓声が上がった。

「あいつら。俺が首謀者だと勘付かれるだろうが。ぶちのめすぞ」


 俺に向かって歓声を上げたら、俺が関係者だと言ってるようなもんだ。

 くそ忌々しい。あとで半殺しにしよう。

 あそこに居る奴ら全員呼び出して後でぶちのめそう。


「頭悪すぎるんだよなぁ~。アイツら」


 俺の知らない所で勝手に色々やりやがって。

 なにがアンブリア宮殿だ。

 アホらしい。

 勝手に事業を開始するんなら、俺にも分け前を……


「いかんいかん。雑念が……」

 

 話を戻そう。

 

 アイツらは傍から見ると素行が悪い。

 イチ不良の領分を超えているのだ。

 悪の組織だ。

 


 ・

 ・

 ・


 俺とニクブは相対していた。


「天内。遂に年貢の納め時だな。その舐めた武器で何をするつもりだ?」


「お前を泣かせるだけだよ」


「友人故忠告しておくが、お前じゃ俺に勝てんぞ」


「そうかな? ニクブも俺が相手だと知って随分余裕こいてたが、その油断は命取りになるぜ」


 長針が12時の方角を指す瞬間勝負が始まる。

 50。51。52……

 

「ニクブ。悪いが一瞬で片をつかさせて貰うぞ。初戦に時間を掛けるとモリドールさんが舐められるのでな」


 56。57。


「精々足掻きな。最弱の天内!」


 長針が12時を超えた瞬間。

 ニクブは俺に向かって鈍器にもなる大盾を振り上げた。


 俺は木剣の切っ先に意識を集中させる。


 ―――唯識―――


 脱力、無我、自然に体を任せる。

 気流を読み、大地を靴底で感じ、知覚を研ぎ澄ませる。


 ただ、あるままに。


 目の前の(ソンザイ)を……(ゲンジツ)を。


「斬る!」


 つま先に力を入れ大地を蹴る。

 俺は流線形の軌道を描くとニクブと接敵した。


 頭上に振り上げた大盾は上から下へと運動していた。

 ニクブは身体を鋼鉄のように固くし、かつ鈍重にする魔術を行使する。

 ニクブの放つ一撃はまるで岩石を投擲した威力を誇る。


 俺は両手で木刀を握り込むと。

 盾の意匠(デザイン)の凹凸に木剣の切っ先を引っ掛けた。

 

 上下の運動に逆らわず。

 こちらからはニクブと同じく下方に力を加える。

 すると、ズシンと身の丈はある盾の底部は地面に突き刺さった。


「は?」


 ニクブの間抜けな声。


 咄嗟に引き上げようと上方に振り上げるニクブ。

 その膂力に逆らわず。

 切っ先を意匠に掛けたまま、俺も同じく上方に力を加えた。

 

 すると。盾がニクブの頭上よりも高い位置まで持ち上がった。

 ニクブが思ったよりも頭上へと盾を振り上げてしまったのだ。


「やべ!」 

 焦るニクブの声。


「お前の力を利用しただけさ。驚くなよ。お前のミスじゃない。俺がお前より強いだけだ」


「天内てめぇ」 


 俺は突き上げた力を利用してしゃがみ込むと、がら空きになった腹部から上半身が見えた。

 いとも容易くニクブの懐に入る事ができた。

 

 合気道の要領で力学の理にかなった戦法。

 相手のエネルギー利用したのだ。

 ニクブが下方に力を加えれば、俺も同じく下方に力を加える。

 上方に力を加えれば、上方に力を加える。

 相手の力の運動方向に同じ方向の力を加え、運動エネルギーを増加させる。

 ニクブは自分の得物が制御不能になったのだ。


 俺は、すかさず切っ先を離すと。

 (かが)んだ位置から木刀の穂先を急所の首元に照準を向ける。


「点でいい。お前の硬化で俺の突きを防げるかな?」


「嘘だろ!?」

 驚愕の顔をするニクブ。


「悪いな。(くぐ)って来た修羅場の数が違うんだ」


 ―――突き―――


 喉仏に穿通(せんつう)を放った。

 


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