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考査戦① 育成者



 俺はニクブとガリノと3人で観客席の後方にてポップコーンを食いながら談笑していた。


 ニクブがかっこいい声で。

「パンツが見える瞬間を見逃すなよ。具が見えたらラッキーぐらいに思っておけばいいだろう。美少女の生パンティー写真を素材に、俺はアダルトサイト運営者としての頂きに復権する事になる。個人的にも使用するしな」


 ニクブはアダルトサイトを運営してるのだ。

 正しくは運営していた、であるが。

 一度摘発されドメインを失い、サーバーも利用停止になった。

 全てを失い再起を狙う強欲な男。

 

「1.5億画素、スーパースローモーションにも対応してる一眼レフが火を噴く。安心しろノロマなニクブにもフリー素材を恵んでやろう。1枚1万な」


 金に汚い盗撮犯ガリノは望遠レンズを付けたカメラを会場に向ける。

 ガリノは怪しげなコスプレ個室撮影会を開催するカメラ小僧。

 カメラ小僧界隈で、階級:伯爵の地位まで登り詰めた。

 よく電車を撮影しに行っているが、ガリノは界隈では悪質なマナー違反で有名な男だ。


 俺の友人はゴミしかいないようだな。

 全く仕方のないチンパンジーだ。


「お前らには天才の称号を与えよう」

 

「天内が俺達を褒めるとは珍しいな」


「ニクブ。いいじゃないか。素直に称賛を受け取っておこう」


 2人はフッと笑い、サムズアップしてきた。

 白い歯が眩しいぜ。


「チンパンジー界のな」

 一言添えといた。


「「あ?」」

 隣に座る2人は俺を睨んできた。


「お前らはチンパンジー界では天才。

 天才チンパンジーのニクブ君とガリノ君だな。

 人間界ではゴミだ。吐しゃ物以下の思想と顔面ゲボうんこだな」


「なんだと? 天内。お前には素材を提供しないぞ」


 俺は腕を組みながら。

「褒めたんだがな。(けな)すはずはないだろう。俺達は友人なのだから」

 

 違法アダルトサイト運営者と厄介カメラ小僧、そして国際指名手配犯:俺。

 俺だけ脅威度が高い気もするが……まぁそこは置いておこう。


「てめぇ。天内。いいぜ。その軽口がどこまで続くか。次の試合でお前をフルボッコにして泣かせてやるぜ。ママのおっぱいでも吸って精々栄養補給でもしてな」

 ニクブは余裕綽々といった顔をしていた。


「天内。前から思っていたが、お前は口が悪い。悪すぎる! 一体どんな教育を受けてきたのか怪しくなるぐらい口が悪い。情操教育を見直さねばならんぐらいにな。だが……それも今日までのようだな。お前が明日から敬語で話しかける姿を拝むことになりそうだ」

 ガリノの野郎は俺の肩に手を置き邪悪な笑みを作った。


「チンパンジー諸君。そろそろ始まるぞ。ほら餌だ!」


 俺は二人に向かってポップコーンを投げつけた。


 ・

 ・

 ・


 これから午前中にカッコウの試合。

 それと夕方に小町の試合がある。


 おまけで午後イチに俺の初戦がある。

 対戦相手はクソデブのニクブ。

 ここはまぁいい。

 トイレにケツを拭くちり紙が常備されてるか、そっちの方が重要なぐらい、どうでもいい試合になるだろう。



 俺はカッコウの試合を観戦しに来たのだ。

 相手は同じ2年のクソみその四菱くん。

 二刀流の水魔法の使い手。

 そんな彼と対戦するようだ。


 次に小町。

 小町の相手は残忍なガキである我が配下ファルコンであった。

 ファルコン……本名、鷹山隼(たかやましゅん)は1年のクラス戦でのMVP。

 どうやらシード枠ではなかったようだ。

 ファルコンは近接攻撃と投擲を行う刃物使い。

 俺と同じ暗器(アーツ)を所有し風魔法による斬撃を得意とするイカレサイコという設定の残忍なガキである。  



 俺は来賓席の後方にて、偉いさんを護衛しつつ鎮座する生徒会長様の顔を盗み見た。

  

 一般家庭出身である彼女の真の正体。

 それはヴァニラルートでしか明かされないが。

 彼女しか知らない秘密。

 それは彼女の遺伝情報に潜むマニアクスの螺旋だ。

 魔人の力を(いにしえ)より継承した人間。


 半魔人。


 それがヴァニラルートの基本骨子になる。

 奴は終末の騎士、根絶者の戦闘技法をトレースしている。

 そして彼女はその因果を嫌っている。


 彼女のエンディングを迎えるのに必要な材料は2つ。

 一騎打ちによる魔剣の破壊。

 血統に組み込まれた因果との決別。



 そんな魔人(もど)き、ヴァニラのデバフ盛り盛りの性能に攻略法がない訳ではない。

 パーティー 対 個人 なら殴り勝つ事は可能。

 ただ、一騎打ちだと難易度が跳ね上がる。


 1、正攻法。

 ダンジョンに潜むヴェノムスライム討伐による撃破ボーナス。

 完全デバフ耐性を獲得した状態で倒す。


 2、脳筋戦法。

 速攻で高火力攻撃で倒す。やられる前にHPを削り切る。

 コラボイベントのアレでの対処がこれに該当する。

 

 3、主人公補正戦法。

 時空間魔法による次元障壁で強化した状態で殴り勝つ。

 これは主人公風音にしか出来ない。

 

 4、特効戦法。

 小町のような特殊スキルにより、アーツや魔術を無力化した状態で倒す。

 彼女の持つ力は唯一の特効と言ってもいいかもしれないぐらい強敵に刺さるのだ。

 

 5、ゲーマー特有の自尊心を向上させる戦法。

 神業キーボード入力で全攻撃回避からの急所への反撃。

 これは手練れゲーマーなら可能な神業プレイだった。

 


 攻略法は思い浮かぶだけで5つあるな、とそんな事を考えていた。


 

 試合は学園の巨大コロシアムで行われる。

 予選は1度に4組行われる。 

 俺はカッコウが居るブロックに目をやった。


 カッコウは漆黒の鞘に納まる漆黒の剣を背中に掛けている。

 新たに仲間になった錬金術師ハイタカに作らせた漆黒の剣。

 メガシュバ知識をフル活用し、ダンジョンで入手した装備も身に着けさせている。 


 育成者俺はカッコウの装備を新調させた。

 なんなら俺のパーティーメンバーで最も装備に力を入れている。

 アイツは素のステータスがどうしても低い。

 ランカーになる為の施策なのだ。


 装備品は。

 擦り抜け透明になる魔術の付与された剣。

 防水、防熱、防刀、防弾、防電の漆黒のコート。

 筋力増強のパワードリングを両指に10個。

 瞬発力、速度、反射向上のスピードアンクルを両手両足に装備。

 精神魔法、毒魔法への耐性を上げる、静謐なる耳飾り。

 

 貴金属のアイテムをこれでもかと装備させた。 


「カッコウ。少々苦戦する演技をしろよ。漆黒の騎士プログラムを開始する」


 音魔法を発動し、彼らの動作をつぶさに観察する準備する。

 俺はニヤリと笑い、この考査戦をゲーマーの気分で楽しもうとしていた。 


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


 四菱は二刀でカッコウの特殊な両手剣を防ごうとした瞬間であった。


 ―――透過―――


 カッコウの放つ何でもない上段斬りがすり抜けたのだ。


「ッ!?」

 四菱は天性の剣の才と魔術の才でカッコウの一閃がただの一撃でないとコンマの世界で判断した。


水泡壁(バブルウォール)

 

 シャボン玉のような水泡が迫り来る両手剣の前で破裂すると衝撃でカッコウが吹き飛ばされた。

 シャボン玉は焼夷弾を破裂させた威力のようで、コロシアムの地面を削りとっていた。


「異様な剣を使うな」

 四菱は目の前に居る見た事のない男がただならぬ敵であると判断した。


「凄い魔術ですね」

 傷一つなくカッコウは水泡の衝撃を何ともないかのように、防いでいた。


「今の威力を防ぐか。それに通常の剣術ではダメ……俺も修行が足らんな。見くびりは痛い目を見ると学んだはず」


 四菱は攻防一体の水魔法を展開させつつ、二刀流でカッコウに追撃をかけていく。

 息もつかせぬ、攻防。

 四菱は一心不乱に剣戟を浴びせる。

 呼吸を忘れるほどの連撃をカッコウにぶつけ続ける。

 カッコウが攻撃を放とうとすれば、水泡壁で距離を剥がす。

 四菱が押している展開に目に映った。


「その剣のカラクリはわかった。防ぐ際は透過できんようだな」


「見事です」


 カッコウが攻撃に転じようと、一閃を放とうとすると水泡を破裂させ距離を取った。

 何度目かの仕切り直し。


「最大出力で行かせて貰おう」

 四菱は展開していた術式を集中させていく。


 波打つ水流が刀身に蜷局(とぐろ)のように絡みつき、水流が高速で螺旋回転し始める。

 ドリルにも似た、それでいてチェーンソーにも似た触れたモノを削り砕き両断する刃。


 カッコウは焦る様子もなく、触れれば敗北必至の二刀の水刀へ意識を集中させていた。

 

「お前、名前は何だったか……再度、名を訊きたい」

 四菱は以前のような傲岸な雰囲気はなく、武人のような落ち着いた雰囲気であった。


「名乗るほどではないですよ……僕は名もなき黒騎士」

 

「名乗るほどの相手ではない……そういう事かな?」

 

 カッコウは気取られぬように、四菱の魔力を食い始めた。

 濁流のように襲い来る水流を避けながら。

 

「君は強いよ。だが、それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。意味の宿らぬ力には何の意味もない」


「大口を叩くじゃねーか! 名も知らぬ先輩! これが俺の最強の一撃!」

 四菱は吠えると、水流は螺旋回転しながら、切っ先から止めどない濁流が放出される。


 数トンに及ぶ、高出力される水刃はコロシアムを破壊しながらカッコウに禍々しい狂騒を運ぼうと。


「では、そろそろいいか。決めさせてもらう……」


 カッコウは時計の長針が5度回転したのを確認すると。

 ……………

 …………

 ……

 …

 カッコウの気配と姿が瞬きと同時に掻き消えたのだ。


 濁流は虚空と大地を無慈悲に削り蹂躙した。


「は?」


 間抜けな声を上げたのは四菱であった。

 左右に首を振り、今戦っていた者の痕跡を探す。


「僕の放つ一撃は矮小だ。君のような派手な魔術も使えない。二刀流なんて勿論使えない。彼のような多彩な魔術も、鬼謀も叡智もない。単なる凡人なんだ僕は」


 まるで散歩でもするように、カッコウは四菱に向かって歩を進めた。


「どこに行った!?」

 

「君には見えていないんだろ。僕を認識できないんなら君に勝ち目はない。視えない事……それが僕の最大の武器だから。悪いがタイムアップだ」


 ―― 一閃 ――


 普通の常人が放つ、普通の速度、普通の威力、単なる凡人の一振り。

 

 四菱の首は認識外の死神の鎌に両断された。

 


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