自在天 と 黒闇天
暗殺者を全滅させた後だった。
彼女が俺の前に現れたのだ。
風音とシスを守る為に駆け付けた魔剣使い。
この世界で単騎でマニアクスに接敵できる、公式チートキャラ。
風音は主人公故、最強キャラランキングには入ってないのだが。
使用できるキャラ。つまり、メガシュバ最強キャラランキング不動の1位を守り続けた学園歴代最強設定の恐るべき烈女。
生徒会長ヴァニラ・ユーフォリア。
猛毒を自在に操る魔術師であり、魔剣使いのヴァニラは口を開いた。
「魔人621926……有名人と相見えるとは運がいい。
貴殿は多くの無辜の民を皆殺しにしたらしいな。
世界の敵には魔人なる者が居るらしいが、貴殿がそれのようだ」
彼女は俺の足元に転がる数人の死体に視線を落とした。
「今、ここで貴殿には消えて貰おう」
冷徹な眼が目の前にあった。
彼女のサークレットがカタチを変え手に収まると禍々しい邪剣が出現した。
生き物の背骨のような奇妙な形を模した、どす黒い蛇腹剣。
その異形の剣はムカデを連想させた。
直刀であり、曲刀。
短刀であり、長刀。
多くの矛盾を孕んだ不定形の魔剣。
聖剣と対をなす魔剣。
王冠に擬態する蛇腹剣エンデュミオン。
「参る!」
彼女がそう宣言した瞬間。
連接された刃が等間隔に分解され、中心を通るワイヤーのような細い糸が垣間見えた。
鞭のような形状。
連接された刃で織りなされた魔剣は猛威を振るおうと俺の命を狙っていた。
俺は両手を広げると。
ニヤリと笑った。弁解して逃がしてはくれそうにないようだ。
ならば、ここで実力を推し量らせて貰おうか。
最強キャラランキング1位。
「さぁ、パーティーの始まりだ」
俺は中二全開で開会を宣言した。
虚空に32枚の武装の羽を展開させ、音魔法『音波』を発動させた。。
・
・
・
熾烈を極めた。
変幻自在の蛇腹剣が予測不能な軌跡を描き、俺に猛攻を加え続けた。
未だに一撃が当たらず、驚愕の顔に変わり、驚きは興奮に切り替わりつつあるヴァニラの顔が見えた。
「エネ、この私と相対してここまでやるか……」
「まぁな」
こいつは雑魚じゃない……
大地を思い切り蹴りバックステップで後方に大きく距離を取ると景色が流れていく。
ヴァニラから距離を取っても意味はないかもしれないが、彼女の視界から少しでも離れるには有効だろうという判断だ。
様々な武器を上下左右に32本旋回させ、右手には剣。左手には盾を持ち。
攻撃を躱す。
いなす。
弾く。
剣戟による火花は散らない。
魔剣の猛攻を弾いた瞬間。
金属は劣化を起こし、腐り、錆びつく。
ガラスをたたき割るかのような音がした―――
1枚の旋回する盾が錆び砕け散った。
金属の鈍い音がした―――
3本の旋回する刀は刃こぼれを起こし、無残に変形すると、錆となり粉となった。
エンデュミオンが通り過ぎた後は草木が枯れていた。
水は濁り、大地は枯れ、切った血肉からは蛆が湧く。
腐食、劣化、酸化、バクテリア、ウイルス、寄生虫をばら撒く。
最後に……被ばくさせる。
それがヴァニラが発揮する魔剣の性能であり機能。
文字通り魔剣に相応しい恐るべき威力と彼女の持つ猛毒の魔術の組み合わせ。
もはや剣の形をした射程範囲の広いデーモンコアを振り回しているようなものなのだ。
プルトニウム剣だ。
反射速度を極限まで引き出し、左右上下背後からの猛攻を躱す。
見切り避けるのが最善手。
文字通り360度からの追撃だ。
思考の奥に眠る知りうる知識を引っ張り出す。眼で追えぬなら、予知すればいい。俺にはゲーム知識がある。
魔剣の射程範囲は距離にして約10キロ。
正確には9999メートル。
それを手足のように知覚し操作する。
速度は早いが、俺の思考加速でも追える。
神速斬はまだ放っていない。リスクはないが、回数制限。
彼女の必殺技。
仮に放たれても超速移動を使い、偽りの神速斬で武器を壊しながらであるが、防ぐ事は可能だと思う。
「アブねッ!?」
彼女の放つ一振りが大地を抉り、地面の下から切っ先が顔を出した。
紙一重である。
鼻先ギリギリを切っ先が通過した。
触れたらジエンド。出し惜しみすれば、俺は死ぬ。
しかし、彼女を傷つける気もない。
「時間だな」
……実力も確認できた事だし。
情報収集は上々だろう。
「時間稼ぎは出来た」
「なに?」
ヴァニラは怪訝な顔をした。
密かに展開させていた音魔法のソナーが5人の影を検知していた。
5人が『待機できた』と合図を送って来ていたのだ。
「ショータイムは終わりだ」
ここまでの強者なら……
武器弾幕100連 ≪影スペシャルコンビネーションアタック!!≫
をお見舞いしてもいいだろう。
これで戦線を離脱させて貰おう。
コラボイベントのアレを奪取できていない現状の俺ではコイツを無傷で無力化するのは難しい。
実力がわかっただけでも収穫があったと言えるだろう。
そもそもメガシュバはパーティー戦。
俺には影の仲間が居る。
俺は音魔法を発動させ、影達5名に合図を送った。
『カッコウ居るか?』
『ここに』
『合図と同時に認識阻害を俺に付与しろ』
『御意』
『翡翠』
『離脱できるように標的を射程に捉えています』
『スタングレネードをお見舞いしてやれ』
『かしこまりました』
『雲雀、傀儡を展開させろ。物量で壁を作れ』
『了解っす』
『ハイタカ。お前作成の回避不能の武器使わせて貰うぞ』
『貯蔵は十分です。存分にお使い下さい』
『ミミズク……お前の出番は今回はない』
『そんニャ~』
『いや、あるな。ヴァニラの傷の手当を頼む』
『わかったにゃ』
『合図をしたら全員、作戦を開始せよ』
5人の影にオペレーションを伝えると。
ヴァニラを見据えて不適に笑った。
「ヴァニラ・ユーフォリア。お前の浅すぎる底は見えた」
「なんだと!?」
「見せてやろう。我が神髄を! 行動開始」
俺の気配が薄れていくのか、ヴァニラは俺から視線を外した。
両手の武器を収納し、天に手を掲げると。
擦り抜ける回避・防御不能の100の武器を展開させた。
俺の姿形をしたゴーレムが東西南北四方に4体出現し、彼女に剣戟を浴びせようと走り出した。
「チッ小細工を!」
舌打ちをするヴァニラはゴーレムを切り裂こうと一閃を放つより先に、遠距離からスタングレネードが彼女の足元で閃光を瞬かせた。
「目が!?」
防御態勢に入る彼女は自身の周囲で蛇腹剣を振り回し、彼女の周囲に半球上に刃のドームを作り上げた。
「無駄だ。俺の武器は擦り抜けるぜ」
回避不能の武具の雨が彼女に向かって。
―――飛来―――
ハッと息を飲む声がしたような気がした。