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クイズ$イロハネア



 閑静な個室のあるレストランであった。

 彩羽家の皆さんと、部外者である俺とお食事をする事になった訳だ。

 彩羽家5名 + モブA (俺) である。


「傑くん。ボクの家族」

 千秋の奴はモジモジしながら俺にそう紹介して来た。


 ご挨拶ってそういう意味じゃねーんだよ。

 俺は内心そう叫んだ。

 まるで俺が千秋の両親に『娘さんを下さい!』と挨拶しに来た婚約者のような状況になってるのだ。

 背中を冷たい汗が滴っていた。

 

「え、あ。うん。どうも天内です。彼女の所属するパーティーのリーダーやってます」


 千秋を除く彩羽家の皆さん、計4名は沈黙して俺の顔をじっと見つめていた。


「パーティーって? お祭りの事でしたっけ?」

 彩羽家ママが首を傾げたのだ。


 ママさんにパーティーといっても理解されなかった。

 言葉を選ぶ必要があるな。

「えっと。チーム……部活みたいなのです」


「そうなのねぇ」

 ママさんは、にこやかに微笑んだ。


 再び沈黙が訪れる。

 彩羽家パパさんが俺に猛禽類の眼孔を飛ばしてくる。

 ガンつけられすぎて、視線が痛いのだ。


 室内にある壁掛け時計の秒針を刻む音がうるさかった。

 時を刻む音が良く聞こえるぐらい静寂なのだ。


「…………」

 俺は口を真一文字にした。

 

 この空気死ぬわ。雰囲気が死んでるわ。

 そりゃそうだ。一家団欒の場に俺のような部外者が居座ってるのだ。

 ご家族からしたら『お前早く帰れよ』と思われても仕方ないだろう。

 

 はぁ~。俺も大人。場を和ませるのもマナーであり処世術。

 仕方ねぇな。ボケるか。

 俺は両手を広げ、邪悪な笑みを作り、支配者のポーズ (着座Ver)を作ると。


「天上より来たり、天地万物の内側を知り、全知を()って最善をより(すぐ)る傑物。そうそれが僕、天内傑です!! 名前負けしてま~す!!」

 

「「「「…………」」」」


 擬音で表現するなら『しーん』であった。

 沈黙である。

 

 俺は天を仰ぎフッと笑った。

 自分自身の愚かさに笑ってしまったのだ。自嘲した。

 スベッた……死ぬか。

 今日は枕を涙で濡らす事になるだろう。

 ハァ~。抜け毛が増えそうだ。黒歴史確定。


 暫くの静寂が場を支配した後。


「天内くん。大変素晴らしい挨拶だったわ。ところでおばさんと少しゲームをしない」


 素晴らしい挨拶? ド滑りした俺の口上がか?

「ゲームですか……」

 この白けた雰囲気を何とかしようとしてくれてるんだろうか。

 ご配慮痛み入る。

「いいですけど」


 ママさんは『そう……』と一言頷くと。


「それではまいりましょう。あなたの人生を変えるかもしれないクイズ$イロハネアにようこそ。こんにちわ。司会の彩羽千春です」


 ママさんの雰囲気が変わった。

「え?」

 なんだ? なんか始まったぞ。


「これからあなたに15問の問題に答えて頂きます、それらに全て正解すると、あなたはイロハネアの称号を獲得する事ができます。ただし、一問でも不正解ですとイロハネアの称号は得られません。よろしいですね?」


 対面に座るママさんが神妙な面持ちになると訳のわからん事を突然言い出した。


「は?」


「いつものやつだよ。付き合ってあげて」

 隣に座る千秋は俺にだけ聞こえる小声で呟いた。


 いつものやつぅ? 

 彩羽家はいつもこんな茶番を繰り広げているのか?

 すげぇ変わり者一家じゃん。

「お、おう」


「それでは始めましょう。クイズ……イロハネア!」

 

 突然クイズショーが始まったのだ。


「では、最初の問題! 私の名前は千春といいます。千秋ちゃんは次女。では、お姉ちゃん。長女の名前はなんでしょう!? 四択から選んでね。千冬ちゃんBGMを流してちょうだい!」


 三女だと思われる千秋そっくりの千冬なる少女がコクりと頷くとスマホを弄り、不穏なBGMが流れ始めた。


「選択肢をどうぞ!」

 ・A モッコス・D・キタザワ

 ・B オーガニックJ 

 ・C のみ・もんた

 ・D 千夏


「天内くん。言い忘れていたけど、『半分:半分』と『観客』、『電話』の三つのお助け機能があるわよ」


 要らねぇよ! モッコス・D・キタザワ! ってなんだよ。

「結構です。じゃあ、Dで」

 

「……本当にそれでいいのね? ファイナルアンサぁー?」


「え、ええ。Dでお願いします。ファイナルアンサーで」

 D以外ねぇだろ。


 ママさんは俺の顔を凝視する。

 なんだよ。早く言えよ。

 BGMのドラムロール長いんだよ!

 クセ凄いなこの家族!?


「正……解!」


 パチパチと長女らしき千夏さんが拍手した。


「私は千夏ね。千秋の1つ上だよ! よろしくねブラザー!」

 快活そうな雰囲気で千秋姉が俺に自己紹介してきた。


「は、はぁ。ブラザー?」


 パパさんが目に見えてわかるぐらいイライラし出した。

 貧乏ゆすりを始めたのだ。

 俺を睨みつける顔が般若のようになっていた。


「では、第二問です!」

 ママさんはまた神妙な面持ちになった。


「えぇ?」

 俺は怪訝な顔した。


 それから頭のおかしい問題が続いた。

 全部答えはDなのだ。

 D以外ありえないのだ。

 それしか選択肢がないほど、ふざけてらっしゃるのだ。

 俺が正解する度に、パパさんの眼孔は鋭いモノになった。

 もはや白目であった。白目のおっさんが俺の額、3センチぐらいまで近づいているのだ。

 鬱陶しくてたまらない。


「あと1問で、天内くん。あなたはイロハネアの称号を得ます。どうです? ここまで来た感想は?」


「いえ、特にありません」


 イロハネアの称号ってなんだよ。

 意味不明な単語が多すぎるんだよ。


「お助け機能も使ってないようですが、使わなくていいんですか?」


「結構です」


「ここまで来た挑戦者はあなたが初めて。では、行きましょう。最終問題です」


 すると、3センチ目の前に居る彩羽パパがようやく口を開いた。

「ワシの名前は何かわかるかぁ? 今回は4択ちゃうでぇ~。天内くぅん。当てられへんかったら、千秋はやらへんで」

 強面のおっさん、彩羽パパが青筋立てて俺を睨みつけている。


 やるってなんだよ!? 要らねぇんだよ。

 とは言えないので。そんな度胸もないので俺はおっさんの意地悪な質問に答える事にした。


「……少し……待ってくださいね」


「かまへんでぇ」

 俺を舐めまわすかのように、俺の額にパパさんの額をこすりつけてくる。


「お父さん!」

 千秋がパパさんを押さえつけるが、ビクともしないようだ。

 

 ここまでのアホな問題でわかった事。

 母、千春。

 長女、千夏。

 次女、千秋。

 三女、千冬。

 

 親父の名前はなんだ? 

 法則は春夏秋冬だが、このおっさんの名前……知らねぇんだよ。

 興味もねぇよ!

 仕方ねぇな。

 適当に答えておくか。

 

「そうですね。時節を表す、四季……さんとか、ですかね?」

 まぁそんなアホみたいな法則な訳ないよな。


「ふぁ、ふぁ、ファイナルアンサー?」

 ママさんが口元をピクピク動かしながら俺に尋ねてきた。


「ファイナルアンサーで」


「「「……」」」


「傑くん!」

 隣に座る千秋が俺の解答を聞き嬌声を上げた。


「せ、正解~~~!!」

 ママさんが立ち上がり俺に握手をしてきた。

 ママさんは満面の笑みであった。

 対照的に彩羽パパはがっくりとその場で項垂れると、泣いてらっしゃった。

 

「え?」

 間抜けな声の主は俺だ。

 彩羽ママに両手を掴まれブンブンと腕が揺れる。


「お前の勝ちだ。天内……いや、息子。マイ・ソンよ」

 四季さんは俺を見上げ、恐ろしい単語を呟いた気がした。


「はぁ?」


「天内くんにイロハネアの称号をここに授与します。千秋ちゃん。いい子を見つけたわね」


「だろ? 傑くんはやる時はやるんだよ」


 彩羽ママは俺を見据えると。

「天内くん……いえ。傑くん。これからは私の事をお母さんと呼んでくれて構わないからね。困ったことがあったら何でも助けになるからね」


「もう! お母さん。気が早いって。イロハネアの称号を得ただけじゃん」


 だからイロハネアの称号って何なんだよ!?

 一家の共通認識みたいになってるけど、 一切説明がねぇじゃねーか。

 意味不明な単語を主軸に会話を進めるなよ。


「傑くん。千秋の事をよろしくね。この娘、無口で友達も殆ど居なかったから、不器用な娘ですけど、君のような彼氏を見つけて、お母さん嬉しいわぁ」


 彼氏? 俺が?

 恐ろしい単語が聞こえたのだ。

 ここで弁明せねば俺は本当に人生を変えられてしまう。

 クイズ$イロハネアに人生を変えられてしまうのだ。

 俺はいつの間にか恐ろしいクイズショーに参加していたようだ。


「ちょっと待ってくれ!!!」

 俺は席を立ちあがり、彩羽家の皆さんを見渡した。

 



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