『国際指名手配犯:オレ』
まつり指示の下、俺は俺自身のビラを校内に掲載する手伝いをしていて複雑な気分になった。
「いやぁ。こんな悪い人が世の中には居るんだねぇ」
腕を組みながらまつりはふむふむと頷いていた。
「そっすね。怖いっすね」
「なんでも、テンダール山脈に潜んでいた巨竜の怒りを買って一帯の農村を焼け野原にした極悪人らしいよ」
「ほう。それは恐ろしいですね」
「あーしとこの人どっちが強いかな?」
「さぁ」
「いやぁ。流石にこの不審者かなぁ。世の中広すぎてウケるんだけど」
「そっすね」
今、目の前にその不審人物は居ますがね。
中間考査戦が始まるまでの間に、まぁ色々あったんだわ。
"暗躍者俺"は国際的なテロリストとして有名人になっていた。
有名人というか、もはや世界共通の敵みたいになりつつあった。
何て言うのかな。
まぁ笑った。正直クソ笑った。クソワロタである。
悪い意味で。
幾つかの事件を解決した俺は新たな影の仲間を作った訳だ。
彼、彼女らは中間考査戦でマホロが観客を受け入れるタイミングで来ヒノモトする予定だ。
カッコウ、翡翠を含む影の戦力の仲間が5人になる訳だ。
影パーティは1部隊完成だ。
メガシュバには登場しなかったモブの方々3名の逸材を仲間に加える事ができたのだ。
錬金術師であり回避不能の擦り抜ける大刀を扱う悪人面の大男。
傀儡師であり土塊のゴーレムを操作する盾役の幼女風のエルフ。
治癒系統の魔術に特化した近接戦闘もこなす獣人の猫耳お姉さん。
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---時は少し遡る---
俺はファントム暗躍計画を遂行した。
ファントム衣装も新調し、漆黒のローブ調にして攻略に精を出したのだ。
暗躍計画にて、メガシュヴァ本編の事件が起こる前に布石を打った。
その原因を根こそぎ伐採し続けたのだ。
未来視に近い事が出来てしまうので、結果として多くの街や人々の命を守った事になる。
マニアクスの拠点を破壊し、手下も倒しまくった。
重大イベントが起こる前に因果を断ち切った事になる。
語られざる事件となるであろう。
『巨竜討伐戦』:テンダール山脈爆破事件。
『魔界廃村』:ヴィニャン諸島グール氾濫事件。
『食人会』:デルバート大佐発狂事件。
『破滅の激流』:ナグリッジ攻略戦。
学園を少しの間サボり、知人には修行に出ると嘘を言っている。
もうクタクタであった。
国と国を短期間で渡り歩き、痕跡を消す作業。
ファントム姿の俺は各国で指名手配されていた。
流石に馬鹿正直にファントムなんて名乗っていない。
そもそも出くわした公僕共と会話なんてしていない。
なので俺は異名で呼ばれているのだ。
国際指名手配番号:621926。
通称:【エネ】。
それが世間に認知されたファントムの異名だ。
エネは憎むべき国家の怨敵、稀代の悪党として名を馳せている。
もはやエネが世界を滅ぼす悪の魔人とまで称される始末であった。
ちなみに、暗躍において魔力の偽装も顔の偽装も完璧だと思いたい。
この世界にはゲームではなかった俺の知らん魔力により個人を特定する技術があるようなのだ。
それを知ったのはマリアがきっかけだったのだが。それを掻い潜る為に、俺は魔力の偽装を入念に行った。顔も変装術で変えた上に仮面を被るという徹底ぶり。
俺だと気づかれてない自負があるが……
「勘付かれたら処刑なんだよなぁ」
クタクタになった俺は久々にヒノモトに帰還する為、空港に向かう準備をモーテルの一室でしていた。もはや感覚が麻痺しているというのは、自分でも理解している。
昨夜、壬王朝ナグリッジ要塞。
その拠点にて、壬の英雄、将軍カーディフの暗殺を遂行した。
武器弾幕により八つ裂きにした。要塞にて飼われていた元人間のトロールの諸君も粛清したし、カーディフの忠実なる部下の命も刈り取った。
俺は傍から見れば大量殺人鬼である。
もはや殺人鬼を超えて国際的なテロリストであった。
残念ながら全ての人間を救済する事なんて出来ない。
敵は敵であり、感情を殺し粛々と処す。
それが最善手である。甘えた感情を捨てなくてはいけない。
「新聞貰うよ」
「まいど」
売店で店員に小銭を渡し、新聞を購入し目を通した。
見出しには、『カーディフ将軍、第三国への武器密輸と違法な人体実験に関与か?』とデカデカと掲載されていた。その横にもまた、魔人エネの似顔絵が掲載されており、『複数の暗殺に関与。国際指名手配の男。国民感情を逆撫で』とも掲載されている。
「こうなるわな~」
事件が起こり、被害が出始め、犯人が露見し、そこで果敢に成敗すれば英雄であり勇者だ。
しかし、事件が大々的に起こる前に解決してしまうと、俺は稀代の悪人になってしまうのだ。なぜならまだ被害が露見していないからだ。
悪党が本格的に悪事をする前に成敗すれば、俺は単なる悪の暗殺者でしかない。
これこそ因果逆転だろう。
だが後手に回るよりずっといい。
「まぁ……いいんだけどさ。覚悟は出来てるので」
仮に処刑を宣告されても甘んじて受け入れるつもりだ。勿論この世界を攻略してからという条件付きだが。
俺は聖人の皮を被り、国家の英雄と称された要人を次々と暗殺している。
そこに迷いはない。いずれ攻略せねばならない。
被害が出る前に殺すか、出た後に殺すか、その違いでしかない。
暗殺した彼らは裏では、マニアクスの手先であり、罪なき人々から搾取し続けている中ボスの連中だ。その事実を知る者は事件に巻き込まれていた当事者と俺以外居ない訳なので魔人エネの名声は地の底であった。
俺は空港に向かう道中。
バスの外を眺めると。
「お~、おう……マジか」
エネの似顔絵のビラには大きくバツマークが書かれ足跡が付いたモノが至る所に散乱していた。エネを模した人形も幾つか目に見えた。首を吊られているモノ、火あぶりにされているモノ、首を撥ねられているモノ。又裂きされているモノ。
「すげぇ」
もし、バレたら恐るべき拷問により殺されるんだろうな。
変な汗を掻いた。
前言撤回。
絶対バレないようにしよう。
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俺は機内に搭乗し、一息ついた。
ヒノモトまで直通便。5時間ほどの空の旅だ。
少し眠る事ができるだろう。
少し眠って気持ちを切り替える必要がある。
「兄ちゃん。随分疲れた顔してるな」
隣の席に座る飲んだくれのおっさんが酒臭い口臭をまき散らしながら赤ら顔で話しかけてきた。
「え? ああ。まぁそうですね」
「お! 兄ちゃん。若いのに新聞読むとは感心だね」
「まぁ、最近色々ありますからね」
主に俺が首謀者として起こしてる事件だ。
世間はてんやわんやであった。俺は毎日マスゴミの諸君に餌を与えてやってるのだ。
俺に幾ばくかの報酬を振り込んでもバチが当たらないだろうぐらいにな。
「そうだよなぁ。最近世界の流れが大きく変わって来てる気がするよな。オレ達は歴史の転換点に居るのかもしれん。そう思わんか」
「はぁ」
「先日、アメリクスのデルバートが殺された事件あったろ?」
「物騒ですよねぇ」
俺がぶちのめした訳だけど、素知らぬふりをして世間話に付き合う事にした。
「アイツ。最近明るみになったが、裏でアメリクスの仮想敵国であるガリアに情報を流してたという噂だ。要はスパイだな。それに多くの誘拐にも関与してたと明るみになった。お抱えの私兵を使ってな」
「そんな事になってたんですね。恐ろしいですねぇ」
から笑いであった。俺は必至に笑みを作る。
デルバートは食人会の幹部。
民間人を攫い散々弄んだ末、喰らうのだ。
「オレぁ情報通だからな。逐一チェックしてるのよ。
それにだ。デルバート事件で次々とアメリクス高官を殺したとされるのはエネなる者だが……
実際に高官をやったのはデルバートだとオレぁ思う訳よ。
オレぁ、デルバートが発狂して皆殺しにしたんじゃないかと踏んでるんだ。
なにせデルバートの死体が化け物みたいになってたって話だ」
「へ。へぇ~。そうなんすね」
「アメリクスの上層部の人間からしてみれば、こんな不祥事は具合が悪い。
だからエネが全て単独でやった事にしたいようだがな。
今時、嘘の情報を流すのは難しいのさ。それにな。魔人と呼ばれるこいつは、とある国家の秘密部隊の人間だと思ってるわけよ」
「はは。陰謀論じゃないっすか。面白いっすね」
ほぼ正解である。七割ぐらい的中させてきやがった。
「いやいや。ネットの一部の層は、魔人と称されるエネが本当に悪党なのか? その真意の是非を問う声もあるんだぜ。関与してる事件について考察サイトが作られたぐらいだ」
「考察……サイト」
知らなかったぁ~。
ネット掲示板のゴミ屑共が頭を過った。
隣に座る単なるおっさんの推理ショーを聞かされそうで俺は嫌な予感がした。
せっかく寝れそうだったのに寝れねぇじゃねーか。
それに変に的があってるせいで、俺が疑われてるんじゃないかと錯覚すらしてくる。
「ヴィニャン諸島グール氾濫事件にもエネなる者が関与しているらしいが、
村人をグールに襲わせようとしたのが、エネ? いいや違うね。アイツは近隣の漁村農村を放火して周ったとされているが、死傷者がゼロなのはおかしくないか? 1人も民間人が死なないなんて事あるか?」
「は、ハハハ。たまたま運が良かったんじゃないですか」
「運? 違う違う。俺はこう考える訳よ。何らかの理由があって放火せざるを得ない状況になった。例えば人をグールに変貌させる未知の伝染病のようなモノの蔓延を防ぐ為だとかな」
「す、すごい想像力ですね」
もう正解である。的を射すぎなのだ。
俺、こいつに疑われてるの?
いやいや、まさか。単なる飲んだくれのおっさんだ。平常心を装え。クールになれ俺。
「ああ。想像の範疇を超えんよ。ただ、何らかの意図があった。そう思わざるを得ないんだ」
「面白い話ですね」
「それに、テンダール山脈爆破事件もだ。あれもオレぁ、」
とおっさんは語り出した。
俺はこの後ヒノモトに到着するまでおっさんの見てきたかのような考察を聞かされ、ガタガタと震えていた。
大丈夫だよな?
俺は白目になりながらおっさんの話に相槌を打ち続けた。