配膳係A(モブ)
結局、まつりに連行された俺は懇親会という名のお食事会に赴いた訳だ。
俺は、唯一結果を残していないのに推薦枠で生徒会の懇親会という花形イベントに来たと思われてる。ここは通常の一般生は招待される事のない場だ。
ジュードと、裏役職である監査人を除く生徒会役員の面々。
それと、今回の対抗戦で優秀な成績を残した者や、既に生徒会の補佐として着任している者がこの場に居た。
俺の心の友であるジュードは用事がある、との事で不在であった。
懇親会といっても、広すぎる生徒会室にて軽食を摂り歓談するというお遊びみたいな催し。
顔合わせの意味合いが強い。
「君も呼ばれたのか。よろしくね」
風音の野郎が俺を発見すると、挨拶して来た。
「え。ああ。うん。ソダネ」
「どうしたんだい? あまり顔色が優れないようだけど」
「ほら、俺は場違いだから。居場所がなくてね」
適当な事を言っておいた。
マリアの奴は、副会長と会計とその取り巻きと歓談していた。
美少女だけあって人気者である。
俺の方に気付いてはいるが、こちらに一度も喋りに来てくれない。
どうやら口説かれているようでお忙しいようだ。
ここはそっとしておこう。
それ以外に知り合いは、居るにはいるが……
「君は実力者だからね。推薦枠で来るのも納得だよ」
「いやいや。買い被りすぎなんだって」
「君とはもう一度手合わせしたいんだ」
「俺がまた負けると思うが」
「いや、そんな事はないさ。天内くんだっけかな。君、初めて僕と戦った時本気を出してなかっただろう?」
「まさか」
そんな尋問を受けていると助け船が入った。
「桜井くん。会長が呼んでいるよ」
越智が風音を呼びに来たのだ。
「ごめんね。全然喋れなくて。行かなきゃみたいだ」
「気にしなくていいさ。行ってくるといい」
俺をここに召喚したまつりも同級生に絡んでて、俺は手持ち無沙汰なのだ。
生徒会の面々を除くと。
1年からは、フードを目深に被り、風船ガムを膨らませながら刃物を手元で遊ばせる残忍なガキキャラ。コードネーム:ファルコン(我がTDRの伏兵)1名。
こいつは鋭い眼光を飛ばし周囲を威嚇していた。
2年から風音とマリアの2名。
マリアは、男子共に囲まれている。
風音もヴァニラと談笑していた。
ちなみに千秋の奴は来てなかった。
3年からは。
厳つい顔をしたおっさんみたいな奴、ライアン。
高飛車そうな女、更科。
包帯で顔をぐるぐる巻きにした不審者。コードネーム:クロウ(我がTDRの伏兵)の3名。
こんな具合。
風音以外、全員雑魚であるが、TDRの者が2名も居て俺は目ん玉飛び出しそうだった。
お前ら日陰者だったはず……
いや、そもそも不審者だからこそ日陰者なんじゃないだろうな?
お前ら一応メガシュバに登場してきたけど。
レア度、星2と星3の雑魚だったはず。
いや、風音やメインヒロイン、千秋や生徒会の連中基準で考えるのは良くないな。
TDR部隊の2人が、すれ違い様に。
「カッコウ殿から潜入せよとのご命令あり。氏も潜入されるとは。しかも推薦枠で潜入とはなかなかやりますな」
「お、おう。お前包帯はどうした?」
「こっちの方がミステリアスでしょう?」
クロウはそんな意味不明な一言を呟くと、1人歩き壁に腕を組んで寄りかかった。
「大将。生徒会の掌握まで時間の問題だ。今ここで八つ裂きにしますか? こいつら」
残忍なガキであるファルコンは刃物を舐めた。
「やめとけ。あと俺と知り合いだと勘付かれるな……ファルコン。お前、人前で刃物を舐める癖を止めろ。いいな」
「御意」
ファルコンはスッとその場を離れた。
クロウもファルコンも悪役すぎる立ち振る舞いなんだよ。
俺が敵サイドの首魁であってもおかしくない発言は控えさせて欲しい。
頭が痛くなってくる。
・
・
・
森守はまだ三年生。
その中でも庶務という生徒会の雑務を担う担当であり、この生徒会の中でも決して地位が高い訳ではない。しかも彼女はエルフ。実力は認められているが、選民思想の強い副会長の九藤は決して彼女を良く思ってはない。
九藤の配下、補佐を務めている【ゴドウィン】が俺の横まで来ると耳元で囁いた。
「あの阿呆の懐にどのように入ったのかは知らんが、ここはお前のような人間が来る場所ではない。さっさと失せろよ」
「りょーかいっす」
俺は回れ右して退出しようとする。
よし! 帰っていいってさ! 帰るぞ! 俺は!
マリアは【会計のゲイブレット】と談笑をし始めていた。
いつの間にか副会長は柔和な笑みを浮かべながら俺に近づくと。
「まぁ待て。それでは可哀そうだろう。そういえば雑用係が欲しいな。配膳と清掃を頼めるかなキミ。頼んだよ」
「えっと」
帰らせてくれよ。
俺はここに居たくないんだ!
「森守! 君の連れは雑用は買って出てくれたよ」
おいおい。勝手に話を進めるな。
更科に絡む森守が遠くの方で。
「あまっちがそんな事を?」
「そうだよな?」
目の前に居る大男のゴドウィンが俺の肩を強く掴んだ。
よし! 雑魚ロールプレイが出来そうだぞ!
完全に舐められている。これは都合がいいぞぉ~。
ゴドウィン、お前も役者じゃあないか。
「そうっす!」
俺は元気な雑魚を演じた。
・
・
・
俺はみんなの席の飲み物を替え、食事を買い出しに行き、隅っこの方で掃除をしていた。
配膳係Aという名の雑用をして、雑魚キャラを演じ息を潜めていた時だった。
「おっと手が滑った」
ゴドウィンが俺の頭にわざとらしく、グラスを傾け中の液体をかけた。
「ハハハ」
俺は苦笑いしながらも。頭上から滴る液体を雑巾で拭きとる。
ゴドウィン。お前のような奴を待っていた。
俺は内心ガッツポーズを取っていた。
見事なまでの雑魚演出。頭に飲み物を掛けられるという演出は雑魚にしか許されないのだ。
そんな光景を見ていたのかマリアが突然吠えたのだ。
「貴方のような下品な人間に天内さんの何がおわかりか!?」
マリアは九藤の重ねた手を振り払い立ち上がる。
「一体どうしたんですマリア女史。いえ、失礼。アラゴン卿よ」
「失礼極まりない暴挙の数々! もう堪忍袋の緒が切れました! 天内さんはお優しく、大人なのでこのような失礼極まりない対応をされても黙ってますが」
周囲がザワザワとし出す。
「私が代わりに宣言します。貴殿のような、愚か者は天内さんが成敗しますわ!」
「え? 俺?」
マリアの奴が勝手に宣戦布告をしたのだ。
「ほう。あの冴えない男がですか?」
ニヤニヤと配膳係に徹していた俺の顔を見た。
「その通りです!」
「だそうだ。どう思う三下?」
「俺ですか?」
周囲の目線が俺に集まり、配膳係Aの俺は何が起こってるのか理解に苦しんだ。
俺は雑魚。雑魚モブであり、ここでは配膳係A。
「あまっちやっちゃえ! あまっちなら大丈夫だって。九藤パイセンをボコっちゃえ」
いつの間にか背後に回っていたまつりの奴が、俺の背中を押して発破をかけてくる。
待て待て。なぜ俺が九藤といがみ合う感じになってるんだ?
「とくと吠え面の準備をなさるといいわ!」
マリアが顔を真っ赤にしていた。
まつりが俺の肩を揺さぶると。
俺はコクコクと頭が上下に揺れた。
「あまっちはやるってさ! 九藤パイセン! あーしの秘密兵器くんはやるってさ!」
「いや。言ってないですけど」
「いいだろう。面白い余興になりそうだ。三下。お前天内と言ったか。マリア女史にここまで言わせるんだ。さぞやるんだろうな」
「……全然」
俺は否定した。
この状況を覆す為に否定の言葉を紡いだのだ。
すると、後ろに居るまつりが、またも勝手な事を言い出した。
「お前なんか全然相手にならないってさ!」
まつりが勝手に俺が喋った事にしてくるのだ。
話がおかしな方向に進み始めている。
「だから、一言も言ってないんすけど」
「では賭けをしないか?」
「か、賭けですか?」
金品でも賭けるのか?
金がないのでそれは嬉しいが。
「いいでしょう! 天内さんが負けるはずがないので構いませんよ!」
頭に血の上ったマリアがまたしても勝手に喋る。
マリアとまつりが勝手に俺の意志を無視して会話を始めているのだ。
「では。負けたら学園を去るというのはどうだろう?
次の中間考査戦。特別にワタシが君の相手をしよう。
正式な騎士同士の決闘に相応しい場を設けよう。
勿論、ワタシも非道ではない。君が生徒会役員への挑戦権を獲得できるベスト8までトーナメントを勝ち抜いてきたら……という条件付きだ。
途中で負ければこの話はなかった事にしよう。君のような三下が勝ち上がるなど絶対にあり得ないからね」
不敵な笑みを浮かべる九藤は皮肉を交えつつ、意地悪な顔が見え隠れしていた。
「おい。九藤。勝手な事を言うな」
ヴァニラが怪訝な顔をしていた。
「いいではないですか。絶対に彼が勝ち上がる事はないでしょう。
森守の推薦とはいえ、彼女は目が曇っていますからね。
どうせ、その辺で仲良くなって無理矢理あの男が頼み込んでここに潜り込んだのでしょう。
この場に来るだけでも箔が付きますからね」
「なんだと!?」
森守は自分の事が馬鹿にされて少しだけ不機嫌になった。
「怒るなよ森守。会長、彼のような覇気のない男が、万に一つもこの精鋭揃うマホロの地で我々頂きに挑戦などありえません。なのであくまで冗談の域を出ませんよ」
「己惚れがすぎないか九藤?」
「果たしてそうでしょうか? どうだ? 無論異論はないよな?」
「異論なし!」
まつりが勝手に叫んだ。
「望む所ですわ! 天内さんは貴方なんかよりずっと強いのです!」
マリアもまつりに呼応したのだ。
「待てよ! 俺は」
そんな事一言も了承してないぞ!
「あくまで余興だよ。なに、本当に勝ち上がった際は逃げるなよ。虎の威を借りる狐。三下の天内くん」
「人間性の欠如は他のいかなる才能をもってしても補うことはできない……か」
俺は小さく呟いた。
「なんだと?」
「あれ? 俺なんか言いました?」
思考が言葉に出ていたようだ。
「面白い事を言うじゃないか」
ニヤニヤと嗤う面々が俺を見つめていた。
副会長の九藤とその補佐ゴドウィン。
会計のゲイブレットとその補佐のシュリアム。
この4人が俺を見下した目線を送っていた。
はぁ~。ヤバい事になったぞ。
どうなんの俺。
だからここに来たくなかったんだよ。
訳わからんイベントが発生してるじゃねーか。