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厄介エルフ2名



 色々な事があり、心底やつれた俺は我が家に帰って来ると。 

「ただい……ま」

 がっくりと項垂れそうになった。

 ようやく帰ってきたぜ。

 なんだか少し老けた気がする。


「お帰りなさい」

 フライパン片手にボサボサ頭でキャミソール1枚のモリドールさんが出迎えた。

「合宿に行くって言ってたけど。天内くんってパーティー組んでたのね。知らなかったわ」

 第一声はそれであった。


「あれ。言ってなかったけ?」


「うん。作るって宣言してたのは聞いてたけど……なんか酷くないかな?」

 仲間外れにされた子供のように拗ねた顔をしていた。


 モリドールさんには俺が仲間を作ったという話題をしてなかったようだ。

「そういや忘れてたわ。ごめんね」


 というか、モリドールさんが解雇される話で有耶無耶になって報告してなかったわ。

 モリドールさんが家に居る時は、泣き叫んで眠るという赤ん坊みたなライフスタイルだったし。家に居ない日は毎晩ホストクラブで豪遊してたようだし……

 俺が悪いのか? これ。


 ジト目になるモリドールさんは口を尖がらせる。

「ふ~ん。まぁいいんだけどさ。どんな人が居るの?」


「あ~。まぁ、あれだよ。今度紹介しますよ。ちょっと癖があるので」


「女の子は居ないよね?」


「え? なんでそんな話になるんです」


「居るの?」


「居るけど……」


 学園に登録されている俺のパーティーメンバーは俺以外全員女子しか居ない。

 男女比率がおかしいのは俺もわかっている。

 メガシュバはそもそもギャルゲ。女キャラに強キャラが集中しているのだ。

 男キャラはガチャが回りにくいというメタ事情もあり、男キャラで強キャラはレア中のレア。

 そんな裏事情があったりする。

 その上、俺のパーティーは強引に結成された事もあるせいで男女比率がおかしくなってしまっている。別に俺が望んだことではない。

 俺だって学園のパーティーメンバーには男キャラを入れたいと思っているが、逸材は既にパーティーを組んでいたりするし、この学園に居なかったりする。

 カッコウを入れてもいいが、奴は裏方の仕事も任せてるし、漆黒の騎士プログラムを組んでいるので除外だ。

 

「ふ~ん。まぁ。どんな人かなんて、明日教務課で確認取ればわかるからいいけど……」

 少し冷たい声音であった。


「なんかマズイのかな?」


「不純異性交遊」

 モリドールさんは人差し指を立てて俺に忠告してきた。


「はい?」

 不純異性交遊って、恋愛みたいな事がマズイって事か?


「天内くんさぁ~。私はねぇ~。若人(わこうど)が勉学に勤しまないのはよくないと思うんだ」


「学業が本業みたいな事いいますもんね」


「そう! そうなの! 恋愛に(うつつ)を抜かすなんて。

 そんな事はあってはいけないと思うの。

 本業を(おろそ)かにするなんてもっての(ほか)だと思う訳! 

 そんな羨ま……違う! そんな遊興に学生時代という貴重な時間を使って欲しくない訳。わかるかな!?」

 矢継ぎ早に唾を飛ばしながら、凄い剣幕で持論を展開してくるモリドールさん。


 俺は気圧され苦笑いしながら。

「そ、そんなもんですかね?」

 別にいいんじゃないか? 俺とは無縁な話ではあるが、風音の野郎はパーティー内でイチャイチャしてるぞ?


「そうに決まっているじゃない! 天内くん! 最初に訊いておくけど、まさか彼女とか居ないよね? どうなの!?」


「居る訳ないじゃないですか。俺は忙しいんですよ。

 それに俺はクラスの女子どころか、パーティーメンバーの女性陣からも白い目で見られてますよ。死ぬほど陰口言われてますからね」


 それはマジだ。悲しいかな。俺に優しいのはマリアぐらいだ。

 今回の合宿で崩壊しそうになるぐらい薄氷の上に立つ人間関係のパーティーメンバーなのだ。

 気を遣いすぎて抜け毛が増えたぐらいだ。


「ふ~ん。ホントかなぁ?」


「なんなんすか。さっきから」


「私はね。貴方という才能を枯らして欲しくないの。貴方には栄光のエリートロードが約束されているし、女の子と仲良くなっている暇はない! そう思わない?」


 同意を求める質問がやけに多いな。

 

「エリートロードは一旦置いといて。

 仲良くなるというより親密度を上げるのは必要では? 

 連携も必要になりますし。パーティーでの評価も学業の内ですから」


 翡翠の言葉を借りるなら、ある程度親交を深めるのも必要なのでは? と思ってはいる。

 俺だって、ゲームのように画面上でレベルアップしたいし、ダンジョンの周回もマクロを組んでやりたいよ。Wikiを使った攻略と先人の攻略動画を眺めながら戦術を練りたい。

 でも出来ないなんだよ。仕方ないじゃん。

 人材管理とかいう面倒事を変わってくれるなら変わって欲しいぐらいだ。

 俺も早々にこの世界を攻略したい。 

 

「ごもっともね。でもね天内くん。本質はそこじゃないの。

 パーティー内での恋愛事情を聴いた事はあるかしら?」


「知りませんね」

 風音パーティーは主人公様御一行という事もあり恋愛イベ盛り沢山であったが、他のパーティーは知らんし、興味もない。


「若者の薄っぺらい恋愛は一生を棒に振る事になる。私はその光景を何度も見てきたの」

 エルフとは思えないほど醜悪な顔になるモリドールさんは続けた。

「パーティーメンバーというのは、親密に接する機会が多くなるよね?」


「でしょうね」


「そこから、恋愛が起こる事は珍しくないの」


「はぁ。あってもおかしくはないですね」


「例えば、AくんがBさんとお付き合いしたとしましょう。あ、この2人は同じパーティーね。でもCさんもAくんが好きだとしましょう。ちなみにCさんも同じパーティーメンバーね」


「言わんとしてる事はわかりますよ。あまりよろしくない雰囲気が漂うかもしれませんね」


「そうなの! その後、AさんとBさんが破局したとしましょう。その後、そのパーティーはどうなるかな?」


「AくんとBさんとCさんは複雑な気分になるでしょうね。最悪解散かな」


「そういう事。いいかな? そんな事で一生の仲間になりうる人と仲違いするかもしれないの。

 いいえ。恋愛にはその可能性が付き纏う。

 そんなつまらない子供のお遊びで優秀なパーティーが何度も崩壊していった様を私は見てきた。

 貴方にはそうなって欲しくないの。そう思わないかな?」


「な、なるほど。そうかもしれません」

 鬼気迫るとはこの事なのか。モリドールさんの真剣な顔が物語っている。


「わかってくれたならいいの。じゃあ。天内くんは学生の内は勉学に励んでね。じゃあご飯にしましょう」


「は、はぁ」


 とはいえ、大々的なイベントである中間考査戦の最中に俺は千秋のご両親と挨拶という謎のイベントが緊急発生している。

 彼女の両親がここマホロに観戦客として来ヒノモトされるのだ。


 そこで、千秋の属するパーティーの(おさ)として挨拶を兼ねた食事をするという予定になっている。なぜこんなことになっているのか。俺も不明だ。


 その上、夏休みの初日にマリアの別荘に行くという未知のイベントも発生しているのだ。

 俺は早くコラボイベントを消化したいのに、翡翠曰く『断ったら取り返しのつかない事になる』という理屈により、俺は進退両難になっているのだ。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 合宿明け、今日の授業を早々に終えた俺は裁判所に向かう準備をしていた。

 早足で校内を歩きながら、俺は治安の悪くなった学園を見ないようにしていた。

 ニューヨーカーみたいな奇抜なファッションをした奴や和柄基調の服を着込んだ任侠モノのヤーさんみたいな奴が肩で風を切って練り歩いていた。

 

「闇金業者の数が増えてる気がする……」


 たった数日で伝統あるマホロ学園がニューヨークの路地裏みたいな雰囲気に様変わりし始めていた。


「俺は知らないからな」


 少々おかしくなった学校の廊下を歩いてる時に声を掛けられた。


「あまっち! おひさ」


「あ、どうも」


 生徒会庶務ことギャルエルフの森守まつりであった。

「あまっちさぁ~。すこ~しお願いがあるんだけど」


 森守が俺の耳元で囁く。

「報酬はね……まぁわかるよね」


「え?」

 またギャルのパンティーくれるんすか?

 俺の御守りがまた増えるんすか。

 苦渋の顔をして尋ねてみた。

「なんなすか? 頼みって」


「次期生徒会には優秀な人間が必要でね。

 今度ねぇ。前やった対抗戦で4年次を除く回生から優秀な人材が集められるの。

 現生徒会の補佐になれる人を探してるのん」


「あ~」

 風音とかマリアや千秋が懇親会へ招待されてたな。

「それで? 俺に何をしろと」


「でもねぇ~。別に対抗戦から優秀な人材を拾い上げるだけじゃないの。次代に選ばれるのはさぁ」


 確かに生徒会加入の方法は複数あったはずだ。

 普通の生徒会役員は投票で選ばれるが、この学園は違う。

 選出方法は主に4つ。


 ①クラス対抗戦や中間考査戦で優秀な成績を残す。

 ②学外活動で大変栄誉な行動を取った者。

 ③一騎打ちで現職の生徒会の人間を凌ぐ。

 ④現職からの推薦により実力が認められる。

 

 この4つにより選出される。最初は補佐として登用されて引継ぎが行われて入れ替えが行われる……だったはずだ。 

 

「あまっちさぁ。私の下につきなよ」


「ふむふむ。え?」

 なんでそうなるの?


「つまりぃ~。私の補佐に推薦しちゃう! 

 推薦枠も勿論あるからねぇ~。

 今回の対抗戦……申し訳ないけど……

 冴えない子ばっかりだったんだよねぇ。私の眼に曇りがないなら……」

 

 森守は俺の眼をじっと見つめ、次の一言溜めた。


 勘弁してくれ。

「な、なんすか……」


「あまっちが一番面白人間!」


 馬鹿に見つかってしまっていた。

 俺はタスクが増えそうな予感がして冷や汗を垂れ流した。


「推薦は1回しか使えないからぁ~私の推薦処女を奪った事になるねぇ~。あまっち」


「ィャダ」

 俺は小声で本音を呟いた。


「もう推薦は出しといたから逃れられないよん♪」


「ゥソダロ」

 感情のない化け物のように呻いた。


 なぜ俺の周りに湧いたエルフは厄介な奴しか居ないのか。 

 そう思わざる思えなかった。


次回6章

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